脊椎脊髄ジャーナル 31巻2号 (2018年2月)

特集 脊椎脊髄疾患と間違えられそうになった症例・疾患

特集にあたって 園生 雅弘
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 本号では,「脊椎脊髄疾患と間違えられそうになった症例・疾患」というタイトルで特集を組ませていただいた.「〇〇疾患と脊椎脊髄疾患の鑑別」という特集はこれまでも多かったと思うが,今回はもう少し踏み込んで,他疾患が脊椎脊髄疾患と間違えられてフォローされていた,あるいは手術をされそうになった(されてしまった),他疾患が脊椎脊髄疾患として紹介されたなどの実例をまず提示してもらった.そのうえで,「どうして間違えられるのか,どうすれば防げるのか」という観点を念頭に置いて,当該疾患の総説を書いていただいた.

 選んだ疾患は,ミオパチー,手根管症候群,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP),腕神経叢障害,後根神経節炎(特にSjögren症候群に伴うもの),首下がり,筋萎縮性側索硬化症(ALS),大脳皮質基底核変性症(CBS),ヒステリー性麻痺である.これらはいずれも私がこれまでに脊椎脊髄疾患と間違われそうになったという経験を有している疾患である.それで知り合いの方々に,同様の経験はないかとお尋ねしたところ,それぞれ当該疾患でそのような経験があるとお返事をいただき,執筆をお願いしたものである.出来上がってきた原稿をざっと拝見したが,それぞれ力作であり,かつ込められているメッセージは驚くほど共通している.すなわち,「画像のみに頼るのではなく,神経症候をしっかり検討することが誤診を防ぐ第一歩」ということに尽きる.さらに,脊椎脊髄外科医と神経内科医の連携が重要というメッセージも何人かの方からいただいた.脊椎脊髄外科医にももちろん神経症候のexpertの方も多いが,神経症候学は神経内科の拠って立つゆえんであり,神経症候による診断には神経内科医が最終責任をもつべきと考えている.本特集は誤診をした外科医を糾弾するのが目的ではない.脊椎脊髄外科医と神経内科医が連携を組んで,脊椎脊髄疾患やその鑑別疾患を両科の目から見ることが適切な診療につながり,患者さんの利益となって国民医療に資するという想いである.実は神経内科医にも,末梢の神経筋疾患,脊髄疾患はあまり得意でないという人がかなりいることも残念ながら事実である.本特集は,そうであってはいけないと後ろを振り返ることも目的としている.

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はじめに

 ミオパチーとは筋障害を呈する疾患の総称で,臨床的特徴としては,筋力低下,筋萎縮,筋緊張低下,腱反射低下・消失,感覚障害を伴わない,血清筋逸脱酵素上昇,筋原性筋電図所見,筋原性筋生検所見が挙げられる.原因としては,筋の変性,炎症,内分泌異常などが多い.一般にミオパチーの症状は近位筋優位であるが,一部には遠位筋優位の筋力低下・筋萎縮を呈する疾患があり,頸椎症の合併があると,遠位型の頸椎症性筋萎縮症(cervical spondylotic amyotrophy:CSA)16)と鑑別を要する場合がある.ミオパチーもCSAも感覚障害やlong tract signを伴わず,上肢に弛緩性麻痺・筋萎縮を呈するからである.

 本稿では,前医で腰椎分離すべり症や頸椎後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)と診断されたミオパチー(症例A)と,頸椎症としては責任高位が一致せず,かつ末梢神経にも対応する異常がないため診断に苦慮したミオパチー(症例B)を提示する.両者は別個のミオパチーであるが,頸椎疾患との鑑別という意味で共通の問題点を有している.2例の症例提示の後,これらのミオパチーと遠位型CSAの鑑別について解説する.

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はじめに

 筆者は現在手の外科医として,日常的に上肢の手術,特に手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS),肘部管症候群(cubital tunnel syndrome:CuTS)の手術を数多く行っている.また,外来を受診した患者のしびれが頸椎由来と診断した場合は,頸椎手術も自分で行っていた時期があった.CTS,CuTSと頸椎疾患を合わせれば,整形外科で手術の適応になる上肢のしびれ,麻痺の大部分を占めると思われる.

