胃と腸 19巻1号 (1984年1月)

今月の主題 Panendoscopyの評価(1)

序説

  • 文献概要を表示

 panendoscopyの本来の目的と意義は,1回の内視鏡検査で,食道から胃,十二指腸を一気に観察し,上部消化管の内視鏡的変化の全体像を的確に把握することにある.したがってpanendoscopeと称して市販されている細径の前方直視鏡を,患者の苦痛が少ないからと言って,胃だけをみるために漫然と用いているなどはpanendoscopyとは言えない.要するに観察しうる上部消化管の“すべてを隈なくみる”といった内視鏡検査の基本的在り方,姿勢,精神が重要な意味を持つものであり,これを踏まえて実行されてこそ真のpanendoscopyと言える.

 近年,わが国においても急性胃病変をはじめとする消化管の急性粘膜変化についての関心が高まるにつれて,panendoscopyの必要性がますます認識されるに至った.そして必然的にそのためのpanendoscopeの開発と改良工夫がなされてきた.その結果,上部消化管診断におけるpanendoscopyの普及は目覚ましく,その有用性は今日ほとんどの人が認めている.

  • 文献概要を表示

要旨 胃内視鏡検査におけるpanendoscopyの有用性について,われわれの経験とアンケートをもとに検討した.いわゆる細径,中径のpanendoscopeの出現により,胃を含めた上部消化管のスクリーニング検査をはじめ,広くpanendoscopeが使用されるようになった.従来の内視鏡に比較し,操作性,観察能に優れ,また,被検者の苦痛が軽減されたからである.これらのプラス評価は,われわれの胃集検,臨床のデータ,日本消化器内視鏡学会評議員のアンケート回答からも得られている.現時点でのpanendoscopyの問題点は,胃体部後壁の観察の不利,記録性の不良であろう.また,被検者の苦痛も,検者が考えるほど軽減されてはいない.胃の内視鏡検査は,X線に比較し,立体感,色調の情報に優れ,被曝の問題もなく,今後,X線に代わり胃スクリーニング検査は,panendoscopyとなるであろう.しかし,胃内視鏡検査の将来を考えるとき,panendoscopyの問題点の解決は,現在の器械の改善で解決されるであろうか.極端に言えば,現在のグラスファイバーを中心とする機構では限界に達しているのではなかろうか.更に優れた操作性,観察能,記録性を求めて,また,被検者の苦痛を減らすためには,根本的にその構造を考え直す必要があるのではないかと思っている.

  • 文献概要を表示

要旨 上部消化管を食道から胃,十二指腸に至るまで,一連の臓器として内視鏡的に観察しうるpanendoscopeの臨床的意義が大きいことは言うまでもない.しかし,胃内視鏡の精密検査という見地からみると,現状の前方視式のpanendoscopeの胃内観察能には問題がある.第1に胃体部小彎および後壁の病変を正面視することが困難であること,第2に広角であることによるメリットと共に,デメリットとして,狭視野角に比し,同一距離(レンズと対象間)における拡大効果が少なく,微細観察能が劣ることである.したがってpanendoscopeを使用する際には,このような短所に留意し微細病変を見逃さないように注意すると共に,病変の部位によっては,比較的狭視野角の側視式ファイバースコープを活用する必要性を主張した.

GTFとその役割 小黒 八七郎
  • 文献概要を表示

要旨 panendoscopeが著しく普及している今日におけるGTFタイプの意義は側視鏡であることと先端胃カメラによる優れた写真が撮れることにある.panendoscopeが全上部消化管の内視鏡検査ができるのに対して,GTFタイプは胃専用である.GTFタイプは胃カメラにファイバースコープが付いたもので広義の胃カメラとも言える.最近のGTFは先端ランプとライトガイドによる照明方式とがあり,それぞれに生検のできないSタイプと生検のできるBタイプがある.GTFタイプでは観察に引き続いて優れた胃カメラ写真撮影が可能であり,その写真を詳細に読影して診断を行う.この写真の読影によって,観察時に見逃された病変が発見されることがあり,GTF写真の読影は極めて重要である.panendoscope写真は近年著しく良くなったが,一般には観察時の診断に主力が置かれている.GTFタイプは側視鏡であるため,食道や噴門に禁忌となるような疾患のないことをX線検査またはpanendoscope検査で確かめることを原則としている.panendoscope検査は容易であるためにX線とGTF検査にとって代わりつつあるが,より詳細な胃疾患の診断や経過追跡にはGTFタイプを用いるべきであろう.

