胃と腸 36巻3号 (2001年2月)

特集 消化管癌の深達度診断

序説

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消化管癌の深達度診断をめぐる潮流

 消化管癌の深達度診断は,われわれにとって永遠の課題である.新しい検査法が開発されるたびに,その深達度診断の指標を求めなければならないし,従来の手段と比較してどこが優れているのか,どのように活用すべきかを検証しなければならない.「胃と腸」が創刊されて35年を経た今,過去に取り上げられた癌診断,特に深達度診断に関する主題を見ると,先人たちがいかに苦労してきたかがうかがえる.そして21世紀を迎えた今でも,この命題は新鮮な課題である.本号で再び深達度診断を取り上げるにあたって,いっそうその思いが強くなる.

 20世紀におけるこの方面での歴史を顧みる企画は,本誌第35巻13号において展開されたばかりである.したがってここで再びそれを論じるつもりはないが,それにしても「胃と腸」が創刊されたころ,内視鏡検査はまだ胃カメラが主流であった時代であり,X線診断が唯一頼れる診断法であった.先人たちはX線フイルムを舐めるように観て,ひだの一本一本の状態,陥凹の形状,壁の変形を看破して診断学を確立してきた.このころの胃カメラ診断と言えば,制限されたコマ中に胃内腔がうまく撮影されているように願いながら検査を行い,後日,現像されたフイルムが擦り切れるほど熱中して読影した時代であった.いかにX線に近づくことができるか,それが内視鏡の課題であった.今であれば“超音波内視鏡を行えば一発で…”と言いたいところであるが,現在の若い消化器病医には想像も及ばない蝸牛の歩みを当時は繰り返していた.その徒労とも言える努力の蓄積が,今日の消化管癌診断理論を完成させたのであった.

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要旨 癌の治療におけるオーダーメイド化,すなわち個々の症例に見合った過不足のない治療法の選択が求められている今日において,食道・胃・大腸癌の進展状況を反映するパラメーターとして深達度診断は一段と重要性を増している.二重造影を主体としたX線検査および内視鏡による深達度診断はわが国で理論化され,世界をリードしてきた.また,超音波内視鏡の導入に伴い診断精度もいっそうの向上を遂げている.一方,食道癌,胃癌,大腸癌は連続する臓器を母地として発生するにもかかわらず,それぞれ特徴があり生物学的な性格は必ずしも同一ではない.それぞれの診断法の違いを踏まえつつ,術前深達度診断に基づいた治療法選択の意義を考察した.

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要旨 消化管(食道,胃,大腸)の癌の深達度診断について総論的な事項を記載した.深達度とは,癌浸潤の最深部の1点を表現するものであり,浸潤パターンは癌の量的な拡がりを表現するものである.深達度の亜分類は,むしろ,浸潤パターンの亜分類と言うべきものである.それぞれの臓器において,癌の深達度と浸潤パターンには特徴があり,それらは治療法の選択と密接な関係がある.そして,現時点での深達度診断の意義は,内視鏡的粘膜切除(EMR)の適応を決定するための重要な情報を得ることに存在することを強調した.

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要旨 消化管(食道,胃,大腸)の深達度診断の違いを検討するために,各臓器の構造の違い,癌の組織型の違い,肉眼像の違いを検討した.構造の違い:食道は,上皮が重層扁平上皮で,脈管に富む粘膜固有層の幅が広い.胃は,腺上皮で部位によって異なる上皮を有し加齢とともに変化し,粘膜固有層が狭い.大腸は,単一管状腺管から成る上皮で,粘膜固有層が狭い.癌の組織型と深達度:食道は,扁平上皮癌で,肉眼的に隆起性が多く,深達度が高さによって推定できる.胃は,腺癌で,高分化から低分化までみられ,消化性潰瘍がある点で,他の臓器とは異なった深達度診断が必要である.大腸は,高分化腺癌で,隆起性の場合は腺腫を合併するために深達度診断が困難であるが,表面型の場合は,消化性潰瘍がない点を除いては,胃の分化型とほぼ同様の考えで,形態とpit patternを併用することによって深達度診断が比較的容易である.

