呼吸と循環 61巻6号 (2013年6月)

特集 喘息病態の修飾因子・難治化因子

総説 大田 健
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はじめに

 気管支喘息(喘息)は,症状,重症度,治療薬の効果など臨床的に多様であることが認識され,“disease”というよりは“syndrome”として捉えることが適切だと考えられてきた.そして,その多様性について,より科学的に解析する手段がフェノタイプ(phenotype)の識別である.多様なフェノタイプの背景には,少なくともその一部に種々の修飾因子が関与しており喘息の難治化をもたらすと考えられている.本稿では喘息病態の修飾因子のなかでも喘息の難治化に関与する難治化因子を中心に概説する.

遺伝素因 檜澤 伸之
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はじめに

 喘息は気道炎症,気道過敏性や可逆的な気流制限によって特徴づけられる多因子疾患である.患者ごとに発症年齢,増悪因子,重症度(呼吸機能や急性増悪の頻度),さらには薬剤反応性が異なる多様な表現型(phenotype)を呈する.表現型の多様性は環境と遺伝との交互作用に大きな影響を受けており,喘息は多様な分子病態を内包する症候群と考えるのが妥当である.現在の吸入ステロイド薬(ICS)を中心とする喘息治療は多くの患者に症状のコントロールと肺機能の改善をもたらすが,未だに一部の患者は重篤な発作によって喘息死に至る.難治化を規定する遺伝因子を同定することで難治性喘息の分子病態とその多様性が明らかとなり,病態の理解に基づいた個別化治療や一次予防の実現が期待される.本稿では喘息難治化の要因としての遺伝的素因について,最近の遺伝子解析の結果を中心に解説する.

喫煙 浅井 一久 , 平田 一人
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はじめに

 気管支喘息は,他のアレルギー疾患の増加と同様に有病率が上昇し,その有病率は5%を超える状況となっている.1990年代からの吸入ステロイド(inhaled corticosteroids;ICS)の導入によって喘息のコントロールは改善しつつあり,喘息死は減少しているが,依然として年間2,000名を超える喘息死が認められる.さらなる喘息死の低減のためには,ICS抵抗性の重症・難治化喘息への対応が急務である.喘息病態の修飾因子・難治化因子の一つとして,「喫煙」が挙げられる.本邦は先進諸国のなかでも喫煙率が高く,経年的にも日本の喫煙率は依然高い水準を保っている(図1)1).また,気管支喘息患者の約30%が喫煙し,これは非喘息の一般人口と変わらないとされており,喘息コントロールへの影響は無視できない.

 タバコには,4,000種以上の化学物質が含まれ,ニコチン,タール,一酸化炭素,一酸化窒素に加えて,シアン化合物やヒ素,ダイオキシンなどの強毒性の化学物質も含まれる.本稿では,修飾因子・難治化因子としての喫煙の喘息病態への影響を概説する.

COPD 長谷川 浩一 , 室 繁郎
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はじめに

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,たばこ煙を主とする有害物質に長期に吸入曝露することで生じる肺の炎症性疾患であり,呼吸機能検査において正常に復すことのない気流閉塞を示すことで定義されている1,2).喘息とCOPDはいずれも慢性の気道炎症性疾患であり,生理学的に閉塞性障害を来すという点において類似している.しかし病態に主に関わる炎症細胞や病理学的変化,治療反応性などは異なっており,喘息とCOPDは明確に区別される疾患である.典型例では特徴的な病歴や検査所見などにより容易に鑑別できるが,日常臨床においては鑑別が困難な症例や,喘息にCOPDが合併していると考えられる症例にも遭遇する.COPDの合併が喘息の難治化の一因となりうるため,適切に診断し治療する必要がある.本稿では喘息とCOPDの相違点について述べたのちに,難治化因子としてのCOPD,喘息に合併したCOPDの診断,そして最後にCOPD合併喘息の治療について概説する.