  • 文献概要を表示

要旨 細径前方視鏡による上部消化管スクリーニングに際して筆者らが行っている方法を紹介した.明るい光源と強く曲がるアングル機構は良い検査の必要条件である.食道入口部の立体的位置関係と,頸部および胸部食道の解剖学的差はよく理解しておきたい.胃では胃体部をいかにして洩れなく観察するかがキーポイントであり,各部を少なくとも2つの異なった方向から見る必要がある.球部後壁を完全に見るには,介助者の協力を得ることが効果的である.全景を概観できないことが内視鏡検査の宿命である.順を追って各部を40コマの写真に収める方法を最後に示した.

  • 文献概要を表示

 並木(司会)本誌1月号,2月号は特集"panendoscopyの評価"を取り上げました.そこで今日は上部消化管診断におけるpanendoscopyの有用性と問題点,そして,それを踏まえた診断上の位置づけについて,皆さんに御討論願いたいと思います.

 まず最初に皆さんが日常の診療においてpanendoscopyをどのように考え,具体的にどのように行っておられるか,それからお話をうかがいたいと思います.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅰ
  • 文献概要を表示

 A 54 year-old man was admitted to our hospital on August 19, 1983 for detailed examination of a polypoid lesion pointed out by gastric mass survey, although he had no abdominal complaints. Family history was not contributory. Physical examination was normal. Stool was positive for occult blood. Urinalysis, blood count, and blood chemistry were within normal limits.

 Double contrast radiograph showed the spherical semipedunculated lesion with uneven contour on the posterior wall of the middle gastric body (Fig. 6). Compression radiograph revealed the nodular surface of the lesion with tiny barium flecks. This lesion was movable by the change of posture and compression (Fig. 7).

  • 文献概要を表示

 このCoffee Breakの欄に,昨年(1983年)の1月号から7月号まで,膵癌の早期発見に関して,普段思っていることを中心に書きました.膵癌の早期発見のスクリーニングの1つに,アミラーゼ値が有用であったことを経験していますが,臨床経験の中でわれわれが考えていた事柄が,実験膵癌では果たしてどうなのか,常々気にかかっていました.

 多くの動物に発生する膵癌は,腺房細胞癌が多いが,この腺房細胞癌はヒトではまれで,最近,ヒトに多く認められる膵管上皮由来の腺癌と同様の腺癌が,nitrosoamineの種々の誘導体によってハムスターに発生することが報告されています.nitrosoamineの誘導体の中で,N-nitrosoamine(2-oxopropy1)-amine(BOP)による実験膵癌は,膵に選択的に膵管由来の腺癌が高率に発生しますが,この実験膵癌とアミラーゼ値との関連が高橋道人氏らにより報告されていますGan 72: 615-619, 1981).実験膵癌の発生と血中および尿中の膵性アミラーゼを経時的に検討した結果は,腫瘍の結節が小さい早期では膵性アミラーゼ値は血中および尿中において著しく上昇しており,末期において,腫瘍の結節が大きくなると膵性アミラーゼ値は低下し,正常値に近くなることが判明し,膵癌の発生初期に非特異的な限局性膵炎が必発してくる事実に注目しています.

  • 文献概要を表示

 緑青の屋根とクリーム色の壁が見事な調和をなすザビエル記念聖堂.その尖塔から時折聞こえてくる鐘の音は,都会の喧噪を逃れてきた者の耳に快よく響き,憩のひとときを与えてくれる.秋の気配が漂う“西の京”山口.ここには,学術集会の場にふさわしい,落ち着いた佇いがあった.

 1983年10月13日から3日間,山口市で開かれた第25回日本消化器病学会大会は,これまでの合同秋季大会に終止符が打たれた後の,初めての秋の学会に当たる.竹本忠良会長は,この記念すべき大会に相応しく,消化器病の主要部分を網羅するような多彩なプログラムを組まれ,3,000人を越える参会者に充実した知的刺激を与えると共に,多くの話題を提供された.

