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先日,ACE阻害薬で約20年間も血圧のコントロールがよく合併症もない患者が来院した.最近ならアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が処方されていたであろう.高血圧治療の歴史は降圧薬の進歩とともに変遷してきた.一時,Ca拮抗薬が繁用されたが,心肥大抑制や腎機能保護などの面からレニン・アンジオテンシン系抑制薬であるACE阻害薬が注目されるようになった.一方,ARBはわが国では1998年にロサルタンが発売されて以来,現在6種類が使用されている.その頃,欧米ではロサルタンの大規模臨床試験であるELITE Ⅱ(2000年),RENAAL(2001年)やLIFE(2002年)が次々と報告された.また,2003年に米国合同委員会第7次報告が発表され,大規模臨床試験の結果を強く反映した診療ガイドラインとして評価された.わが国では2000年に日本高血圧学会(JSH)から高血圧治療ガイドラインが初めて作成されたが日本人の高血圧治療に関するエビデンスはほとんどなかった.その後,海外でばかりでなく日本人を対象としたARBの大規模臨床試験がいくつか発表されて2009年のJSHガイドラインに影響を与えた.
ARBは今までの降圧薬とは異なり多くの大規模臨床試験が行われ,そのエビデンスに基づいて普及してきた.しかし,大規模試験には莫大な資金が必要とされるために大半が製薬企業に支援されている.ARBのような高薬価の製品の有用性を大規模臨床試験で報告しガイドラインに反映させれば,積極的な使用を推進できる.企業にとっては高価なものを多く売れば利益が大きいことは当然であり,これは企業側の費用対効果である.わが国の医師主導型自主研究も製薬企業から資金提供を受けている以上,その薬物の有利なデータが報告される.ARB群と他群を比較する場合,死亡率,心筋梗塞や脳卒中の発症などのハードエンドポイントに差がつかなくても主観的評価をエンドポイントとして設定し,それを含む複合エンドポイントとして差をつけるかACE阻害薬を対照とする場合は副作用(数パーセントの空咳)のため忍容性が悪いと報告する.
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