睡眠時無呼吸症候群(SAS) 近藤 光子
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はじめに

 2007年のNational Asthma Education and Prevention Program Expert Panel Report 3(EPR3)1)において,治療抵抗性,難治性喘息の一部で特に肥満のある患者に,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の合併の可能性があると指摘している.ポリソムノグラフィーを用いて検討した喘息におけるOSASの頻度は重症喘息では88%,中等症喘息では58%,喘息のないコントロールでは31%であり,重症喘息におけるOSASの合併頻度が著しく高いという報告がある2).質問票を用いた検討でも治療抵抗性の喘息におけるOSASのオッズ比は3.6であり,肥満,胃食道逆流症(GERD),鼻疾患,精神疾患などを補正しても2.87と高い(表1)3).このように,治療抵抗性,難治性喘息においてOSASの合併頻度は高く,OSASは喘息のコントロールを不良にさせ,難治化に関与する因子であることが示唆されている.喘息とOSASは別の疾患であるが,夜間の気流閉塞,低酸素,換気の低下は共通しており,睡眠に関連する呼吸機能障害という点からも共通である.肥満やアレルギー性鼻炎は喘息とOSASの共通した増悪因子として働き,喘息とOSASは相互に悪影響を及ぼす.本稿でははじめにOSASの病態を簡単に述べ,次にOSASが存在すると喘息の病態にどのような影響を与えるか,また逆に喘息の存在はOSASにどのような影響を与えるかについて考察し,最後にOSASの標準的な治療であるCPAP治療が喘息にどのような影響を与えるかについて紹介する.

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 現行ガイドラインにおけるCOPD診断基準では,気管支拡張薬投与後のスパイロメトリーで一秒率が70%未満であることの証明が必要である.先日,内科医院を開業している大学時代の同級生から「スパイロメトリーをせずにCOPDを診断するには」という講演を医師会の勉強会でやってもらえないか,と依頼があった.残念ながら企画が流れて実現には至らなかったが,彼と意見のやりとりをするなかでいろいろと考えさせられることがあった.

 確かにCOPDガイドラインには「スパイロメトリーが施行できない場合にも利用可能な診察・検査を活用してCOPDの診断を行わなければならない」と記載され,そのための指針として,IPAG(International Primary Care Airways Group)ハンドブックの日本語訳が紹介されている.しかし,動悸,胃食道逆流症状,体重減少,持続性の呼吸器症状などCOPD患者で認められうる症状が除外基準に含まれていたり,COPD質問票の特異度がわずか40~64%(感度は85~94%)と低いなど,はたしてこれに基づいて長期的な薬物治療を行って良いのか,はなはだ疑問である.

綜説

COPDの増悪 田辺 直也 , 室 繁郎
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はじめに

 COPDでは,気道感染などがきっかけとなり急速に病状が進行して悪化することがある.COPDの増悪と呼ばれ,日々の変動の範囲を超えて呼吸器症状が悪化し,治療の変更を要する急性イベントと定義されている1).近年,COPD増悪がCOPD患者の臨床経過に与える影響が非常に大きいことが明らかにされ,多くの臨床試験においてCOPD増悪の抑制効果は主要評価項目となっている2~4).また日常臨床においてもCOPD増悪の予防や治療は非常に重要となっている.本稿では,COPD増悪の病態生理,COPD患者に与える影響,増悪の予測因子と予防策,増悪の治療法について最新の知見とともに解説する.

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はじめに

 現在わが国の高血圧患者は4,000万人と言われており,単一疾患としては最も患者数が多く,60歳以上に限れば男性の2人に1人,女性の5人に2人が高血圧である.近年,高血圧治療ガイドラインの浸透や複数の有効な降圧薬が使用可能となったことで,わが国の血圧コントロールは改善傾向にあるものの,血圧が適切にコントロールされている割合は未だ50%にとどまっている1).さらに,家庭血圧のコントロール状況を加味した報告では,より厳格な降圧目標が設定されている糖尿病,慢性腎臓病,心筋梗塞後を除外した集団に限っても,降圧目標を達成している割合は30%以下であり2),優れたアドヒアランスと強力で持続的な降圧効果を兼ね備えた降圧薬の出現が望まれている.2012年1月,わが国で7番目のARBとなるアジルサルタンが製造承認を取得し,同年5月に発売となった.本稿では,アジルサルタンの特徴を概説し,今後の降圧療法において期待されるベネフィットとエビデンスについて概説する.

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はじめに

 植込み型ペースメーカは,1960年代に実用化されて以来,年々ハード面での改良が重ねられ,急速に小型化,高機能化が進んできた.また,これと並行してソフト面での進歩も著しく,房室順次ペーシングや心拍応答機能により,ほぼ生理的心拍変動を再現できるようになっている.徐脈性不整脈に対するペースメーカ植込みは,薬物治療を含む他の治療の追随を許さない確立した治療法として,循環動態の改善による生命予後の改善はもちろん,QOLの改善をもその目的として広く臨床で用いられている.循環動態の改善のためには,心房・心室の収縮の同期性が保たれること,正常な房室伝導路を介する興奮伝播により,協調的な心室収縮が得られること,運動・代謝の変化に応じた心拍数が得られることが重要となる.

