脊椎脊髄ジャーナル 31巻1号 (2018年1月)

特集 脊髄ニューロモデュレーションの現状

特集にあたって 高橋 敏行
  • 文献概要を表示

 脊髄脊椎疾患の外科治療は,さまざまな神経除圧や矯正固定など根治的な手技が発展を遂げており,良好な機能回復や疼痛制御をもたらしています.一方で,脳や脊髄機能に不可逆的変化をきたし通常の外科治療では限界が生じている病態もいまだに多く存在します.電気刺激や髄腔内薬物投与による脊髄ニューロモデュレーションは,根治的ではないものの難治性の神経機能障害を緩和修飾することにより,痙縮や疼痛,血流障害に対し効果を発揮しています.また,国内では仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)が便失禁や過活動膀胱に対して適応が認められています.

 残された脊髄機能を最大限有効活用するために,ニューロモデュレーションがいったいどのような病態に,どの程度の効果が期待できるのか? 最新機器や技術進歩により以前より何が進歩しているのか? この治療法の現時点での限界や問題点は何か? について,各エキスパートの先生方にわかりやすく解説をしていただいております.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄刺激療法は,本邦では1992年に保険収載された.その適応は,「薬物療法,他の外科療法及び神経ブロック療法の効果が認められない慢性難治性疼痛の除去または軽減を目的として行った場合に算定する」とされる9).この治療は本誌発行年でおよそ40年を迎える,まさにニューロモデュレーションの臨床応用における先駆的治療法といえよう.本稿では,脊髄刺激療法のこれまでの歩み,疼痛制御メカニズム,デバイスの進化,刺激方法のバリエーション,治療のエビデンス,副作用,脊椎脊髄外科における今後の新たな展開について述べる.

  • 文献概要を表示

はじめに

 頸髄脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)に関する報告は,胸腰髄SCSと比べ少ない.胸腰髄SCSについては,すでに複数のランダム化比較試験の結果が報告され,高いエビデンスレベルでその有効性と安全性が示されてきた9,11).一方,頸髄SCSについては,これまで症例報告やケースシリーズのみで,その効果が論じられてきた3,13).しかし,近年,頸髄SCSに関する多施設共同前向き研究の結果やシステマティックレビューから,胸腰髄SCSと遜色ない治療効果,安全性が示されている5).本稿では,頸髄SCSの治療対象となる症状・原疾患,手術方法,治療効果,合併症について,自験例を交えて解説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,難治性の慢性疼痛に対する治療として,脊椎硬膜外腔に電極を留置し,脊髄後索を中心に電気刺激を行い,疼痛の緩和を図る治療法である.本邦では1998年に保険収載となり,薬物治療,一般的外科治療で困難な難治性疼痛に対して適応となっている.近年,新世代型のSCS(超高頻度刺激,バースト刺激)が行われるようになっており,治療成績の向上が期待されている4).従来のSCSは刺激によって誘発される感覚(パレステジア)が疼痛領域をカバーし,疼痛の感覚に置き換わることで鎮痛効果を発揮したのに対して,新世代型SCSは,刺激誘発感なし(パレステジアフリー)で鎮痛効果が得られるようになっている5,10).そのため,電極留置方法についても治療戦略が従来のものと若干異なる可能性が出てきた.

 本稿では前稿に引き続き,胸腰椎レベルでのSCSの適応と治療の流れを示し,実際の手術手技およびその注意点について新世代型SCSを使用する場合も含めて解説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,微小循環を改善する39).これにより,虚血性疼痛の軽減,四肢切断の救済,潰瘍の治癒,間欠性跛行の改善をもたらす3,34)(図1).

 対象となる四肢虚血をきたす疾患は,動脈の閉塞病変を原因とするもので末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)である.PADには,閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO),Buerger病(閉塞性血栓血管炎〔thromboangiitis obliterans:TAO〕とも呼ばれる),Raynaud症候群などがある17,38)

 本稿では,四肢虚血に対するSCSについて,①作用機序,②微小循環の評価,③適応,④治療効果,⑤当院での症例経験を解説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 痙縮はさまざまな中枢神経障害により生じ,重度の痙縮は運動麻痺に過度の筋緊張が加わることにより随意運動や関節可動域に制限をきたし,患者の日常生活動作を低下させる.このような患者を対象としてバクロフェン髄腔内投与療法(intrathecal baclofen〔ITB〕療法)は,薬剤注入ポンプから髄腔内に直接GABAB受容体競合薬であるバクロフェンを投与することにより脊髄レベルで痙縮を軽減させることができる.

 患者の痙縮の状態により,薬剤投与量や投与方法を調節することのできるニューロモデュレーション治療として導入され,その有効性や安全性から痙縮に対する重要な治療法として位置づけられている.

