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はじめに
平山病(若年性一側上肢筋萎縮症)は,10代半ばに発症し,一側上肢の筋萎縮・脱力を呈する特異な疾患であり,臨床症状は数年間進行した後に停止性となる4,5).男女比は9:1で圧倒的に男子に多く発症する.この理由は下記のようにおそらく10代前半の身長増加が男子で著しいことによる.病変部位は頸髄レベルにおける前角であるが,疾患名は「一側性」であるが,一部の重症例では両側性の前腕筋・手内筋を呈すること,筋電図などにより臨床的健側の病変が検出されることから,正確には「左右差のある両側脊髄前角病変」が存在する.
本症の発症機序としては,頸部前屈時に硬膜後壁が前方に移動することにより頸髄の圧迫をきたし,脊髄前角運動ニューロン障害がもたらされることが推定されている2,3,10).本症の病態を一言で端的に述べると,「身長が急速に伸びる10代において脊椎の発達が脊髄および硬膜の発達に先行する結果として,脊髄・硬膜が上下に牽引された状態になっている」と考えると理解しやすい.すなわち,牽引状態にある脊髄(特に頸髄下部)は頸部前屈の際に前方に移動することになる.生理的に頸部前屈時には第5頸椎と第6頸椎の部位で椎体の位置に「くの字」変化が起こるために,脊髄・硬膜は前方に押しつけられる.C5-6椎体間部は脊髄髄節ではC7付近に相当するが,C7髄節レベルでの圧迫によって,おそらく前脊髄動脈の血流が下行性であるためにC7とともにC8髄節における虚血が生じることが推定される.したがって,平山病はC7・C8髄節の脊髄前角ニューロンの障害による同領域の筋萎縮症候によって特徴づけられている.
図 1に平山病症例の頸部前屈時のMRI所見を示す.頸部正中位の下部頸髄T2強調画像では前角に高信号が認められ,おそらく前角ニューロンの脱落とグリオーシスを反映していると思われる.頸部前屈位をとると,脊髄は硬膜後壁とともに前方の椎体に押しつけられて扁平化すると同時に,硬膜後方に静脈叢のうっ滞による高信号域が認められる.これらの変化は矢状断像においても明確に捉えられる.脊髄の萎縮はC6椎体レベルで最も強く,C7-8髄節に相当すると思われる2,3,10).この病態によって,平山病における小手筋萎縮のパターンをうまく説明することができる.
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