 心疾患患者に対する運動療法の効果には,運動耐容能や心筋虚血閾値,骨格筋でのミトコンドリアや毛細血管密度などの増加,最大下同一負荷での心拍数や心筋酸素需要の低下などが知られている1).このような運動の多面的効果を考えあわせると,心停止の既往やペースメーカの植込みを必要とする伝導障害,洞不全症候群患者においても循環動態の改善のため,積極的に運動療法に取り組む必要があると考えられる.

 従来,ペースメーカの固定レートのため活発な身体活動は避けるように注意されてきたが,近年の目覚ましい医療工学の発展・進歩によって,生理的なペースメーカが普及し,それに伴い運動の安全性と効果も明らかにされてきている.今回,ペースメーカ植込み患者に対する運動処方の考え方や運動療法の適応について,近年の研究結果を含めて概説する.

Bedside Teaching

呼吸器疾患とSIADH 四十坊 典晴
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はじめに

 syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone(SIADH)は1957年にSchwartらにより初めて報告された症候群である.SIADHは抗利尿ホルモン(ADH:バゾプレシン,AVP)不適合(または不適切)分泌症候群(ICD-10コードでは不適合を採用)と訳されているが,最近,AVP分泌過剰症とも別称されている.SIADHの機序はAVPの分泌過剰により,腎集合管で水の再吸収が亢進し,水利尿の抑制を来した結果,体液に水が過剰に貯留して希釈性の低ナトリウム血症を呈する病態であり,その臨床兆候は低ナトリウム血症に由来する.本稿では,AVPの作用機序,SIADHの診断と治療,小細胞肺癌に伴う低ナトリウム血症の問題点,治療薬としてのAVP受容体拮抗剤の可能性に関して解説する.

中心血圧 山科 章
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はじめに

 心血管疾患の主原因である動脈硬化は様々なリスクファクターを基盤に生ずるが,その進展は緩徐であり,病変が進展して初めて臨床症状があらわれる.こういった動脈硬化性疾患の発症を予防するには,血管障害の程度を適切に反映するマーカーが重要である.こういったマーカーには,①動脈硬化あるいは血管障害の進展程度を反映する,②計測が簡便で,再現性が高く,標準化されている,③心血管病の発病リスクを予測できる,④介入によりマーカー値が改善すれば予後も改善する,などの条件が要求されるが,その一つとして中心血圧が最近注目されている.

Current Opinion

肺癌の遺伝子治療の現状 藤原 俊義
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肺癌の遺伝子治療の概要

 分子生物学の進歩により,癌が遺伝子異常の蓄積によって発生する「遺伝子の病気」であることが明らかになってきた.自然発生の癌では多くの場合,前癌病変から早期癌,進行癌へと至る過程で癌遺伝子と癌抑制遺伝子の2つの遺伝子群の異常が段階的に関与している1).これらの遺伝子情報により,癌に対する新薬開発の方向性やプロセスは大きく変わってきている.特に,ある特定の分子の機能を阻害する分子標的医薬品の開発は活発に進められており,多くの新薬が臨床試験を経て市場展開を果たしている.

 肺癌は現在,本邦における死亡原因の第1位であり,本邦で年間7万人,世界では137万人が亡くなっている.肺癌の遺伝子異常の解析も積極的に進められており,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)変異やEML4-ALK融合遺伝子などの癌化責任変異(driver mutation)が明らかとなり,それを標的とした分子標的医薬品による個別化医療が現実のものとなってきている2).機能遺伝子を標的細胞に導入する「遺伝子治療」も広義の分子標的治療の一つであり,全身投与を含めた遺伝子導入技術の開発が進められている.米国国立衛生研究所(National Institute of Health;NIH)の組換えDNA諮問委員会(Recombinant DNA Advisory Committee;RAC)が実施を承認した臨床プロトコール数は2012年8月の時点で1,163となっており,なかでも癌に対する遺伝子治療は797プロトコール,うち肺癌に対するものは51件となっている(表1)3)

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最近1年間の研究動向

 肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)の遺伝子診断に関わる最近1年間のトピックスとして,4種類の新規原因遺伝子が報告されたことと,一般集団,患者集団,患者家系の未発症小児集団を対象とした原因遺伝子変異の探索の意義に関する報告がなされたことが挙げられる.

