LiSA 28巻8号 (2021年8月)

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の周術期管理は,エビデンスが乏しく不明点が多い。ALS患者の麻酔管理に関して,肺機能検査も含めた十分な術前評価および詳細なALSの病状把握が行える予定手術についての報告は散見されるが,緊急手術症例の周術期管理報告はほとんど見当たらない。

 今回は,詳細が不明なALS患者の絞扼性イレウスの緊急開腹手術である。時間的制約もあり,予定手術のように十分な術前検査が行えず,患者の現在のALSの病状も十分に把握できない状況で,麻酔管理,術後管理およびリハビリテーションまでのプランを立てることになった。「他院でフォロー中のALS患者が絞扼性イレウスで救急外来に来てるので,今から緊急開腹手術をお願いします!」と外科医から突然連絡が来たらどうするか? 読者も考えてみてほしい。

予告編
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次号の症例カンファレンスの提示症例を,一足先に紹介する。自施設でこのような症例と遭遇したらどうするか,事前に考えておいてほしい。次回をお楽しみに!

徹底分析シリーズ 硬膜外さいこう

巻頭言 森本 康裕
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長い間多くの手術で周術期鎮痛のゴールドスタンダードであった硬膜外麻酔は,現在,岐路に立たされている。患者の高齢化や高リスク化,術後抗凝固療法のルーチン化,オピオイドのIV-PCAや末梢神経ブロック,さらにアセトアミノフェンの静注薬の発売などにより,硬膜外を避けて別の鎮痛法を選択する機会が増えてきた。筆者の施設では,昨年,麻酔科管理症例で硬膜外を併用した症例はわずかに1%だった。胸部手術では胸部傍脊椎ブロック,腹部手術では腹横筋膜面ブロックや腹直筋鞘ブロックとフェンタニルのIV-PCAを使用することで,硬膜外麻酔を使用しなくても良好な術後鎮痛が得られている。

 一方で,まだまだ硬膜外を主たる術後鎮痛法として使用している施設もあるだろう。そこで本徹底分析シリーズでは,胸部および腹部手術に対して,反硬膜外派と硬膜外派の立場からそれぞれの利点,欠点を述べてもらった。また,今後も硬膜外鎮痛が必要な領域として産科麻酔を取り上げた。周術期の鎮痛法に硬膜外をどのように取り入れるのかは,施設ごとに状況が違うだろう。また,それに伴い自分の手技についても再考していく必要がある。硬膜外穿刺を毎日している麻酔科医と,月に1回程度の麻酔科医とでは,優先するポイントが異なってくるだろう。症例が減った施設でも,誰でも安全で確実に穿刺できる手技が求められる。そこで,特集後半ではエキスパートに,それぞれ自分の手技について自由に語ってもらった。

 今回の特集を通して,各自あるいは各施設での硬膜外麻酔の立ち位置や手技について,もう一度見直してみてはいかがだろうか。

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筆者が麻酔科に入局した1988年当時,全身麻酔に硬膜外麻酔を併用するというのはまだ一般的ではなかった。大きな開腹手術でも術後鎮痛はペンタゾシンの筋注程度で,患者は痛みのために長期間離床することができなかった。昭和天皇の腹部手術が1987年。その折に当時東京大学の麻酔科助教授であった諏訪邦夫先生が全身麻酔に硬膜外麻酔を併用したことがきっかけとなり,保険適用が認められた1)。全身麻酔+硬膜外という麻酔法は徐々に一般的になった。当時は「天皇陛下と同じ麻酔です」と患者に説明すると評判がよかった。当初は手術終了時にモルヒネの単回投与だったが,ディスポーザブルのインフューザーが使用できるようになり持続投与が可能となった。ところが21世紀になると術後の肺塞栓症が問題となり,低分子ヘパリンやフォンダパリヌクスなどの抗凝固療法が行われるようになったことでその立場が微妙になってきた。

