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最近1年間の研究動向
肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)の遺伝子診断に関わる最近1年間のトピックスとして,4種類の新規原因遺伝子が報告されたことと,一般集団,患者集団,患者家系の未発症小児集団を対象とした原因遺伝子変異の探索の意義に関する報告がなされたことが挙げられる.
新規原因遺伝子の同定に関しては,X染色体上のFHL1遺伝子変異がHCMの原因となることが報告された1).通常HCMは常染色体性優性遺伝形式をとるが,FHL1変異をヘテロ接合で有する患者の多くが男性であるものの一部に女性患者が存在することから,FHL1変異によるHCMはX染色体性優性遺伝形式をとると考えられる.また,HCM関連FHL1変異があるとFHL1蛋白のユビキチン化と分解が亢進すると報告されている1).一方,TGFβ誘導性初期因子(TGFβ-inducible early gene-1;TIEG1)ノックアウトマウスが心肥大とPTTG1(pituitary tumor transforming gene 1)の発現亢進を来すことから,HCM患者集団を対象とした変異検索で,PTTG1の発現亢進をもたらすTIEG1変異が報告されている2).さらに,従来HCMに関連する病因変異はHCM患者にのみ見出され,他の心筋症病型の患者に同一の変異が見出されることはなかったが,最近,同一の変異が他病型の心筋症の原因となることが複数報告された.その一つは,われわれが報告したミオパラジン遺伝子(MYPN)変異3)であるが,Q529X変異を有するRCM(拘束型心筋症)の同胞例の心筋病理像は,兄では心筋肥大,錯綜配列,核不同などHCMの所見であり,妹ではZ帯異常,心筋脱落,線維化などDCM(拡張型心筋症)所見であった.また,Q529X変異MYPNのmRNAは分解が亢進しているが,これを導入した心筋細胞ではサルコメア整合性異常と心筋細胞死が生じていた.一方,異なるHCM患者とDCM患者に共通して見出されたY20C変異は,それを導入した心筋細胞にサルコメア整合性異常を来すことはないが,Y20C変異を導入したトランスジェニックマウスはHCM様病態を呈し,心筋では介在板の断裂およびデスミン,デスモプラキンなどの介在板蛋白の発現異常をもたらしていた.このことから,MYPN変異はサルコメア整合性ないし介在板整合性異常を来すことで,臨床的にはHCM,DCMあるいはRCMの病態を呈するものと考えられる3).これとは別に,心筋の発生・分化に関わる重要な転写因子であるIslet-1遺伝子(ISL1)Asn252Ser変異がDCM患者ではホモ接合,HCM患者ではヘテロ接合として報告されている.このISL1変異は正常に比してより強いMEF2Cの発現亢進をもたらす4).
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