胃と腸 3巻6号 (1968年6月)

今月の主題 前癌病変としての胃潰瘍とポリープの意義

巻頭言

夜の円卓会議の成果 村上 忠重
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 「胃と腸」で始めて特集号を出すことになった.この謂れを述べると昨年の秋,名古屋でひらかれた癌治療学会のナイターの円卓会議として,「胃癌の発生母地としての胃潰瘍とポリープの意義」というテーマを会長日比野教授からいただいた,大変なテーマである.私どもが常に研究の眼目としてみつめている問題ではあるが,いろいろな観点が入りまじって結論渉つけにくい.そこで群盲象をなでるの図宜しく,各自が思い思いに考察を述べあっているというのが現状である.

 そこで私は考えた.意見が合致しないことがどうせ始めから分っているのならば,では互の間にどの位の懸隔があるのかを浮き彫りにすれば,それはそれで又意味があるのではないかと.そこで,それを当時『胃癌の組織発生』というテーマで集っている文部省綜合研究班長の太田教授にお話しして,その全班員に討議に参加していただくことを目論んで許しを得た,さらにこの主として病理学者の意見に対立的な考えを抱いているほぼ同数の内科医にも,その対立者として参加をお願いした.そして,このシンポジウムではまとまった結論を出す必要はなく,却ってどの位意見の相異があるかを明らかにしてほしいと頼んだ.

胃潰瘍の部

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 私共は,胃癌が日本人の癌の中で最も重要な位置をしめること,胃癌の組織発生についての研究は,臨床病理学的な立場から日本で最も進歩していること,及び最近では数年前には思いも及ばなかったような小規模な癌の材料が沢山あつめられるようになったことなどから,今が日本の学者の総力をあげて胃癌に取り組む時期であると考え,又早期癌をある数つかめば問題の解決は比較的手近かにあると思ったのでありますが,今考えて見ますと,早期癌が手に入っても未だ仲々むずかしい点が残っているように思われます.

 今夕のお話は,潰瘍癌を重視する学者と隆起性病変に重点をおく学者とをたたかわせて,酒の肴にするといっては語弊がありますが,争点を明かにするにあるかと思います.私のpointは潰瘍癌を重視すると共に,重視する組織学的な根拠を提示するにあると考えています.そこで,皆様はこの道のexpertsであり潰瘍や癌の組織学については予備知識は全く必要でないものと考え短刀直入に問題に入ります.

