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私共か昭和34年9月から昭和41年8月までの満7力年に胃潰瘍と診断した患者は1,086例で,その男女比は,約3対1である.うち経過観察を行ない得たものは第1表に示すように561例,51.7%と約半数である.カッコ内に示す数字は,経過観察中に癌と診断し手術によりたしかめた症例数であり561例中8例,1.4%である.第2表はこれら561例の胃潰瘍例が手術の有無死亡等を問わず,最近1年間にどの程度再検査に来ているかを,初診年度別に示すものである.この数字に示すように長期にわたって現在もなおfollow up中の症例は少なく,いかに完全なfollow upがむずかしいかを如第1表経過観察の有無よりみた胃潰瘍例のうちわけ実に示している.次に第3表は561例の観察例を追跡期間別に分けたのであるが,1年未満が342例,60%,3年以上は65例,12%にすぎない.観察途次胃癌と診断された8例は1年未満観察群より2例,1ないし3年から3例,3ないし5年から3例である.
そこで問題はこれら8例の胃癌症例について,その初回検査資料を現在の目で見直した時,いかに診断されるか,更にその潰瘍が胃切除までにどのような経過をとったかを分析したものが第4,5表である.第4表に見るように8例中7例は初回資料の胃内視鏡及びX線を現在の目で見直し診断をしてみると,現在の目からは悪性ないし悪性の疑いの強いものであり,文句なしに良性といえるものは1例もない.すなわち結果的には初回において誤診であったということになり,その時点では,良性であったものが,経過追及中に悪性化したとは考えにくい.またこれら8例に共通して言えることはその経過中いずれも内視鏡更にX線上で,潰瘍の著名な縮小あるいは瘢痕化を示している点であり,切除胃の肉眼的所見は全例Ⅱc+ⅢないしⅢ型を呈していたが,組織学的には早期癌5例,進展癌3例で,又,全例組織学的に広義の潰瘍癌の判定基準を備えている(第6表).すなわち組織学的所見のみからは,良性潰瘍先行の判定が下されるものである.これら症例の組織所見については先に今井教授がくわしく述べられたので,ここではふれない,そこで課題の癌化率であるが,われわれの成績は今までに多くの演者が述べたと同様,1)全例を長期にわたり追跡し,かつ2)初回の診断が確実に良性である”という二つの必要不可決な条件を満たすには程遠い.従ってこの群から癌化率を云々することは不可能であるが,今示した成績から臨床の場では少なくとも5年以内の経過で潰瘍の癌化とみなす症例は,初回からの悪性を良性とした誤診はなかったかを十分に老慮する必要があり,また現在迄の私共の臨床例の追跡成績からは,潰瘍の癌化はあっても極めてまれであろうと考えざるを得ない.以下潰瘍の著しい縮小瘢痕化を示した症例を供覧する.
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