胃と腸 3巻5号 (1968年5月)

今月の主題 胃の巨大皺襞

症例一覧表/症例写真一覧

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 メネトリエ病の解釈,あるいは巨大皺襞との関連などについて,わが国でも海外でもかなりの混乱がみられる.この混乱を収拾するには,メネトリエの原著を再検討することが参考になろう.この論文は1888年のArch. Physiol. Norm. Path., 1:32~55,236~262.に掲載された,「胃のpolyadénomeとその胃癌合併例(Des polyadénomes gastriques et de leurs rapports avec le cancer l'estomac)」と題する57頁にわたるもので,今日メネトリエ病と呼ばれている病変は,その第2章にpolyadénomes en napPeの名で記述されているものに相当する.en nappeとは,「横に広く拡った」といったような意味である.第1章では胃のポリープまたはポリポージスにつき述べ,第3章でこれらの癌化の問題につき詳述し,これらを一連の同種の病変として理解しようとしている.主として病理組織学的な内容である本論文の記載は極めて精細で,写真が自由にならない時代としては当然のことかも知れないが,ややまわりくどいと思われる個所も少なくない.80年も前の論文を詳しく紹介することは無駄のようにも考えるが,原著者の考えを素直に理解することも大切と思い,第1章は端折って,第2章はかなり忠実に,第3章以下は簡単に,あえて再録してみた.この時代の用語の定義あるいは医学知識の水準を調べる余裕がなかったので,少なからぬ誤りがあることと思う.御叱正をお願いする次第である.なおこの論文は,胃ポリープの癌化を論じた最も古い重要なものの一つでもある.

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症例

患者:武○実,24歳,男子,デパート店員.

主訴:左季肋下部の圧迫感.

家族歴:父方の祖父は67歳の時脳卒中で死亡,母方の祖父は57歳の時糖尿病で死亡した.

 両親の祖母ら,両親および4名の同胞はいずれも健在である.

既往歴:特記するものはない.飲酒せず,喫煙は日に15本位である.ツベルクリン反応は15歳の時陽転した.

現病歴:以前から,時々不定の上腹部愁訴が出没し,胃弱の傾向があったという.昭和40年6月頃から,左季肋下部の圧迫感,前胸部の不快感および嘔気が時々生じるようになり,勤務先の医務室に受診し,内服薬の投与を受けていたが,愁訴が消えなかったため,昭和40年8月5日,本院内科を受診した.外来で糞便潜血反応アミノピリン法陽性,胃X線検査では胃液の瀦溜が多く,レリーフ像が明瞭でなく,幽門輪の周辺粘膜が特に不整で十二指腸球部の充盈も不全であり,胃十二指腸炎の診断で胃カメラ検査を行った.胃カメラ像は粘膜全体が凹凸不整で,連続性もなく,所々に発赤やベラークも認められ,一応ポリポージスの診断でMénétrier氏病の疑いもありとして8月31日入院した.

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1.まえがき

 巨大皺襞を形成する胃粘膜疾患に対してはMénétrier's disease,Massive hypertrophic gastritis,Giant hypertrophic gastritis,Giant hypertrophy of gastric mucosa,Giant rugal hypertrophy,Polypoid swelling of the gastric mucous membrane,Adeiopapillomatosis gastrica,Gastritis hypertrophica gigantia,Hypertrophic bulbous gastritis,Tumor simulating gastritisなどと呼ばれ混乱をきたしている傾向にある.

 また原因不明の低蛋白血症をきたす疾患群の中に胃腸管の疾患がその主役を演じているもののあることがら明かになり,蛋白喪失性胃腸症1)20)28)33)(Protein-losing enteropathy)とよばれている.原発性と続発性とに分類され前者の代表的なものとしてMénétrier氏病があげられる.低蛋白血症についてはRISA,131I-labelled PVP,51Cr-labelled Albumin4)30)などを用いた研究の結果,胃内への高度のAlbumin消失がその原因とされているが,これと形態学的病変については未知な点が多い.

 症例は臨床的に広範に胃粘膜を侵した癌腫と診断され開腹によりMénétrier氏病であり胃亜全摘術により下肢の浮腫を消失させ,低蛋白血症の著しい改善をみたものである.