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 私の考えを申し上げると,第1図に模式的に示すように,まず胃粘膜に癌ができて,それが2次的に潰瘍化してくることもあるだろうし,また実際に潰瘍が慢性化し,あるいは瘢痕化し,その辺縁に癌ができてくることもあろうと思う.潰瘍といわれるものの自然史は動的であって,実際臨床家が観察するのはその自然史のどこかを見ているのではないかと思う.最近村上教授は胃潰瘍の良性サイクル,悪性サイクルということを言っているが,私どもの経験でもこれは実在するものであって,癌と潰瘍の合併の場合に非常に重要だと思う.このサイクルは,人工衛星が打ち上げられたのちに軌道にのって,サイクルを廻るのと同じではないかと思われるが,その自然史の発端は,現在の病理形態学的水準では,的確につかむことはできない,というのが私の述べたいところである.実際に私どもが組織学的に見ているのも,この悪性サイクルという軌道に乗ってから後のある時期の一断面に過ぎないということを指摘したい.そういう考えの根拠になった症例を見ていただきたいと思うが,これらは九州大学の岡部助教授のグループの集められた材料である.第1例(附図1,2)は38年5月9日から41年10月3日まで,内視鏡的に観察された症例で,早期癌の部に潰瘍ができてこれが一旦小さくなって,また大きくなったもので,つまり,癌病巣の潰瘍が消長動揺しているという例である.次は別の症例で,癌病巣に附図3のような潰瘍があり,その潰瘍がのちに縮少(附図4)した例である.次の症例(附図5,6,7)も癌巣の潰瘍が観察中に小さくなった例である.このような動揺をレントゲンで観察した症例もある.たとえば,次の症例ではⅡc型癌の中の潰瘍が経過中に小さくなった(図省略).岡部助教授が長期観察をされたのは50例,あるいはそれ以上あるが,そのうちで潰瘍ができて大きくなったり小さくなったりの動揺を示したものが16例ある.その中をわけて,大体潰瘍が最後には大きくなった時期に切除されて組織学的検索に廻された群と,潰瘍が小さくなった時期に検索された群,それから小さくなったり大きくなったりしたけれども,経過が簡単でなかった群との3群とすることができる.これらの各例はX線,内視鏡で大体1カ月から4年の間かかって観察されている,このほか潰瘍の消長を示さなかった例もある.そこで大きくなった時に手術をされた例を見ると(第2図),組織学的に明らかに開放性潰瘍がある.そして,その辺縁に再生粘膜の像が見られない.慢性化した潰瘍の新鮮再発の所見であって,癌は辺縁に局在して見られる.次は2番目の潰瘍が縮小した時に手術されて調べた例で,一部に開放性潰瘍は残っている(第3図)が,その他の部には再生粘膜があって,そこに癌がある.次の症例は1カ月の間に潰瘍が小さくなった例であるが再生粘膜でおおわれている(図省略).これはちょうど村上教授の聖域型で,Ul-Ⅱである.要するに癌に消化性潰瘍が起って,治癒傾向と再発のサイクルを画くことが稀でなく,その各期にあたるいろいろな像に出会うということを,これで見ていただきたい.それからまた同じく潰瘍縮小例であるが再生粘膜はできていないことがある(図省略).再生腺管はちょっと残っているけれども,大体肉芽組織といった方がよく,村上教授の地層型の一部に属するのではないかと思うが,要するに,二次的に癌に生じた消化性潰瘍の消長によって,いわゆる潰瘍癌のクライテリアを具えたいろいろな像が現われてくるということが言える.次は第3群といった中でいろいろの中間形,あるいは重なった型の例である.これはおもしろい例(第4図)で一番最初の内視鏡では癌の部に新しい潰瘍は明らかでなく,のちに潰瘍ができて,ついで潰瘍が小さくなっている.そして今度潰瘍ができた場所は前の所とは少し違うのではないかと思われる.この最後の時期にあたる手術標本の組織像は,新しく潰瘍ができたところは上述の例の開放性潰瘍と同じようなUl-IVができている.それからずっと以前に潰瘍があって治ったと思われるところは,上述した潰瘍縮小部と同じような粘膜の再生像が見られる.

胃潰瘍癌の再検討 長与 健夫
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 先程太田先生や今井先生が出されたスライドを拝見すると,潰瘍が先か後か結論が出しにくいものが少なくないと思うが,今井先生の場合には,組織標本のシェーマの色で書かれた粘膜癌の部分がかなり広いわりに潰瘍が浅く,小さいものが多かったように思うし,太田先生の場合は瘢痕もありましたけれども粘膜癌の病巣は比較的小さいものが多かったという印象をうけた.

 さて早期胃癌の肉眼分類,内視鏡分類のⅢ型は粘膜癌病巣の大きさやひろがりや形はともあれ,その病巣中に潰瘍をもっていることが特徴であるといってよかろうと思う.この分類の基準は概念的には非常に明快であるが実際の症例によっては必ずしもそうでないものがまれならずある.特に潰瘍が浅く,その境界が不鮮明な場合にはわれわれがそれを肉眼で見てⅢ型に入れるべきか,あるいはⅡcに分類した方がよいのかということで,多少主観の入る余地は残るように思う.私自身はこの内視鏡分類が,肉眼所見を基盤にするものでその申し合わせにもあるように組織発生的な解釈を含むべきでないという主旨から,潰瘍の大きさ,深さ,古さは,ともあれ癌病巣中に,あるいは粘膜癌病巣に接して肉眼的に明瞭な潰瘍が認められたものは,すべてⅢ型に分類してきている.一番初めに太田先生が出された表の中,潰瘍癌の頻度が高く,全早期胃癌の約70%も占めていたという私の数字は,今申し上げたような基準で分類した結果である.しかし俗に「たむし」と言われているような,粘膜癌病巣が広くひろがっているⅡc型には,その病巣中に症例によっては浅い潰瘍を有しているものが少なくなく,そういう例では肉眼的に見てこれを潰瘍とすべきかあるいはエロージオンとすべきか判断に迷うことがあるが,それらは臨床的に検出し得る消化性の潰瘍とは実際にかなりかけ離れており,組織学的な判断を考慮に入れるとⅢ型に分類すべきかもしれないが,肉眼所見をより重要視して,Ⅱc型とし,後で述べるⅡcⅢ型とは一応区別している.