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要旨 消化管浸潤癌の生検標本から深達度診断が可能かどうかについて検討した.浸潤癌と診断された症例は,食道癌21病変中8病変(38%),胃癌120病変中40病変(33%),大腸癌34病変中16病変(47%)と低率であった.しかし,深達度別にはsm以深の食道癌,大腸進行癌は浸潤癌と生検診断される割合が比較的高い結果であった.肉眼型は,食道癌では表在平担型,胃癌では表面型と3型,大腸癌では隆起型病変で浸潤癌と診断されにくい傾向であった.また,いずれの臓器も生検標本では浸潤癌であることが診断できても深達度を推定することは困難であった.しかし,食道癌ではm癌とsm以深の癌の区別,また,大腸癌ではsm癌と進行癌のおおよその区別は可能であると思われた.浸潤癌と生検診断されなかった症例の検討から,詳細な肉眼観察に基づいた診断,最深部からの正確かつ十分な量の標本採取が必要であると考えられた.

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要旨 消化管壁の組織像と超音波内視鏡像との対比は,癌の深達度診断に不可欠であり,超音波内視鏡が開発された当初から繰り返し検討されてきた.1984年に相部により消化管壁の5層構造が初めて報告され,消化管内腔より第1層と第2層が粘膜層,第3層が粘膜下層,第4層が固有筋層,第5層が漿膜下層および漿膜であるとした.この5層構造は現在も基本的な所見として広く用いられている.その後,高周波数の機器が開発され,解像度が極めて良好になったため相次いで新たな層構造の解釈や粘膜筋板の描出について報告された.それにより壁は9層,11層,13層などに観察されるとされる.これらの検討により深達度診断の精度が向上すると考えられる.

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要旨 二重造影像を用いて,食道表在癌の治療法の決定に対応しうる亜分類レベルの深達度診断法を検討した.正面像では,隆起型病変は隆起の高さが2mmを超えているか否か,隆起の立ちヒがり方,隆起周囲の随伴病変の有無が特に重要であり,陥凹性病変は陥凹部の陰影斑の濃さ,陥凹内の粘膜不整の程度,陥凹内隆起成分の数と大きさが有力な診断指標となりえた.側面像では,隆起型も陥凹型もともに,無変形型,単純直線型,不整直線型,平皿状陥凹型,楔状陥凹型,台形状陥凹型,椀状陥凹型の7型に分類された変形パターンが深達度をよく反映した.X線診断は正面像の各所見と側面変形の各パターンを適宜組み合わせて進めることが重要であり,それによって治療法の決定に対応しうる精細な深達度診断法が可能になることを述べた.

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要旨 食道扁平上皮癌のリンパ節転移頻度は癌の壁深達度と相関し,癌浸潤が粘膜固有層(m2)にとどまる限りリンパ節転移は極めてまれで,治療計画にリンパ節転移を考慮しないでよい.浸潤が粘膜筋板(m3)を越え粘膜下層(sm)に浸潤するとリンパ節転移を生じ,治療計画にこれを考慮しなくてはならない.m2までの症例には内視鏡的粘膜切除術が,またm3以上の症例には原則的に根治手術が適応になる.深達度診断の重要性はここにある.深達度診断は病型の判断が基礎になる.0-Ⅰ型の92%,0-Ⅲ型病変の96%は粘膜下層に中程度以上浸潤している.0-Ⅱb型の場合は圧倒的に上皮内(m1)癌が多く,一部にm2がある.0-Ⅱa型と0-Ⅱc型病変の場合は深達度診断を行う必要性がある.0-Ⅱa型の場合は隆起の程度,顆粒の大きさが深達度を推定する手がかりとなる.隆起が低く,細顆粒はm1,顆粒はm2,粗大顆粒はm3以上を示唆する.m3・sm1では食道壁の伸展に伴う変形がある.0-Ⅱc型では陥凹の程度,表面の顆粒,陥凹の中の隆起や一段深い陥凹,辺縁の隆起成分に注目し,これと二重染色所見を組み合わせて判断する.m3やsm1癌の場合は深達度だけでなく脈管侵襲やリンパ節転移を起こしやすいものを鑑別する必要がある.深達度診断の正診率は,m2までの病変で93%,m3・sm1で60%,sm2・sm3で71%,表在癌全体で81%である.

