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はじめに
精神疾患を含むメンタルヘルスの変調に起因する種々の疾患(メンタルヘルス関連疾患)は,さまざまな身体症状を呈することが知られている1).メンタルヘルスの変調を起因とする身体症状には,妄想や不安,恐怖などによる身体の筋緊張亢進,姿勢悪化,さらに,呼吸困難感,換気困難,身体各部位の慢性疲労,慢性疼痛,異常感覚などがあり,これらの症状が「機能的動き」を妨げる要因になる.「機能的動き」とは,量的身体機能と質的それとが同時に作用している状態である.よって,メンタルヘルスの変調は,精神症状と同時に身体症状を呈し,心身両面の健康状態に影響を及ぼし,代償的とも言える「機能不全的動き(dysfunctional movement)」を来す.
現在,日本のメンタルヘルスに関する身体医学的学際領域において,「メンタルヘルス関連疾患に起因する身体症状」に対する治療的概念は十分に確立されていないため,理学療法を含むメンタルヘルス領域のリハビリテーションについてもいまだ認識されていない.メンタルヘルス関連疾患に起因する「機能不全的動き」は,身体機能が低下した結果として引き起こされた動きではないため,身体機能の改善を目的とした理学療法アプローチのみでは十分な治療効果を得ることが困難であると考えられる.メンタルヘルス関連疾患に起因する「機能不全的動き」の改善には,量的な身体機能に加え,質的な「機能的動き」を高めるための治療介入を優先的に実施することが肝要であると考える.
本稿では,メンタルヘルスの変調に起因する「機能不全的動き」に対する理学療法の理論的背景と実践方法を紹介し,メンタルヘルス領域における理学療法の役割と将来的展望を提起する.
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