呼吸と循環 35巻2号 (1987年2月)

巻頭言

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 外科医は,手術という一つの障壁を乗り越えてから,第三者によって外科医の能力が評価されるという宿命を持っている。病態を基盤として患者の危険因子や社会的適応まで考慮して,根治手術か,姑息手術か,あるいは保存療法が好ましいかを決断しなげればならない。

 深部静脈血栓症を一つの例にとってみても,手術は必要かということで常に論議されている。薬物療法の進歩で線溶により改善する症例もあるが,必ずしも効果的でない症例もあることから,外科的治療の可否が論じられるわけであろう。多数の症例の長期の追跡成績から妥当な結論を出すことが必要であろう。

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緒言

 1947年に,HeilbrunnとWiercinskiにより骨格筋の収縮系にはカルシウムイオン(Ca2+)が必要であるとするカルシウム説1)が提唱されて以来,筋収縮のメカニズムに関する多くの学説が発表されてきた。今日では心筋をはじめとする各種平滑筋の収縮においてもCa2+が重要な役割を演じているとする考え方が有力となり,それについてはもはや疑いの余地がないものと考えられるようになった。

 カルシウム拮抗薬が日常臨床に導入されたのはまだ比較的新しいことである。しかし,近年,これら薬剤は心臓・循環器系疾患,高血圧症の治療薬として日常臨床で繁用されるようになり,また平滑筋に対する作用機序が解明されるにつれて,気管支平滑筋への作用,ひいては気管支喘息,COPDの治療薬としての可能性も盛んに検索されるようになった。

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I.はじめに—ある文脈—

 昭和60年3月に,健保適用の形で,とにかくにも社会的認知にこぎつけた在宅酸素療法(Home oxygentherapy:以下HOT)の実現1)は,慢性呼吸不全の医療の新しい地平線をさし示す,象徴的な一歩であった。長期持続酸素療法の効果2,3),安全性に関する医学的検証の積重ね,いわゆるQuality of life4〜6)(以下QOL)の観点からする「疾病と障害」を背負う人々の医療のあり方についての反省,患者会,医療器機メーカー,医療費節減策を推進する行政など,さまざまな思惑,主張,根拠が,HOT健保適用に結実した7)のである。さしあたりは,病院外酸素供給に関する費用負担の問題だけが,患者にとって軽減されたに過ぎないにしても。HOT認定あるいは届出医療機関は,今日では全国で900近く,またHOT患者数は4,000名近くに達し,多くの慢性呼吸不全患者が,施設内医療における幽閉生活から開放されつつある意味は大きい。一方で,慢性疾患患者や障書者に対する在宅,地域ケア資源の乏しい日本の現実8)をみると,患者を,必要な施設内医療から安易に追放し,HOTを新しい姥捨山にしてしまう惧れなきにしもあらずである。

 HOTの「光と影」を見据えて,施設内医療の側も開かれたあり方に変わらなければならない。

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はじめに

 CTの出現以来,脳,肺,そして骨や腹部などの断層撮影は大きく進歩したが,心臓に関しては種々の問題があり,通常のCTでは診断や研究には充分ではない。それは心筋が毎分60〜80回のスピードで拍動しており,その最大運動速度は10cm/秒位になる部位もあることである。また,心臓の長軸が人間の頭尾線とは平行でなく傾斜していることなども問題となる。それで,これらの諸問題を解決するため心臓を高速でスキャンし,その立体像を作って診断や研究に役だてるために,DynamicSpatial Reconstructor(DSR)が米国ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリックで考案・製作された。

Bedside Teaching

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Post-hypercapnic alkalosisとは

 Post-hypercapnic Alkalosisとは,慢性呼吸性アシドーシスの治療中に認められるアルカリ血症である。腎性代償のためにHCO3が高値を示している患者のPaCO2を人工呼吸により急激に低下させるとpHが著しく上昇することがある。呼吸性アシドーシスの急性期におけるアルカリ化剤(メイロン,THAM等)の過剰投与,肺性心に対するサイアザイド系利尿剤の投与は,この傾向をきらに助長する。

 1965年のad-Hoc-Committeeは,酸塩基調節の用語について生理的過程や状態を示す言葉と検査データを示す言葉を明確に区別するよう定めており,これに厳密に従うならばこの病態はむしろpost-hypercapnic alkalemiaと表現すべきである。しかし,臨床的にしばしば観察される現象であり,かつ背景にある複数の要因の影響を分離評価できないことから最近では,単一の生理過程と同一視されるようになりpost-hypercapnic alkalosisまたは,post-hypercapnic metabolic alkalosisと表現されることが多くなってきた。