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症例

患者:工◯喜○,67歳,男.

主訴:心窩部痛

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:10年前,白内障で手術.

現病歴:生来,胃疾患に罹患したことはない.約20日前より心窩部の鈍痛があり,某医で胃腫瘍を疑われ,精査を希望して来院した.食欲は良好,るいそう・悪心・嘔吐・むねやけなし.便通は1日1行.

現症:体格は中等度,栄養は比較的良好で,眼瞼結膜の貧血なし.頸部リンパ腺及びVirchow氏腺は触知せず,心・肺にも理学的に異常所見はない.腹部は平坦で,心窩部に軽い圧痛があるが,肝・脾は触知せず,腫瘤・静脈怒張などの異常所見はない.血圧140~90.

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1.はじめに

 胃粘膜雛襲がどの程度まで太くなればGiantrugaeとよぶかは決めがたいが,多くの文献に記載されてきたように粘膜面があたかも大脳回転を思わしめるような程度に太く回転しておれば,その胃の粘膜はGiantrugaeであると記載するのが適当と思われる.しかし,その大きさは切除胃についてのみいうのか,レ線像についてもGiantrugaeと記載してよいのかが問題になるが,一般に,レ線像がきれいに正確に粘膜の巨大皺襞を描写してあり,ほかに潰瘍や癌の併存がレ線的にも内視鏡的にも否定できれば,その胃は胃の巨大皺襞症であると診断されている.こういった症例が教室4351例のレ線検査のなかで2例あり,その中1例を5年間にわたり毎年1回入院精査続けているので報告する.

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1.緒言

 Menetrier's disease,giant hypertrophic gastritis,giant rugal fold,いわゆる巨大皺襞性胃炎は近年,蛋白喪失性胃腸症の観点から注目され,かなり多くの症例報告に接するが,なお,比較的まれな疾患とされており,わが国においてもすでに林ら1),中村2),崎田3),片山4),大野5),玉沢ら6)によって文献的考察がなされている.しかし本症の臨床的概念および病理組織学的本態についての諸家の見解は必ずしも確立されているとはいいがたい.

 われわれも,胃X線像および内視鏡所見で診断した巨大皺襞性胃炎の一例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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患者 飯○重◯ 44歳男 労務者

主訴:むねやけと腹痛

現病歴:数年来下腹部痛とむねやけがあり,一進一退していた.昭和42年4,月某医で胃癌を疑われて当院(国立浜田病院)に来診した.受診時はむねやけ,上腹部膨満感が著明で,服薬によっても愁訴は軽減しない.吐気,嘔吐,下血はない.

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1.症例

患者:大○サ○子 61歳,女性.

主訴:心窩部空腹時痛

家族歴:父,脳出血で死亡.母,腎疾患で死亡.

既往歴:約15年前より,高血圧および慢性気管支炎にて加療.約10年前左眼底出血.

現病歴:数年前より心窩部痛出現.約1年前,某医で胃X線,胃内視鏡検査をうけ,慢性胃炎と診断され,加療中であったが,心窩部痛が,最近次第に増強し,特に空腹時に著しくなる.約1カ月前当科を受診する.

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 胃巨大皺襞症は比較的まれな疾患で,常に悪性腫瘍との鑑別が重要である.われわれは胃穹窿部から体部にかけて巨大皺襞を呈し,再度入院精査の上,生検および細胞診で悪性所見は認められず,経過観察中の症例を経験しているので報告する.

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 私共の教室に於て,最近7年6ケ月間に施行した胃切除966例中,所謂胃巨大皺襞は6例,即ち0.6%である.

 次に最近経験した比較的珍らしいと思われる1例を供覧する.

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Ⅰ.緒言

 わが国における巨大肥厚性胃炎の症例報告は最近漸増しつつあり,過去10年間に約40例が報告されている.われわれもその1例を経験したのでここに報告する.