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要旨 食道表在癌の深達度診断では細径プローブによる内視鏡超音波検査(EUS)が最も客観的な情報を提供するが,良好な画像を得る必要があり,症例ごとに工夫を要す.手技として単純な食道内貯水法が簡便であるものの,食道蠕動を生じさせない工夫が必要である.ソフトバルーン法は理論を知ることによりどの部位でも容易に施行でき,食道壁層構造の変化に的を絞って検査すれば有用性が高い.上皮下リンパ組織の増生や微小浸潤の判定などは困難で,EUS像各層と各組織との対応にもなお議論がある.しかし,まず固有筋層,粘膜下層を同定し,粘膜下層上縁の層が粘膜筋板の情報を表すと考えれば食道表在癌の深達度診断は比較的容易であり,実際的でもある.

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要旨 食道癌診療の成績向上には,的確な深達度診断とリンパ節診断による治療方針の選択が不可欠で,CTおよびMRIが主として担う“他臓器浸潤診断”は外科切除の適応決定とneo adjuvant療法の選択のために重要である.臓器と腫瘍との相互形態によるdynamic CTおよびMRIの判定成績では,大動脈浸潤の診断は良好であったが,気管支,肺,肺静脈への浸潤診断は困難であった.しかし,近年開発されたヘリカルCTと画像解析技術による3D-volume rendering dynamic CTでは,CTの弱点であった濃度分解能を飛躍的に改善し,介在脂肪層および結合組織層の強調により従来の問題点を解決しつつある.

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要旨 X線診断の立場から胃癌の深達度診断指標について述べた.まとめると以下のごとくである.(1)X線的な深達度診断にあたっては,その指標となる所見をsm浸潤と因果関係にある所見と相関関係にある所見とに分けて行う必要がある.(2)肉眼ならびにX線所見は,m浸潤部とsm浸潤部の平面的な大きさの関係ならびに空間的な重なりの位置関係によって差が認められる.(3)癌のsm浸潤によって生じる胃壁の肥厚・硬化所見を捉え,その所見の大きさから最深部胃壁層を推定する必要がある.(4)X線的な深達度診断では,癌組織型の違いによる発育進展形式の差などの臨床病理学的な事象を考慮して行うべきである.

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要旨 胃癌の内視鏡的な深達度診断の精度は著しく向上したが,いまだ十分とは言い難い.胃癌の内視鏡深達度診断について概説した.隆起型では一般的に進行癌は少ないが,壁の硬化像や粘膜下膨隆像,表面のびらん像などがsm以深の癌を疑う根拠となる.陥凹型早期胃癌の基本形はⅡcであり,潰瘍性変化を伴う場合と,伴わない場合の二者に分けて考える.深達度指標として,①陥凹面の色調,②ひだの所見,③壁の厚み・硬化像,④陥凹面の構造,⑤辺縁の隆起・膨隆像,⑥病変の大きさ,が挙げられる.現時点での筆者らのprospectiveな診断精度について評価を加えたところ,sm癌を正しくsm癌と診断できたものは66%にすぎず,特に不良であった.直感的な診断のみに頼らず,診断可能な指標を正しく再確認しながら着実に診断を進める態度が不可欠である.

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要旨 治療方針決定のための深達度診断におけるEUSの役割を内視鏡診断と比較検討した.その結果,EUSはUl(+)病巣において,Ulの深さの診断に有用であったが,肉眼型別,部位別検討では内視鏡と大差なかった.一方,内視鏡診断不一致でEUS正診の症例が20病巣(5.9%)存在し,真のEUS有用例と考えられた.これらの病巣を検討した結果,EUSは内視鏡でSM2~MPと診断された病巣において,早期胃癌では陥凹型で内視鏡による深読みを,進行胃癌ではⅡC様進行胃癌で内視鏡による浅読みを補正するのに有用であった.