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 重篤な心不全症例に対しては,ジギタリス,利尿剤を始めカテコーラミン,血管拡張剤が用いられ効果を挙げていることは周知の通りである1)。しかし,一方,その基礎疾患の如何を問わず,在来治療法にては如何にもコントロール不可能で,特にうっ血,間質浮腫所見およびこれに基づく重要諸臓器機能障害により,死に至る症例も経験される。かかる全身溢水状態を伴う難治性心不全症例に対し,従来腎不全透析症例に対する除水目的として開発され,臨床応用されてきた体外式限外濾過法2,3)を応用し有効であったとする報告が,1970年代の後半から散発的に見られているが4〜7),さらにごく最近になり,まとまった症例数についての報告も見られるに至っている8,9)

 体外式限外濾過法は小林ら2),Silversteinら3)により1970年代前半に紹介された方法で,要するに人工透析用の透析膜を用い,透析液を用いず大気開放としこの部に陰圧を加えるか,血液灌流側に陽圧を加えるかして,限外濾過による除水をはかる方法である。この方法では通常の透析法の場合と異なり血圧の低下が起こりにくく10),静脈から採血静脈へ返血する方法を用いれば循環系に対する負荷が僅少で,心不全例への応用が可能となっている。

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 脳循環血流量の測定法は数多くあるが,連続的な測定法は数少ない。我々は歯への侵害刺激を与えた際の急激な血圧変動時の脳循環を調べる必要性から連続的な脳循環のモニターを検討してきた。近年開発された制御差温式組織血流計は,水素クリアランス式血流計を用いて較正を行えば,連続的に絶対量を測れるのではないかと考えられる。今回,ネコを対象に制御差温式組織血流計および水素クリアランス式血流計を用いて大脳皮質組織血流量を測定し,本血流測定法の広い範囲での測定値の信頼性を検討するとともに,急速な血流量変動の追従性を検討した。

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 運動負荷試験において血中乳酸濃度の測定を行った研究報告がこれまで数多くなされてきたが,とくに多段階運動負荷試験においてはいわゆるanaerobic thresholdの概念に基づいて血中乳酸濃度の上昇開始を決定することが重視されてきた1,2)。著者らは多段階運動負荷時の血中乳酸濃度の推移を詳細に検討したところ酸素消費量の増大に対する血中乳酸濃度の変化はanaerobic thresholdを境とした上昇を示すだけではなく三相性の推移を呈することを認めた。この現象の運動時エネルギー代謝と循環調節における意義を考察し報告する。

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 肝硬変症患者では,安静時の低酸素血症を見ることがあり,また水-電解質バランスの異常,糖やアミノ酸の代謝障害,血液凝固系の障害など,多くの全身的異常が出現する。このような肝硬変症併存患者に対して,我々麻酔科医は術前からmultiple organ failureの準備状態にあるものとして,色々な対策を講じるが,それにもかかわらず,術後に重篤な合併症を併発することがしばしばある。術中においても,血圧が変動しやすいことや,低酸素血症などに悩まされることが時にあり,予想以上に呼吸循環系の予備力のないことを認識させられることがある。しかし,これら肝硬変症患者を含む肝機能障害患者を対象とした運動負荷試験の報告はない。今回我々は,肝硬変症患者を主体とした肝機能障害患者に,エルゴメーターによる運動負荷試験を行ったところ,肝機能障害患者では,運動負荷に対する耐容性が低く,低い運動負荷レベルにおいて嫌気性代謝が始まることが示唆されたので報告する。

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 循環制御系は,体組織の需要に応じて心拍出量を調節している1)。一方,血流を体組織に配分する血管系もまた循環制御系の調節を受けており,何らかの原因で組織需要に見合うだけの心拍出量が供給されない場合,血流配分が変化することはよく知られるところである2)

 本研究の目的は,組織需要に応じてコントロールされた心拍出量レベルに対し,過小あるいは過大の心拍出量供給を行った場合の体血管系指標の変化を検討し,循環制御系の調節様式の一端を明らかにすることにある。

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 心不全に対する心室負荷軽減療法の1つとしてBuna—zosin hydrochloride (Bunazosinと略す)の急性効果の報告は数少なく1〜3),運動負荷時の血行動態,代謝および交感神経系に及ぼす影響となるといまだ報告はない8〜10)

 以前より我々は重症心不全患者に対するBunazosinの急性効果として後負荷並びに前負荷軽減効果のみならず交感神経系およびガス分析面におげる改善も期待できることを報告してきた1)

