LiSA 24巻12号 (2017年12月)

症例検討 ICUにおける感染性合併症

巻頭言 宮津 光範
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「感染を制する者はICUを制す」

“リバウンドを制する者はバスケを制す。感染を制する者はICUを制す”。かつて集中治療をやっていた麻酔科医であれば身にしみる言葉だろう。サブスペシャリティーとして集中治療をやっている麻酔科医も,そうでない麻酔科医も,ぜひ覚えておきたい言葉である。

 かつて“院内感染”と呼ばれていた感染性合併症は,現在では「医療関連感染症」と呼ばれる。カテーテル関連血流感染症,カテーテル関連尿路感染症,人工呼吸器関連肺炎,Clostridium関連腸炎,手術部位感染,などが代表である。これらは,何らかの管,デバイス挿入などの医療行為に関連して発症する。手術室やICUにおける麻酔科医による医療行為が医療関連感染症の発症原因になっているかもしれない。また一方で,それらはわれわれの心がけ次第で予防できる合併症でもある。

 今回は代表的な四つの医療関連感染症をテーマとした。執筆者には,広く・深く・LiSAらしく,ちょっとマニアックだけれども読んでタメになる解説をしていただいた。本症例検討で増えた知識が明日からの麻酔科診療に少しでも役立てば幸いである。そして,感染症に興味をもつ麻酔科医が増えればなお幸いである。

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症例

1歳の男児。身長68cm,体重7.5kg。先天性心疾患根治術後にICUで管理を行っていた。術後1週間は心不全管理に難渋していたが,ようやく循環も安定し,抜管を考えていたところ,突然,敗血症性ショックになった。まずはカテーテル関連血流感染症を疑い,右内頸静脈に挿入されていた中心静脈カテーテルを抜去することとなった。

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症例

68歳の女性。身長151cm,体重58kg。既往歴は糖尿病のみ。原因不明の敗血症のため前医より5日間加療されたが,改善が乏しいとのことで当院ICUに搬送され,抗菌薬による加療が開始されていた。前医より留置されていたカテーテル尿を採取したところ,グラム陽性球菌が検出されたため,感染源として尿路感染を疑った。

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症例

70歳の男性。身長165cm,体重60kg,体表面積(BSA)1.66m2。陳旧性心筋梗塞と慢性心不全の既往あり。交通事故による多発外傷で,肝損傷,肋骨骨折,骨盤骨折を受傷し,骨盤骨折にはIVR動脈塞栓を施行済み。ICUに入室し加療後6日目。気管挿管人工呼吸管理中。本日の胸部X線写真で右下肺野に新たな浸潤影が出現し,酸素化が悪化。呼吸不全が進行しているようだと外科からコンサルトされた(図1)。

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症例

65歳の男性。身長172cm,体重50kg。潰瘍性大腸炎の既往あり。胸腔鏡下食道亜全摘術で術後7日目に縫合不全があり洗浄ドレナージ術が行われた。その後,縦隔炎の診断でICUにおいてセフェム系抗菌薬で治療すること5日目,大量の水様性下痢をきたした。投与した抗菌薬によるClostridium difficile腸炎が疑われた。

症例検討 予期せぬICU入室 3

巻頭言 安田 信彦
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今回は「予期せぬICU入室」シリーズの第3弾で,このシリーズはこれで一段落となります。内容は,麻酔導入時の誤嚥,局所麻酔薬中毒,術中突然のST上昇後の循環虚脱,hypovolemic shock,抜管後の上気道浮腫です。実際の臨床では,慎重に麻酔を行うことでこれらは未然に防げるでしょうし,発生しても早期対応でICU入室は防げるはずです。しかし,たとえ誌上であってもシミュレーションを行っておけば,今回の各症例のような予期せぬ事態になった場合に慌てないですむでしょう。医療安全の分野では「To err is human.」と言われています。つまり,人間は間違いを犯すものです,どんなに慎重にやっているつもりでも。その点でこのシリーズは,新人にも,中堅どころにも,大ベテランにも,麻酔を見直すためのいい契機になると思います。つまり,自身の常識を本当に常識とすべきか。たとえば,術前経口補水,全身麻酔時の神経ブロック併用,鎮痛法や筋弛緩薬併用による浅めの全身麻酔,患者の希望への応需などを強く推し進め過ぎていないか。

