臨床整形外科 35巻13号 (2000年12月)

シンポジウム 21世記の整形外科移植医療~その基礎から臨床応用に向けて

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 骨欠損を修復・再建する方法として同種骨移植術がある.臓器移植法の運用指針により同種骨移植が法的に認められるに至った.われわれは施設内骨銀行を運営してきたので,その方法と理論を紹介する.移植骨には支持機能と生物学的機能の両方が求められ,この二つの機能が密接に関連している.同種骨移植は保存骨として使用されるため,合併症としてドナーからの病原菌をレシピエントに移したり,同種骨の操作過程において同種骨が汚染して移植後感染したりすることがあるため注意することが必要である.ドナー本人やその家族から既往歴聴取を行い,さらに血液検査でのスクリーニングが大切である.冷凍保存骨の滅菌処理として,デブリドマン,洗浄,抗生剤入り生理食塩水に浸透などのほかに,加温滅菌処理,化学処理による滅菌(エチレンオキサイドガス,エタノール),放射線滅菌がある.同種骨は皮質骨,海綿骨の特性をよく理解し移植されるべきである.

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 骨髄には間葉系幹細胞が含まれ,この幹細胞は骨芽細胞や軟骨細胞へ分化する.われわれはこの骨芽細胞への細胞分化を引き起こすために,幹細胞と多孔体のセラミックとの複合体を作製している.この複合体は生体内外で骨芽細胞への細胞分化のみならず骨基質をも産生し,まさに新生骨形成能を有する複合体である.興味深いことであるが,かなりの高齢者のヒト骨髄細胞を用いてもこの幹細胞は増殖可能であり,また骨形成能も有する.本稿ではこれまでの幹細胞/セラミック複合体ついての研究を概説し,その臨床応用の可能性について論じる.

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 骨形成因子(Bone morphogenetic protein:BMP)を用いることにより,これまで同種骨移植や自家骨移植が必要であった大きな骨欠損を骨移植せずに修復することが可能になり.この方法は日本でもすでに臨床治療試験の段階に入った.しかし,このBMPによる局所的骨形成促進効果を得るためには,局所に効率よくBMPを作用させるための優れた担体との複合によるDrug Delivery System(DDS)が必要である.国際的にBMPの担体としては,家畜由来のⅠ型コラーゲンが使われている.しかし,BMPの臨床利用にあたってはそのBMP含有インプラント材に種々の物理的特性(力学的強度,液性など)が望まれると思われる.われわれは,BMPのDDSに適した種々の物理的特性を有する生体分解性ポリマーを開発し,動物実験においてその有効性を示した.この生体分解性ポリマーは,BMPのDDSとしてこれまで最適であると考えられてきたⅠ型コラーゲンに匹敵するものであった.これらのポリマーとBMPの複合体をさらに他の生体材料(金属,セラミックなど)と複合したり,注射が可能なポリマーを用いて低侵襲でBMPを作用させればBMPの用途はますます広がり,新しい整形外科治療法の開発に貢献することが期待できる.

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 細胞移植による組織再生において,増殖能と分化能を維持している幹細胞が注目されている.われわれは間葉系幹細胞に近い細胞と考えられている骨髄間葉系細胞を,軟骨欠損修復に利用することを試みた.まず,家兎の実験系で,自己骨髄間葉系細胞移植により関節軟骨欠損修復が促進されることを報告した.この方法をヒトに応用した.2例の膝蓋骨軟骨欠損.および11例の高位𦙾骨骨切り術を受ける変形性膝関節症患者に対し,自己骨髄間葉系細胞移植を行った.移植後数週の早期から欠損部は軟部組織で埋められ,数カ月後には軟骨様組織で修復されていた.これは,これまでの変形性膝関節症における軟骨欠損の修復の報告よりも早い修復であるうえに,組織学的にも優れたものであった.ヒトにおいて自己骨髄間葉系細胞を軟骨欠損部に移植することにより,膝蓋骨の軟骨欠損,および変形性膝関節症の関節軟骨欠損の修復が促進されることが明らかになった.

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 関節軟骨損傷に対する修復術として様々な方法が報告されているが,いまだ確立したものはない.われわれは多くの基礎的実験ならびにTissue engineering手法の応用として,コラーゲンゲル包埋培養自家関節軟骨細胞移植術を開発し,1996年から臨床応用を行ってきた.その結果,短期成績ではあるものの,全例で術前の臨床症状は改善をみた.また,関節鏡視上,損傷部は比較的平滑な硝子軟骨様組織で修復され,周囲の健常軟骨と同等の硬度を得た.感染や移植片に基づく関節炎などの合併症はなかった.本術式は,関節軟骨欠損部に対する有効な修復法の1つである.しかし,長期的観察に基づく評価が必要であり,また.今後いくつかの解明すべき点について,さらに改良を加えることで,本術式が関節軟骨損傷の修復法として確立することを期待する.

