胃と腸 26巻3号 (1991年3月)

今月の主題 早期胃癌の内視鏡的切除(1)―根治を目的として

序説

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 早期胃癌の内視鏡治療は何らかの理由で胃切除術ができない患者に対してレーザー治療を主体として十余年前より行われてきている.今日,ここに序説を記すには内心忸怩たるものがあるが,本誌では“根治を目的として”取り上げるので少し角度を変えて述べてみる.

 人の能力は多種多様であるが,それぞれ限界があり,その殻の中で考え,表現し,努力実行が果たされている.この殻を突き崩すことは必ずしも容易でなく,これを脱却して新しい視野の中で事象を開拓してゆくことのできる人こそ学問の進歩に寄与できる.

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 要旨 外科的切除された1cm以下の早期癌87例の癌浸潤先進部を検討し,陥凹型では4.1%,隆起型では7.1%に数個の正常腺管を挾んで非連続的に癌が認められ,最大幅は5腺管であったことから,内視鏡的切除の標本において癌と断端との間に正常腺管が10腺管介在することを根治切除判定の基準と定め,切除断端所見と予後の関係を調べた.当科で1cm以下の内視鏡的切除を行った58例61病変を対象にした.切除標本は平板に固定し,2mm間隔で全割し,深達度と粘膜面上での拡がりについて調べ,術後6か月以上(平均観察期間は21.4か月)経過観察し予後を判定した.癌と切除断端との間に正常腺管が10腺管(距離にして約2mm)以上ある34病変では再発はなく完全切除と考えられ,断端に癌は認めないが10腺管以下の17病変では17.6%に再発がみられ,不完全切除と考えられた.明らかに断端に癌陽性の遺残切除10病変では40%に再発がみられた.したがって,再発は切除断端の所見に左右され,根治を目的とした場合は完全切除の判定が必要と考えられ,また,不完全切除例と遺残切除例は胃角部から胃体部の小彎と後壁に多くみられ,占居部位による技術的な問題があると考えられた.

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要旨 外科切除早期胃癌612例について,リンパ節転移の有無を中心に臨床病理学的立場から検討した.転移率は全癌11.4%,m癌2.4%,sm癌22.1%であり,男性8.1%,女性17.4%と女性に高く,癌最大径が増すに従って増加した.肉眼型別ではⅠ型25%とⅡa+Ⅱc型18.8%で高く,分化型腺癌9.7%より未分化型腺癌152%でやや高く,リンパ管侵襲程度に比例して増加した.転移のない癌は,①1cm以下すべての肉眼型・組織型の癌,②2cm以下のⅡa型癌,③2cm以下の隆起型分化型腺癌などが代表的なものであった.以上の結果をもとに早期胃癌内視鏡的根治切除術の適応として,a)1cm以下のすべてのm癌と,b)2cm以下のⅡa型癌と仮に規定し,その妥当性などについて簡単な考察を加えた.

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要旨 内視鏡的粘膜切除術の1つであるERHSEの特徴は,①HSE液の併用,②ダブルスコープ方式の導入,③切除予定線をマーキングするため切除範囲が正確であること,④回収病変の口側に点墨し位置関係が明瞭なこと,⑤組織を回収し病理組織学的に治療効果を判定できること,である.早期胃癌に対し今回ERHSEの評価を切除率,癌遺残率,合併症,今後の課題,予後などについて検討した.対象は1982年5月から1989年3月までに本法が施行された早期胃癌160例164病変とした.ERHSEのみの切除成績は90.0%であり内視鏡治療として十分満足できるものであった.死亡例,重篤な合併症は認められなかった.消息判明率99.3%で5年生存率は82.3%であった.胃癌直接死亡例はなかった.追加外科的切除は14例であった.局所遺残・再発は2例のみであった.経過観察144例には再発は認めていない.以上からERHSEは早期胃癌に対して優れた根治的内視鏡治療法の1つである.