 本稿は硬膜外を再考するという立場から令和時代の硬膜外麻酔の立ち位置を考える。

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超音波ガイド下末梢神経ブロックやオピオイド鎮痛薬(以下,オピオイド)による患者自己調節鎮痛法(PCA)などの新たな鎮痛手段の応用,腹腔鏡下手術による低侵襲手術の普及,予防医学の普及による抗血栓療法(メモ)を受ける患者の増加などにより,腹部手術における術後鎮痛は様変わりしている。しかし,周術期における優れた鎮痛効果を発揮する硬膜外麻酔は,いまなお腹部手術における“最高”の鎮痛方法である。硬膜外麻酔の有用性と合併症のリスクについて症例ごとの検討が必要であるが,この魅力にあふれる鎮痛法を評価すべきである。一部の医療者には麻酔科医ならではの職人芸と考えられ,麻酔科医の見せ場の一つである。

 本稿では,腹部手術における硬膜外麻酔の有用性と安全な管理について解説する。

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胸部手術の変遷

筆者が研修医であった三十数年前の呼吸器外科手術の基本は後側方切開による開胸手術であった。多くの場合,第5肋間開胸で肋骨を1本切って大きな視野で手術を行っていた。背側では脊柱のすぐ近傍まで切開していたため,硬膜外カテーテル挿入は手術の対側からの傍正中アプローチもしくは正中アプローチで行う必要があった。正中もしくはそれに近い刺入点を選択した場合には,カテーテルを固定するためのテープが術野に掛からないようにしなければならなかった。

 筆者は1998年から5年間,呼吸器の専門病院である大阪府立羽曳野病院(現 大阪はびきの医療センター)で呼吸器外科麻酔に従事していた。赴任してしばらくは後側方切開が主流であったが,途中から前側方切開となり,切開創の大きさも半減した。さらにvideo-assisted thoracoscopic surgery(VATS)が普及し,現在では肺癌手術ではVATSが標準となっている。これに伴って,周術期の鎮痛法も変わってきた。しかしながら,今も昔も,最も有効な鎮痛法は硬膜外鎮痛であることは変わらない。

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58歳の男性。身長172cm,体重76kg。左下葉肺癌で開胸手術予定。術前に訪室して麻酔の説明をすると,「注射とか痛いのは苦手なんだよね…」と硬膜外麻酔には消極的な様子。しっかり説明して硬膜外麻酔の同意を得て,いざ当日。

 筋肉質で椎間がわかりにくいうえに,表面の局所麻酔の時点で動いてしまい,体勢を取り直したところで改めてTuohy針を進めてもまた体が動く…。なんとかカテーテルを留置,無事に手術を終え患者はICUへ。当日夕方に訪室してみると,なんとあんなに苦労して入れた硬膜外カテーテルがもう抜かれている! 看護師に聞くと「血圧が下がるので呼吸器外科の先生が抜きました」と。アセトアミノフェンとNSAIDsを投与されているが,硬膜外麻酔の効果が切れてきた患者は痛そうな様子…。今朝の苦労はいったい何だったのか…。

硬膜外麻酔は胸部外科手術の鎮痛では第一選択になるケースが多いとはいえ,穿刺が難しいこともあり,凝固障害があったり,抗凝固療法をしていたりと障壁も多い。一方で,胸部傍脊椎ブロック(TPVB)は深部ブロックに分類され,実施できる麻酔科医がいないという施設もあるだろうが,TPVBには「硬膜外麻酔の代替」というだけではなく,TPVBにしかない利点もある。麻酔方法の選択肢は多いほうが患者のためになるし,なにせカッコいい! 本稿を読んでTPVBを習得したいという読者が増えたら幸いである。

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無痛分娩と聞いて,ほとんどの麻酔科医は硬膜外麻酔を思い浮かべると思います。でも本当に,無痛分娩は硬膜外麻酔なしでは考えられない? ほかの方法では分娩時の鎮痛はできない?