 頸椎疾患とCTS,CuTSとの鑑別は,丁寧に臨床所見を診ることで判断可能と考えるが,紛らわしい例も存在する.筆者は臨床所見として特に徒手筋力テスト(Manual Muscle Testing:MMT)を最重要視し,神経伝導検査(nerve conduction study:NCS)を併せて行う9)ことで,障害部位診断と重症度判定を行ってきた.自験症例を提示して,その具体的方法について詳述する.

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はじめに

 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)は,四肢脱力や感覚異常を特徴とする後天性ニューロパチーであり1),国内における有病数は約5,000人と比較的まれな疾患である5).臨床的には四肢対称性・びまん性の運動障害と感覚異常をきたす典型例が過半数を占める.典型例は免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulins:IVIg)や副腎皮質ステロイド,血漿浄化療法といった免疫療法が有効なことから,早期診断と適切な治療を要する.一方,障害が上下肢遠位や多巣性に分布する非典型例も存在し,これらは治療抵抗性を示すとともに,臨床的類似性から脊椎・脊髄疾患との鑑別を要する.CIDP非典型例との鑑別には,病歴や神経症候,髄液,画像や電気生理学的所見を総合的に検証し,慎重に行う.本稿では,頸椎症性脊髄症と初期診断され,椎弓形成術を施行したものの神経症候の改善がみられなかった非典型例のCIDPを提示し,診断における問題点について本疾患のトピックスを含めて考察する.

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はじめに

 後根神経節炎(dorsal root ganglionitis)は,脊髄の後根神経節に存在する感覚神経細胞体が選択的に障害される病態であり,末梢神経障害の一亜型として感覚性ニューロノパチー(sensory neuronopathy)とも呼ばれる.その多くは傍腫瘍性神経症候群やSjögren(シェーグレン)症候群(Sjögren syndrome:SjS)など何らかの疾患を背景にもち,二次的に発症する.後根神経節炎は神経内科医にとっては少なからず経験する病態であるが,本誌では特集や総説もこれまでになく,本誌の読者に多い整形外科医や脳神経外科医にとってはあまり馴染みがないかもしれない.しかし,後根神経節炎は髄節性の感覚障害をきたし,また原因疾患のため発症年齢も中高年が主となることもあり,脊椎脊髄疾患との鑑別はきわめて重要である.

 本稿では,実際に頸椎症と間違えられた症例を提示し,後根神経節炎の診断のポイントと,最も重要な原因疾患の1つであるSjSを中心に解説する.

腕神経叢障害 野寺 裕之
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はじめに

 腕神経叢は神経根の延長として末梢側に位置する.脊椎脊髄専門医にとっては,脊髄と神経根は自分たちのフィールドであるが,ほんの一歩外れたところにある腕神経叢は末梢神経専門医にお任せ,という態度をとるべきではないのは,しばしば誤診の理由となることからも明らかであろう.腕神経叢障害の診断が一筋縄でいかない理由はいくつかある.①神経解剖の知識が不十分であること,②神経伝導検査などの電気診断が直接的にアプローチしにくいこと,③画像診断プロトコルが頸椎と比較して確立されていない施設が多いこと,などであろうか.本稿ではまず自験例を提示し,腕神経叢障害を見逃さないポイントにつき述べる.

首下がり症候群 逸見 祥司
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はじめに

 首下がりとは,頸部が異常に前屈して頭を挙上し続けることが困難な状態である4).その程度はさまざまであるが,座位・立位で前が見づらくなるばかりでなく,高度なものでは呼吸や嚥下がしづらくなり,日常生活に重大な支障をきたす.首下がりはさまざまな機序で生じ,首下がり症候群(dropped head syndrome:DHS)と呼称される(表1).DHSの原因は,①頸部伸展筋群の筋力低下によるものと,②頸部を前屈させる頸部屈筋群の緊張亢進によるものに大別される.筋力低下を伴わず,頸部屈筋群の緊張亢進によるものは,錐体外路疾患が関与しており,特にdisproportionate antecollisと呼称される11,13)

 脊椎疾患だけでDHSをきたすことは実際にはまれだが3),頸椎症が主な原因と間違われてフォローされている症例はしばしば経験される.本稿では,頸椎症が一次的な原因と間違われそうになったDHS症例を提示し,その診断のポイントを述べる.

