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私の手許には大分手垢に染まったHeinz Feneis教授著のAnatomisches Bildwörterbuch第3版と,その邦訳書図解解剖学事典が必ず存在している.Feneis教授の原著を手に入れたのは10年近くも前のことであった.発注するまでは“随分思いきったタイトルの著書”としての興味のみであったが,入手して頁をめくるに従って,私はだんだん興奮してきたのであった.当時の―いや,今日でもそうであるが―私の生活の核心は,膨大な解剖学の用語名のあれこれを,これまた膨大な解剖学成書をあれこれと頁を繰りながら“質問をかかえた学生”にどのように手際よく応答理解させるかにあった.私の切願にも似たその思いを本書がまさに具現していたからであった.ちなみに原著第1版の序文には本書の完成に多くの学生の協力を得たと述べられている.まさに訳者の1人である山田英智教授が,その訳者序に書いているごとく“解剖学で使用される多数の用語を,要領よく図と対比しつつ簡単な説明を加えた本書は,学生諸君の勉学の伴侶”としてその利用価値はまことに多大である.
邦訳書の第1版は原書の第3版で,1974年である.その後原書は第5版となり,その邦訳が今回の第2版として,更に面目を新たにして出版された.驚いたことに,今回の訳書の冒頭にロンドン大学名誉教授Roger Warwick教授の序が載せられているが,その感懐がまさに私の上記のそれと全く同様である.日くFeneis著「解剖学事典」は,まさに驚くべき成功を得た本であった.私はその初版が現れたとき,これほど役に立つ本が出版されるとは誰も思いも及ぼなかったという驚きを今でもありありと想い出すことができる.この本は私の机上の手の届く範囲に常に置かれ,私はしばしば参照させてもらっている.解剖学の領域では長年にわたって多くの本が出版されてきたが,その中で少数のものだけが,その独創性と時間を超えた有用性を持つ.この本は疑いもなくその中での「選ばれた書物」であると.
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