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要旨 早期胃癌100例104病巣を内視鏡的切除した.Ⅰp,2cm以下のⅠs・Ⅱa,1cm以下Ul(-)Ⅱcの分化型腺癌と,胃底腺領域以外の5mm以下のⅡcの未分化型腺癌を適応としている.組織学的に多量の粘膜下浸潤があれば,胃切除をする.病巣を把持鉗子でつまみ上げ,あらかじめ行ったマーキングが残らないようスネアで絞抱する.続いて出血予防に50%グルコースを局注し,高周波で切除する.現在,合併症はない.適応内のものでは断端癌陽性は35病巣(36%),うち9病巣に遺残を認めた.生検癌陰性化後1年未満を除くと遺残率は11%である.遺残は胃角,胃体・前庭小彎のものにあったが,マイクロ波凝固で生検癌陰性となった.手技の工夫,適応の慎重な選択が肝要である.

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要旨 早期胃癌に対する根治を目的とした内視鏡治療の適応は,多数の手術早期胃癌の病理組織学的検討から,リンパ節転移のない20mm未満・Ul(-),10mm未満・Ul(+),深達度mの分化型腺癌と考えている.その治癒判定では回収組織の詳細な病理組織学的検索が必須であり,筆者らは高周波電流を用いた2チャンネルファイバースコープによる内視鏡的切除術を施行してきた.1978年から1989年までの12年間に247例256病変の早期胃癌に本法を施行,全症例に追跡調査がなされており,内視鏡的治療による最終治癒率は86.2%であった.一方,症例の蓄積と共に経過観察中11例で他部位に新たな癌病変を認めており,術後のfollow-up内視鏡検査では切除部位だけでなく,癌発生母地を考慮した胃全体の注意深い観察が不可欠であることを強調したい.

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要旨 実体顕微鏡観察下における癌の診断限界をみる目的で,①質的,②拡がり診断,に分けて検討した.①質的診断では組織像にかかわらず,最大径が3~5mmの癌病巣であれば拡大することで,虫食い,無構造な表面像を有する段差,集中するひだの不規則なやせといった早期胃癌の肉眼的特徴が観察され診断可能であった.②拡がり診断では分化型と未分化型癌で診断の限界に差がみられた.分化型癌例であればAH染色実体顕微鏡観察像からの拡がり診断と連続切片による組織学的再構築像による拡がり診断とはほぼ一致していた.一方,未分化型癌では,その両者の診断領域に不連続な癌進展により3~4mmの差があった.したがって,実体顕微鏡観察下に癌進展を推定し組織標本を作製することは分化型癌例では切除断端における癌遺残の判定に有効であると考えられたが未分化型癌例では切除断端における不連続な癌進展によりfalse negative caseが生じる可能性が示唆された.

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 〔患者〕44歳,女性.主訴:心窩部不快感,嘔吐,家族歴:弟が白血病,叔父・叔母に胃手術歴があるが疾患は不明.既往歴:1988年8月20日食後,コーヒー残渣様吐物を嘔吐し近医を受診,胃透視で異常を指摘され当院を紹介された.

早期胃癌研究会

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 1991年最初の例会は1月16日,司会は斉藤(東京医大)と小越(新潟がんセンター)で,例年どおり3題の出題であった.

 〔第1例〕65歳,男性.早期食道癌,small cell carcinoma(症例提供:岐阜大学放射線科井上).

 X線読影は八巻(虎の門病院放射線診断学科)が担当.食道のⅠmに中心陥凹のある境界明瞭な隆起病変がみられ,病変の大きさは1.5椎体ぐらいで,周辺の粘膜面は正常.質的診断は上皮内進展や浸潤のみられない癌で,深達度は食道口径に変化がないことからsmまでとした.吉田(都立駒込病院外科)から病変がドーナツ型で潰瘍底がきれいで平滑であることから通常の癌とは異なり,分化度の低い扁平上皮癌か,またはsmall cell carcinomaが強く考えられるとの意見があった.内視鏡は長野(仙台市医療センター)が読影し,周堤を伴った潰瘍で,周堤は正常粘膜で覆われており,ルゴール不染の潰瘍底に癌がみられる(Fig.1).潰瘍底がきれいであることなどから,非上と皮性の悪性腫瘍で,鑑別としては低分化型食道癌とした.

