JIM 3巻11号 (1993年11月)

特集 肥満の総合診療

Editorial

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 本邦においても,肥満は日常診療でしばしば遭遇する疾患になってきた.したがって,第一線の臨床医も肥満に関する医療知識を身につける必要が高まってきた.

Key Articles 井上 修二
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 肥満の知見は最近急速に増えており,世界的にも新しい文献が出てきている.特に本邦では改版中や上梓直前のものが多いが,一応発行所を示して紹介する.

病理とメカニズム

脂肪細胞の増殖と分化 杉原 甫
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 ■脂肪細胞は脂質代謝機能の面でも,増殖性においても活発な細胞である.

 ■肥満の場合,脂肪細胞は肥大するだけでなく,数も増えている.

食欲の調節 大村 裕
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 ■摂食の調節は,空腹時と満腹時に変化する血中および脳脊髄液中の化学物質の動態を化学感受性ニューロンが感知することが第1の段階である.

 ■これらニューロンで感知した化学情報が脳の高次の中枢に伝達され空腹感や満腹感が形成されて,摂食行動が調節される.

 ■摂食は単に体の機能を維持するだけではなく,すすんで脳の学習記憶能力を促進させるという重要な生理学的働きがある.

肥満とエネルギー代謝 斎藤 昌之
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 ■多食であっても肥満になるとは限らないし,摂食量を制限しても肥満を阻止できるとは限らない.

 ■エネルギー消費の一成分である褐色脂肪での熱産生が,肥満では障害されている.

 ■褐色脂肪を活性化するβ3―アドレナリン性作動薬は抗肥満薬として有望である.

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 ■肥満は糖尿病,高脂血症,高血圧など種々の疾患を合併しやすいが,合併症の頻度や重症度は肥満度よりも肥満者の脂肪組織の体分布と密接に関連する.

 ■疫学的には,ウエストとヒップの比(W/H比)の大きい上半身肥満が下半身肥満に比べて合併症を来しやすく,予後も不良であることが示されている.

 ■CTスキャンによる分析から腹腔内脂肪の蓄積が合併症と関連することが明らかとなり,内臓脂肪型肥満は皮下脂肪型肥満に比し,糖,脂質代謝異常や循環器障害を高率に合併する.

 ■非肥満者においても内臓脂肪の蓄積が種々の代謝異常や高血圧とともに冠動脈疾患とも密接に関連し,内臓脂肪症候群(内臓脂肪蓄積,耐糖能異常,高脂血症,高血圧)は動脈硬化易発症病態として極めて重要な意義を有する.

 ■内臓脂肪蓄積による合併症発症機序としては,門脈血中遊離脂肪酸の上昇を介するインスリン抵抗性(→糖代謝異常,高血圧),VLDL合成増加などが考えられている.

 ■内臓脂肪の蓄積機序については,性ホルモン,遺伝因子,環境因子(高蔗糖食や運動不足)などの関与が報告されている.

インスリン抵抗性と肥満 小林 正
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 ■肥満により,インスリン抵抗性と高インスリン血症が特徴的にみられる.

 ■インスリン抵抗性の原因の1つは,インスリン受容体の機能低下.

 ■それ以外に受容体後の過程でのシグナル伝達障害や糖輸送の障害も考えられている.

診断方法

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 ■肥満とは身体の脂肪組織(体脂肪)が過剰に蓄積した状態である.

 ■肥満症とは肥満と判定されたものの中で,肥満に起因する健康障害を合併するか,臨床的にその合併が予測される場合で,医学的に減量を必要とする病態(疾患単位)である.

 ■肥満判定の1次スクリーニングには,body mass index (BMI)を用い,これに体脂肪率,体格・体型,体重歴などの情報も加味して,個体特性に即した判定を行う.

 ■日本人における性・年齢別の体脂肪率の分布とこれに基づくより詳細な肥満の判定基準を検討する必要がある.

 ■肥満症の診断には,症候性肥満の鑑別,合併症に対する精査,さらには体脂肪分布(上体肥満,内臓脂肪型肥満など)の把握が必要になる.

治療

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 ■食事療法の基本方針を症例の重篤度に合わせて設定し,長期間をかけて治療していく.

 ■行動修正療法を用い,繰り返し食習慣の改善を図る.

 ■減量に関する間違った知識を是正し,正確な栄養情報と症例に合わせた食事教育を行う.

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 ■患者が肥満を改善したいのか,その理由は何かという点を明確にしておく必要がある.このことは,他の肥満の治療にも当てはまるが,治療法の性格上,行動療法(J1)では特に重要である.

