今月の主題 前癌病変としての胃潰瘍とポリープの意義
胃潰瘍の部
前癌病変としての胃潰瘍の位置
川井 啓市
1
1京都府立医科大学増田内科
pp.713-715
発行日 1968年6月1日
Published Date 1968/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403110811
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時間が少ないので先に結論を述べたい.第1に癌性潰瘍の経過を観察して気付くことは一部の癌性潰瘍,これには進行癌と潰瘍形成型の早期癌も含めて,ニッシェの縮小するものがあり,ために経過観察のみに頼れば良性潰瘍との鑑別は時に楽ではないこともある.したがって胃潰瘍の経過観察をしながら,癌が出たからといって,これが果して良性潰瘍を基礎として発生したかどうかは,直ちには結論づけられない.第2にそのような条件を考慮しても,やはり胃潰瘍の経過観察をしている症例のなかには良性潰瘍からの癌化とは言わないまでも,これを基礎にした癌とみられる例が僅かながらあるということである.私達が潰瘍の経過観察をしている対象は瘢痕も含めて6カ月以上の観察例408例で,このうち癌がみられたのは総数7例である.そのうちの3例は,観察していた良性潰瘍とは全く別の無関係の場所に癌が出てきた.したがって残りの4例が潰瘍なりその辺縁の場所に癌を証明していることになる.第3の結論としては,私達の観察の症例も4年,5年,6年といった長期の観察例数になってくるとまだ非常に少ない.したがってその中で出てくる癌の頻度だけでパーセンテージを出して良性潰瘍の癌化率を問題にするのは時期尚早の感がある.現在のところではその癌化率は408例中の4例で大体1%ということになるが,Ul-Ⅱの瘢痕,Ul-Ⅲの瘢痕などの診断技術が一層向上して,しかも他覚的な判定にたえる症例数がもっとふえた時期に初めて潰瘍の癌化率の問題が正当に評価できるのではないかというのが私の結論である.以下興味ある2,3の症例を供覧する.
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