  • 文献概要を表示

 今回の第25回日本消化器病学会大会は歴史と伝統の町並みに近代的建築の調和した政都山口市で開催された.初日午後こそ秋雨にみまわれたが,2日目,3日目は晴天に恵まれ,多方面にわたる豊富な内容の講演,シンポジウム,ワークショップが企画され,また多種多様な一般演題でも活発な質疑応答が繰り広げられた.

 下部消化管領域では課題特別講演(3)において東大第1外科の武藤氏が大腸ポリープと癌について講演した.武藤氏はまず従来大きな腺腫に癌化のポテンシャルが高いとされてきたことを述べ,次いで内視鏡的摘除ポリープの検索により,1cm以下の短茎・無茎性の小さな腺腫にも予想以上に腺腫内癌が見い出されている事実を強調した.また一方で明らかにde novo癌と考えられる症例を提示しつつ,大腸癌の発生母地としては,これらの小さく扁平な腺腫の癌化に注目し,その粘液組成の変化など様々な検索を進める必要性を強調した.

  • 文献概要を表示

 第25回日本消化器病学会大会は,山口大学の竹本忠良教授を会長に,10月13日から3日間にわたって山口市において開催された.今大会は,例年の消化器系3学会の合同秋期大会が分離独立した直後のものであったが,竹本会長陣頭指揮のもとに山口大学第1内科学教室の方々の御努力により,春の消化器病学会総会に勝るとも劣らぬ盛大な学会であった.筆者の担当した肝・胆・膵の領域の発表は,外人招聘講演1,特別講演3,シンポジウム7,一般演題355にも及び,とても全部を聞くことはできなかったので,特別講演とシンポジウムを中心に今大会の印象を記してみたい.

 肝臓部門の発表は従来より本学会の中心をなすもので,今回も特別講演として“B型肝炎ウイルスキャリアをめぐる諸問題”(新潟大,市田文弘教授),“ビリルビン代謝”(岡山大,小坂淳夫名誉教授),シンポジウムとして“肝癌の前癌性病変”,“劇症肝炎の治療”,ポスターシンポジウムとして“脂肪肝をめぐる諸問題”などがあり,また一般演題も246題の多数に及んだ.特別講演の2題は,いずれも長年の研究の集大成とも言うべき見事な講演であり,会員に深い感銘を与えた.特に近年大きな社会問題になりつつあるHBVキャリアに対する予防対策(HBe抗原を指標とする)と感染防止対策(HBグロブリン,HBワクチン併用)が確立されつつある意義は大きいと思われる.シンポジウムのうち筆者が最も興味を持って聞いたのは,“劇症肝炎の治療”であったが,治療法の中心となっているのは,G-I療法,血漿交換療法,GO-80療法などで,これらの併用によって救命率はかなり向上してきている.しかしながら多くの報告では,救命率はまだ50%以下であり,今後消化管出血,脳浮腫などの合併症に対する対策の一層の検討と共に新しい療法の開発が望まれよう.なお,肝癌の前癌性病変の解明についてはまだ不完全であり,その診断も含めて今後の大きな課題となろう.また脂肪肝については,発生機序や病態はかなり明らかにされ,診断にはUS,CTが有効であることが証明された.

  • 文献概要を表示

 去る11月16日(水),第26回日本消化器内視鏡学会総会第1日目の夜,大阪市SABホールにて,恒例の「胃と腸」購読の諸先生全国大会が開催されました.世話人の大柴三郎先生(大阪医大・第2内科)より“今回は大阪胃研究会が中心になって症例が吟味されて選ばれた”と挨拶があり,また早期胃癌研究会代表の市川平三郎先生(国立がんセンター院長)から“東京の例会に負けない,大阪の味のある活発な討論を楽しみたい”と話された後,奥田茂(大阪府立成人病センター)・高見元敞(市立豊中病院)両先生の司会で会が進められました.今回は,①市立豊中病院外科,②大阪医大第2内科,③大阪府立成人病センター,④市立枚方病院,の4例が供覧され,300名を越える諸先生の参加を得て会場は終始熱気あふれるディスカッションが続きました.

  • 文献概要を表示

 胃の良性・悪性境界領域病変である異型上皮(atypical epithelium)は肉眼的,組織学的に早期胃癌との鑑別が難しいが,隆起型異型上皮に関しては,X線・内視鏡診断の進歩と生検の普及によってほぼ正確な診断がなされている.しかし平坦型・陥凹型異型上皮や隆起と陥凹が混在している異型上皮については,症例も少なく,鑑別診断も更に難しくなり,癌と診断されて手術される例も少なくない.