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 太田先生,今井先生,長与先生が,病理学者の立場から,この問題を論じられたので,私は臨床家の立場からこの問題を考えてみたいと思う.

 従来,私は,胃潰瘍および胃癌で切除された標本の病理組織学的研究成績から,胃潰瘍の癌化を支持してきた.これには反対論者も多く,それらの主張を吟味するにつれ,正直にいって,現在では,すでに癌が出来上ってしまった標本で,胃潰瘍の癌化を論ずることは非常にむずかしいと考えている.それにも拘らず,私は胃潰瘍より癌が発生すると考えている.以下,その根拠について述べる.

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 和田 私共の所では,大体1955年から1963年までの9年間,現在のような生検までを行なわない形でfollow-upしてきた.それから1964年以後は胃液の分泌機能との関係,いわゆる癌の生物学的診断法との関係を含めて,内視鏡的な検索と生検診断を実施している.この点からデータを二つに分けるが,最近これを佐藤が集計したのでスライドについて説明させる.

 佐藤 Table 1に一括してあるが,観察例は1965年から本年8月までの12年8カ月間のもので,総計193例である.いわゆる遷延性の慢性潰瘍であるが,手術等の関係もあって,実際上は1年未満の例が119例を占めている.1年以上3年未満の例は34例,3年以上5年までが19例,5年以上10年未満の例は21例である.前半の1963年までの129例では潰瘍癌は6例である.これは遷延性胃潰瘍129例に対しては4.6%であるが,全部が手術によって確かめられていないから,手術した70例に対しては8.5%になる.これらはすべて1年以上潰瘍病変が継続したか,ないしは再発を繰り返した例である.3年未満32例の中では3例,5年未満17例の中では1例,5年以上10年未満の21例中では2例の潰瘍癌が見出されている.

前癌病変としての胃潰瘍 常岡 健二
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 臨床の方の立場から胃潰瘍から癌になるという問題に対して簡単に結論をいうと,なるといえばなる,ならないといえばならない,ということになるかと思う.ということは先程の病理の方のお話,あるいは臨床側の只今のお二人のデーターを見てもその観察期間が短いと,たとえば最初に胃潰瘍と診断した,それから次に胃癌と決定した場合,先行の胃潰瘍と診断されておったものが果して良性であったかどうかということに非常に疑問が残る.私共の経験では,結果的には早期癌,しかも癌浸潤が粘膜内に限局しているようなものでも,1年半~2年位は,ほとんど同じ状態を観察し得た例もある.数年後に進行胃癌の形で診断されるということになった場合,その初めの診断が良性潰瘍と診断されても,それが必ずしも良性であるという根拠にはならない.したがって経過年数の検討ということを十分にしなければならない.われわれ臨床家が出す潰瘍から癌になる頻度というものは,病理の方がいろいろくわしく検索をされて出されるデーターに答えるほど忠実なものではない.

 また良性潰瘍の診断は,最近では細胞診,生検を行なうため,それだけの自信をもっているが,そういう患者を今後5年,10年と経過観察ができるかという問題がある.

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 われわれが東京医大内科に於て,内視鏡検査をも行ない,胃潰瘍あるいは潰瘍瘢痕と診断したものは,昭和35年10月より昭和42年3月迄に1331名になる.われわれは特に胃潰瘍の長期経過観察を目的として,第1表に示すような基準に従って,瘢痕となったあと1年以上理想的に経過観察を行ない得た症例は第2表の73例である.特に瘢痕化後の経過観察にも重点をおいた理由は良性瘢痕と悪性瘢痕との内視鏡像の差などを研究することと,一方もし瘢痕が良性像を示す場合には,もとの瘢痕がより良性であったという有力な証拠になると考えたからである.なおopenの潰瘍を発見してそれが瘢痕となるまでの観察期間は症例によって一定せず,一週間ないし3カ月である.以上の基準に従って潰瘍の発見から瘢痕の時期を確認して約3年以上経過を観察し得たものは,最終的に癌と診断された後述の2例を加えて38例となる.今ふり返り考察すれば,むしろ誤診とも云えるこの2例を供覧する.

