呼吸と循環 59巻11号 (2011年11月)

特集 テネイシンCと心臓・血管病変

序文 今中 恭子
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 心臓,血管を含む全ての生体組織は,細胞とそれをとりまく細胞外マトリックスで構成される.細胞外マトリックスは,常に強い物理的ストレスにさらされる心臓,血管の物理構造を支持するとともに,細胞機能を調節して組織恒常性の維持に貢献する.細胞外マトリックスには多くの分子が含まれるが,最近,そのなかでもテネイシン,オステオポンチン,ペリオスチン,ガレクチンなどのように,線維や基底膜のような構造物を作らず,組織リモデリングに伴って高発現し,強い生物活性によって組織リモデリングを制御するmatricellular蛋白と呼ばれる分子群が注目されている.これらは,病態形成過程でよく似た発現様式を示し,互いに重複した多彩な分子機能を持つ.

 テネイシンCは最も典型的なmatricellular蛋白で,胎児期の形態形成,組織傷害,炎症,癌浸潤や組織再生に伴って一過性に限られた場所に高発現して,炎症,血管新生,線維化を制御し,組織構築改変で重要な役割を演じる.もともと,癌間質に特異的な分子の一つとして発見されたが,心臓や血管の種々の疾患でも発現が上昇し,それぞれの病態形成に深く関わることや,その分子メカニズムが明らかになってきた.しかしながら,他のmatricellular蛋白分子同様,炎症をはじめとする種々の生体反応のチューナーのような役割を演じると解釈され,状況依存的に,しばしば相反する複雑で多彩な分子機能を示すため,病態進展における役割を一義的に論ずるのは簡単ではない.その一方,テネイシンCの発現様式は明快で,正常組織にはほとんど発現せず,病的状態で特異的に高発現する.この特徴的な発現様式を利用して,血中バイオマーカーや分子イメージング標的として診断に用いる試みや,テネイシンCの強い生物活性を利用した分子機能を利用した治療用デバイスの開発など,臨床応用への研究が精力的に進められている.

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はじめに

 高等動物における発生・発達と疾病の発症・進展において,細胞の形態・接着・増殖・移動・分化が極めて重要であり,特に細胞と細胞外マトリックス(ECM)との相互作用がその過程においてシグナルの主な役割を果たしていると考えられている.ECMには糖蛋白質,コラーゲン,プロテオグリカン,増殖因子など特異的な高次構造を維持しながら整合性良く配置されているのみならず,ECM分子を認識する細胞表面レセプターを介して細胞内情報伝達のためのメディエーターとしても機能する.近年,細胞-マトリックス相互作用のアダプターあるいはメディエーターとして機能する特別なECM分子として,matricellular蛋白(細胞性基質蛋白質)の存在が明らかになってきた1~3)

 matricellular蛋白の特徴は,1)線維や基底膜のような構造物を作らず(a class of non-structural ECM),細胞-マトリックス伝達を制御する,2)細胞表面の受容体,他のマトリックス分子,成長因子,サイトカイン,プロテアーゼなどと相互作用するだけではなく,そのbioavailabilityがある一定の環境下に限定されることを助けるmatrix metalloproteinase(MMP)を制御し,直接細胞の運動性に影響を及ぼす,3)強い細胞接着を緩める脱接着作用(de-adhesion)によって形態形成,血管の増生,リモデリングに関与する,4)発生期の形態形成や癌浸潤,組織傷害後の修復過程で発現するという共通した性質を持っている.すなわち,matricellular蛋白とは,形態形成,組織修復や再生の際に高度に発現し,脱接着作用とともに2)の機能の発揮・調節によって組織構築の改変(repair and/or remodeling)を制御する分子群である.表1に主なmatricellular蛋白を列記したが,それらの分子機構・機能や病態との関連に関する報告がなされている.

 近年,高血圧や心筋梗塞後における心臓リモデリングの発症機構と関連する分子としてECMや特にmatricellular蛋白の重要性が話題になっている4~8)

 本稿では,心筋梗塞,心筋炎や心不全における心臓リモデリングに関与し,特にバイオマーカーとして臨床・基礎研究に応用されている代表的なmatricellular蛋白であるTenascin C,Osteopontin,およびGalectinについて概説する.