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常岡(司会) きょうはお忙しいところをお集まりいただいてほんとにありがとうございました.きょうのテーマは巨大皺襞症ということでありますけれども,巨大皺襞ということに限りますと,臨床的にはレントゲン検査さらに内視鏡検査で形態学的に巨大皺襞ということはある程度診断がつくと思います.しかし切除標本なり剖検材料について巨大皺襞というものをどの程度の範囲で言うか,という問題がひとつあるかと思います.それからもう1つMénétrierという,1888年にすでに発表があるようですが,そういう1つの独立疾患としてそれを整理する場合には,臨床家の巨大皺襞というのはかなり問題があるかと思うんです.そういう巨大皺襞なりその一部を占めるMénétrierというものの概念といいますか,臨床的にも病理学的にも取り扱い方にまず問題があるかと思いますので,そういう点からひとつ整理していったらよいかと思います.

 それで臨床的に巨大皺襞と診断する場合に,まずレントゲンが最初の手がかりになると思うんですが,この辺のところからひとつお話を願いましょうか,市川先生.

技術解説

巨大皺襞のX線診断 山田 達哉
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Ⅰ.はじめに

 巨大皺襞,giant rugaeあるいはgiant foldなどの言葉は,臨床的にしばしば慣用されているが,何れも肉眼的所見で胃の粘膜皺襞が著るしく巨大であることを言い現わしたものであって,内容的には同じものと考えられる.従って,単に“巨大皺襞”と云う場合には,良性のものもあろうし,悪性のものも含まれよう.しかし,“いわゆる巨大皺襞”とか,あるいは“これはgiantfoldだよ”と云った場合には,多分に良性のニュアンスが含まれているように思われる.なお1965年版のSchinzの教科書(英文版)の中でFrik1)は,“giant rugae”と云う項目を挙げ,先天性の良性疾患と云うニュアンスで説明し,癌との鑑別が困難なことを述べている.

 このように,用語の使い方はなかなか難かしいものである.そこで,いくらかでも混乱を少くするためには,良性の巨大皺襞を,青山2),高木3)の云うように,“巨大皺襞症”とした方がよいように思われる.

 巨大皺襞症は,1888年Menetrierがpolyadenome en nappeとして記載したのが,始まりだと云われている4).主として胃体部大彎を中心に,その前後壁の粘膜皺襞が著るしく巨大になる良性の疾患であり,組織学的には,胃腺が単に肥厚している場合と,表面および腺窩上皮細胞の過形成による揚合とがあると云われている.なお臨床的に,低蛋白血症を伴う場合が多いとも云われている.多数の同義語があり,Bockusの教科書5)をみると,まず表題は,giant hypertrophy of the gastric mucosaであり,その他にMénétrier's disease,giant hypertrophic gastritis,giant rugal hypertrophy,polypoid swelling of the gastric mucous membrane,adenopapillomatosis gastrica,gastritis hypertrophica gigantea,massive hypertrophic gastritis,hypertrophic bulbous gastritisなどを挙げている.

 さて,われわれにとっで臨床的に大切なことは,目の前にある“巨大皺襞”が,良性なのか?悪性なのか?と云うことであろう.そこで,これから述べる“巨大皺襞の出し方”では,“巨大皺襞”には良性も悪性もあることを考慮して,先づわれわれが経験した巨大皺襞症および巨大皺襞を呈した疾患(胃癌および胃悪性リンパ腫)の数症例について,そのX線像を例示し,次でそれらのX線像を中心に技術解説を行なってみたいと思う.

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Ⅰ.はじめに

 巨大皺襞(X線ではgiant rugae,内視鏡ではgiant foldという言葉が好んで使われている)をどう定義するかについては,入によって,まちまちである.X線像にみられるgiant rugaeをそのまま内視鏡像にあてはめることは必しずも当を得たことではない.診断方法が全く異るからである.また別に,これに症という言葉をあとにつければ一つの疾患単位となるが,こうなるとさらに,その意味する疾患を定義,限定することが難しくなることは,古くから知られている.

 良性のものに,この巨大皺襞症という言葉が冠せられることには大方の人が同意している.ただこれが,giant hypertrophic gastrits,tumorsimu. lating gastritis,polypoid gastritis,poly-adénomes en nappe. massive hypertrophic gastritis,Ménétrier氏病など種々の名前で呼ばれているところに問題があり,また多くの学者の定義がまちまちとなっている.すなわち,正常に近いものから,腺性肥厚像のもの,萎縮性過形成とくに被蓋上皮の過形成のもの,その他,慢性炎症として論議すべき幾多の所見をもつものが包含されており,ここで取上げる筋合いのものでもない故,筆者は,ただ内視鏡的な見方から,一つの内視鏡像の徴候と巨大皺襞をどう解釈し,またどのようにわけ,いかにしたら,その良悪性を鑑別すべき良い胃カメラ像ないしファイバー写真を得られるかということに焦点をしぼって,述べてゆきたいと思う.