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 モザイクプラスティは,膝関節のあまり荷重のかからない部位から採取した複数の小さな円柱状の骨軟骨片で荷重部位の関節軟骨欠損を修復可能にする方法である.移植部位は,軟骨下骨からの出血が見られるまで十分に掻爬し,ここに複数の自家骨軟骨プラグをプレスフィットに移植,固定する.この結果,軟骨欠損部位は移植された硝子軟骨とその間隙からの再生した線維性軟骨との複合体により修復される.

 本法の適応は,膝関節の離断性骨軟骨炎,膝蓋骨軟骨骨折,膝蓋軟骨軟化症.靱帯や半月損傷に伴う軟骨欠損,初期関節症(骨切り術を併用),骨壊死,外傷に続発した軟骨損傷などをはじめ,肘や足関節の離断性骨軟骨炎である.修復可能な軟骨欠損の大きさは,通常は1cm2以上で4cm2以下である.最小侵襲に行え.リハビリテーションも比較的早く可能であるが,採取可能なドナーの数に限界がある.

末梢神経移植の最前線から 仲尾 保志
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 現在の末梢神経外科の臨床では,広範に損傷された神経の再建には,重要性の低い知覚神経を患者自身から採取して移植する自家神経移植が行われている.しかしながら,この方法は,患者の健常部にドナーを求め,正常な神経を採取する手術であったことから,これに代わる神経誘導ガイドの開発が神経研究の重要な課題の1つとされてきた.近年,様々な人工素材による人工神経が試作され,神経栄養因子を利用した研究もなされており,比較的短い神経欠損の再建への応用が期待されている.また,長い神経欠損の再建については,同種神経移植の研究が進められており、短期の免疫抑制法や免疫寛容を誘導する方法,ドナー神経の免疫原性を低下させる方法などが模索されている.欧米では,人工神経移植や同種神経移植は,いずれも試験的な臨床応用の段階にあり,それにあわせてシュワン細胞のvia―bilityを維持しながら神経組織を長期間冷凍保存する研究も進められている.

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 成人の中枢神経系では神経細胞は決して補充されず,一度損傷されてしまえば機能的な再生は望めないと,つい最近まで教科書的には考えられてきた.しかし,神経幹細胞の選択的培養法が確立され成人の中枢神経系にも神経幹細胞が存在することが,さらには成人においても脳内の特定の部位では神経細胞の新生が起きていることが明らかとなってきた.そこで,傷害された神経組織を神経幹細胞を利用して再生しようとする試みが近年盛んに行われてきている.脊髄損傷に対しても,このような試みは行われており,マウスのES細胞を利用したラット脊髄損傷モデルへの移植実験で,神経幹細胞移植により運動機能が改善したとの報告が出されている.神経幹細胞の移植を考える場合,移植細胞のみならず移植部位の微小環境についても十分に考慮すべきである.また,より良い機能改善を目指すために機能改善のメカニズムについても今後詳細に検討する必要がある.

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 インフォームド・コンセントという語が人口に膾炙して久しい.日本語では「説明と同意」と訳され,その意味するところは「医療の主体者である患者が公正な判断ができるように情報公開すること」あるいは「患者と医療の不確実性を分かち合い,患者が最善の選択ができるように情報公開すること」とされる.最近では,インフォームド・ディシジョン(informed decision),あるいはインフォームド・チョイス(informed choice)と言われることが多いとも聞く.

 このインフォームド・コンセントなる語が導入される以前から,これに類すること(説明)は当然行われていた.ただ,この説明は経験則に基づくところが大きく,Evidence-based Medicine (EBM)の面からは不充分であったことは否めない.しかし,いざEBMに基づいた説明をしようとしても,我が国では残念ながら充分な科学的データの蓄積がなく,勢い従来通りの説明に少々色をつけた程度で済ませているのが現状であろう.

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 抄録:本研究の目的は,膝後十字靱帯(以下PCL)の単独損傷において関節症性変化の進行に関わると考えられる,軟骨損傷の部位,程度について関節鏡学的に検討し,その発生メカニズムについて考察することである.