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要旨 大腸癌の深達度診断の要素には,①茎の有無,②大きさ,③中心陥凹の有無と形状,④病変の起始部の形状,⑤粘膜ひだの集中の有無⑥病変の形と結節状隆起の有無,⑦腸管の変形,などがある.病変の正面像と側面像の視点からみた深達度診断の指標について報告した.また,深達度診断を行うための4つの必要条件を挙げた.特に病変の側面像からみた深達度診断については,これまでのわが国での研究の歴史を説明し,解剖学的な“場”を考慮に入れた変形の診断学の必要性について述べた.

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要旨 内視鏡的治療を選択するための早期大腸癌深達度診断について通常内視鏡所見・拡大内視鏡所見を中心に解説した.深達度診断における拡大内視鏡によるpit pattern診断は,隆起型に比して陥凹型早期癌で有意に正診率が高かった.現在,根治的内視鏡治療の適応は浸潤先進部の組織型や脈管侵襲を考慮すると1,500μm程度のsm浸潤癌まで拡大されつつあるが,VN型pit patternをインジゴカルミン撒布所見とVN領域の面積によって細分類することによって,まず内視鏡的切除を行うべき病変,行うべきでない病変とその中間病変にふるい分けることが可能であった(有茎・亜有茎病変は除く).高周波細径プローブによる超音波内視鏡診断はこの中間病変に対して臨床的意義があるものと考えられた.

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要旨 大腸早期癌の肉眼型とpit patternとの関連ではⅢs型pitは陥凹型に,またⅢL型pitは隆起型と平坦隆起型,およびLSTに,そしてⅣ型pitは隆起型と関連し,その組織学的特徴を反映した.また,V型pitはVA(amorphism)型とVN(non-structure)型に分けられ,病理組織所見における腫瘍腺管の構造異型や癌浸潤層の露出,異常間質の出現と関連し,主としてVA型pitはm・sm1癌に,VN型はsm2・3癌に対応した.更に,sm癌とmp癌の比較の結果,mp癌では有意にpit様構造は疎となり,また陥凹辺縁隆起においてVN型pitを呈する逆浸潤像が出現し陥凹境界線は断裂・複雑化した.以上から,大腸癌の診断学は通常観察から拡大内視鏡・pit pattern診断に至る一連の動的診断プロセスによって,病理組織診断に近い質的診断と深達度診断が可能となり,より適正な治療を選択できる段階へと発展したと考えられた.

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要旨 超音波内視鏡による早期大腸癌の深達度診断について基礎的事項と深達度診断能について概説した.基礎的事項では,使用機種,走査方法,深達度の評価法を取り上げた.深達度診断能の項ではその実際と問題点をわれわれの施設の成績(対象236病変)をもとに検討した.その結果,以下の知見を得た.①sm細分類に基づく深達度別正診率はm癌78%,sm1癌17%,sm2癌27%,sm3癌57%,全体で61%であった.②EMRの適応と考えられるm・sm1と適応外のsm2,3の2群に分けた場合の深達度別正診率はそれぞれ81%,73%であった.部位別,肉眼型別に分けた深達度正診率に差はなかった.③sm癌の内視鏡治療拡大を行う上での指標としてEUSでの浸潤絶対値の測定が可能か否かを知るため,EUS画像上と病理標本上で計測したsm浸潤値を対比した.しかし,両実測値の間には大きな隔たりを認めた.④超音波専用機と超音波プローブの診断能は,m,sm1の病変で超音波プローブが優れていた.⑤内視鏡診断に対するEUSの役割を,内視鏡診断に迷わなかった病変と迷った病変に分けて検討したところ,内視鏡診断に迷わなかった場合は,EUSを必ずしも必要としなかった.一方,内視鏡診断に迷った病変に対するEUS正診率は63%であった.⑥EUSの誤診理由は超音波画像の描出不良が最大の要因であると考えられた.

