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はじめに
従来,大腿骨頸部骨折は,大腿骨頭下から転子間骨折を含む関節包内骨折(内側骨折)と転子貫通骨折による関節包外骨折(外側骨折)の両者に分類され,これらを合わせて大腿骨頸部骨折とよばれてきました.しかし,2011年に発刊された「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版)」1)以降は,大腿骨頭下から転子間線近位までの中間部骨折を大腿骨頸部骨折,転子間線から小転子基部までの転子貫通骨折を大腿骨転子部骨折とし,これらの両者を大腿骨近位部骨折とよんでいます.
本邦における大腿骨近位部骨折の発生は,2007年に行われたOrimoら2)の調査によると14万8100人(男性3万1300人,女性11万6800人)と推計されています.また,2012年のHagino3)の調査では19万人,2040年には32万人に達すると推計され,高齢者の増加とともにその発生頻度は高まることが予測されています.
一方,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は,日本の成人人口の12.9%に相当する1330万人に存在すると推定されており,近年では高齢者における併存疾患として重要視されつつあります.CKDの定義は,蛋白尿などの腎障害,もしくは血清クレアチニン値(creatinine:Cr)と年齢,性別から日本人の推算式を用いて算出した推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)が60mL/分/1.73m2未満の腎機能低下が3か月以上持続するものとされています4,5).CKDは進行すると,心血管疾患や脳血管疾患などのリスクが高まります.また,CKDが中等度以上に進行してくると貧血や電解質の異常,倦怠感や食欲不振,むくみなどの尿毒症症状を起こすことがあります.
さらに,近年では急性腎障害(acute kidney disease:AKI)という概念も広まり,CKDや生命予後に対する増悪因子として着目されています.AKIは,① Crの上昇が0.3mg/dL以上の上昇(48時間以内),② Crの基礎値から1.5倍上昇(7日以内),③ 尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続,の3つの定義のうち1つを満たせばAKIと診断されます6,7).
2012年5月〜2016年4月の4年間に当院に入院した大腿骨近位部骨折患者214名におけるCKDおよびAKIの割合は,図1に示すようにCKDは全体の45.8%と約半数に認められ,またAKIは8.9%でCKD患者に多く認められています.
大腿骨近位部骨折患者における主な問題点について,国際生活機能分類に準じて整理してみると図2に示すようなものになると思います.本稿では,大腿骨近位部骨折に加えて慢性腎臓病を合併した患者を想定し,情報収集や評価,プログラムの立案など理学療法の進め方におけるポイントについて症例を通して概説します.
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