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はじめに

 分子メージングとは,細胞,分子レベルで進行している生理的,病態生理学的変化を可視化する画像診断法である.核医学画像は従来より細胞レベルでの特定の生理的変化を画像化しており,本質的にはすべて分子イメージングの範疇に入るものである.近年,他の画像診断でも分子イメージングが模索されており,MRI(magnetic resonance imaging),optical imaging(蛍光イメージング,生体発光イメージング),CT,超音波法などが挙げられる.いずれの方法も特定のトレーサーにシグナルを発する物質を結合させ画像化するものである.核医学法の利点はPET(positron emission tomography)やSPECT(single photon emission computed tomography)に用いるRI標識トレーサーの投与量が極微量であることである.このためにトレーサーの生理活性による副作用がない.また,受容体発現や活性,血流,代謝,特定の蛋白の発現,遺伝子発現,細胞死,等々を高感度かつ特異的に画像化できる.欠点としては空間解像度の低さがあるが,これはCTとの融合画像にてある程度カバーできる.

 心疾患の診断は形態的,機能的変化に基づいてなされてきたが,分子イメージングは,それに先立って起こる特定の病態生理の変化,あるいはその原因となる病的プロセスをターゲットにして異常を早期に検出することを目的としている.また,疾患の成立メカニズムの研究に基づいた治療法の進化特殊化に伴い,分子標的薬剤や遺伝子治療などが治療のターゲットにしている変化を特異的に検出できるメリットがある.すなわち,従来のように患者予後や,機能の変化をみるのみでは感度が低く,治療のターゲットとなる生物学的なエンドポイントを設定し,意図した病態生理的な効果が得られているかを評価することが必要であり,分子イメージングが有用となってくる.また,予後の評価に対しても特定の病理学的プロセスを検出することにより,リスクの高い特定の患者群を検出できる可能性が期待される.

 心臓核医学においては現在,血流(SPECT製剤として201Tl,99mTc-MIBI,99mTc-tetrofosmin,PET用血流製剤として82Rb,13N-ammonia,15O-waterなど),脂肪酸代謝(123I-BMIPPや11C-palmitate),糖代謝(18F-FDG),酸素代謝(11C-acetate),交感神経機能(123I-MIBG,11C-meta-hydroxyephedrine;HED)の評価が可能である.これらの組み合わせにより,かなり詳細な病態生理学的変化の評価が可能となってきたが,さらにより本質的な病態変化の画像化を目的としたトレーサーの検討が進んでいる.そのなかの一つにテネイシンC(TenC)の発現を画像化する目的で開発されたRI標識抗TenC抗体がある.

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はじめに

 心臓の実質細胞は体積の大部分を占める心筋細胞であるが,間質を構成する非心筋細胞数は心筋細胞数を上回る動物種が多い.内的および外的ストレスに応じて,多くの非心筋細胞は活性化して増殖・浸潤反応を行い,またテネイシンCやペリオスチン,オステオポンチンなどの細胞外基質(extracellular matrix;ECM)の発現を増加させることは,心臓の適応応答やその破綻による過度の心臓線維化・心筋リモデリングの形成過程において重要な意味を有する1).心筋細胞や他の細胞種,ECM間における直接的な接着を介した相互作用,あるいは傷害・ストレス部分で産生・分泌される様々な液性因子を介した間接的な相互作用は,心臓への機械的・化学的・電気的なシグナルを感知し合い,心筋反応を互いに制御し,恒常性の維持や適切な組織修復を目的とした機構であろう.高血圧性心疾患や心筋梗塞慢性期においても,間質でのこうしたストレス応答は遷延化して存在し,関節リウマチや喘息などの「慢性炎症」の病態にも酷似する2)

 本稿では,こうした心臓の慢性炎症や線維化の進展における,線維芽細胞とECMの役割に関する最近の知見を紹介したい.

心室リモデリングとテネイシンC 佐藤 明
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はじめに

 心室リモデリングは,組織の修復過程の異常や過剰と捉えられており,実質細胞の増殖と再配置,線維芽細胞の分化・増殖と遊走,血管新生,細胞外基質(extracellular matrix;ECM)分子の産生とその分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などが関与する分子機構が最近注目を浴びている.急性心筋梗塞後や心筋炎後,拡張型心筋症では,心内腔の拡大とともに心室機能障害を呈する心室リモデリングが発症し,心不全への進展がみられる.

 本稿では,急性心筋梗塞,心筋炎,拡張型心筋症に伴う心室リモデリングにおけるテネイシンCの動態,分子機能,それを応用した診断,治療戦略について論じる.