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要旨 近年の直腸癌に対する治療法の進歩は,正確な腫瘍の解剖学的位置と深達度診断を必要としている.直腸内コイルを用いたMR画像は,T2強調像にて正常の腸管壁を表層の粘液および腸管周囲の脂肪織を含めて5~6層に分けて描出でき,粘膜層は低信号,粘膜下層は高信号,固有筋層は低信号を示した.したがって,腫瘍の壁内浸潤の診断が可能であり,特に粘膜下層に予め生食水を局注することによりm癌,sm癌とmp癌との鑑別の成績が向上した.また,MR画像は,腫瘍のわずかな壁外浸潤の診断能にも優れており,T2強調像では低信号を示す外縦筋層の断裂として描出された.直腸内コイルを用いたMR画像は,直腸癌の治療法の選択において重要な情報を提供できると考えられた.

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要旨 CTを利用した三次元画像表示の一種であるCT enema像は注腸二重造影像での大腸癌の側面変形像とよく相関し,描出率もほぼ同等であり,深達度診断として有用な検査である.CT enema studyは1回の検査で腸管の走行状態や,病変の位置,更には肝・リンパ節転移の評価も可能なので,精密検査として注腸X線検査に替わる可能性がある.

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要旨 3D-EUSは,細径プローブをスパイラルスキャンし,連続した画像をコンピュータ内に送り,三次元構築する.長所は,自動的にスキャンするため,至適部位におけば連続的な画像が得られた.これは,従来行ってきた術者が最深部と考え画像を記録した方法と異なり,より客観的に診断可能である.そこで3D画像による診断と,従来の2D画像からの診断と比較検討した.検討例は,組織所見と対比可能であった食道癌66例,胃癌72例である.正診率は食道癌では,2D診断は76%,3D診断は83%であり,胃癌では2D診断81%,3D診断90%と3D診断が優れていた.特に,広く進展した腫瘍では有用であった.

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要旨 最新の画像診断法であるMR内視鏡の上部消化管病変への臨床応用について,超音波内視鏡,CT,conventional MRIと比較してその特徴について述べた.使用したMR内視鏡3次試作機は,直視型,外径13mm,全長2,060mm,先端硬性部長43mmである.MR内視鏡からの信号と,体表面からの信号とを合わせ,phased array systemによりMR画像を作り出す.MR内視鏡による消化管病変の深達度診断は超音波内視鏡などと比べ特に深部において効果を発揮し,他の検査法と比較しても条件を変更したり造影できるという効果を合わせ持ち,術前診断における治療法の選択に非常に有効な検査方法である.

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要旨 進行食道癌はしばしば大動脈に浸潤し,正確な診断がその後の治療を決定する上で重要である.われわれは大動脈内にアロカ社製の20MHzの回転型8F細径プローブを挿入し,大動脈内より壁浸潤の有無を診断した.大動脈壁は外膜,中膜,内膜が3層(high,low,high)に描出される.腫瘍はlow echoic massに描出され,外膜のhigh echo lineが途切れていれば浸潤ありと判定する.しかし問題になるのは中膜浸潤であり,low echoic lineがmassに置き換わっている場合は手術適応なしと判定される.最近は三次元USを用い,浸潤の判定をより正確に行うことを目指している.

主題症例 それぞれの検査・診断法が,深達度診断に特に有用であった症例

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要旨 患者は,66歳,男性.内視鏡検査で胸部中部~下部食道に0-Ⅰ+Ⅱc型病変を指摘された.0-Ⅰ部分の深達度は,X線でm3~sm1,内視鏡でsm1~2と推定した.病理組織診断は0-Ⅰ+Ⅱc型,最深浸潤部は隆起周囲の一部でありm3.高さ1mm強,8×4mm大,境界明瞭な0-Ⅰ部分の深達度はm2であった.軽度隆起を呈する小病変の深達度推定は,丈の高さだけではなく立ち上がりの性状を加味して行うことが必要と考えられた.

