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初めにいろいろ文句をつけて,あとからいろいろ批判されるような材料を出すことになると思うが,なにとぞよろしくお願いしたい.慢性潰瘍あるいはその瘢痕化したものから,悪性潰瘍すなわち癌が生ずるかいなかということは,ずいぶん昔から議論をされたことであるが,ここに2つの問題を提起することにしたい.一つは今まで病理の先生方から聞いたことから感じたことであるが潰瘍癌という言葉の意味,その発生の由来,これがどうも太田先生にしても今井先生にしても,はっきり納得ができない.そこのところをもう少しはっきりと私達臨床家に教えていただきたいということである.どうしたらわれわれにもそれがわかるのだろうかということがまず第一,そこで一定の基準というものがなくしては,切除された胃癌について,その発生のもとが胃潰瘍であったかどうかということに差があることは当然で,非常にパーセンテージが違ってくる.しかも太田教授の話によればだんだんパーセントが減っているように思う.最近の文献を見ても,潰瘍癌というのは非常にパーセンテージが減っている.そこらへんのこともいろいろ本を読んだり勉強したりして,ある程度わかっているようなつもりでいるが,病理学者のように組織学的な結論は本当のところわからない.それを教えていただきたい・それから第2は臨床的にこの問題を取扱った場合に,次に述べるように,全く私はその経過中にその悪性化を認めたことはない.これは従来の内視鏡学者においても略,同一で一,二の例外はあるが一般に否定的である.第1表,良性潰瘍としてその経過をフォローアップしているものについてであるが,現在潰瘍で通っているものもあるし,手術したものもいるし,なおすでに治癒瘢痕化したものもある.9年をオーバーしている5例のうちの2例はまだ潰瘍があって,現在通院中である.全例では122例で,この観察期間中に悪性潰瘍になったというものはない.ただしこの5例はいずれも手術はしていない.それから第2表に示すものはここ6年間に手術した胃癌250の症例のうちで,過去が半年以上越えた例である.すべて内視鏡の所見を元にしている.というのはレ線所見だけでは,これは問題が非常に多く,良性か悪性か,殊に早期癌などになると,まず確定診断は困難なものが多いと思い内視鏡所見のあるものだけを集めてみたわけである.この250例のうちからその過去を追跡できたものを選んだ11例が第2表に示すもので,これを選択するためにはフィルムを全部見直してみた.この例が癌と診確された期間が一番右に書いてある.すると初期からというか,私達がみた当初から癌でなかったという確証を得るものは一例もない.しかし癌の方に近い所見のものがすべてである.そのうちで5例の早期癌の診断をしたものが,手術後2例やはり早期癌であった.こういうわけで私達臨床家としては,初めから癌であったか,あるいは潰瘍であったものが途中で癌になったか,そういうことを判断するのは,だんだん診断能力が上がってくると,反対にますます混乱を極めることになってき,一方ではますます不正確度を高めてゆくようになると思う.
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