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はじめに

 動脈硬化における新生内膜は血管平滑筋細胞(VSMC)の異常な遊走と増殖とともに細胞外マトリックス(ECM)蛋白の著明な沈着と定義される.そこに至る組織構築過程は,細胞の増殖,遊走,それに必要なECM蛋白の量や種類の変化,さらに,そのECM蛋白を調節するメタロプロテアーゼの作用などによって複雑に制御されている.近年,ECM蛋白による細胞接着制御として,創傷治癒過程や癌の発生・進展などの種々の組織再構築過程で注目されているECM蛋白がテネイシンC(TNC)である.このTNCが動脈硬化病変の活動期の部位やPTCA後の再狭窄部に最も初期段階に発現している点が,動脈硬化病変の進展機序の解明のkey moleculeとして注目されている.

 一方,心臓血管外科領域において,吻合部新生内膜形成は非常に重要な問題である.冠動脈バイパス術や末梢血管外科では動静脈グラフトを使用するが,グラフト吻合部の新生内膜形成,あるいは動脈硬化の進行がグラフト不全を引き起こす.新生内膜形成はVSMCが内膜に遊走,増殖することと新生内膜でのECMの沈着が原因といわれ,基本的に動脈硬化進展過程やPTCA後の血管内皮障害における内膜肥厚形成過程と同じ機序と考えられている.

 本稿では,動脈硬化病変進展におけるTNCの関与とその分子機能,血管吻合部狭窄病変の進展における新生内膜形成とTNCの発現とその制御について当教室での研究を中心に概説する.

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はじめに

 テネイシンC(tenascin-C;TNC)をはじめとするmatricellular蛋白は,中枢神経系では主にアストロサイトにより発現され,成長過程における細胞増殖,分化,遊走やシナプス形成などに重要な役割を果たす1).また,中枢神経系疾患や脳損傷が生じると,反応性グリオーシスの形成に伴い,その発現は増強され,組織損傷の修復や恒常性維持に寄与すると推測されている1)

 本稿では,代表的な脳血管疾患である脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)を取り上げ,その病態とTNCの役割を理解し,TNCの発現を制御することにより,脳血管病変の治療に応用できる可能性について概説する.

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はじめに

 大動脈瘤による破裂死は,ステントグラフト治療を含めた外科的治療の著しい進歩にもかかわらず,依然として高齢者死亡原因の上位にランクされている.近年の研究により大動脈瘤の主病態が慢性炎症ということが明らかになり1),さらなる治療成績向上に向けて薬物療法とバイオマーカー診断法の開発が期待されている.

 筆者らは,最近テネイシンCが腹部大動脈瘤の疾患活動性を反映するバイオマーカーであることを見出した2).本稿では,大動脈瘤の病態におけるテネイシンCの役割と臨床応用に向けての将来展望について述べる.

巻頭言

エビデンスと費用対効果 谷口 郁夫
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 先日,ACE阻害薬で約20年間も血圧のコントロールがよく合併症もない患者が来院した.最近ならアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が処方されていたであろう.高血圧治療の歴史は降圧薬の進歩とともに変遷してきた.一時,Ca拮抗薬が繁用されたが,心肥大抑制や腎機能保護などの面からレニン・アンジオテンシン系抑制薬であるACE阻害薬が注目されるようになった.一方,ARBはわが国では1998年にロサルタンが発売されて以来,現在6種類が使用されている.その頃,欧米ではロサルタンの大規模臨床試験であるELITE Ⅱ(2000年),RENAAL(2001年)やLIFE(2002年)が次々と報告された.また,2003年に米国合同委員会第7次報告が発表され,大規模臨床試験の結果を強く反映した診療ガイドラインとして評価された.わが国では2000年に日本高血圧学会(JSH)から高血圧治療ガイドラインが初めて作成されたが日本人の高血圧治療に関するエビデンスはほとんどなかった.その後,海外でばかりでなく日本人を対象としたARBの大規模臨床試験がいくつか発表されて2009年のJSHガイドラインに影響を与えた.

 ARBは今までの降圧薬とは異なり多くの大規模臨床試験が行われ,そのエビデンスに基づいて普及してきた.しかし,大規模試験には莫大な資金が必要とされるために大半が製薬企業に支援されている.ARBのような高薬価の製品の有用性を大規模臨床試験で報告しガイドラインに反映させれば,積極的な使用を推進できる.企業にとっては高価なものを多く売れば利益が大きいことは当然であり,これは企業側の費用対効果である.わが国の医師主導型自主研究も製薬企業から資金提供を受けている以上,その薬物の有利なデータが報告される.ARB群と他群を比較する場合,死亡率,心筋梗塞や脳卒中の発症などのハードエンドポイントに差がつかなくても主観的評価をエンドポイントとして設定し,それを含む複合エンドポイントとして差をつけるかACE阻害薬を対照とする場合は副作用(数パーセントの空咳)のため忍容性が悪いと報告する.