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要旨 患者は72歳,女性.胆石胆囊炎で近医入院中,術前検査の食道内視鏡検査で病変を指摘され,紹介入院となる,食道造影では,辺縁隆起を伴う浅い陥凹性病変を胸部中部食道に認めた.食道内視鏡検査では上切歯列から27cmに1cmに満たない発赤した陥凹を認め,陥凹の周囲はごくわずかに隆起していた.以上より非常に小さい病変であるが0-Ⅱc+Ⅱaであり深達度はm3で手術が必要と考えられた.低肺機能,虚血性心疾患,総胆管結石の合併などがあり検査で明らかなリンパ節転移も認めなかったことから,EMRが行われた.病理診断は,中分化扁平上皮癌でm3,ly0,v0であった.

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要旨 今回われわれは,治療法の選択に術前精査としての三次元超音波内視鏡が有用であった早期sm胃癌の1例を経験したので報告した.患者は,54歳,男性.人間ドックの上部消化管造影検査で前庭部の浅い陥凹を指摘され来院した.内視鏡検査でも同様に約1cm大の不整形の発赤する伸展良好な浅い陥凹性病変が認められ,粘膜切除術を含めた治療法の選択が考慮されていたが,三次元超音波内視鏡により第3層のわずかな狭小化所見を認めsm浸潤が疑われ,幽門側胃切除術およびリンパ節郭清術D2が施行された.病理組織学的検討では,三次元超音波内視鏡が指摘した部位に576μmの浸潤が認められた.当院におけて三次元超音波内視鏡を術前施行した148例の深達度診断正診率は,全体で85.1%(126/148)であり,特にm,sm癌の成績が93.2%,81.4%と良好であった.更に,sm浸潤度別の成績では三次元超音波内視鏡は,500μmを超える群より80%を超える成績が得られており,粘膜切除術前の検査として有用と考えられた.

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要旨 患者は42歳,女性.胃検診のX線検査で異常所見を指摘され,精査のために来院した.内視鏡検査で幽門前庭部前壁にⅡc病変を認め,生検診断で印環細胞癌と診断された.精査X線検査で幽門前庭部前壁に不整形の陰影斑の中に顆粒状陰影のみられるⅡC病変を認めた.そして,その陰影斑の周辺にはっきりしない粘膜下隆起様の透亮像を認めた.深達度診断は,この陥凹周囲の透亮像の所見を粘膜下層浸潤の所見と診断した.切除胃では幽門前庭部前壁に2.0×1.7cmの大きさのⅡc病変を認め,病理組織診断では粘膜下層に癌の浸潤を認めた.Ⅱcの陥凹周囲のX線上の透亮像は癌の深達度診断の指標の1つである.

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要旨 小さな(2cm以下)進行大腸癌において側面変形が深達度診断に有効と考えられた3症例を提示するとともに,当センターで切除され,術前のX線検査にて病変の側面変形が評価可能な2cm以下の進行大腸癌44症例と無茎性隆起のsm癌68症例において,X線像と病理組織学的所見の関係を検討した.提示した3症例を含め,進行癌44症例の中に表面・辺縁構造が分葉状を呈する病変はなく,すべてが平滑な結節状の無茎性隆起であった.2cm以下無茎性隆起の浸潤癌112病変のうち,側面変形の評価が可能な88病変において検討すると,角状変形を示すものに進行癌はなく,弧状変形を示す病変の70%が,台形状を示した病変では100%が進行癌であった.大腸癌X線診断においては2cm以下の結節状を呈する無茎性隆起の存在に注意し,側面像において弧状以上の変形を示した場合,進行癌の可能性を強く疑い,治療方針を決定する必要がある.側面変形はこうした病変に対する深達度指標として重要と考えられた.

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要旨 患者は73歳男性.肛門管癌の既往で定期的に経過観察されていたが,貧血が進行するため精査が行われた.注腸検査や内視鏡検査にて横行結腸に径10mmのⅠs型隆起性病変を認めた.正面像にて粘膜ひだの多方向からの集中像を認めた,側面像は得られず,側面変形による深達度診断は不可能であった.手術が施行され,粘膜下深層まで浸潤した高分化腺癌であり,粘膜下層を中心に強い線維化を認めた.粘膜ひだの多方向からの集中像は粘膜下層への浸潤を示唆する所見で,腫瘍の浸潤に伴う反応性線維化がその原因と考えられた.

