呼吸と循環 22巻7号 (1974年8月)

特集 血液測定

巻頭言

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 血流測定上の最近の話題を考えてみると,最終目標であるヒトでの定量性に優れた測定法の開発とその測定結果の評価につきる。Fick法や色素稀釈法はともかく,これらは酸素なり色素なりをIndicatorとして血流中の濃度や含量の形で測定することになる。従ってIndicatorとしてRI,熱,不活性ガスなどの血液固有の性質と異った物質を混合して稀釈をみるのも原理的には前2者と同一といえる。比較的新らしい過去をこの目的からふりかえると,血流の総量測定にはじまって局所臓器への分布流量,更に臓器内の部分差などの測定が臓器機能の分析が発展するにつれて要求されてきた。

 血流の本来の目的が末梢毛細管床における代謝,交換であることから,測定法の開発の方向としてますますfocal flowを求あるようになるのは当然といえる。この時点でヒトの場合の障壁は,第1に測定局所に直達できないこと,第2にこの毛細管床の定量的血流測定が最大の難題であるという命題がある。

超音波ドプラー法の応用

理論と評価 仁村 泰治
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 超音波干渉法1)によって撓骨動脈,上腕動脈などの拍動曲線記録を検討していた故里村はその際予期しなかった雑音的な出力があることに気づいた。そこで独自にこの出力を分析し,それが血流により超音波のドプラー効果をうけることに基づくものであることを知り,超音波ドプラー法による血流検知の概念をもつに至った2)。この方法は金子3)4)らによって脳血流の分析に応用され,臨床における非観血的血流検査法として認識されるようになった。その頃から米国でもRushmar, Franklinら5)によって検討がはじめられ,次第に非観血的血流測定法として広くとり入れられるようになってきた6)〜9)。ドプラー効果の由来については,里村2)ははじめ血流中の乱流あるいは流速の異った層間からの反射が関係しているのではないかと考えたが,加藤ら10)によりそれは血球からの反射に基づくものであることが明らかにされた。

 血流測定法としての分野が次第に確立されるとともに,ハード的にもいろいろの改良がほどこされてきた。たとえば加藤ら11)12),および中山ら13),McLeodら14)により独立に方向指示の方法が考案された。さらに運動体の速さに加えて,それまでの距離についての情報をも得るためにパルス・ドプラー法15),M系列ドプラー法16)などが試みられている。

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 心機能を知るには,心臓のポンプとしての作期から考えて,心拍出量の負荷に対する応答特性を調べることが最もよい方法である。必臓に負荷を与える方法としては,いろいろあるが,運動負荷が最も容易な方法である。したがって運動負荷時の心拍出量を連続的に調べることが望ましいが,現在のところ非観血的にかつ連続的に心拍出量を求めうるよい方法が見あたらない。私共はここ数年来,超音波ドプラー法がこの用途に役立たないか検討しているが,現在の装置では大動脈からは充分な信号が得られないので鎖骨下動脈の血流をもってこれに代用している。右鎖骨下動脈は大動脈の直接の分岐であり,触知しうる血管としては最も心臓に近いので,心拍出をモニターするには最も適していると考えられる。

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 ICUにおいて,患者の心血行動態の変動の特に激しい時期に,従来から行われている心電図,血圧,中心静脈圧,心拍数などのモニターだけでは充分とはいえず,例えば低心拍出症候群においては,血圧はどうにか維持されているが,末梢灌流量は著しく減少していることは良く知られている。ドプラー血流計のICUでの利用の目的は,血流情報をICUのベットサイドに導入しょうということであり,具体的には,末梢動脈血流を長時間連続して計測し,その局所灌流状態を知り,更にそれにより,中枢の状態,すなわち心拍出量を近似的に求めたり,心機能評価の指標を得ようとするものである1)2)

 本稿では,ドプラー血流計の定量的利用への一つのアプローチとして,ICUの心拍出量監視について述べさせて頂く。装置方法は,きわめて簡単にふれるだけとし,近似的心拍出量計算の前提となっている種々の実験的事実は,ここではできるだけ省略して参照文献をつけ,もっぱらドプラー血流波形から心拍出量の近似計算をする方法と,その臨床例を中心に述べることとする。