 PCL単独損傷症例30例を,受傷後4週間未満で関節鏡を行った急性例12例と4週間以上で関節鏡を行った慢性例18例に分けて検討した.鏡視上,90%に何らかの軟骨損傷が,50%に重篤な損傷が認められ,重篤な損傷は大腿骨内側顆で多かった.急性例では内側コンパートメントで,慢性例では内側コンパートメントと膝蓋大腿関節面で損傷発生頻度が高くなっていた.急性期は,dash board injuryにより𦙾骨大腿関節面におこる剪断力のため,慢性期は,𦙾骨後方落ち込みによる膝蓋大腿関節面の持続的な圧上昇と,亜脱と整復の反復による𦙾骨大腿関節面の剪断力の加算により軟骨損傷が発生すると考えられる.PCL再建術の施行により正常な後方安定性が獲得できるならば,慢性期に発生する軟骨損傷を予防できる可能性があると考えられる.

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 抄録:人工股関節置換術の目的は疼痛の軽減と可動域の獲得であるが,術後の屈曲が不十分な症例も多数みられる.われわれは,初回人工股関節置換術を行った69例72関節の屈曲角度の変化を調べ,術後の屈曲角度に影響を与える因子について検討を行った.インプラントの設置角度より理論的な屈曲角度を求め,実際の屈曲角度と比較したが,インプラントが問題となるような症例はほとんどなかった.また,術前の屈曲角度が小さい症例では術後の屈曲角度も小さくなっており,術後の屈曲制限の原因はインプラントの問題ではなく,軟部組織の問題が大きいと考えられた.また,退院時に反対側の屈曲角度が手術側より小さい症例では,退院後,手術側の屈曲角度が次第に小さくなっており,日常生活で股関節を十分に屈曲する機会がないために屈曲角度が小さくなったと考えられた.術後の屈曲角度の改善のためには術前リハビリテーション,術中の軟部剥離,術後リハビリテーションなどが重要であると考えられた.

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 抄録:Blount病7例9肢(infantile type:4例6肢,adolescent type:3例3肢)に対し,Orthofix創外固定器を用いて𦙾骨の矯正骨切りと骨延長を行った.骨切りは矯正角度が20°以下の場合はwedge,20°を越える場合にはdomeとし,mechanical axisが膝関節中央より外側を通過するように過矯正した.骨延長は,片側例では脚長差+10mm,両側例では𦙾骨が大腿骨長の90%になるように行った.手術時年齢はinfantile typeが平均4歳10カ月,adolescent typeが平均11歳6カ月であった.術後観察期間平均5年(3~9年)の最終調査時に内反膝の再発は1例もみられず,また,infantile typeに認めた𦙾骨近位内側骨幹端部のX線学的変化はほぼ正常化していた.しかし,調査時の片側例の脚長差は平均12mmであった.本法で再発を生じなかった理由として,矯正角度の術中誤差が少ないこと,骨延長による利点,外反過矯正にしたこと等が考えられた.

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 抄録:鏡視下手術は,侵襲が小さい,小さな手術創で明るく拡大された術野が得られる,術後疼痛が少ないなど様々な利点がある優れた手術である.われわれは,鏡視下手術の立体感がないという欠点を克服するために3D内視鏡を導入した.3次元内視鏡は,実験では通常の内視鏡と比較して優位に掴む時間も短く,操作は正確であった.実際の手術では完全な立体視は不可能であるが,鏡視下にも前後関係が明らかであり,手術操作が容易であった,また,鏡視下手術では長時間安定した視野を得ることが重要であり,内視鏡を把持し,操作するロボット(AESOP2000)を導入した.このシステムは,フットスイッチもしくは手元のスイッチを使用して.自在に内視鏡の方向を変えることが可能であり,記録した位置に視野を戻すこともできる.さらに.術者の音声指示による操作も可能である.一定の位置で内視鏡を保持し,かつ自由に操作可能な内視鏡把持ロボットは有用であった.しかし,いずれのシステムも完成度は不十分であり,まだまだ改良の余地は残されている.

整形外科philosophy

整形外科学教室のあり方 玉井 進
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●なぜ私に認定医試験委員長を?