 超音波ガイド下ブロックや,短時間作用性のオピオイドがある今,いまだ硬膜外麻酔が主流である無痛分娩について再考していきたいと思います。

徹底分析シリーズ 硬膜外さいこう—私の“こだわり”の硬膜外麻酔

巻頭言 森本 康裕
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今回の企画を考えている段階で日本の麻酔科医が想像以上に硬膜外麻酔が好きなことを実感することができた。そこで各位の“こだわり”を自由に語るコーナーを企画した。ただ,あまり自由でもいけないので執筆者にはこちらから共通質問項目を設定した。①穿刺時の体位,②穿刺時のベベルの向き,③硬膜外腔の確認法と,④使用している針・カテーテルである。

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硬膜外麻酔を安全,確実に成功させる鍵は体位・構え・位置取りの三つにある。実際に穿刺を開始するよりも前段階の,いわば外堀の攻略にあたるこの三つの要件を確実に手中に収めることができれば,“硬膜外麻酔科医”の称号(?)を我が物にすることも夢ではない。

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発泡スチロールの板を使って硬膜外麻酔の手技を教わった頃が懐かしい。所属施設または指導者の経験や方針にもとづいた手技にいったん馴染むと定着し,それを変えるのはなかなか簡単ではない。しかし,定着したと思しき手技も年月とともに変化し得る。かく言う私の手技も教わった頃からいくらか変化して今日に至っている。ふと,『「こだわり」の局所麻酔』1)が読みやすかったことを思い出した。おこがましいと言われるかもしれないが,ひとつ恩師*1にならって,私(河野)と新人麻酔科医の対話形式で書いてみる。

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硬膜外麻酔の技術は一生役に立ちます。麻酔科医が専門医としてトレーニングを始めて必ず先輩から教えられ,要点を叩き込まれる技術の一つです。本特集では,「硬膜外麻酔はこうあるべき」という膨大な経験に耐えた智恵の数々が,複数のベテラン執筆者により網羅されることと思います。本稿では,私が永年信じて実践してきた「安全な硬麻のための必須事項」を披露します。若い麻酔科医を指導していてよく出くわす場面や,絶対に伝えねばならないことを厳選してまとめました。

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硬膜外麻酔は周術期管理において大変有益な麻酔方法であり,術後回診時にも患者がその鎮痛効果に満足している姿を多く目にします。硬膜外麻酔は必要不可欠な手技であり,施行機会が減っている今だからこそ,硬膜外手技を再考することは大変重要です。

 本稿では自身の経験や指導経験から,体位(患者側・施行者側)の要点や解剖知識の整理を踏まえ,成功への近道と考えられるものを紹介します。

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別稿で述べたように私は硬膜外再考派である。しかし,大きな開腹が必要な胃全摘術や膵頭十二指腸切除術では依然として硬膜外鎮痛は必要である。少ない症例でいかに硬膜外麻酔の技術を身につけるのかは今後の課題である。一方で,手術室の効率的な運営が重視されるようになり,初心者が上級医の指導のもとでゆっくり穿刺している時間はない。できるだけ短時間にマスターできる胸部硬膜外穿刺について解説する。

The “whoosh” test 水谷 光
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共通質問項目への回答

体位:原則は右側臥位

穿刺時のベベルの向き:頭側

硬膜外腔の確認法:抵抗消失法

使用している針・カテーテル:NRFit®ペリフィックスカスタムキットのペリカンⅡ17G×80mmとFXカテーテル1.04mm×914mm(先が盲端3側孔,X線不透過)(B.Braun社)

こどものことをもっと知ろう 第28回

新生児蘇生2020 細野 茂春
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助産師:今日は正期産でローリスクの帝王切開なので,新生児科医の分娩立ち会いはありません。蘇生が必要になったらA先生が対応してくださいね。

A医師:新生児蘇生の経験がないのですが,必要になるのはどのくらいですか?

助産師:正期産児でおよそ15%だそうです。

A医師:そんなに多いのですか?

助産師:85%の児は出生後30秒以内に自発呼吸が出現し,10%は皮膚乾燥と刺激などの蘇生の初期処置によって自発呼吸が出現するので,バッグバルブマスク換気以上の蘇生手技を必要とするのは残りの5%です。挿管を必要とするのは2%で胸骨圧迫は0.1%,人工呼吸と胸骨圧迫に加えてアドレナリンの投与を必要とするのはわずか0.05%だそうです。

A医師:それを聞いて少し安心しました。でも,よく知ってますね。

助産師:新生児蘇生法(NCPR)講習会を受けたばかりなので(コメント)。ただ私もNCPRでマネキンにバッグバルブマスク換気の練習をしましたが,実際の赤ちゃんには行ったことはないです……。

A医師:うーむ。それは心配だ。新生児蘇生について確認しておこう。

連載 研修医・初心者のための〜Dr.DのおもしろTEE講座 第11回

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みなさん,こんにちは。TEEしてますか。今回は,マトリックスアレイトランスデューサが搭載されているTEEの機能の一つであるbiplaneモードのお話です。メーカーによって名称は異なり,xPlane機能,multidimensionalモードなどと呼ばれます。

連載

THE Editorials
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Anesthesia & Analgesia

Infographics:

Nathan N. Crosshairs on cancer:propofol versus inhalational agents and cancer outcomes. Anesth Analg 2021;132:622.