綜説

中性脂肪蓄積心筋血管症 平野 賢一
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はじめに

 中性脂肪蓄積心筋血管症(triglyceride deposit cardiomyovasculopathy;TGCV)は,2008年,わが国の心臓移植待機症例より見出された新規疾患単位であり,心筋細胞,冠状動脈硬化巣に中性脂肪が蓄積する結果,重症心不全,不整脈を来す難病である1,2).これまでのところ明らかなTGCVの原因遺伝子は,細胞内中性脂肪分解の必須酵素であるadipose triglyceride lipase(ATGL)である3,4).2009年より,厚生労働省難治性疾患克服研究事業として,TGCV研究班が立ち上がり,本症の1日も早い克服を目指して,その疾患概念の確立,診断法,治療法の開発が進められている.

 本稿では,本症の発見の経緯,その病態,これまで収集した原発性TGCV(ATGL欠損症)の臨床像について述べる.

Bedside Teaching

難治性気胸のマネジメント 栗原 正利
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はじめに

 気胸学の最近の進歩はやはり内視鏡(胸腔鏡)手術である.フランス人医師Phillipe Mouretが世界で初めて胆石症を内視鏡手術で治療した.以後あらゆる臓器で内視鏡手術が世界中に広がり発展を遂げてきた.肺の分野でも同様に進歩を遂げていった.

 難治性気胸の治療も,低侵襲であるとの意味から一部は胸腔鏡手術で可能となった.したがって呼吸器外科医のなかには胸腔鏡手術でできるものは難治性気胸から外すと考えているものもある.しかし,胸腔鏡手術の技術も医師により様々である.胸腔鏡手術でできないものも多数ある.日本気胸囊胞性肺疾患学会のガイドライン1)をみても,難治性気胸の定義は未だに明確になっていない.

 本稿では胸腔鏡手術で可能な難治性気胸も含めて難治性気胸の全体像について述べたい.

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要旨 【目的】冠攣縮性狭心症(coronary spastic angina;CSA)に対するニフェジピンCR錠の冠攣縮発作の抑制効果を検討する.【対象と方法】症候性発作を有するCSA患者10例に対しニフェジピンCR 10~40mgを1日1~2回投与し,12週間経過観察を行った.【結果】ニフェジピンCR錠投与後,即効性硝酸薬消費量は,観察期の2.9±2.8錠/週から4週後に0錠/週へ有意に減少し(p<0.01),全治療期を通して0錠/週であった.硝酸薬を要する胸痛発作は消失した.血圧値は有意な変動がなく正常範囲内に維持された.脈拍数は観察期(68±10bpm)に比べて治療開始4週後に有意に上昇したが(p<0.01),動悸,頻脈などの訴えはなかった.【結語】ニフェジピンCRは,冠攣縮性狭心症患者の即効性硝酸薬消費量を早期から有意に減少させ,発作を強力に抑制した.CSA患者の冠攣縮発作の抑制にニフェジピンCRの有用性が期待される.

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要旨 【目的】60歳以上の高齢者において,肺炎治癒期間の差にCD4リンパ球数などが影響しているかどうかを検討する.【方法】当院に入院した60歳以上の市中肺炎患者104人を対象に,入院時の採血項目と肺炎治癒期間との関係を検討した.【結果】死亡群のCD4リンパ球数(208±51/μl)は治癒群(520±34/μl)と健常人(812±67/μl)と比較して有意に低値を示していた(p<0.01).一方,CD4リンパ球数と治癒期間との関係はなかった(p=0.09).死亡群の血清アルブミン値(2.65±0.11g/dl)は治癒群(3.30±0.06g/dl)と健常人(3.98±0.04g/dl)を比較し有意に低値を示していた(p<0.01).血清アルブミン値と肺炎治癒期間には相関を認めた(p<0.01).【結語】CD4リンパ球数が低値の場合,肺炎は重症化しやすく,血清アルブミン値が低値の場合は治癒期間の遷延が認められた.

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要旨 患者は74歳,女性.148cm,42kg.腎腫瘍の診断で上腹部L字状切開と胸骨正中切開により右腎,下大静脈部分切除術が施行された.術後ICUに入室したが,自発呼吸における肺胞換気量が不十分のため,高炭酸ガス血症のため人工呼吸管理を繰り返した.疼痛,電解質異常,低心拍出量,過剰炭水化物摂取,胸水,無気肺など人工呼吸器離脱阻害因子をできる限り除去したが,通常の肺胞換気量を保つことができなかった.抜管後,経皮気管穿刺キット(ミニトラック®)を挿入し3~6l(0.07-0.14l/kg/分)の気管内定常流を吹送することによって,死腔内の二酸化炭素の一部が洗い流され,換気の補助ができた.低換気,高炭酸ガス血症の患者に対してミニトラック®から気管内ガス吹送をすることにより呼吸管理を行うことができた.