 私が日本整形外科学会の理事を務めていた平成5年4月~平成9年6月までの4年間,理事長のご指名で認定医試験委員長という大役を仰せつかった.私ごとき大和の片田舎の医科大学教授にとっては青天の霹靂ともいうべき大役で,果たして私に務まるかどうか全く自信がなかった.委員会の先生方のご指導とご協力によって何とか無事にその役職を全うすることができたのは幸いであった.認定医試験委員長は整形外科全般についての広い識見を有することが不可欠の条件である.平成5年度の理事長であった山内裕雄先生が,どうして手の外科・マイクロサージャリー専門の私にこの大役を仰せつけられたかを考え直してみると,私の教室は脊椎,肩関節,手・マイクロサージャリー,股関節,膝関節,足,リウマチ,腫瘍,骨再生,形成外科(いまだ独立していないが)の10研究グループを擁しており,いかなる疾患や外傷にも対処でき,それぞれの学会や研究会にも積極的に参加できる体制をとっているからではないかと思う.臨床カンファレンスで見聞きする専門外の症例についても,広く勉強できたことは試験委員長の私に大きな自信を与えてくれた.

 教室の初代教授である故恩地 裕先生時代は教室員の数も少なく,関連病院の拡大に大変な犠牲を払っておられた時期でもあったので,ご自身の専門であった股関節,脊椎グループのほかに,新しく切断肢再接着術を目標とする実験外科グループ(これが後にマイクロサージャリーと手の外科に発展することになった)が加えられたに過ぎなかった.

境界領域/知っておきたい

体外衝撃波 池田 和夫
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【はじめに】

 体外衝撃波(Extracorporeal Shock Wave:ESW)を応用した腎結石破砕法は,泌尿器科領域で広く普及し,世間一般でも「切らなくても治せる」ことが常識として通用している.しかし,整形外科領域においては「体外衝撃波(ESW)」という言葉に,まだなじみが薄い.しかし,1990年代に入ってから,ヨーロッパを中心に体外衝撃波は,整形外科的治療に応用されてきている.例えば,人工股関節再置換術時に,セメントを除去する一助として用いられたり,偽関節の治療に応用されたりしてきた6,8).日本でも,2000(平成12)年の第26回日本骨折治療学会(東京)において,シンポジウム「骨形成に関する最近の進歩」の中で,体外衝撃波による骨形成誘導が取り上げられるようになった.

 われわれは1992年から,体外衝撃波の骨新生誘導について研究を行ってきており1~3),体外衝撃波の整形外科領域への応用について紹介する.

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症例:71歳,女性

 主訴:右膝関節痛

 既往歴:5年前から高血圧で服薬している.アルコール摂取はしていない.

 現病歴:2年前から左の変形性膝関節症で近くのかかりつけの開業医に通院中であった.7カ月前から,誘因なく右の膝関節痛が出現した.疼痛は,歩行や階段昇降時のほか,夜間や安静時にもみられた.1カ月後に,同医院で臥位での右膝関節単純X線撮影を受けた(図1).その後,ヒアルロン酸製剤の関節内注入や消炎鎮痛剤の投与などの保存療法を受けたが,疼痛は軽減しなかった.6カ月後に,再度X線撮影を受け(図2),当科に紹介された.

国際学会印象記

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初の世界的規模となる国際spineコングレス

 World Spine 1の日本語訳は第1回世界脊椎外科学会となるのだろうか.しかし,これは整形外科医の立場からの日本語訳かもしれない.何故ならば,この学会の会長Mario Brock教授はBenjamin Franklin大学病院の脳神経外科医であるからだ.1年前の10月にダイレクトメールで最初の学会についてのパンフレットが送られてきた.ベルリンにおいて,各分野の学問の垣根を越えた,世界的規模となる初のspineのコングレスをやるから参加しないかと謳ってある.場所は未だ行ったことのないベルリンであり,開催期間2000年8月27日~9月1日というのも当方のスケジュールにあっていたので応募することにした.

 パンフレット以後の事務的な手続きやレジストレイション,抄録の送付はインターネットをフルに活用した情報交換であり,今までの国際学会には見られなかった新鮮さがあった.特にプログラムの予告は未完成のまま随時発表されて,演者名もアルファベット順にリストアップされているのには驚いた.応募者は全てアクセプトするので,どれほど余裕のある会場と時間を用意した学会なのであろうかと思いつつ旅立った.

整形外科英語ア・ラ・カルト・94

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●sternum (スターナム)

 これは勿論胸骨のことであるが,一般大衆は通常,“breast bone”(ブレスト・ボゥン)という.この骨は3部から成立し,まず“manubrium”(マヌブレアム―柄)の部分,本体“body”部分,そして一番下の“xyphoid process”(ザイフォイド・プロセス―剣状突起)である.これは,最初の鎖骨・胸骨の関節部の直ぐ下の第1肋骨から第7肋骨までの肋軟骨と接触している.