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 冠スパズムが主因をなす狭心症,および心筋硬塞の臨床報告が多数集積きれるに至り1,2,8),それまで仮説にすぎなかった冠スパズムが虚血性心疾患の発症,あるいは進展の過程に重要な役割を担っている事実が次第に明らかとなった。このような背景から,虚血性心疾患例を対象とする臨床上の最終的検査法である冠動脈造影を施行する際に,冠スパズムの検討も合わせて行うことは極めて重要であり,これにより冠動脈病変の把握,A-Cバイパス術の適応の決定,狭心症治療剤の選択など,ただらに入手必要な情報はもちろん,病態解析上も重要な所見をもたらすと考えられる。ところで,冠動脈造影検査中に冠スパズムに遭遇するチャンスはほとんど望み薄であることから,何らかの誘発試験を行うことが実際的である。エルゴノビン負荷による冠スパズム誘発試験はその検出率が極めて鋭敏であることから臨床上繁用されている4,5)。しかし,一旦,完全閉塞を伴う冠スパズムが生じた場台には,一時的にせよ心筋阻血をきたすことから死亡事故例も報告されている6)。しかしエルゴノビン負荷法に匹敵する感受性および再現性を有する負荷法が見当たらない現状を考慮すると,本負荷法における安全で,かつ冠スパズムを確実に証明しうるエルゴノビンの投与方法および投与量の再検討が必要であると思われる。これらの観点から,著者らは選択的に冠動脈内にエルゴノビンを投与する方法を考案した。

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 Torsade de Pointes(TdP)は,1966年フランスのDessertenne1)が命名した突然起こる心拍数150回/分以上で,心電図上QRS軸が基線に対してねじれる(twist)ようにみえる特異な心室頻拍である。

 最近我々は,Procainamide(PA)の代謝産物であるN-acetyl procainamide(NAPA)が原因でTdPを生じた1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

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 原発性心臓腫瘍は非常に稀であり,剖検頻度は0.0017〜0.28%であり,心膜または心臓への転移性腫瘍の剖検頻度は悪性病変をもった患者の1.5〜20.6%とされている1〜4)。原発性心臓腫瘍の約80%は良性腫瘍で,粘液腫と横紋筋腫が多く,悪性腫瘍は残りの約20%でそのほとんどを肉腫が占め,血管肉腫,横紋筋肉腫,線維肉腫が多い。我々は原発部位を確定することはできなかったが,心臓原発と考えられる左房内平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する。

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 冠動脈は自律神経系および体液性の調節により,そのトーヌスを保っているが,冠動脈攣縮の発生機序として,この制御機構の何らかの原因による破綻の可能性が考えられる。自律神経系が精神的ストレスと密接に関係している事実を考えれば,当然冠攣縮の誘因としてのストレスの存在が注目される。

 今回われわれは精神的ストレスが誘因となったと思われる冠攣縮性狭心症2例につき報告する。

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 原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension以下PPH)は原因不明の前毛細管圧の著しい肺高血圧症をきたす進行性の疾患である1)。確定診断は"plexi—form lesion"などの病理組織学的所見にて得られるが2,3),反復性肺血栓塞栓症(recurrent pulmonarythromboembolism)との鑑別は必ずしも容易ではない症例も存在する。治療法すなわち肺高血圧症に対して最近種々の血管拡張薬の有効性が報告されているが,それに対する異論もありさらに長期効果に関する報告は極めて少ない。今回我々は臨床的にPPHと診断した症例に対しprazosinとlong-acting isosorbide dinitrateの併用により臨床症状ならびに1,3,6カ月さらに1年後の時点で右心カテーテルにて得られた肺循環動態に改善を職たので報告する。

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 心嚢内に気体の存在する状態を心嚢気腫と呼ぶが,この中には,明らかな基礎疾患はなく発生し,きわめて予後が良好であるなど,いくつかの特徴を持ったものがあり,一般に特発性心嚢気腫と称きれている。今回,我々は,冠動脈造影時に強制的に行わせる咳嗽により誘発された特発性心嚢気腫の症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

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 心室早期興奮を示す副伝導路にはKent束,James束およびMahaim束があり,早期興奮症候群には顕性のものの他,間歇性および潜在性のものの存在が知られている。副伝導路の多く,とくに間性あるいは潜在性のものの大多数はKent束によるものであり,Mahaim束によると思われる間歇性早期興奮症候群の報告はまれである1,2)。今回,我々は間歇的に出現するPQ短縮を伴わない早期興奮症候群の1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

基本情報

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呼吸と循環
35巻2号 (1987年2月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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