 病理所見は下川(岐阜大)から説明があり,粘膜下までのsmall cell carcinomaで3.8×2.4cmであり,肉眼所見はその像をよく反映しているものであった.(小越)

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要旨 患者は52歳の男性で,上部消化管X線検査および内視鏡検査により滑脱型食道裂孔ヘルニアが発見され,そのヘルニア内にⅡc+Ⅱaおよびその後壁側に小さなⅡcを認め,内視鏡下生検により,それぞれ扁平上皮癌と腺管腺癌と診断された.手術標本の病理組織学的検索では,粘膜下層まで浸潤した低分化型扁平上皮癌(19×15mm)の辺縁帯に接して,粘膜層内にとどまる腺管腺癌(9×6mm)があった.更に精査したところ組織学的に両者が衝突している部位が確認された.衝突部位では粘膜表層の一部に腺管腺癌が存在し,粘膜深層から粘膜下層まで低分化型扁平上皮癌が浸潤し,両者の間に形態的移行像は認められなかった.以上の所見から噴門部における衝突癌と診断した.

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要旨 患者は77歳,男性.心窩部痛のため胃集検を受診,胃体部の粘膜異常を指摘された.精検で前庭部前壁側に,周辺部が褪色調のなだらかな盛り上がりを示し,中央部が結節状を呈する不整な隆起性病変が認められ,生検で形質細胞腫または形質細胞への分化を示す悪性リンパ腫と診断され,胃全摘術を施行.手術標本の組織学的検索で広範囲にわたるmixed typeのlymphoma cellの増生が認められ,また,リンパ腫病巣とは独立して広範に腫瘍性形質細胞が存在した.比較的短期間のうちに病像が著しく変化し形質細胞腫との鑑別が困難であった胃悪性リンパ腫の1例を報告し,胃癌および胃形質細胞腫との鑑別について考察を加えた.

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要旨 患者は37歳,女性.慢性関節リウマチ(classical, stageⅢ, class 2)に回盲弁の非特異性潰瘍を合併した1例について報告した.病変は回盲弁に限局しており,内視鏡所見では回盲弁の上唇と下唇に白苔を有する円形の潰瘍が1個ずつみられ,周辺は肉芽様に盛り上がっていた.生検材料の組織所見は好中球,リンパ球浸潤の高度な肉芽性問質を有する組織で,特異性炎症や血管炎の所見はなかった.潰瘍はステロイドの急激な減量によって悪化し,増量,慎重な漸減によってコントロールされている.本症例の潰瘍は自己免疫疾患である慢性関節リウマチに合併し,しかもステロイド剤でコントロールされており,潰瘍の発症機序を考えるうえで興味ある症例と考えられた.

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要旨 患者は61歳,男性.1年前から便秘気味で,4か月前より排便障害が強くなり,左下腹部痛が出現したため,当科外来を受診した.初診時に左下腹部に一致して5×4cmの硬くわずかに可動性のある腫瘤を触知した.腫瘍マーカーに著変はなかったが,注腸透視,腹部CT検査,大腸内視鏡,下腸間膜動脈造影など,各検査所見から下行結腸癌と診断し,左半結腸切除術を施行した.腫瘍は5.0×5.5×5.2cmの腫瘤型(Borrmann 1型)で,組織学的には中分化腺癌で,間質に明らかな骨形成を認め,骨周囲および骨内に造骨細胞および破骨細胞を認めた.大腸癌の原発巣に骨化を伴った比較的まれな症例を経験したので報告した.