 このシリーズが,予期せずにICU入室となった場合の実務的な参考となるだけでなく,多角的に麻酔を見直す契機となることを願います。

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症例

55歳の男性。身長160cm,体重90kg。腰椎椎間板ヘルニアに対して全身麻酔下での椎間板ヘルニア摘出術が予定された。術当日朝から手術室入室2時間前までに経口補水液1000mLを飲水した。プロポフォール,レミフェンタニル,ロクロニウムで麻酔導入を行った。気道確保が難しく,マスク換気中に胃の膨満を認めた。気管挿管を行うために喉頭展開を行った際,口腔内に胃液の逆流を認め,誤嚥が疑われた。

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症例

28歳の妊婦。身長150cm,体重40kg(妊娠時50kg)。妊娠35週で常位胎盤早期剝離の診断で,全身麻酔管理で緊急帝王切開を行った。帝王切開終了後,ガーゼ遺残確認のため腹部X線写真を撮影した後に,術後鎮痛を目的として両側の腹横筋膜面(TAP)ブロックを行った。TAPブロックには,0.375%ロピバカインを片側あたり30mL(計60mL,225mg)使用した。

 続いて全身麻酔薬の投与を終了し,患者の覚醒を確認してから抜管した。

 抜管して数分後から患者が不穏となり,血圧110/50mmHg,心拍数(HR)80bpmから,血圧170/100mmHg,HR 100bpmへ変化した。続いて全身性の痙攣をきたした後,血圧75/30mmHg,HR 140bpmの心室頻拍から心室細動に移行した。直ちに気管挿管を含めた心肺蘇生を行った。

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症例

48歳の女性。身長158cm,体重62kg。胆石症に対して腹腔鏡下胆囊摘出術が予定された。ときどき朝方に胸やけがする以外に特別な既往歴はない。胸部硬膜外併用全身麻酔とし,麻酔はレミフェンタニル,デスフルラン,酸素で行っていた。術中の血圧は110/70mmHg,心拍数66bpm,呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)32mmHg,であった。胆囊操作時に心拍数が突然45bpmとなり,さらにST上昇,Ⅱ度房室ブロックを認めた。収縮期血圧は50〜60mmHgへ低下した。ニコランジルの投与を開始した。血圧低下に対して,当初はフェニレフリン静注,その後,ノルアドレナリンの持続静注を行った。手術は終了したが,血行動態不安定なので,ICUに入室することとした。

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症例

65歳の男性。身長170cm,体重78kg。全身麻酔下の鼠径ヘルニア根治術。アルコール性肝硬変の既往あり。腹水が残存するもヘルニアの脱出を繰り返し,本人の強い希望で鼠径ヘルニア根治術が施行された。

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症例

62歳の男性。身長168cm,体重65kg。1年前に受けた甲状腺全摘術後に左反回神経麻痺が生じ,保存的に経過を観察していたが改善が認められなかったため,全身麻酔下で披裂軟骨内転術を実施した(予定時間は1時間)。術中のバイタルサインは安定していたが手術時間は2時間に及んだ。手術終了後スガマデクスを投与し,四連反応比(TOFR)>0.9を確認した。患者の覚醒を待っている間に,「思ったよりも時間がかかって侵襲が大きくなったなあ」と手術室の片隅で手術助手の耳鼻科専門医が執刀の耳鼻科医に話していた。10分後,呼びかけに開眼し従命も可能になったので抜管した。抜管後まもなく吸気喘鳴が生じた。用手的気道確保を行ったが喘鳴は改善しない。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は99%を維持している。

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はじめに

次世代シーケンサーNext Generation Sequencerが登場してはや10年となり1),個人の全ゲノム配列を決定する解析コストが1,000ドルまで低下した(図1)。数十万人におよぶ健常人のゲノム配列がデータベース化され,ゲノムの個人差や疾患の遺伝素因が解明される一方,種々の疾患症例のゲノム解析も進められている2)。顕性遺伝性疾患症例で認められた原因遺伝子変異の半数は両親由来ではなくde novoに生じたものであり,疾患メカニズム解明におけるゲノム解析の重要性が改めて示された。がん患者の正常組織と腫瘍組織のDNAをそれぞれゲノム解析することで,がん細胞に生じた体細胞変異を同定できる。これらの研究成果を医療に還元すべく,日本でもゲノム解析結果にもとづいて治療方針を決定する「ゲノム医療」を推進するための基盤作りが進められている。

 本稿では,次世代シーケンサーによる疾患ゲノム解析の現状を紹介し,がんを例としてゲノム医療の実践へ向けての課題についても概説する。

連載

Editorial拝見
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The New England Journal of Medicine

Editorial:

Dellinger RP, Trzeciak S. Angiotensin Ⅱ for the treatment of vasodilatory shock - promise and caution. N Engl J Med 2017;377:486-7.