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Ⅰ.はじめに

 胃潰瘍と胃癌の関係については従来から種々論議されているが,われわれはこれまで胃潰瘍癌が存在するものと考えてきた.しかし最近この問題に疑問がもたれ,再検討が加えられているので,ここにわれわれの教室の資料について考察を加えることにした.

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 私共か昭和34年9月から昭和41年8月までの満7力年に胃潰瘍と診断した患者は1,086例で,その男女比は,約3対1である.うち経過観察を行ない得たものは第1表に示すように561例,51.7%と約半数である.カッコ内に示す数字は,経過観察中に癌と診断し手術によりたしかめた症例数であり561例中8例,1.4%である.第2表はこれら561例の胃潰瘍例が手術の有無死亡等を問わず,最近1年間にどの程度再検査に来ているかを,初診年度別に示すものである.この数字に示すように長期にわたって現在もなおfollow up中の症例は少なく,いかに完全なfollow upがむずかしいかを如第1表経過観察の有無よりみた胃潰瘍例のうちわけ実に示している.次に第3表は561例の観察例を追跡期間別に分けたのであるが,1年未満が342例,60%,3年以上は65例,12%にすぎない.観察途次胃癌と診断された8例は1年未満観察群より2例,1ないし3年から3例,3ないし5年から3例である.

 そこで問題はこれら8例の胃癌症例について,その初回検査資料を現在の目で見直した時,いかに診断されるか,更にその潰瘍が胃切除までにどのような経過をとったかを分析したものが第4,5表である.第4表に見るように8例中7例は初回資料の胃内視鏡及びX線を現在の目で見直し診断をしてみると,現在の目からは悪性ないし悪性の疑いの強いものであり,文句なしに良性といえるものは1例もない.すなわち結果的には初回において誤診であったということになり,その時点では,良性であったものが,経過追及中に悪性化したとは考えにくい.またこれら8例に共通して言えることはその経過中いずれも内視鏡更にX線上で,潰瘍の著名な縮小あるいは瘢痕化を示している点であり,切除胃の肉眼的所見は全例Ⅱc+ⅢないしⅢ型を呈していたが,組織学的には早期癌5例,進展癌3例で,又,全例組織学的に広義の潰瘍癌の判定基準を備えている(第6表).すなわち組織学的所見のみからは,良性潰瘍先行の判定が下されるものである.これら症例の組織所見については先に今井教授がくわしく述べられたので,ここではふれない,そこで課題の癌化率であるが,われわれの成績は今までに多くの演者が述べたと同様,1)全例を長期にわたり追跡し,かつ2)初回の診断が確実に良性である”という二つの必要不可決な条件を満たすには程遠い.従ってこの群から癌化率を云々することは不可能であるが,今示した成績から臨床の場では少なくとも5年以内の経過で潰瘍の癌化とみなす症例は,初回からの悪性を良性とした誤診はなかったかを十分に老慮する必要があり,また現在迄の私共の臨床例の追跡成績からは,潰瘍の癌化はあっても極めてまれであろうと考えざるを得ない.以下潰瘍の著しい縮小瘢痕化を示した症例を供覧する.