 今回,内部に陥凹を有する隆起性病変を胃前庭部に認め,Ⅱa+Ⅱc型早期胃癌と診断して手術を行い,術後の病理組織学的検索で異型上皮であった1症例を経験した.この症例の診断過程を中心に検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

 granular cell tumor(以下GCT)は1926年のAbrikossoff'の報告以来,今日まで多数の報告がみられる.それらの多くは皮膚,舌,口腔内,気管,気管支,乳腺などであるが,全身の臓器に広く発生している.しかし,消化管のうち胃に発生したものは極めて少なく,欧米ではAbdelwahabが1983年に18例を集計しており,本邦ではTable 1に示すように自験例を含めて7例にすぎない.筆者らは胃に発生したGCTの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

 Zollinger-Ellison症候群(以下,ZE症候群)は1955年に初めて報告されて以来,欧米では診断や治療について多数の報告がみられる.本邦では1961年村田らにより初めて報告されてから次第に症例数が増加しつつあり,当教室でもこれまで4例のZE症候群を経験している.今回は,このうち胃空腸横行結腸瘻と結腸潰瘍を伴った極めてまれな1例について報告する.

  • 文献概要を表示

 術前の病態把握が難しく,手術所見では特異な進展様式を示し,病理組織学的にも興味ある所見を呈した直腸S状部癌の1例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 Homosexualにより発症し,螢光抗体法により病変部からTreponema pallidumが証明された梅毒性直腸炎の1例を報告し,若干の文献的考察を加える.

Refresher Course・1

  • 文献概要を表示

□患者:35歳男性.

□主訴:心窩部痛.

〔初回X線所見〕(背臥位二重造影・Fig. 1▲)胃角小彎に硬化ならびにし開を認める.この部には小さいジグザグ像(Zacke)があり,硬化に一致し複線陰影を認めるが,小彎線のぼけはない.後壁側にやや広い胃小区様構造が消失している所見があるが,このX線写真だけでは,胃角部小彎側を中心に潰瘍性病変の存在を疑わせるのみで,性状診断は困難である.

  • 文献概要を表示

 基本釣な心構え

 質問 術者として上部消化管全体をX線,内視鏡で診断をしていく場合,これから始めようとする者の心構えはどんなことでしょうか.

 岡崎 一番最初にということですと,X線,内視鏡にしても,まず解剖学の勉強をもう一度してほしい.それも平面的な解剖学ではなく,立体的な解剖学です.つまり,X線で描出させるのに,身体をどういうふうに動かしたらどういう面が出てくるんだとか,内視鏡的にも側臥位になったら,食道の位置はどういう所がどういうふうに流れていっているのか,そういうことがよくわかるように,まず立体的な解剖学を勉強してほしいと思います.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 An increased familial frequency of gallstones: T Gilat, C Feldman, Z Halpern, M Dan, S Bar-Meir (Gastroenterology 84: 243-246, 1983)

 胆石症は先進国で大きな公衆衛生上の問題になっている.スウェーデンやチェコでは,胆石の頻度は20歳以上の男子の30%,女子の50%に認められたと報告され,近年その頻度の急上昇は注目されている.しかし,胆石の家族性因子については,ほとんど研究がない.著者らは胆石がX線法,手術,剖検のどれかで証明された患者の1親等の家族171名と性,年齢,出身地などをマッチさせた200名の対照群との間で胆石の頻度を比較した.まず経口胆囊造影法で検査され,写らなかった場合は経静脈造影を行い,それでも写らない場合は胆石があるものとみなした.同時に血糖,血清コレステロール値が測定された.その結果,胆石は胆石家系の20.5%,対照群の9%に発見された.男女別では,胆石家系では女子で22.8%,男子で16.7%,対照群では,女子10.3%,男子8%に認められた.これらは有意の差であった.リスク因子と言われる高年齢,肥満,血糖値,コレステロール値などは,対照群でより頻度が高かった.なかでも統計学的に有意な因子として年齢,女性,家族性,そして肥満が認められた.1937年にKörnerは,既に胆石の頻度が胆石家系では非胆石家系の約5倍であることを報告した,Jacksonらは胆石の手術を受けた連続100人の患者のうち33人に両親の1人に胆石を認めている.また,配偶者より兄弟に明らかに高い頻度をみた.胆石患者の配偶者と非胆石患者の配偶者間では頻度に有意の差を認めなかった.胆石家系で胆石の頻度上昇の理由の1つに,家族性の食事習慣が言われるが,ある研究で配偶者での頻度が高くないことから懐疑的であるが,先進国でその頻度が急上昇していることは,環境因子としての食事の関連を示唆している.遺伝的に感受性の高い人には,食事などの環境因子が特に影響しやすいのではないか.遺伝的因子と環境因子が共に作用していると思われる.今後超音波検査を用いて更に胆石の家族研究が進められるであろう.