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要旨 直腸孤立性潰瘍(以下SRU)から大腸深在性囊胞症(以下CCP)への移行を観察しえた症例を経験した.患者は16歳,男性.主訴は下血,排便障害.初回内視鏡検査で直腸に潰瘍を1つ認めた.生検ではfibromuscular obliteration(以下FMO)を認め,SRUと診断した.FFG4の投与と排便指導により主訴は消失した.2回目の内視鏡検査では粘膜下腫蕩の形態を呈していた.局所切除が施行され,病理診断はCCPであった.FMOはほとんど消失していた.SRUの病因を機械的なものとする説や,FMOは機械的刺激によるとする説があることより,CCPへの移行は機械的刺激の消失によると推察された

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要旨 患者は65歳,男性.主訴は全身倦怠感,他院US検査で膵頭部囊胞性腫瘤像を指摘され入院.US,CT検査では膵頭部に径約4cmで内腔に乳頭状突出像を伴う囊胞性病変が認められた.十二指腸内視鏡では主乳頭開口部の開大と少量の粘液排出がみられ,ERPでは膵頭部に主膵管と交通し,陰影欠損のある不整形の造影剤の貯溜と体尾部主膵管の拡張がみられた.以上から膵管分枝に発生した粘液産生膵癌と診断,膵頭十二指腸切除を施行した.病理組織学的に腫瘍は多房性囊胞病変で内腔に突出する乳頭腺癌,膵実質に浸潤する粘液癌,蜂巣状の腺腫が混在した.t2,n(-),s0,rp0,pv0,stageⅡ術後1年8か月現在再発の徴候なく健在である.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の精密検査法

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 精密検査を行ったからといって,必ずしも病変を正確に表し,診断できるとは限らない.検査や読影の思わぬ失敗も少なくない.ここでは,日常の胃X線精密検査で遭遇するピットホールについて述べる.

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 1.はじめに

 X線検査における精密検査とはルーチン検査により指摘された部位をねらい,その病変をX線的に忠実に描出して,表面の性状,範囲,深さなどが読影可能な像を得る目的で行われる.ルーチン検査で撮影された像においても,これらの所見が得られることが望ましいが,多人数を対象として行われるルーチン検査では難しいことが多い.このため,より多くの情報を得るために改めて精密検査が必要となる.しかも,精密検査においてうまく撮影されたX線像は切除標本とほぼ同じ像が得られ,本検査の醍醐味はこんなところにもある.

2.精密検査のピットホール 中野 浩
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 このテーマを引き受けてから何を書いたらよいか困ってしまった.本来,精密検査には落とし穴はあってはならないし,落ちてはならない.ここでは失敗症例を挙げて教訓めいたことを書く羽目になってしまった.

 〔症例1〕58歳,男性.Fig.1の後壁二重造影像では幽門前底部大彎側の矢印の所に不整形の微小バリウム斑があり,微小癌と診断される.胃体上部後壁にも粘膜ひだ集中を伴う病変がある.幽門部の周辺隆起を伴う微小陥凹からは生検で癌の所見が得られ,微小癌と胃体部の潰瘍瘢痕の診断で胃切除術が施行された.Fig.2の切除標本では矢印の所に長径5mmの微小癌がある.断端部付近の胃体部後壁には集中する粘膜ひだの"やせ"が全周性に追えるⅡcがある.口側断端owは辛うじてマイナスであった.この切除線近くのⅡCは悪性サイクルを経過した病変で,最初大きな活動性潰瘍のあった時期の生検で癌細胞が認められなかったので,つい油断して胃潰瘍と診断してしまった."はやとちり"で一度良性と思い込んでしまうとなかなか診断を変えることができない.常に冷静な目でX線所見を読影することが大切である.そして,絶えず多発病変の有無にも注意を払う必要があることは言うまでもない.

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欧文目次

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 Evaluation of antral mast cells in nonulcer dyspepsia: Matter SE, et al(Dig Dis Sci 35: 1358-1363, 1990)

 非潰瘍性消化不良症状(nonulcerdyspepsia)とは,食事でしばしば増悪するびまん性の心窩部不快感,随伴する腹満感,悪心,嘔吐とされているが,その病態生理は不明で,症状は似ていても幾つかの異なる成因の疾患群が混在していると思われる.著者らは,上記の症状を訴えるが消化性潰瘍は有さない255名を対象に,臨床症状と生検を含む内視鏡検査所見の検討を行った.殊に生検材料についてはアルシアンブルーの特殊染色を施行し,mast cell数と症状との関連を検討した.mast cell数は,当初の100例の検討で,細胞数の多い順の上位10%の患者が強拡大視野に11個以上であったので,そこで一線を引いた.