Article:

Khanna A, English SW, Wang XS, et al. Angiotensin Ⅱ for the treatment of vasodilatory shock. N Engl J Med 2017;377:419-30.

■血管拡張性(分布異常性)ショックの治療上の課題

血管拡張性ショックはショックの約2/3を占めている。その中でも多いのが,敗血症性ショックである。敗血症性ショックでは,静脈拡張や血管透過性亢進による血管内からの体液漏出による前負荷減少,動脈拡張による体血管抵抗減少,炎症性サイトカインによる心機能低下などが起きている。Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2016では,診断後6時間以内に集中治療室で,容量負荷(30mL/kg)を行い,十分な中心静脈圧を保ち(自発呼吸で8mmHg,人工呼吸で12〜15mmHg),それでも低血圧が持続する場合には,血管収縮薬を投与して平均血圧を65mmHg以上に保つことなどが推奨されてきた。血管収縮薬としてはノルアドレナリン(2〜20μg/min)を投与,必要に応じてバソプレシン(0.03〜0.04U/min)を追加,治療抵抗性の低血圧にはアドレナリンを投与することなどが推奨されている。

連載 blockstories 超音波ガイド下末梢神経ブロック 実践49症例 その後

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筆者の勤務する施設(当院)では,超音波手技のデジタル動画を低価格な録画機(Amazonで購入可)で,スケールダウンすることなく録画することが可能になっている。多くの施設では,アナログ信号に変換して録画したり,高額な医療用の録画機で保存を行っていたりするようだ。教育という面からも,神経ブロック施行時の動画保存は有用とされており,安く簡単に録画ができることは非常に重要なことと考えている。

 ただし,解像度の違いなどにより,録画機が超音波装置の出力画像を認識しない場合があるため,自施設にある超音波装置と相性の合う録画機を探さなければならない。

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Enjoy! ワイン

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こんにちは。“ワイン安部”です。

11月の第3木曜日にはヌーヴォー(新酒)も解禁となり,年末(特にクリスマス)に向けて日本でもワイン市場は盛り上がります。ヨーロッパの冬の風物詩はホットワイン。ワインをベースにハーブやスパイスで風味をつけたものです。以前私は,ホットワインは赤ワインベースのものだけだと思っていましたが,クリスマスシーズンに訪れたフランスのアルザス地方で白ワインをベースにしたものを発見。物珍しさから購入して暖をとったのを覚えています。

今回は,ワインシーズン真っ只中の12月にピッタリの質問にお答えします。実践してみて,ワイン偏差値を上げてくださいね!

Tomochen風独記

㊱ 名は体を表すか? 山本 知裕
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難読漢字を用いた名前を「キラキラネーム」の一つと定義するとすれば,私とキラキラネームの出会いは,初期臨床研修医時代です。私の学年(2004年卒業)から新臨床研修制度がスタートしたので,私は研修医1年目に,数か月小児科研修がありました。病棟にある入院患者の一覧表を見ると,“読み”はかろうじて聞き覚えのある日本的な響きでしたが,“書き”については,私のような漢字の知識ではまったく読みが思いつかないような当て字や,「こんな漢字があったのか!」と驚くすごい画数の漢字を並べているもの,横文字を無理やり漢字に直したものと,2004年当時でキラキラネームはかなりの盛り上がりをみせていました。

 そのようなキラキラネームは,漢字文化の日本に限った話ではなく,30文字程度しかないドイツ語圏にも存在するらしいことが判明しましたので,ご報告いたします。

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LiSA VOL.24 総合目次[NO.1〜12, 別冊]

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基本情報

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LiSA
24巻12号 (2017年12月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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