 “manubrium”と“body”の部分の角度を,よく“the angle of Louis”(アングル・オブ・ルイ)という.Louisはフランスの医師で,この“Louis”を“ルイ”と発音する.フル・ネームを,“Pierre Charles AlexandreLouis”(1787-1872)といい,医学統計学に非常に貢献した人物だそうである.

ついである記・52

Chester 山室 隆夫
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英国で最も古い町の1つ

 ローマのジュリアス・シーザーの軍隊は紀元前55年に現在の英国の大ブリテン島(ローマ人はこの島をBritaniaと呼んだ)へ侵入してこの島を制圧し,440年にローマ帝国が衰退してこの島を放棄するまでの約500年間に亘って支配を続けたといわれる.そのローマ軍団の一大拠点であったのが,北ウェールズと中部イングランドの境界部に位置する古い町チェスター(Chester)である.ローマ軍団の使っていたラテン語で野営地を意味する“castra”という言葉が訛ってChesterになったのだと言われている.初めは野営地であったのだろうが,後にはローマ軍団が500年もの永きに亘ってBritaniaを支配するための拠点の1つとなったわけだから,Chesterは堅固な城壁に囲まれ,ローマ式の円形劇場や浴場を備えた立派な町に発展したものと思われる.今も高い城壁が旧市街を完全に取り囲み,その中にローマ時代の劇場跡や浴場跡が発掘によって発見されている.

 英国の地名の中にはWinchester,Manchester,Colchesterなど,語尾が―chesterで終わる名を持った町が幾つかあるが,これらはいずれもローマ軍団の野営地として開けた町である.Winchesterは英国の南東部に位置する古都で,9世紀になって初めてイングランドを統一したアルフレッド大王(Alfred the Great)が拠点とした町である.

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 抄録:化膿性仙腸関節炎は,比較的稀な疾患である.今回われわれは,2症例を経験したので報告する.症例1は14歳女児.主訴は腰臀部痛・歩行困難であり,理学所見・CT・MRI・骨シンチにて診断した.安静,抗生剤投与施行するも軽快せず,切開,排膿,ドレナージ術を要した.40日間抗生剤投与し.術後1年6カ月の現在,症状の再発を認めていない.症例2は20歳女性.主訴は帝王切開後の腰臀部痛・歩行困難であり,理学所見・MRI・骨シンチにて診断した.安静.抗生剤投与施行し軽快した.80日間抗生剤投与し,退院3カ月後の現在,症状の再発を認めていない.化膿性仙腸関節炎は激痛のため充分な診察ができず,しばしば診断に難渋するため.このことを念頭におくことが必要である.診断にはMRI・骨シンチが有用であった.治療は保存療法が原則であるが,膿瘍形成例や保存療法無効例は観血的治療が必要と思われる.

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 抄録:今回われわれは,診断に難渋したネコ引っ掻き病の1例を経験したので報告する.症例は11歳女児で,右肘関節内上顆近位部に大きさ4.5×2cm,弾性硬の疼痛を伴う腫瘤がみられた.MRI所見で腫瘤が2個認められ,軟部悪性腫瘍を疑い入院した.しかし,入院時すでに腫瘤は縮小し,発症2カ月後には腫瘤は触知できなかったため,再度病歴を聴取した.猫の受傷歴の既往があり,右第3指の指尖部に創瘢痕を認めた.また,Bartonella henselaeに対するIgG抗体価が1,024倍以上と上昇していたことより,cat scratch diseaseと確定診断した.本症の診断には,猫との受傷歴や接触歴の有無が重要であり,Bartonella henselaeに対する抗体価の上昇により確定診断される.

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 抄録:Pelvic insufficiency fractureにより高度の骨盤輪不安定症を呈した1例を経験したので報告する.症例は68歳女性で,明らかな外傷はなく左鼠径部痛が出現した.単純X線像にて左恥骨骨折を認め,pelvic insufficiency fractureと診断し安静加療を行った.4カ月後、恥骨部の骨融解に加え左仙骨翼の骨折を生じ,歩行時並びに体動時の骨盤部での不安定感が出現した.ストレス撮影の結果、骨盤輪の矢状面並びに水平面での不安定性を認め,高度の骨盤輪の破綻による多方向性の骨盤輪不安定症と考えられた.骨盤装具を用いて骨盤部の固定を行い,現在発病後1年であるが疼痛は軽減し歩行可能な状態である.

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基本情報

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臨床整形外科
35巻13号 (2000年12月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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