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 文献的には記録がないが,1987年フランスの開業医Mouretにより初めてなされたとされる腹腔鏡下胆摘術は,1988年,同様フランスのPerrist,Duboisらにより,また米国のSchultzやReddickらによって1989年,臨床成功例が報告されるに及び,Minimum Invasive Surgeryの理念に沿う手術手技として注目を浴び,世界的なブームを巻き起こした.胆摘術以外にも現在,虫垂切除,迷走神経切除,癒着剥離,ヘルニア修復術などが腹鏡下に既に行われているが,今後,同様な方法で行う新しい手術手技がどしどし開発される勢いにある.

 実際に著者は,腹腔鏡下胆摘術を手掛け,腹腔鏡が開腹術に勝る明確な視野を与えてくれることに驚嘆した1人であるが,著者と同様,多くの外科医は腹腔鏡の修練を受けたことはなく,その有用性も,またいかに用いるべきものなのかも知らないのが普通であろう.その意味で本書は,初心者である外科医にとって,実に機を得て到来した良き参考書と言える.

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 Precancer and cancer in extensive ulcerative colitis:findings among 401 patients over 22 years:Lennard-Jones JE, et al(Gut 31:800-806,1990)

 潰瘍性大腸炎(UC)において大腸癌発生率が高いことはこれまでに多くの報告がある.全大腸炎型のUCは,その中でも特に高いと考えられている.これらの症例の多くはその症状から全大腸切除術により治療されることが多いが,比較的症状が軽く必ずしも大腸切除を必要とせず内科的治療で経過観察されている症例もある.これらの症例に合併する大腸癌の早期発見とそれを可能にする外来検査の方法の確立は重要なことである.

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 「医療,医学は患者と共に始まり,患者と共にあり,患者と共に終わる」(ウィリアム・オスラー).ある有名教授が言った.「教科書に書いてあるのはウソである」と.教科書は最大公約数的な,普辺的な事実を記載しているのであって,決して間違ったことを書いているのではない.系統的な知識体系を学びとるには必要なものである.しかし,患者の示す病像は多彩であり,系統的な成書のみを参考にしていては日常の臨床で思わぬ不覚を取ることがある.もともと刺激に対する生体の反応は一様ではない.教科書の記載とは様相を異にする症例に遭遇することもまれではない.臨床の難しさは患者が多様な反応を示すことにある.そのような実例を示してくれるものは臨床の実際に有力な指針となるものである.

 このような目的に沿ったものとして,このたび,東京女子医科大学羽生富士夫教授は「膵疾患アトラスー症例に学ぶ診断・治療の考え方」を上梓された.同教授は「外科の神様」中山恒明教授の高弟であり,執筆された方々は羽生教授御一門の俊秀,学究の士である.同教授は消化器外科一筋に歩んでこられた方で,既に第33回日本消化器外科学会総会を主宰されている.one of the most aggressive surgeonsのほまれ高い,意欲あふれる,精惇そのものの典型的な外科医である.

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 実際に苦労を重ねた者にしか書けない視点

 医療が進んだ今日,他の疾患で死亡する人が減少するにつれて癌死亡は上昇し,現在4人に1人が癌で死ぬ状況にある.そして癌の治療医学の目覚ましい発達にもかかわらず,癌が死に直結する可能性を持つ病気であることに変わりはない.私は癌の告知とインフォームドコンセントを極力実践している.それにより,今まで意識してこなかった,もしくは避けてきた多くの問題が避けて通れなくなった.それと同時に,今までのような患者を騙し,患者の心から目を外らせたような医療では決してわからなかった難問の答えがいとも簡単にわかってきたことも事実である.本書を読んでみて,まず著者の方々の真剣な「思い」がひしひし伝わるのを感じた.そして,本書が実際に苦労を重ねた者にしか書けない視点を備えており,これから苦労をする人にとって極めて有用な内容であることに感心させられた.

