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心臓,血管を含む全ての生体組織は,細胞とそれをとりまく細胞外マトリックスで構成される.細胞外マトリックスは,常に強い物理的ストレスにさらされる心臓,血管の物理構造を支持するとともに,細胞機能を調節して組織恒常性の維持に貢献する.細胞外マトリックスには多くの分子が含まれるが,最近,そのなかでもテネイシン,オステオポンチン,ペリオスチン,ガレクチンなどのように,線維や基底膜のような構造物を作らず,組織リモデリングに伴って高発現し,強い生物活性によって組織リモデリングを制御するmatricellular蛋白と呼ばれる分子群が注目されている.これらは,病態形成過程でよく似た発現様式を示し,互いに重複した多彩な分子機能を持つ.
テネイシンCは最も典型的なmatricellular蛋白で,胎児期の形態形成,組織傷害,炎症,癌浸潤や組織再生に伴って一過性に限られた場所に高発現して,炎症,血管新生,線維化を制御し,組織構築改変で重要な役割を演じる.もともと,癌間質に特異的な分子の一つとして発見されたが,心臓や血管の種々の疾患でも発現が上昇し,それぞれの病態形成に深く関わることや,その分子メカニズムが明らかになってきた.しかしながら,他のmatricellular蛋白分子同様,炎症をはじめとする種々の生体反応のチューナーのような役割を演じると解釈され,状況依存的に,しばしば相反する複雑で多彩な分子機能を示すため,病態進展における役割を一義的に論ずるのは簡単ではない.その一方,テネイシンCの発現様式は明快で,正常組織にはほとんど発現せず,病的状態で特異的に高発現する.この特徴的な発現様式を利用して,血中バイオマーカーや分子イメージング標的として診断に用いる試みや,テネイシンCの強い生物活性を利用した分子機能を利用した治療用デバイスの開発など,臨床応用への研究が精力的に進められている.
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