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 初めにいろいろ文句をつけて,あとからいろいろ批判されるような材料を出すことになると思うが,なにとぞよろしくお願いしたい.慢性潰瘍あるいはその瘢痕化したものから,悪性潰瘍すなわち癌が生ずるかいなかということは,ずいぶん昔から議論をされたことであるが,ここに2つの問題を提起することにしたい.一つは今まで病理の先生方から聞いたことから感じたことであるが潰瘍癌という言葉の意味,その発生の由来,これがどうも太田先生にしても今井先生にしても,はっきり納得ができない.そこのところをもう少しはっきりと私達臨床家に教えていただきたいということである.どうしたらわれわれにもそれがわかるのだろうかということがまず第一,そこで一定の基準というものがなくしては,切除された胃癌について,その発生のもとが胃潰瘍であったかどうかということに差があることは当然で,非常にパーセンテージが違ってくる.しかも太田教授の話によればだんだんパーセントが減っているように思う.最近の文献を見ても,潰瘍癌というのは非常にパーセンテージが減っている.そこらへんのこともいろいろ本を読んだり勉強したりして,ある程度わかっているようなつもりでいるが,病理学者のように組織学的な結論は本当のところわからない.それを教えていただきたい・それから第2は臨床的にこの問題を取扱った場合に,次に述べるように,全く私はその経過中にその悪性化を認めたことはない.これは従来の内視鏡学者においても略,同一で一,二の例外はあるが一般に否定的である.第1表,良性潰瘍としてその経過をフォローアップしているものについてであるが,現在潰瘍で通っているものもあるし,手術したものもいるし,なおすでに治癒瘢痕化したものもある.9年をオーバーしている5例のうちの2例はまだ潰瘍があって,現在通院中である.全例では122例で,この観察期間中に悪性潰瘍になったというものはない.ただしこの5例はいずれも手術はしていない.それから第2表に示すものはここ6年間に手術した胃癌250の症例のうちで,過去が半年以上越えた例である.すべて内視鏡の所見を元にしている.というのはレ線所見だけでは,これは問題が非常に多く,良性か悪性か,殊に早期癌などになると,まず確定診断は困難なものが多いと思い内視鏡所見のあるものだけを集めてみたわけである.この250例のうちからその過去を追跡できたものを選んだ11例が第2表に示すもので,これを選択するためにはフィルムを全部見直してみた.この例が癌と診確された期間が一番右に書いてある.すると初期からというか,私達がみた当初から癌でなかったという確証を得るものは一例もない.しかし癌の方に近い所見のものがすべてである.そのうちで5例の早期癌の診断をしたものが,手術後2例やはり早期癌であった.こういうわけで私達臨床家としては,初めから癌であったか,あるいは潰瘍であったものが途中で癌になったか,そういうことを判断するのは,だんだん診断能力が上がってくると,反対にますます混乱を極めることになってき,一方ではますます不正確度を高めてゆくようになると思う.

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 時間が少ないので先に結論を述べたい.第1に癌性潰瘍の経過を観察して気付くことは一部の癌性潰瘍,これには進行癌と潰瘍形成型の早期癌も含めて,ニッシェの縮小するものがあり,ために経過観察のみに頼れば良性潰瘍との鑑別は時に楽ではないこともある.したがって胃潰瘍の経過観察をしながら,癌が出たからといって,これが果して良性潰瘍を基礎として発生したかどうかは,直ちには結論づけられない.第2にそのような条件を考慮しても,やはり胃潰瘍の経過観察をしている症例のなかには良性潰瘍からの癌化とは言わないまでも,これを基礎にした癌とみられる例が僅かながらあるということである.私達が潰瘍の経過観察をしている対象は瘢痕も含めて6カ月以上の観察例408例で,このうち癌がみられたのは総数7例である.そのうちの3例は,観察していた良性潰瘍とは全く別の無関係の場所に癌が出てきた.したがって残りの4例が潰瘍なりその辺縁の場所に癌を証明していることになる.第3の結論としては,私達の観察の症例も4年,5年,6年といった長期の観察例数になってくるとまだ非常に少ない.したがってその中で出てくる癌の頻度だけでパーセンテージを出して良性潰瘍の癌化率を問題にするのは時期尚早の感がある.現在のところではその癌化率は408例中の4例で大体1%ということになるが,Ul-Ⅱの瘢痕,Ul-Ⅲの瘢痕などの診断技術が一層向上して,しかも他覚的な判定にたえる症例数がもっとふえた時期に初めて潰瘍の癌化率の問題が正当に評価できるのではないかというのが私の結論である.以下興味ある2,3の症例を供覧する.