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要旨 軽度陥凹型(0-Ⅱc)食道癌には,深達度m1~sm3までの症例が含まれており,治療方針を決定する上では,正確な深達度診断が要求される.病変の深達度診断を行うには,最深部の形態を的確にとらえることが必要であり,本症例では,陥凹内の隆起が最深部に一致した.隆起の深達度診断は,隆起の高さ,大きさ,色調,隆起の柔らかさに注目して行う.本症例は,赤味のある顆粒状隆起の集簇であり,個々の隆起は小さく,高さ1mm以内のため0-Ⅱaと診断した.隆起は部位により硬さが異なり,伸展にても隆起の高さや形に変化がない部分は深達度m3,隆起の高さが低く,隆起の形が容易に変化する部分は深達度m2であった.

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要旨 患者は62歳の男性.1999年8月心窩部痛出現.他院投薬でやや軽快するも症状持続したため9月当科受診した.胃内視鏡検査で胃体上部前壁に20mm大のⅡc病変を認め,生検で高分化型腺癌と診断された.深達度診断において,X線検査および内視鏡検査ではmないしsm1と診断した.超音波内視鏡では第1,2層に明瞭な低エコーを示す腫瘍エコーを認めた.sm層に2mm大の低エコー域が数個連なって認められたが,その形態からリンパ濾胞と判断し同じく深達度mないしsm1と診断した.噴門側胃切除術が施行されたが,最終病理診断は深達度sm3の管状腺癌であった.

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要旨 患者は44歳,男性.便潜血反応陽性にて精査となる.S状結腸にⅠs型径15mmのポリープを認め,注腸X線所見,大腸内視鏡所見では粘膜下への高度浸潤を疑わせる所見がなく,内視鏡的粘膜切除術を施行.病理所見では粘膜内進展部の部分は管状絨毛腺腫で異型度が弱いが,浸潤先進部に粘液結節を形成する粘液癌がみられ,sm中等度浸潤癌であった.PG typeが腺腫由来であるとすると,本症例は腺腫由来の癌,粘液癌の初期像として興味深く,深達度診断が困難であった1例と考えられた.

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要旨 患者は便潜血陽性精査のために大腸内視鏡を行った41歳,男性で,S状結腸に有茎性および亜有茎性の2個のポリープが近接して認められた.いずれも絨毛状の表面性状を有し大きさは10mmくらいであったが,亜有茎性病変では表面に不明瞭な陥凹を伴い周辺部に小結節状の隆起がみられsm浸潤癌が疑われた.確認のために細径超音波プローブで観察したところ,第3層内にのびる比較的低エコーの領域が認められたものの良好な描出は得られなかった.結局,局注で病変の十分な挙上がみられたためtotal biopsyの目的でEMRを施行した.組織は有茎性病変が鋸歯状腺腫であり,亜有茎性病変は鋸歯状腺腫由来のsm2浸潤癌であり高度の間質反応を伴う中分化腺癌の浸潤がみられた.本例ではEUSが効果的であったとは言えないが,1つの描出パターンとして認識すればEUSの診断能を更に向上することができると考えられる.

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 近年,画像診断に関する出版物および論文は実に多く刊行されていることは周知のとおりである.とりわけ超音波に関するものが多く,いわゆる初学者にとってはどれを選択するか迷うところであろう.そのような状況下でこのたび日本超音波医学会が編んだ本書は,種々の選択条件を満たし,その成り立ちからしておおいに注目に値する.

 まず,「序」の中で松尾裕英前学会理事長が記しておられるように,この企画は学会が主体となって刊行された1966年以来3冊目の成書であることがわかる.学会自体が世に問う形で精力的に編集し刊行を行うことは過去に例をみず,たいへんなエネルギーと協力が必要であったと推察され敬意に値する.加えて新世紀の要請に合わせて内容の大改訂を図り,書名も「超音波医学」から「超音波診断」へ,更に今回「新超音波医学」へと変遷をたどった経緯も興味深い.その「消化器」の部を読んでみて最も印象的であったのは,その執筆陣の新鮮さと熱意がひしひしと伝わってくることである.一般に学会主導の書物では通例として高名な大家が筆頭著者に並びがちであることは否めない事実である.しかし,本書においては著者はいずれも現在一線の臨床の場で超音波診療に携わり,しかも学識・経験も豊かな医師で占められていることが見てとれ,このことは学会の自信の表れと言っても過言ではない.