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 血流に関する情報として求められるものには血流の速度と流量に関連したものがまず挙げられるであろう。更に前者に関してはその平均流速のみならず,血管内での血流速のスペクトラムを知りたいとする要求も含まれるであろうし,また後者については時々刻々の瞬時血流量や単位時間に流れる血流量,あるいは1心拍当りの血流量などがある。このような血流の状況をできる限り正確に知ろうとする努力は従来より数多くなされてきた。これらの内,超音波ドプラー法を利用した血流計測は,生体に対し侵襲を加えることなく体外より経皮的に容易に測定できるという利点を備えているため,近年急速に普及してきた。

 超音波ドプラー法による血流計測は1959年里村1)によって開発されたものであるが,当初血流の方向指示が不可能でこれが本法の短所とされていたが,1966年加藤2)3)により周波数偏位方式による方向指示方式が,またMcLeod4), Pourcelot5)らによって位相弁別方式による方法があいついで発表された。

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 肝癌の血清学的診断すなわちAFPの検出は,早期癌の診断向上につながるものとして期待されたが8),現状では依然として肝癌切除率は低く,切除率を高めるには生体侵襲が少くかつ操作が簡便なスクリーニング法の開発以外にはないものと考えられる。

 一般に臓器に病変がおこれば,それに対応して血行動態が変化する。その変動を生体侵襲の少ない超音波ドプラー法によって経皮的に捕えることが可能ではないかと考え,モデル実験ならびに臨床例で検討を重ねてきた7)。その結果を報告する。

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Ⅰ.葛西氏ら(p.575)の発表に対する討論(肝内血流とソナグラム)

 松尾(阪大内科)現在の方法ではnon-directional形を使っていられるが,directional形を使うと更に情報がふえると思う。

 仁村(阪大内科)この応用はサウンドスペクトログラフィーの特長を大いに活用したものであり,特定血管をねらうのと異って対象が限局されていない点で新しい応用である。

マイクロスフェアー法の応用

理論と評価 飯尾 正宏
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 局所循環の測定にラジオアイソトープを用いる試みは,1958年のSapirstein1)らによる42K, 86Rbの応用にはじまる。これらの標識の全身分布の終了とともに動物を殺し,目的とする臓器または臓器部分の放射能を測定してその百分比と心送血量より局所循環の測定を行ったもので,Sapirsteinの原理とよばれている。

 理論的にも,実際上にもSapirstein法のもつ欠点を補うものとして最近では標識粒子法に局所循環の研究は受けつがれるようになり,particle distribution methodとよばれるようになった。このセミナーは本法の,研究,臨床面での応用の本邦における現状の総括である。

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1.131I-MAAあるいは99mTc-MAAによる coronary perfusion scanning

 1966年,Quinnは,犬の冠動脈へ臨床的に肺シンチグラムなどに広く用いられてきた131I-MAAを注入し,心筋シンチグラムを行なった。この方法はacetyl-cholinで心停止をおこさせて,冠動脈に注入する方法であるが,10〜50μのMAA粒子により1時的にせよ冠毛細管にmicroembolizationを生じることと,acetyl-cholinにより心停止を行なわさせる為に,臨床応用には至らず,実験に終った。

 1969年,遠藤らは,動物実験でその安全性を確認した後,acetyl-cholin等を用いず,選択的冠動脈造影用カテーテルにより,直接,冠動脈に注入する方法を行ない,安全化を高め臨床応用した。

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1.肺

 肺循環研究に用いられるmicrosphereは,ヒト血清アルブミンから作ったいわゆるalbumin microsphereで131I-MAA (10〜50μ)がTaplinによって完成されて,粒子法に基づく肺スキヤンの歴史が始まる1)