討議 村上 忠重 , 長与 健夫
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司会(村上) 以上で潰瘍癌の方の予定の発言は全部終った.予定より時間が長くなったが,あとで何とかやりくりすることにしてしばらく討論をしたい.

内海 悪性潰瘍が経過中大きくなったり小さくなったりするという意見が出たが,これはとり方や角度で非常に変ってくるので,簡単には賛成いたしがたい.それから今井,太田,長与先生になぜ潰瘍癌がへってきたかをききたい.また,間島先生の3年ないし5年の1例,5年以上の2例の症例に,内視鏡所見があるかどうかを聞きたい.

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Ⅰ.ポリープの癌化の検索方法について

 ポリープの癌化という現象を病理形態学の立場で調べる方法と材料には,以下の如きものがあると考えられる.

 第1は切除胃に見出されたポリープを組織学的によく検討をして,癌をその中に見出すやり方である.

 第2はポリープの経過を良く観察し,生検により癌の有無を調べる方法である.これについては,別に共同研究者の福地が述べることになっている.

 第3は切除胃の胃癌を一定のcriteriaに従いよく調べて,そのうち何%がポリープに由来するかを推定する方法である.この方法で久留,太田,村上らは全胃癌の5ないし16%がポリープに由来すると推定している.

 第4にポリープと癌との合併,ポリープの好発部位等により,癌とポリープの発生部位の位置的相関関係を見出そうとする方法である.これは胃潰瘍癌の研究に用いられる有力な方法である.

 ここでは第一の方法と材料によっての検索,すなわち切除胃のポリープをよく調べた結果について述べたい.

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Ⅰ.腺腫性ポリープの分類について

 胃の腺腫性ポリープを表面上皮(腺窩上皮)及び偽幽門腺の不均衡な過形成にもとつく隆起物と定義し,これを茎の有無,粘膜筋板の挙上の態度から第1表の如く3型に分けて観察することにする.

1)球形(無茎性)ポリープ

 外見はドーム状,半球形又は球形をなすもので,大きさは1.0cm程度のものが多くを占める.粘膜筋板は挙上するが,その尖端は天幕状を示し融合している.肉眼的に茎の存在は判然としない.組織学的には腺窩上皮または幽門腺の過形成が主体をなしている.

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Ⅰ.はしがき

 胃のポリープの癌化率は高いものとされており,最高66.8%に及ぶ報告がある.かかる高率癌化が真とすれば臨床の実際面に於ても,基礎的発癌過程の研究に於ても,誠に重要な意義を持つことになる.

 更に近年注目されている花壇状癌(Ⅱa)や異型上皮とポリープ,ポリープ癌,ポリポイド癌など隆起性病変と呼ばれている疾患の相互関係など検討されるべきものは多い.

 本報告はポリープの癌化率と共に此等一連の疾患の相互関係を述べようとするものである.

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Ⅰ.緒言

 胃ポリープは従来悪性変化の頻度が高いと一般に考えられてきたが,その悪性変化率が各研究者の問でまちまちであり(第1表),またPaul30),Carey6)のように相当前からポリープの悪性変化に否定的な考えを表明していた学者もいた.MoTlaco21),Castlemanは最近胃ポリープは悪性変化を起さないし,もし起したとしても生物学的に良性であるといっている.

CastlemanやWelch40)は胃ポリープのみならず,従来胃ポリープより悪性変化の危険性が大であると考えられていた結腸ポリープさえも生物学的に良性であると考えており,アメリカではこの考えが相当広く信用を博している.

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Ⅰ.はじめに

 胃癌の発生母地として,これまで,胃潰瘍,胃ポリープ,胃炎,迷入組織の四者があげられてきた.

 これらのうち,胃ポリープについては,比較的高率の癌化率が指摘されてきたにもかかわらず1)2),潰瘍癌について,Hauser3),Newcomb4),さらには,久留5),村上6),太田7)らによって示されたような一応の形態学的判定基準がなく,一般的には,有茎性の悪性ポリープをポリープ癌とし,ポリープが2次的に癌化したものと考えられてきたようである.