 ■行動療法では,情報を客観的で計量的なものとして処理する必要がある.

 ■肥満の行動療法の技法としては,刺激統制法,オペラント条件付けの技法が容易に実施可能で,かつ有効である.

 ■行動療法自体が動物を対象とした実験心理学の成果に負うところが多いので,そのまま人間に応用しようとすると不自然なもの,非人間的なものになってしまう恐れがある.あくまでも良好な医師―患者関係の中で,患者の同意のもとでこの技法を使用するということが前提条件である.

肥満に対する最新の薬物療法 井上 修二
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 ■肥満の増加とともに,どのような肥満を病気と考えるべきかという問題意識が医療的にも社会的にも高まってきた.

 ■病的肥満,すなわち肥満症の診断には,肥満によって,①死亡率が高まる,②合併症(成人病)の確率が高まる,③日常の生活活動が阻害されるなどの基準が考えられる.

 ■1992年秋より,日本でも③の基準に該当すると考えられる肥満度+70%以上,もしくはbody mass indexが35以上の高度肥満患者にマジンドールが使用できるようになった.

小児の肥満の特徴とその対応 大関 武彦
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 ■小児期~思春期の肥満の診療に際しては,その特質を念頭に置いた対応が必要である.

 ■診断においては,肥満度による判定の他に可能な限り脂肪量の直接的な評価を行う.

 ■治療に際しては,成長,家族,心理的側面などに対する配慮を要する.小児期は,特に全人的・包括的対応が重要な時期である.

肥満者の心理 白山 正人
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 ■摂食には,ストレスを解消し,精神を安定化させる作用がある.肥満者の場合,このことを求めて過食することが多い.

 ■肥満者は空腹感という内的条件より,食物がそこにあるかどうかといった外的条件に左右されやすい.しかしこの特徴は,従来言われていたほど大きくないという報告もある.

 ■減食は無理のない範囲で行わないと,抑うつや情緒不安定を招来し,挫折の原因となることを心得ておかなくてはならない.

 ■精神障害者の肥満は,向精神薬と精神療法による治療が前提である.一般人と心理状態が異なるので,治療には困難さが増す.

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 ■肥満の指導には,家族を巻き込むことが重要である.

 ■「単に食べる量を減らすよう指導する」や「単に運動を勧める」といった簡単な指導では効果が少なく,継続性も期待できない.

 ■肥満指導には,医師が自分の仕事としての自覚を持ち,効果的な指導法を身に着ける必要がある.

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 両親とも糖尿病という家族歴の26歳の男性.既往最大体重が80kgで20歳から糖尿病発症直前まで肥満があり,比較的急激に,少なくとも1年以内の経過で発症したという3点が特徴.この症例をめぐって,総合的な診療の視点から討議していただきます.

Generalist and Specialist

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 医師を,その持っている医学知識の間口の広さと深さによりgeneralistとspecialistに分けることは可能である.Generalistは多くの疾患についての知識を持ち,それらに対処することができる.Specialistは一部の疾患についてしか知識を持っていないが,それら疾患については深い知識を持っており,その診断治療に特別の能力を発揮することができる.第一線で内科,小児科を中心に日常的な疾患に対応している医師はgeneralistということができるであろうし,その医師が腹部腫瘤をみつけ,患者を外科医に紹介するような場合,その外科医はspecialistということになるであろう.しかしまたその外科医が,腫瘤は特殊な腫瘍であるからそれに詳しい別の外科医に依頼するというような場合には,最初の外科医は,外科医としてはgeneralistであり第2の外科医がspecialistということになる.このようにgeneralistとspecialistというのは相対的なものと言えるであろう.

 一般にgeneralistはspecialistよりも低いものとみられがちである.しかし決してそういうことはない.多くの疾患について広い知識を持ち,正しく対処できる医師は貴重な存在である.ただ残念なことにそのような真の意味でのgeneralistは少なく,間口を広げて多くの疾患に対応してはいるが,その対応が必ずしも的確でないgeneralistが少なくないのである.

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 拡張期血圧が120~130mmHg以上で急激な腎機能障害を認めるものを悪性高血圧(J1)と言い,以前は1年生存率が20%と極めて予後不良であった.しかし,最近では降圧療法および透析療法の進歩で5年生存率が75~90%と改善されつつある.高血圧の約1%にみられる.