研究会紹介

中越消化器病同好会 笹川 力
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 本会の活動状況を述べるには新潟県の胃カメラ普及・発展の経過をたどる必要があろう.本県では昭和30年9月,田坂定孝先生よりお話しがあり,当時の新潟大学鳥飼内科の高須靖夫,太田喜昭両先生が取組まれたのが胃カメラの最初である.ついで小黒忠太郎,斎藤素一先生も加わって意欲的に実施,啓蒙され,34年8月,イタリヤ軒において,芦沢真六,内海胖先生をお迎えし,第1回新潟地区胃カメラ同好会がもたれた.その後,原義雄先生も県立癌センターで多数の症例を手がけられ,38年末には中央より村上忠重,白壁彦夫,信田重光らの諸先生がお出でになり,大いに啓発され,かつ刺激を受けた.かかる気運のもとに39年8月新潟大学の内科,外科,放射線科,病理の助教授,講師の先生方が中心となり,新潟内視鏡同好会,新潟消化器病同好会が設立された.前者は偶数月に胃カメラの読影,診断を中心とした症例検討を行ない,県内各地より集まった50名の同好者により活澱に討議されている.後者は2月と7月の年2回,学会形式で消化器全般に亘る演題発表が熱心に行なわれ,毎回150名程集まり,年々隆盛をみていることは誠に嬉しいことである.

松山胃腸疾患研究会 土井 偉誉
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 漱石の坊ちゃん,道後の湯で名高い四国松山は,気候温暖な地ではありますが,また,悪性新生物の多発地域でもあります.昭和41年度の統計をみますと,人口10万対の悪性新生物による死亡率は,全国の110.8に対し,愛媛県は133.2と高値を示しています.このような環境も手伝ってか,既に昭和35年に,松山市医師会学術部が中心となり,悪性腫瘍懇話会が年4回開かれ,主として悪性腫瘍の化学療法,放射線治療に関し意見の交換が行なわれていました.この会は,昭和37年春より病理専門の方々の努力により,CPC形式の討論の会と変遷,発展し,開催回数も隔月にもたれるようになり,現在に至っています.

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 最近電子計算機の導入につれ,経営革命ということがさわがれている.会社の経営にあたっては,常に利害得失の見込みを判断しなければならないが,従来この判断は経験とか第六感によって行なわれてきた.ところが,電子計算機による判断がこのような経験的判断を凌ぐことが次第にわかってきたことが,経営革命ということがいわれるようになった理由であろう.

 電子計算機がこのようにすぐれた判断を下しうるのは,決定理論,オペレーション・リサーチ,システム工学,情報理論などという新しい学問を利用しているからだと考えられる.

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 和田正久教授のご指導で,若い二人のインターン生も加わって書かれた「内科診療必携」を読んで,またひとつ,日本の医学教育を脱皮させようとする試みがなされたことを発見して,大変愉快になった.

 序文にもあるように,この書は,医学教育に失望しかけた二人の若い医学徒のエネルギーが,二人の有能な教育者によって,上手に学問に転向された結晶である.随所に四者のはげしい気合が感ぜられる,教育は機構よりも人であり,教え教えられる人々の間の和であることを改めて痛感した.

編集後記 田中 弘道
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 本号は多賀須博士の精力的なMénétrierの原著の紹介にはじまり,全巻巨大皺襞に関するものが集録され,期せずして現時点における本症の具体的な指標が示された.

 特定な疾患では原著の正確な理解が不可欠であることは言うまでもないが,本症は原著が仏語であったためか症例の取り扱い方にかなりの混乱と幅があったことはいなめない.詳細な原著の解説および症例をお読みになった読者は今後巨大皺襞例に遭遇した場合,そのまま診療に役立つものと自負している次第である.

基本情報

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胃と腸
3巻5号 (1968年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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