 新規原因遺伝子の同定に関しては,X染色体上のFHL1遺伝子変異がHCMの原因となることが報告された1).通常HCMは常染色体性優性遺伝形式をとるが,FHL1変異をヘテロ接合で有する患者の多くが男性であるものの一部に女性患者が存在することから,FHL1変異によるHCMはX染色体性優性遺伝形式をとると考えられる.また,HCM関連FHL1変異があるとFHL1蛋白のユビキチン化と分解が亢進すると報告されている1).一方,TGFβ誘導性初期因子(TGFβ-inducible early gene-1;TIEG1)ノックアウトマウスが心肥大とPTTG1(pituitary tumor transforming gene 1)の発現亢進を来すことから,HCM患者集団を対象とした変異検索で,PTTG1の発現亢進をもたらすTIEG1変異が報告されている2).さらに,従来HCMに関連する病因変異はHCM患者にのみ見出され,他の心筋症病型の患者に同一の変異が見出されることはなかったが,最近,同一の変異が他病型の心筋症の原因となることが複数報告された.その一つは,われわれが報告したミオパラジン遺伝子(MYPN)変異3)であるが,Q529X変異を有するRCM(拘束型心筋症)の同胞例の心筋病理像は,兄では心筋肥大,錯綜配列,核不同などHCMの所見であり,妹ではZ帯異常,心筋脱落,線維化などDCM(拡張型心筋症)所見であった.また,Q529X変異MYPNのmRNAは分解が亢進しているが,これを導入した心筋細胞ではサルコメア整合性異常と心筋細胞死が生じていた.一方,異なるHCM患者とDCM患者に共通して見出されたY20C変異は,それを導入した心筋細胞にサルコメア整合性異常を来すことはないが,Y20C変異を導入したトランスジェニックマウスはHCM様病態を呈し,心筋では介在板の断裂およびデスミン,デスモプラキンなどの介在板蛋白の発現異常をもたらしていた.このことから,MYPN変異はサルコメア整合性ないし介在板整合性異常を来すことで,臨床的にはHCM,DCMあるいはRCMの病態を呈するものと考えられる3).これとは別に,心筋の発生・分化に関わる重要な転写因子であるIslet-1遺伝子(ISL1)Asn252Ser変異がDCM患者ではホモ接合,HCM患者ではヘテロ接合として報告されている.このISL1変異は正常に比してより強いMEF2Cの発現亢進をもたらす4)

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要旨 胸痛,心タンポナーデで発症した冠動脈瘤を伴った冠動脈肺動脈瘻破裂症例を経験した.精査の結果左右両冠動脈由来の冠動静脈瘻でそれぞれに冠動脈瘤を伴っていた.搬入時血圧低下を来したものの以後回復,循環動態は安定していたため待機的に手術を行った.体外循環駆動下心拍動下で右冠動静脈瘻/冠動脈瘤を処置,次いで心停止下に主肺動脈を離断して左前下行枝由来の冠動静脈瘻/冠動脈瘤を剥離摘出した.

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欧文目次

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趣     旨 近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行います.

助成研究テーマ 生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,その他.

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日     時 2013年8月2日(金)~8月4日(日)

会     場 神戸ファッションマート(神戸市 六甲アイランド)

購読申し込み書

次号予告

投稿規定

あとがき 巽 浩一郎
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 「喘息」という病名は,医療関係者のみならず広く国民にも知られた病名である.しかし,喘息は難治性疾患であり,症状のコントロール(care)は可能であるが,治癒(cure)は望めない.喘息の「遺伝素因」は変えられないからである.重症喘息において「GWASによる疾患感受性遺伝子の検索」が行われているが(檜澤論文),そこで改めて考えさせられたことは,喘息は一つの病気ではなく「多因子疾患」であることである.数多くの遺伝子が関与しており,難治性喘息の分子病態解明には更なる探求が必要である.喘息イコール「気道炎症性疾患」という一つの病態枠で捉えるのでは十分でなく,主に「喫煙」(浅井・平田論文)が誘因となる「COPDとのoverlap」(長谷川・室論文),「肥満」・「睡眠時無呼吸」(近藤論文)の併存も喘息病態に影響を与えている.今回の特集には入っていないが,「COPD増悪の治療」(田辺,室論文)の一部は喘息治療でもある.「呼吸と循環」という観点で考えると,「喫煙」は呼吸器系と循環器系の双方に影響を与えている共通のキーワードである(図).

基本情報

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呼吸と循環
61巻6号 (2013年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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