 本邦でも2006年に導入されて以来,すでに1,700例を超える手術が行われ,認知度は広がっているが,ITB療法の適応となる疾患は脊髄損傷・脳血管障害・頭部外傷・痙性対麻痺・脳性麻痺など多岐にわたり,いまだ十分にこの治療の恩恵を受けていない患者がいると推察される.本稿では,痙縮の病態生理,脳由来の痙縮例に対するITB療法の適応,基本的手術手技,治療効果,今後の課題について解説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 中枢神経系の傷害の結果引き起こされる痙縮に対する髄腔内バクロフェン投与療法(intrathecal baclofen〔ITB〕療法)は,痙縮で苦しむ患者のQOLを改善させ,ADL向上をもたらす新しい治療として,わが国でも2006年より保険診療が開始された.ITB療法の特徴は,治療開始前に患者と医療者の両者が治療効果を確認できる(ワンショットスクリーニング)ことと,治療開始後に薬剤投与量の調整を細かく行えることである6)

 痙縮を引き起こす脊髄由来の疾患としては,外傷性脊髄損傷をはじめ後縦靭帯骨化症や脊髄腫瘍などの手術後遺症や,多発性硬化症や遺伝性痙性対麻痺などの神経原性疾患があり,ITB療法の適応となる疾患は多い.

 本論文では,われわれの施設で症例の多い脊髄損傷例を中心に,脊髄由来の痙縮のコントロールの現状について,多少の文献的考察とわれわれの経験を交えて述べたいと思う.

  • 文献概要を表示

はじめに

 仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)は,2017年9月に難治性過活動膀胱に対して認可された治療であり,実施にあたっての適正使用基準(2017年1月5日付)が日本排尿機能学会(japanese-continence-society.kenkyuukai.jp/)の会員限定のホームページからダウンロード可能である14).SNM実施時には,S3の仙骨孔へリードのみ植え込みを行い,体外的に1〜2週間の刺激を行う試験刺激をまず行う14).試験刺激で,目標とする症状が改善(50%以上の改善などの指標が用いられる)した場合に,神経刺激装置の植え込みが行われる14).諸外国では非閉塞性の尿閉に対しても選択される治療法であるが,本邦では難治性過活動膀胱のみに適応がある.本稿では,難治性過活動膀胱あるいは神経因性下部尿路機能障害に対する本治療法の成績に関して概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)は,刺激電極を仙骨神経の近傍に埋め込んで仙骨神経を持続的に電気刺激する治療法で,1982年にTanagho,Schmidtらが尿失禁の患者に対して初めて試みたことが報告されている17).1995年にはドイツのMatzelら13)が3人の便失禁患者に対して初めてSNMを施行して便失禁の症状改善に有効であったことを報告し,EU諸国では排便・排尿障害の治療法として多数の専門施設でSNMが実施されるようになった.米国食品医薬品局(FDA)も1997年に尿失禁の治療法として承認しており,また120人の便失禁の患者を対象とした前向き多施設共同研究で改善率が85%であったことが報告されたことから21),2011年から便失禁の治療法としてもSNMを承認している.このような背景をもとに,欧米ではこれまでに25万人以上の便失禁や尿失禁の患者においてSNMが実施されている(図1).

 本邦では,2011年に実施した便失禁に対するSNMの前向き多施設共同研究で86%の有効性が示され22),2014年4月に便失禁の治療法として保険収載されるに至り,現在は実施基準を満たした医師によって全国的に施行されている.また,2017年9月には過活動膀胱による尿失禁の治療法としても保険収載され,全国的な実施が始まっている.本稿では,便失禁に対するSNMの作用機序,患者選択,安全性,およびSNMの手技について概説する.

  • 文献概要を表示

 診療でも研究でも,半ば趣味のように取り組めている人は幸せである.好きなことであれば,誰に強いられることもなく自ら取り組むことができ,モチベーションを保ちながら継続して努力を続けることができる.そのような対象が社会や医療の発展に役立つようなものであれば,まさに一石二鳥である.わたくしの場合,その対象は脊椎脊髄外科と骨代謝研究の2つである.もちろん脊椎脊髄外科が本業であるが,骨代謝研究も面白く,やめられない.ただし,これら2つは密接に関係するので,この場合の“二足のわらじ”はあながち非効率的ともいえない.もちろん“二兎を追う者は一兎をも得ず”のことわざはつねに肝に銘じて活動している.ある先輩からは,「基礎研究もやっているなんて第一線で活躍する脊椎脊髄外科医ではないよ」というような訓示をいただいたこともあるが,わたくしとしては“骨を知らずして脊椎脊髄外科は務まらない”と思っている.脊椎再建手術においてバイオメカニクスが必須の知識であるのと同様に,骨を知ることは脊椎脊髄外科医にとって必要不可欠と信じている.