 癌の医療に正面から取り組めば取り組むほど,医療従事者は逃れられない多くの問題を抱え込む.癌を告知してインフォームドコンセントに基づいて医療を進めるとき,今までになかった多くの利点があるかわりに,新しい問題も生じてくる.癌の告知を受けた直後,治療が肉体的また精神的に辛い時期,治療が無効で積極的治療を断念しなければならないとき,末期で痛みの激しいときなどをどう乗り切るかが鍵になる.

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 In vivo evaluation of monopolar versus bipolar electrosurgical polypectomy snares;Tucker RD, et ai(Am J Gastroenterol 85: 1386-1390,1990)

 大腸ポリペクトミーによる穿孔の頻度は0.04~0.5%と報告されている.著者らはポリペクトミースネアのワイヤーループの1か所からポリープを通してワイヤーループの別の部位へ電流を流す双極スネアを開発した.

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 このたび,医学書院から「抗炎症の選び方・使い方一第3版」が出版された.この本は,本邦を代表する炎症学・リウマチ学の第一人者である聖マリアンナ医科大学水島裕教授と東京女子医科大学柏崎禎夫教授の肩のこらない対話形式で納められている.初版から8年の経過で3版5刷の改訂・発刊がなされ,これだけみても,いかにこの分野が著しい進歩を遂げているかがわかるが,近年の目覚ましい医学の進歩が炎症学,免疫学,リウマチ学にも大きく寄与していることが指摘されている.

 解熱,鎮痛,抗炎症と,その使用目的はともあれ,抗炎症剤を使用しない臨床家はいないと言っても過言ではない.その使用範囲もさることながら,薬剤の種類も多く,また,drug deiivery systemにより多種類の剤型と使用目的に応じた薬剤が開発されている.これらを十分に使いこなせることができれば,患者により良い医療をもたらすことができるが,この本は患者に最も適した薬剤の選択と使い分けを懇切丁寧にわかりやすく解説している.

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 初めにお断わりしておくが,本法は非常に細い針を用いて腹壁を通して病巣から直接細胞を取る方法である.ごくありふれた総合病院で日常業務として病理診断,細胞診断に携わっている一人の病院病理医にとって,ここ10年ばかりの急激な方向転換はかつて経験のない激しい変化である,その原動力の一つは画像診断の進歩であり,もう1つは免疫組織学的,分子生物学的方法論の適用である.

 一方,わが国は歴史上例をみない長寿社会に突入し,医療界もこれへの対応からより迅速により正確な診断を迫られている.積極的な手術適応範囲も拡がっている一方では高齢化に伴い消極的,保存的治療が正しい選択となる症例も増加している.これらの選沢は正しい診断のもとでこそ可能で,しかも患者への最小限の侵襲で確立する必要がある.

編集後記 岡崎 幸紀
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 “胃癌の内視鏡的治療”の特集(19巻8号)で本誌に登場した胃粘膜切除法が,“内視鏡的胃癌粘膜切除の臨床”(23巻4号)を経て本号の特集となった.この特集から,早期胃癌の内視鏡的切除法は,なお数々の議論はあるにしても,既に治療法の1つとしての地位を築いたと確信した.本号の論文を読ませていただいて思うに,企画に際して,あらゆる方向からの検討をと苦労したが,各論文の内容はいずれも同一方向の流れをのみ示している.逆に言えば,それだけコンセンサスの得られた治療法となってきた,ということになる.

 それゆえに,この治療法の適応条件と効果判定基準の確立が急がれる.今回の特集でそれぞれの最大公約数的なものは得られるが,臨床の場ではしばしば躊躇させられる.全国レベルでの早急なガイドラインの確立が望まれる.治療法として歩き出した以上,医療としての患者に対する責任でもある.

基本情報

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胃と腸
26巻3号 (1991年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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