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はじめに
高等動物における発生・発達と疾病の発症・進展において,細胞の形態・接着・増殖・移動・分化が極めて重要であり,特に細胞と細胞外マトリックス(ECM)との相互作用がその過程においてシグナルの主な役割を果たしていると考えられている.ECMには糖蛋白質,コラーゲン,プロテオグリカン,増殖因子など特異的な高次構造を維持しながら整合性良く配置されているのみならず,ECM分子を認識する細胞表面レセプターを介して細胞内情報伝達のためのメディエーターとしても機能する.近年,細胞-マトリックス相互作用のアダプターあるいはメディエーターとして機能する特別なECM分子として,matricellular蛋白(細胞性基質蛋白質)の存在が明らかになってきた1~3).
matricellular蛋白の特徴は,1)線維や基底膜のような構造物を作らず(a class of non-structural ECM),細胞-マトリックス伝達を制御する,2)細胞表面の受容体,他のマトリックス分子,成長因子,サイトカイン,プロテアーゼなどと相互作用するだけではなく,そのbioavailabilityがある一定の環境下に限定されることを助けるmatrix metalloproteinase(MMP)を制御し,直接細胞の運動性に影響を及ぼす,3)強い細胞接着を緩める脱接着作用(de-adhesion)によって形態形成,血管の増生,リモデリングに関与する,4)発生期の形態形成や癌浸潤,組織傷害後の修復過程で発現するという共通した性質を持っている.すなわち,matricellular蛋白とは,形態形成,組織修復や再生の際に高度に発現し,脱接着作用とともに2)の機能の発揮・調節によって組織構築の改変(repair and/or remodeling)を制御する分子群である.表1に主なmatricellular蛋白を列記したが,それらの分子機構・機能や病態との関連に関する報告がなされている.
近年,高血圧や心筋梗塞後における心臓リモデリングの発症機構と関連する分子としてECMや特にmatricellular蛋白の重要性が話題になっている4~8).
本稿では,心筋梗塞,心筋炎や心不全における心臓リモデリングに関与し,特にバイオマーカーとして臨床・基礎研究に応用されている代表的なmatricellular蛋白であるTenascin C,Osteopontin,およびGalectinについて概説する.
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