筋萎縮性側索硬化症 福武 敏夫
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はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)の臨床診断は上位運動ニューロン(upper motor neuron:UMN)と下位運動ニューロン(lower motor neuron:LMN)の異常によってなされるが,それだけで十分とはいえず,電気生理学的検査や画像検査が発展してきた時代にあっても,絶対的検査法はなく,ALSの誤診はまれではない5).正確で時期を得たALSの診断は,適切な患者(家族)指導にとって重要である.

 ALSの鑑別診断は多種にわたるが,中でも脊椎疾患は多いという臨床実感がある.たとえばRowland(1998)は,主なものとして多巣性運動ニューロパチーと頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)を挙げ,次に良性線維束性収縮や傍腫瘍性症候群,リンパ球増殖性疾患,放射線障害,平山病,多系統萎縮症などを挙げている11).これに対して,アイルランドにおける5年間の統計では,ALSと最終診断された類似症候群は32例あり,その内訳は多巣性運動ニューロパチーが7例,Kennedy病(球脊髄性筋萎縮症)が4例,運動性ニューロパチーが3例などであり,CSMは1例だけであった15).この少なさについて,著者らは早期段階でMRIによる診断がなされたからではないかと推測している15)

 以上に挙げられた以外にも,臨床場面では多くはないがALSと鑑別を要するその他の疾患に遭遇する.重症筋無力症や遺伝性痙性対麻痺,糖尿病性ニューロパチーなどである.特に後者に頸椎症が合併すると,UMN症状とLMN症状が併存するので,鑑別に苦慮する.ALSが疑われたが,最終的に否定された症例については後述する.

 ALSと脊椎疾患との合併については,本邦から,ALS 63例中30例(48%)が頸椎症を,7例(13%)が腰椎症を合併しており,各4例(6.3%)が後縦靭帯骨化症(ossification of the longitudinal ligament:OPLL),黄色靭帯骨化症(ossification of the yellow ligament:OYL)をも合併していたという報告がなされた18).このうち,頸椎症5例(1.6%)と腰椎症1例で手術がなされたといい,これらの症例は術後の症状進行により神経内科に紹介されたという18).手術例すべてが誤診によるとはいえないが,頸椎症や腰椎症の合併がある例では,慎重な判断が要求される8,16,17)

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はじめに

 大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD)は,大脳皮質と皮質下神経核(特に黒質と淡蒼球)の神経細胞が脱落し,神経細胞およびグリア細胞に異常リン酸化タウが蓄積する4リピート・タウオパチーである.近年,CBDは原著に基づく疾患概念7)に合致する症例の背景病理が多彩であり,臨床診断基準の再考を要する状況となったため,混乱を避けるためにCBDという名称は病理診断名として使用され,代わって大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome:CBS)という名称が臨床診断名として使用されるようになってきている8)

 典型的な臨床像としては,①中年期以降に発症し緩徐に進行経過を認め,②大脳皮質徴候として肢節運動失行,観念運動失行,皮質性感覚障害,他人の手徴候,ミオクローヌスなどがみられ,③錐体外路徴候としてL-dopa不応性の無動や筋強剛,ジストニアが出現し,④これらの神経症候に著明な左右差がみられる.

 このように,症状としては左右差のある錐体外路徴候と大脳皮質徴候を主徴とするが,病初期にはボタンが掛けにくい,箸が使いづらい,字が書きにくいなどの一側上肢の動きのぎこちなさで発症し11),その後,非対称性の筋強剛や失行が進行する経過をとる例も多い.注意すべきは,このような上肢の動きのぎこちなさのみならず筋力低下も含めた運動障害を「しびれ」と表現する例もしばしばみられることである.また,CBSについては,感覚皮質の障害も起こるために,真の感覚障害としての「しびれ」を呈する場合もある.

 このように,CBSは片側上肢主体の運動障害・感覚障害を呈するので,頸椎症によるものとして間違えられる可能性がある.筆者らはこれまでにも,しびれを中心とした主訴で外来受診し,頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)疑いにて針筋電図検査の依頼となったが,検査前の診察にて明確なパーキンソニズムや失行を認め,CBSと診断した症例を経験している3,9).本稿ではその代表的な症例を提示し,正確な診断のための病歴聴取や臨床症候の注意点について概説する.