  • 文献概要を表示

 Esophageal acid perfusion in coronary artery disease―Induction of myocardial ischemia: Mark H Mellow, Allen G Simpson, Linda Watt, Lawrence Schoolmeester, Oswald L Haye (Gastroenterology 85: 306-312, 1983)

 冠動脈疾患(CAD)では酸の食道内腔注入(および,おそらく胃食道逆流;GER)により,安静時の胸痛を生じ,これが心拍と収縮期血圧の積(rate pressure product; RPP)の上昇を招き,心筋虚血を誘発する可能性がある.食道に酸を注入して生ずる心血管系の反応を評価し,CAD患者が酸の灌流によって感ずる自覚症を調査するため,冠動脈造影で確認したCAD25人(平均53歳全例男)と冠動脈正常者12人(平均59歳男11女1)で0.1NHClを食道内腔に注入した.CADでは酸注入で胸痛を生じた者は19名,このうちβ-blockerを投与していない9名ではRPPの有意の上昇が起こり,うち3名に心電図で虚血性変化が出現した.β-blockerを投与した10名ではRPPの上昇は有意でなく心電図変化も生じなかった.CADがあっても酸注入で胸痛を生じなかった者およびCADのない者ではRPPに有意の変化を生じなかった.酸注入により胸痛を感じたCAD患者18名中10名(56%)が,これを通常の虚血性の痛みと感じていた.また,GERの症状(胸やけ,逆流感,嚥下困難)の頻度の高い者では酸注入でとう痛を生じた者が多かったが,逆流症状の頻度が低いものであっても,酸の注入でとう痛を生じた例が多くみられた.CAD患者では,酸注入によって胸痛を生ずる感受性は自覚症状からは予想できないと考えられる.CAD患者では,GERは胸痛を誘発しRPP上昇を招き心筋虚血を生じうる点で通常の胸やけ患者以上の問題となる.これとは別に,酸に敏感な食道から生ずるとう痛が安静時狭心症と誤診されることも考えられる.GERとCADを併せ持つ患者にはとう痛を予防するためにH2拮抗剤などの治療が必要であろう.

  • 文献概要を表示

 Radiation-induced cancers of the Colon and rectum: assessing the risk: RS Sandler, DP Sandler, (Gastroenterology 84: 51-57, 1983)

 骨盤内照射を受けた人は大腸癌の高危険群と考えられている.これは多くの症例報告で裏付けられている.照射による腫瘍の基準は,BlackとAckermanによれば,照射から癌の診断まで10年以上の経過を要すると提唱され,これが広く採用されている.しかしながら,すべての基準が合致してもなお,照射域での腫瘍は偶然の発生もありうる.特に照射域は元来大腸癌がしばしば発生する所であるからだ.Castro らの報告は最大のシリーズで,26例の子宮癌照射後の大腸癌を報告している.半数以上が無症状で腫瘍の部位に慢性の放射線炎症を認めた.症例の69%は照射後10年以上を経過し,58%が放射線に関連のある組織学的変化を示した.膠様癌が一般シリーズでは10%であるのに比べ,照射後癌では58%を示した.他の研究でも子宮癌照射後の大腸癌が予想より多いことを示している.したがって,子宮癌で照射を受けた女性は,大腸癌の高危険群とみなされるが,婦人科系の悪性腫瘍患者は,もともと第2の原発癌を大腸で起こす危険が大きいと言われているので問題は複雑である.