 この場合ポリープとしては,いわゆる腺腫性(過形成性)ポリープ8)9)(Evans10),Ming11)など

のRegenerative Polyp,中村の1型12))のみが想定され,最近問題にされているような異型性ポリープ13)(Evans,MingなどのAdenomatous Polyp,中村のⅢ型)はとりあげられていない.

 そこで著者は,頻度からみて圧倒的に多いいわゆる腺腫性ポリープのみに限って,その癌化の問題を検討してみた.

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 ポリープの癌化については,従来まで,切除胃の組織学的検索による推定と,臨床的な経過観察に基く経験との間に,かなり見解の相違が生じている.その一因として,検索の対象となる母集団のポリープの形態に,差があることが考えられよう.例えば,手術材料の中には,ポリープ状の癌や,比較的大きなポリープや,多発性のポリープが含まれ,又他の癌病巣と合併して偶然発見されたものなども含まれよう.

 又すでにこのシンポジウムで望月が言及したごとく,ポリープの癌化についてのCriteriaの如何によっては,その頻度は比較的高い率を示す可能性がある.

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Ⅰ.はじめに

 胃内視鏡検査の発達と共に胃ポリープは比較的容易に発見され,日常の診療に屢々遭遇するようになった.教室の内視鏡検査に於けるポリープの発見率は5750例中110例1.9%であるが,第1図の如く年令の増加と共に胃ポリープの発見率が増加している.

 胃ポリープは臨床的には特に(1)膨隆性癌腫との鑑別,(2)良性ポリープの悪性変化の問題,(3)出血などの合併症而して究極的にはその治療方針の決定が最も重要な問題であると考えられる.これらの中良性ポリープの悪性化の問題にっいては,従来主として摘出胃又は剖検胃の組織学的検索の結果に基いて論ぜられて来た.然しこのような方法のみでは,胃潰瘍と癌との関係に於けると同様胃ポリープの悪性化についての一つの面だけの観察に終る危険性がある.

 私共は胃ポリープの経過による形態的,組織学的変化,就中胃ポリープの悪性変化の問題を解明する一つの方法として,良性と判断した胃ポリープを内視鏡及び直視下生検により追求しており,現在最長7年11ケ月の経過を観察し得た.然しながら,現在までに追求し得た症例は未だ症例数も少く,又観察期間も比較的短いので,本日の主題である悪性化の問題については結論を出し得べくもないが,今回は私共の研究の中間報告として現在までの観察結果を紹介し,与えられた責をふさぎたいと思う.

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Ⅰ.はじめに

 胃結核は極めてまれな疾患であり,術前に診断を確定することはまず不可能とされている.我々は最近胃カメラで胃角後壁に巨大潰瘍を認めたので直視下擦過細胞診および生検を実施したが,胃肉腫とは断定し得ぬまま胃切除を施行し,組織学的に胃結核と診断した1例を経験したので報告する.

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症例:35歳,炊事婦

主訴:心窩部痛

現病歴:約5年前食後2~3時間して心窩部に鈍痛があり,食事を摂取すると軽快した.

 約1年間の内科的治療によって4年間は愁訴がなかった.

 約5カ月前,食事に関係なく終日心窩部の鈍痛と嘔気を伴う嘔吐が毎日2~3回あり,内科的治療で一時軽快していたが,4カ月前から再発し,1年前に比し体重約6kg減少した.食欲良好.便通:3日に1行.月経;不規則.2児あり,いずれも健康.早産・流産なし.本院内科に入院し,レ線検査及び胃カメラ所見から早期胃癌と診断され,外科に転科した.

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編集後記 村上 忠重
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 巻頭にも書いたように,この特集号は思いがけない機縁からでき上った.講師の方々には随分と無理な方法で原稿をお願いしたことになって大変に恐縮している.しかし出来上ってみると一応面白い読物としてまとまったのではないかと老える.

 潰瘍と癌の関係は何時も古くてかつ新しい.ことに早期胃癌を材料にしてこの問題を論ずることは,開闘以来なかったはずのことで,その意味では断然新しい取扱い方である.しかし新しい材料がつけ加わるにつれその結論も大きく揺れ動く,当分の間私どもはその揺れの中に漂わなければなるまい.

基本情報

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胃と腸
3巻6号 (1968年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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