Article:

Chang CY, Wu MY, Chien YJ, et al. Anesthesia and long-term oncological outcomes:a systematic review and meta-analysis. Anesth Analg 2021;132:623-34.

■麻酔と長期予後との関係

麻酔と予後との関係についてのこれまで研究は,術直後から術後1か月程度に起こる合併症や死亡率を主眼とするものであった。麻酔と長期予後について注目されてきたものは,小児における麻酔薬への曝露と中枢神経系障害,成人における高次脳機能障害,輸血とがん再発などを含む長期予後,そして今回の論文で取り上げられたような麻酔薬とがん手術の生存率などである。

 麻酔薬とがんの再発や患者予後を研究する場合は,術式や患者要件がそろえにくい,後向き研究が多いといった問題点がある。一方,個々の麻酔薬については,腫瘍細胞の増殖や血管新生,浸潤などに関係する免疫系や,低酸素誘導因子hypoxia-inducible factor(HIF)-1αやトランスフォーミング増殖因子transforming growth factor(TGF)-β/Smadなどに対する作用が基礎的研究で解明されてきている。しかし,それら基礎的研究の結果と,臨床研究の結果が合致するとは限らないことが問題である。

my styleシミュレーション

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スマートフォンに接続し使用可能な携帯型のエコープローブの開発により,欧米では個人でエコー機器を所有することが可能となった1)。次世代の医学生・研修医は首に聴診器ではなく,白衣のポケットにエコープローブというスタイルで臨床研修に参加するという時代がすぐそこまで来ている。現在麻酔科医が術前診察で聴診をしているように,近い将来,心エコーが身体診察の一環に組み込まれることは容易に想像される。日進月歩に変革していく医療テクノロジーに対応していくべく,次世代の麻酔科医がどのように経胸壁心エコー(TTE)を活用し,どのようにトレーニングしていくかを心エコーの教育者の目線から概説する。

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麻酔科医のみならず,医療従事者にとって局所麻酔薬は日常的に目にする機会の多い薬物である。しかし,振り返ってみると局所麻酔薬がどんな構造をしているのか,はたまたなぜそのような名前になっているのか,「なんとなく試験対策で覚えた」というところで止まっている読者も少なくないのではないだろうか。

 今回は「構造式を見直してみたら名前の由来もみえてきました」というテーマで局所麻酔薬について紐解いてみよう。

時短・簡単・驚嘆レシピ 夕ご飯 何にする?

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コロナ禍での外出自粛など,不自由な生活も2度目の夏を迎えましたが,ご飯作りはそろそろ慣れてきているのではないでしょうか。

四季のある日本では,野菜がその時期に1番美味しく食べられる「旬」があります。

今回は夏が旬の野菜を手軽に味わいましょう。

diary

愛媛県道後 高良 到
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当院は松山市道後地区に位置し,一般病床92床と療養病床92床のケアミックス型病院で,救急告示病院として松山医療圏における救急医療にも携わっています。大正4(1915)年に初代院長の奥島愛治郎が一番町に奥島外科病院として開院しましたが昭和20(1945)年に戦災で焼失。梅津寺町に診療所を開設の後,昭和29(1954)年に道後の地に移転し今に至ります。麻酔科は平成29(2017)年3月に常勤医1名体制で新設されました。手術室は3室で,平日の4日間が手術日,水曜日と土曜日は半日で周術期管理外来です。麻酔科管理症例は年平均300件前後,整形外科が最も多く,次いで婦人科,外科と続きます。幸運なことに深夜帯まで及ぶ長時間手術はなく,一人でも何とかやっていけています。

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基本情報

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LiSA
28巻8号 (2021年8月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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