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要旨 患者は74歳,男性.拡張型心筋症.うっ血と低心拍出量状態(LOS)が混在する難治性心不全に対し,心臓再同期療法に加え静注強心薬とNa(ナトリウム)利尿薬を併用投与しても改善が得られなかった.特に,うっ血解除の過程で低Na血症と血管内脱水を容易に来し,LOSと起立性低血圧が顕在化した.そこへトルバプタン投与とフロセミド減量を行ったところ,1日尿量は同程度に維持され,上昇したBUN/Cr比と低Na血症が改善,起立性低血圧が消失した.体重は軽度増加したが,肺うっ血は来さず,むしろ胸水や浮腫は減少して独歩退院と在宅療法が可能となった.

 水利尿により血漿浸透圧が正常化し,細胞内外の過剰水の移動により十分な循環血漿量が保持された結果と考えられた.トルバプタンは低Na血症を改善するばかりでなく,過剰水の循環血漿内への移動を促すと思われる.LOS患者であっても安定した血行動態の下に効果的なうっ血解除が可能な水利尿薬である.

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 数多くいる循環器専門医といえども,その中でホルター心電図が好きな,あるいは得意な医師は少ないはずだ.このように書く自分自身がそうだったのだから,このことには確信が持てる.若いころ,心電図や心内電位はよくても,ホルター心電図だけはどうにも避けたかった.ましてや報告書を書くことは苦痛以外の何物でもなかったことをよく覚えている.その後,良き指導者を得て,数年後には東京大学附属病院中央検査部で院内すべてのホルター心電図の報告書を書いていたのだから自分自身が驚いてしまう.ホルター心電図を読むということ,これには良い指導者に出会ってOJTで学ぶことが一番だ.

 とはいっても,指導者に恵まれないときにどうしよう.誰もが教科書を当たると思う.しかし,ホルター心電図の教科書はとても少ないのだ.アマゾンで調べてみると現在購入可能なホルター心電図の教科書はたったの4冊しかない(しかも,そのうち1冊は筆者の師匠が編集されている.世間は狭い!).心電図に関する教科書が数えきれないぐらいあることとは極めて対照的だ.

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欧文目次

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日     時 2012年1月20日(金)9:30~17:10

場     所 千里ライフサイエンスセンタービル 5階ライフホール

        (大阪府豊中市新千里東町1-4-2,地下鉄御堂筋線/北大阪急行千里中央下車)

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日     程 2012年3月28日(水)夕方~3月31日(土)

会     場 東京コンファレンスセンター(品川)

次号予告

投稿規定

あとがき 平山 篤志
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 東日本大震災の未曾有の大災害に遭われた皆様に,心からお見舞いを,また,犠牲になられた方々に心から哀悼の意を表します.その大震災から7カ月が経過して,被災地ではようやく復興の兆しを知らせる明るいニュースが届くようになってきました.少しでも早く被災地の方々の平穏な日常が戻ってくることを祈念します.

 さて,今回の「呼吸と循環」の特集は,三重大学の今中恭子先生がテネイシンCを取り上げてくださった.テネイシンCが冠動脈形成術後に障害部位に一時的に発現する,あるいは動脈硬化巣に発現されることは知っていたが,心筋梗塞後や心筋炎,あるいは拡張型心筋症などの心筋リモデリングに関与することやテネイシンC以外にオステオポンチン,ガレクチンなどの細胞外マトリックスを形成するmatricellular蛋白があることは私自身にとっては,新鮮な知識だった.心筋でも,血管でも組織が何らかの原因で傷害を受けた後に発現するmatricellular蛋白が互いに治癒過程を調節する.この調節が望む方向,すなわち生体にとって良い方向に向かえばよいが,一筋縄ではいかないようである.心筋梗塞などの心臓にとって震災のような災害を如何に克服するかをこれらの調節因子が担っていると考えると,東日本大震災後の復興は,単に東北だけの問題でなく日本全体の問題で,テネイシンCなどに始まる修復過程の調節を上手くすることがこれから先の日本の大きな運命を左右すると思われる.くれぐれも調節因子の発現の順番を間違わないように一人一人が考えたいものである.

基本情報

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呼吸と循環
59巻11号 (2011年11月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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