  • 文献概要を表示

 小児外科のいわば同好仲間から必然的に誕生した“直腸肛門内圧研究会”が,その後食道内圧を含める“小児消化管内圧研究会”に発展し今回で第13回を数えている.当研究会の集大成が本書であり,研究の中心的存在であった葛西森夫教授が監修されている.

 序論に消化管内圧測定の,歴史的変遷が示されており,興味をそそる.それによれば研究会とは逆に,まず発達したのは食道内圧研究のほうだったらしく,この理由としてはやはり,食道裂孔ヘルニア,逆流性食道炎が,特に白人に多い点が挙げられよう.一方,Hirschsprung病の本態が拡張腸管にはなく,肛門側狭小部にあることがわかったのが1950年ごろであり,更に本症における直腸括約筋反応欠如が発見されるに及んで,こちらのほうの研究も急速発展したもようである.前に食道内圧の研究が先行したと述べたが,当初はprimitiveなもので,測定器具の開発などの関係から,その研究が進んだのは最近であるという.つまり測定しやすいための好条件を備えた部位である,消化管の入口と出口の内庄測定は並行して進められ,共に急速に発展したのが1960年代後半ごろだったらしい.

  • 文献概要を表示

 私の手許には大分手垢に染まったHeinz Feneis教授著のAnatomisches Bildwörterbuch第3版と,その邦訳書図解解剖学事典が必ず存在している.Feneis教授の原著を手に入れたのは10年近くも前のことであった.発注するまでは“随分思いきったタイトルの著書”としての興味のみであったが,入手して頁をめくるに従って,私はだんだん興奮してきたのであった.当時の―いや,今日でもそうであるが―私の生活の核心は,膨大な解剖学の用語名のあれこれを,これまた膨大な解剖学成書をあれこれと頁を繰りながら“質問をかかえた学生”にどのように手際よく応答理解させるかにあった.私の切願にも似たその思いを本書がまさに具現していたからであった.ちなみに原著第1版の序文には本書の完成に多くの学生の協力を得たと述べられている.まさに訳者の1人である山田英智教授が,その訳者序に書いているごとく“解剖学で使用される多数の用語を,要領よく図と対比しつつ簡単な説明を加えた本書は,学生諸君の勉学の伴侶”としてその利用価値はまことに多大である.

 邦訳書の第1版は原書の第3版で,1974年である.その後原書は第5版となり,その邦訳が今回の第2版として,更に面目を新たにして出版された.驚いたことに,今回の訳書の冒頭にロンドン大学名誉教授Roger Warwick教授の序が載せられているが,その感懐がまさに私の上記のそれと全く同様である.日くFeneis著「解剖学事典」は,まさに驚くべき成功を得た本であった.私はその初版が現れたとき,これほど役に立つ本が出版されるとは誰も思いも及ぼなかったという驚きを今でもありありと想い出すことができる.この本は私の机上の手の届く範囲に常に置かれ,私はしばしば参照させてもらっている.解剖学の領域では長年にわたって多くの本が出版されてきたが,その中で少数のものだけが,その独創性と時間を超えた有用性を持つ.この本は疑いもなくその中での「選ばれた書物」であると.

編集後記 西沢 護
  • 文献概要を表示

 昨年1月号(18巻1号)でも,上部消化管スクリーニング法としてpanendoscopyに関する問題が取り上げられているが,再び“panendoscopyの評価”の特集が組まれた裏には,それだけ大きな関心が集まっている証拠である.本号では胃の内視鏡検査で,直視か側視か,その長所と短所が細かく論じられている.読者には,おおよその結論が得られたと思う.直視と側視をどのように使い分けるかは読者の判断にお任せするとして,いつもながらpanendoscopyルーチン説を唱えておられる多賀須氏の,周到で緻密なpanendoscopyの方法論は,ある意味で将来の内視鏡検査の在り方とその効用を示唆しているように思われる.最近の内視鏡は入りやすくして奥深いもの,そして常に慎重で丁寧であれという考え方が文章ににじみ出ているが全く同感である.

 新しく連載が始まった“消化器診断入門”もかなり突っ込んだ話をわかりやすく読ませてくれる.初心者だけでなくかなりの経験者にも教訓的で,人にはいろいろの考え方,やり方があるものだと,おもしろく読まれるであろう.

基本情報

05362180.19.1.jpg
胃と腸
19巻1号 (1984年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月9日~9月15日
)