 まず,骨代謝研究者ならではの脊椎固定術に関するこだわりをお伝えしたい.脊椎固定術はいまや脊椎脊髄疾患を治療するうえでなくてはならない術式のひとつであるが,ただ骨や人工骨を移植しただけではうまく治らない.この術式は生体の治癒力を利用した術式であり,組織修復の最初のスイッチをうまく入れ,修復カスケードがうまく回るような処置をする必要がある.この際,血管新生を促したり,増殖能,分化能の非常に高い骨膜細胞層を刺激するような母床作成が移植骨治癒に非常に重要となる.そのため,電気メスなどで骨の表面を不必要な部分まで徹底的に焼灼することには問題がある.また,骨の再生に必要な間葉系幹細胞の起源について諸説ある中であまり知られていないことであるが,骨膜や骨髄,経血管的にホーミングしてくる以外にも患部を覆う筋組織内から幹細胞が直接供給されるものもある.そのため,骨移植周辺の筋組織を愛護的に扱い,軟部組織でしっかりと骨再生を期待する部分を覆うことも重要である.移植骨もあまり細かく砕きすぎるとすぐに吸収されて,足場としての役割を果たせない.移植骨は足場として働くだけでなく,じわじわと吸収されることにより骨基質に蓄えられた成長因子を緩徐に放出させる担体としての役割ももつ.患者に痛い思いをさせてまで自家骨移植を行うのにも重要な理由がある.とれたての自家骨には前骨芽細胞や成熟骨芽細胞が多く含まれる.成熟骨芽細胞に増殖能はないが,前骨芽細胞は盛んに増殖,分化してすぐに骨形成を始める.そのため,間葉系幹細胞の増殖分化を待たずして骨の再生が始まる(jump start regeneration)という点で,新鮮自家骨は他家骨や人工骨を上回る骨再生能力をもつ.したがって,採取した骨を乾燥状態で長時間おいておくのは骨新生という観点からも非効率的であり,できるだけ移植直前に採取するのが理想的である.また,日本において広く使われている人工骨は基本的に足場としてしか働かない.そのため,多く入れすぎると骨新生の妨げとなることさえあるので注意を要する.最近の低侵襲手術手技は患者や医療者に多くの利益をもたらしているが,移植母床の作成や骨移植の技術がおろそかにならないように注意を要する.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-98

  • 文献概要を表示

手術適応

 胸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)症例は,術前高度脊髄障害により多くが保存治療抵抗性であるため,できれば早期手術が推奨される.当科の後方除圧矯正固定術71例における手術成績良好因子に関する多変量解析では,術前仰臥位-腹臥位テスト(PST)陰性,術前歩行可能,MRI画像で胸椎OPLL,黄色靭帯骨化症(ossification of the ligamentum flavum:OLF),T2脊髄内高輝度変化合併(同一レベル)なし,術中エコーでの脊髄除圧良好,術中出血量低値が有意な手術成績良好因子であったため1),これらの因子に留意し手術タイミングを計ることも重要である.

  • 文献概要を表示

 まずは,本書が2003年に発刊されてから約15年後の今日に,第4版の改訂版が出版されたことに敬意を表したい.それは,十数年にわたって読者から支持され続けたことと,脳神経外科の急速な進歩を伝えたいという編著者の熱意によるものである.

 以下,本書を読んで印象に残ったこと,気がついたことを箇条書きにして述べたい.

 〈第1〉は,症候・診断画像・手術などのイラスト・写真を含めた図・表が多いことである.これらは一目で内容を理解しやすく,読みやすくする基本である.

 〈第2〉は,各項目のタイトルが黒字一色ではく,赤字でも記載されていることである.単調にならず新鮮で印象づけやすい.

 〈第3〉はポイントとなる事項を「メモ」という形をとってまとめ,文章の背景全体がピンク色となっていることである.重要なことが要領よくまとめられていて理解しやすい.

 〈第4〉は,学会のガイドライン,診断と治療の手引き,診断基準などの最新情報が掲載されていることである.

 〈第5〉は,実際の症例の供覧がなされていることで,これは興味をもって臨床像を理解するうえで,きわめて効果的である.

--------------------

次号予告

ご案内

バックナンバー 特集一覧

学会・研究会 事務局一覧

会告案内一覧

編集後記

基本情報

09144412.31.1.jpg
脊椎脊髄ジャーナル
31巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

文献閲覧数ランキング(
10月11日~10月17日
)