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 がん基礎研究の最近の進歩はめざましいものがあり,がんの本能解明に迫りつつある.がん臨床においても同様,その歩みは基礎研究ほどの華々しさはないものの,着実にその成果をあげている.いまや“がん=死”であった暗黒の時代は終わりを告げ,がんとの“対話”が可能となりつつある.しかし,がんの暗いイメージは一般人だけではなく,なお多くの医療者の心の内にも残像のように存在しているのではないだろうか?

 そのようなイメージを吹き払うために,がんの標準治療の普及という大きな理想をかかげた“小さな大著”が「がん診療レジデントマニュアル」である,その初版が国立がんセンター中央病院内科レジデントの編集により出版されたのは1997年であるが,その後好評のうちに広く臨床の最前線で活用され,今回最新のがん情報を追加するのみならず婦人科,泌尿器科,皮膚科などの新領域を加えて,全面改訂の第2版が出版された.

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毎年春になると新しい研修医がやってくるのであるが,彼ら・彼女らに接すると自分が研修医のころが思い出され,様々な気持ちが沸き起こってくる.必ずしも上級医がいつもバックアップしてくれるとは限らず,特に患者が急変・重症化したときこそそばにいなかったことが多かったかもしれない.別に“マーフィーの法則”などではなく,今思い返してみれば,ただ単に急変・重症化の早期サインを見落としていたり,予測が不十分であったり,また自分があわてていて連絡が後手に回っていただけということが多かったのではないかと,情けなくも恥ずかしい状況であったと思う.

 そんなとき,そんな自分を一番現実的に助けてくれたのは,「内科レジデントマニュアル」であり,「ワシントン・マニュアル」であった.今回「内科レジデントマニュアル」が第5版に改訂されるにあたり,自分が研修医のころに使っていた旧第2版を久しぶりに引っぱり出し,比較してみた.たいへん驚いたことは,ベーシックでスタンダードな部分は何ら変わっていないこと,その一方で,そのほかの所は大幅に進化しており,新しい項目や知見も加わり,より実際的になっていることである.研修医のときたいへんお世話になり役に立ったが,今の自分にとっても参考になる所が多々ある.

編集後記 大谷 吉秀
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今回の「胃と腸」増刊号は「消化管癌の深達度診断」をテーマにお届けする.食道から始まり大腸に至る各臓器の深達度診断について,それぞれの分野のエキスパートが熱意を込めて書いておられ,大変読みごたえのある内容となっている.深達度診断は患者さんの治療に直接つながる重要なインフォメーションであり,まさに癌治療を適正に行うために高い精度が求められる.特にリンパ節転移のない癌をいかに診断するかという点には,ここ数年多大な労力が注がれており,EMRや腹腔鏡下の局所切除が容認される理論的根拠になっている.画一的な2群リンパ節郭清を伴う手術に比べ,いろいろ試みられている縮小治療が患者さんのQOLに大きく貢献できていることは,わが国における消化管癌の深達度診断レベルの高さを物語るものと言えよう.

 本増刊号では,これまであまり試みられなかった食道,胃,大腸の壁構造の違いを深達度診断にどのように反映するか(比較深達度診断〉について総論で浮き彫りにした.各論・トピックスでは従来法による診断のポイントやいろいろな新しい試みが紹介されている.また,後半には深達度診断の限界とも言える貴重な症例が主題症例として呈示されている.消化器疾患に興味を持つ若い先生から,これまで消化管診断学の基礎を作ってこられたベテランの先生方まで興味を持っていただけたら幸いである.これからも「胃と腸」が,読者の皆様の日夜の診療を通じて,患者さんの幸せに少しでも寄与できることを編集委員の一員として願わずにはいられない.

基本情報

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胃と腸
36巻3号 (2001年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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