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はじめに

 ヒステリー性麻痺が脊椎脊髄疾患と間違われることは,実はかなり多い.特に交通外傷後症例には多いと推測される.日本で最初のヒステリーについての特集が,本誌「脊椎脊髄ジャーナル」で組まれたのもそれを象徴することと感じる(2006年19巻10号,特集「器質性疾患と心因性疾患との鑑別診断」).

 本稿では,脊椎脊髄疾患との鑑別が問題となったヒステリー症例を3例提示した後,ヒステリー性麻痺一般について論じる.

Nomade

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 今この原稿を書いている頃,巷では平昌オリンピックの選考会が毎日行われ,世間を賑わせています.昨日もフィギュアスケートの選考会があり,若い10歳代の選手が多くの代表候補になりました.この巻頭言が皆様のお手元に届く頃,この冬季オリンピック開催直前で,大会に向けて,大いに期待が盛り上がっていると思います.日本選手の活躍を心より祈りたいと思います.

 ところで,私の妻は羽生結弦選手の大のファンで,それが高じてファンクラブに入会したり,フィギュアスケートの大会観戦をしたりしています.今まで本人は,小学生の頃にスピードスケートしかする機会はなかったようですが,先日名古屋のスケートリンクで開催された初心者対象のフィギュアスケート教室に参加しました.私は専ら子どもたちのお子守でしたが,妻と娘は鈴木明子さんから直接指導を受けることができ,非常に感動していました.試合をテレビで観戦しては,トリプルアクセルだのルッツだの,私にはまったくわからないフィギュアスケートの技を,短期間で瞬時に判断できるようになり,その基礎点なども覚えていて家族を驚かせています.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-99

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病態

 脊髄ヘルニアとは,脊髄実質が硬膜欠損部を通じて突出・嵌頓し,進行性の脊髄症を呈する病態である.近年,MRIなど画像診断技術の向上に伴い,その報告例は増加している.発生原因として,①術後の偽性髄膜瘤に続発する術後性,②脊椎の骨折後などの外傷性,③炎症性,④特発性の4つが文献的には挙げられる2)が,①の術後性以外は,明確にその病因を分類することは困難である.その病態は,何らかの理由により欠損あるいは脆弱化した硬膜部分に脊髄が髄液圧で押しつけられる状態が継続し,その結果この欠損孔より脊髄の一部が突出・嵌頓すると,徐々に脊髄症状をきたすものと考えられ,中でも特発性脊髄ヘルニアの報告が最も多い.特発性脊髄ヘルニアは中高年の女性に多く,発生高位はTh2/3〜7/8と上位から中位胸椎に好発するとされる2).解剖学的な胸椎の後弯もまた脊髄ヘルニアの成因に関与していることを示唆している.すなわち,胸椎後弯により,脊髄が硬膜腹側に接しやすい環境にあることが,成因に寄与していると考えられる.

 当教室での16例の脊髄ヘルニアの手術症例では,男性7例/女性9例と女性がやや多く,手術時平均年齢は54歳(39〜78歳)であった.症状はヘルニアに伴う脊髄障害部位以下のいわゆるBrown-Séquard型の麻痺が多い.通常は下肢のしびれが初発症状であり,次第にしびれの悪化や知覚障害が出現し,さらに知覚障害が体幹部へ上行し,やがて下肢の運動麻痺,歩行障害,膀胱直腸障害などの脊髄症状が出現する.症状の進行が緩徐であること,また胸髄症であることなどから,症状出現から診断に至るまでの期間が長いことも注意を要する1)

 相澤らは,文献的考察も含めて脊髄ヘルニアの脱出タイプを①直接脱出型(脊髄が直接硬膜外腔に脱出するもの),②二重硬膜型(脊髄が二重硬膜の内層と外層の間に脱出するもの),③硬膜外囊胞型(脊髄脱出が硬膜外くも膜囊胞の中に脱出するもの)に分類した(図1).

 自験例16例は全例で二重硬膜を有していたが,一部には硬膜欠損部も同時に存在する症例が認められた.解剖学的な硬膜の異常や,欠損様式に従って上記の3タイプ,あるいはこれらの3タイプが組み合わさった脱出様式も存在すると推察される.

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
31巻2号 (2018年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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