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 患者の高齢化に伴い疾病が多様化している.往診医は内科全般のみならず,整形外科・皮膚科など他科の一般知識も必要とされる.またADL低下患者の対応には,理学療法士,看護婦,医療ソーシャルワーカ(MSW)など,コメディカルとの連携が重要であり,total coordinatorとしての役割を果たさなければならない.

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 ウイルス性感染性疾患の流行時には,先入観念からか,多忙なためか,十分な問診や診療また検査などを行わずに,簡単に診断を下し,処置してしまうことがよくある.そのための誤診が後日重大な後遺症を引き起こすことは第一線の臨床医ならだれしも経験があるであろう.今回は感染性胃腸炎(ウイルス性)の流行時に見逃した急性虫垂炎の症例を通して,いかに誤診を防ぐべきかを考えてみたい.

当直医読本

症候性肥満と脳血管障害 三倉 剛
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Topics

 救急の場において肥満そのものが問題となることは少ないと思うが,救急患者に肥満が見られ,それから新たに疾患が見つかることもある.こうした患者は肥満そのものを主訴に医師を訪れることは少ないので,救急外来の現場での病歴聴取や診察が大切である.今回はCushing症候群を取り上げる.

歯~とぴあ―臨床医のための歯の話・8

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 全国各地で在宅寝たきり老人など,歯科医院へ通院困難な人たちに対して,歯科往診治療などの取り組みが実施されている.

 その中で,現場で,治療や保健指導に困難性を伴う対象者として,特定疾患・結核の患者さんがいる.現状では,歯科領域でその取り組みがほとんど行われていない.

和漢診療ケーススタディ リフレッシャー・コース・11

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症例

 患者 32歳,男.

 主訴 呼吸困難.

イラストレイテッド臨床基本手技・1【新連載】

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 ■ライン確保=「非金属力ニューレによる,少々の体動でははずれない点滴投与経路の確保」.翼状針は不可.これが巧みであると患者との信頼関係を築く大きな武器となる.

 ■手技修得に必要な経験例数=200例(特に小児の経験が重要)

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症例1

 患者:高校3年男子生徒.足裏に釘が刺さったとのことで午後3時ごろ受診.

 午後1時ごろ,屋外の農作業実習中,廃材に刺さった古釘を運動靴ごしに踏みつけた.出血は,受傷直後のみで止まっている,痛みは直接触れなければ辛抱できる.左足土踏まずに3mm程度の刺創があり,止血している.圧痛は限局している.ゴミ,泥などは付着していない.

ティアニー先生のBedside Teaching

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症例

 「症例は全身のしびれ感,呼吸困難を主訴に入院した元他院医療事務員の27歳,女性です.12歳の時,バセドウ病を指摘され17歳で甲状腺亜全摘術を受けています.24歳の時,当時交際中の彼(医師)や周囲の人から顔のむくみを指摘され,チラージンSを開始してもあまり改善しなかったそうです.入院当日,四肢のしびれが増悪し歩行時の動悸のため外来を初めて訪れ,待合室で座っていたところ体全体がしびれ,筋硬直,呼吸困難感,手の開排制限が出現し,転倒したため救急外来受診となり入院となりました.むくみに対しては他院よりラシックスが処方されています.また3カ月間で15kgの体重減少も認めています.」

 「喫煙歴,飲酒歴はなく,家族歴も問題ありません.」

JIM Report

第1回総合診療研究会 千田 彰一
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 第1回総合診療研究会は,1993年2月27日(土),国立医療・病院管理研究所研修部において,国立東京第二病院岡本 健院長を会長として開催された.当日は,若く意欲に満ちた総合診療を実践している110余名の医師で会場が埋めつくされ,その熱気と緊迫感は,本研究会開催の意義を参加者に認めさせるには十分であった.

 本研究会設立の趣意書に曰く,「昭和51年(1976年)にわが国最初の総合外来が設立されて以来,総合診療部(科)ないしそれと類似の部門(以下,総合診療部)が設立される大学・病院は年を追って増加しつつあるにもかかわらず(中略),その全国的な組織化は行われてきませんでした.そのことが,総合診療のあり方に過度なまでの多様性をもたらすとともに,総合診療に対する理解を困難にさせる一因となってきました.」そこで,総合診療の研究や教育に関する討論の場を作り,今後の発展を期す目的で本研究会が設けられた.総合診療の定義や必要性の力説はさておき,総合診療が生まれたいきさつを顧み,現状がどうなのか,あり方を相互に検討し,その学術面での発展を促すというのが当初の意図であったろう.

基本情報

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JIM
3巻11号 (1993年11月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

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