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今月号の特集は「こころの問題と理学療法」です.私たちは理学療法介入の効果を高めるために適切な評価と観察を行い,具体的な目標を設定し,根拠のある介入手段を考えます.多くの評価や介入手段は患者さん自身の能動的な取り組みを要するものですが,その際に協力を得られないことやモチベーションを引き出せずに苦労することも多いのではないでしょうか.そんな患者さんの「こころの問題」に着目し配慮した理学療法を行っていくために,さまざまな場面での理学療法士のかかわり方や考え方について述べていただきました.
山本論文ではメンタルヘルス領域の理学療法について世界の動向や理学療法の役割の解説とともに,身体機能との関係性について示唆に富む指摘をしていただきました.上薗論文では精神科領域の理学療法の役割と介入方法を具体的に解説していただきました.精神科領域に限らず,広く一般の理学療法対象の方々にも応用していくべき手法が示されていると思います.小滝論文では認知症の行動・心理症状と理学療法について述べていただきました.高齢者には考慮しておくべきこの難渋する問題について,とても役に立つ考え方が提示されています.多田論文では発達障害児・者の「こころの問題」について,時間の経過のなかでの変化・変容に着目した考え方を示していただきました.豊富な経験に裏打ちされた深い洞察から,この領域の問題にかかわるときの大切な視点が提示されていると考えます.梅澤論文ではパラスポーツとのかかわりから「こころの問題」について述べていただきました.「生きづらさ」と言い換えていただいたうえでの指摘は,義足という領域のことに留まらず,広く病気を患った方への考え方として胸に刻んでおきたいものです.矢口論文では日々の理学療法では必ず繰り返される「会話」について,具体的事例から心理的サポートとしての重要性を述べていただきました.患者さんへのまなざし,触れ方とともに私たちが押さえておかなければならない大切なことが示されていると考えます.さまざまな領域での「こころの問題」を取り上げましたが,理学療法の対象を丸ごとの人として考えたときには,いずれの論文にも普遍的な指摘が含まれていると考えます.
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