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 ヒトの大動脈や肺動脈などの大血管の血流測定は心臓外科の発展につれて開胸時に電磁血流計を用いて行われるようになった。現在でも所期の程に普及していないのは,(1)術中測定に限られる,(2)消毒や安全性などの技術的制約があり,また(3)プローブ径を各種具える必要性と経済的制約があった。またプローブ形状,特にスリット幅の狭い従来の形の病的心血管への装着は危険と困難を伴っていた。この点は図1に示す血管周囲の剥離を要しないthree quarter形プローブの実用化によって術中測定が簡単になり,雑音のない記録が可能となった,実例を図2a,bに示すが,ASDの術前後の上行大動脈と肺動脈主幹の血流の同時記録で,中隔欠損の閉鎖後に左—右短絡の消失に伴って大動脈と肺動脈の血流量がほぼ等しくなっている。

 図3は大動脈弁閉鎖不全症に人工弁置換術を行った大動脈血流波形で,術後に逆流が消失している。図4はファロー四徴症の肺動脈血流波形で,根治手術後に右心の拍出様式の変化や逆流の消失などの程度を量的に示している。

呼と循ゼミナール

血流の見掛けの粘性 谷口 興一
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 血液は血漿に血球成分が浮遊している液体つまり懸濁液であり,特殊な流体と考えられる。流体は固体と異なり,変形に対してほとんど抵抗が感じられず,自由自在に流動することから命名されたのであろう。流体は粘性を考慮に入れない完全流体と粘性を考えに入れた粘性流体とに分けられるが,血液は粘性流体の特殊なもの,つまり粘弾性流体と考えられる。一般に粘性流体は変形の与え方の速さ,つまり変形速度とそれに対応して生ずる抵抗,すなわち応力との関係によって分類される。同一流体でも変形の与え方の速さによっては,かなり異なった抵抗を呈し,粘性は著しく変った態度をとる場合がある。

 一般に速さuが座標zの関数としてあらわせるようなχ軸に平行な流れにおいて,流体にずり変形を起こす力をずり応力(せん断応力)τと称し,それによる流体の変形速度の度合du/dzはずり速度(せん断速度),あるいは速度勾配といわれる。一般にずり応力はずり速度ezx(du/dz)の関数で,流動特性といい,ずり応力とずり速度の関係を示す図は流動曲線と呼ばれる。流動特性から流体を分類すると次のようになる。

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 肺高血圧は高地環境においては,健康人にもみられるが,普通の環境では種々の心肺疾患に続発することが多い。しかし,生前明らかに肺高血圧が認められ,それにもとづく右室肥大をきたして心不全で死亡したにもかかわらず,心肺のいずれにもその原因と考えられる病変がみあたらず,いまだ原因不明の肺高血圧症が存在する。

 このような症例は,すでに1891年Rombergにより原発性肺動脈硬化症として報告され,Dresdaleらが心カテーテル法により肺高血圧の存在を認めてより,原発性肺高血圧症と呼ばれるようになった。現在までにすでに約600例以上が症例報告されているが,その成因の不明なこともあって,その病像について必らずしも一定の見解は得られなかったが,近年Wagenvoortらは,51施設で臨床的に本症と診断された156剖検例を集め,それについて詳細な組織学的検索を行ない,原因についてはなお明らかではないが,本症が一つの独立した疾患単位であることを明らかにしている。

狭心症 中村 芳郎
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 狭心症の概念は混乱するはずはないように思われるのに,WHOの虚血性心疾患の分類1)などで,心筋硬塞,中間症候群などと並べてAngina effortと書かれていると,動脈硬化性心疾患の中に狭心症が含まれており,他の疾患の狭心症は存在しないように感じられる場合があるらしい。実際,心電図のST-T変化とCoronary an—giographyの所見を検討していると,狭心症を定義する上でおそらく重要でありながらきめての少い,心筋の虚血に関する手がかりなしで心筋の虚血を論じそうになることがあることを考えると,一般臨床医が混乱するのは当然なのかもしれない。

 狭心症の原因としてabnormal HbO2 dissociation curve, small-vessel disease等も挙げている場合がある2)が,本当にそのように考えてよいのか迷わせられる。特にSyndrome Xなどと言われると,狭心症の定義はどうなっていたのかと疑いたくなる。Likoff ら3)が正常coronary arteriogramを示す狭心症と思われる——異常心電図と自覚症から——女性例15例を記載して以来,この女性に多い説明のつけにくいSyndiomeにXの名を与えて呼ばれることがある。

基本情報

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呼吸と循環
22巻7号 (1974年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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