整形・災害外科 62巻1号 (2019年1月)

特集 小児整形外科の最新知見

服部 義
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日本整形外科学会の会員数が25,000名に達すると聞いています。急激に進む少子高齢化の波の中,多くの会員の目はおのずと高齢者に注がれます。一方,日本小児整形外科学会の会員数は現在1,115名で,わずかですが減少傾向にあります。若い整形外科医に「なぜ小児整形外科を志さないのか」と尋ねると,返ってくる答えは「母親を含めコミュニケーションをとるのが大変」「治療適応を決めるのが難しい」「治療の結果がすぐに出ない」「進歩が少ない」等です。

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要旨:酵素補充療法が可能な整形外科希少疾患として低ホスファターゼ症とモルキオ症候群A型が挙げられる。低ホスファターゼ症は,骨の低石灰化,くる病様変化,乳歯の早期脱落,血清アルカリホスファターゼ値の低値などを特徴とする。モルキオ症候群A型は,ムコ多糖症ⅣA型とも呼ばれ,躯幹短縮型低身長症,下肢変形,角膜混濁,手関節の過伸展などを特徴とする。両疾患とも症状の重症度は幅広い。近年まで,両疾患に対して主に対症療法しか行われてこなかったが,酵素補充療法が開発され,低ホスファターゼ症では,くる病様変化や生存率の改善が示され,モルキオ症候群A型では,運動機能や呼吸機能の改善が示された。両疾患とも課題は残されており,有効性,安全性のさらなる検討が期待される。

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要旨:軟骨無形成症は,四肢短縮型低身長を呈する骨系統疾患であり,fibroblast growth factor receptor 3(FGFR3)の恒常的活性化変異により発症する。現在,低身長に対しては骨延長と成長ホルモンによって治療されている。また,軟骨無形成症に合併する大後頭孔狭窄と脊柱管狭窄は重篤な合併症であり,除圧術などがしばしば必要になる。しかし,軟骨無形成症の根本的治療法は存在しない。近年,FGFR3を抑制する根本的治療薬の開発が進んでいる。チロシンキナーゼインヒビター,抗FGFR3抗体,soluble FGFR3はいずれもFGFR3シグナルを抑制する。Cタイプナトリウム利尿ペプチドやメクロジンはFGFR3シグナルのMAPK経路を抑制する。PTHやスタチンには軟骨細胞の増殖・分化促進作用がある。これらは低身長の内科的治療法として期待されている。しかし,大後頭孔狭窄と脊柱管狭窄は頭蓋底や椎弓に存在する軟骨結合の早期閉鎖により発症するため,いずれの治療薬もできるだけ早期に投与する必要がある。

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要旨:エイトプレートを使用した骨端線抑制術は合併症やADL制限が少なく,骨端線に対して低侵襲といわれ,2012年の導入以後,本邦でも使用報告は増加傾向にある。使用にあたっては治療効果の発現にやや時間がかかることを考慮し,適切な年齢で行うこと,インプラント長期留置は折損や脱転,抜去困難などに注意することが必要である。変形矯正に比べ,脚長補正では長いインプラント挿入期間を要するため特に注意が必要である。1回の手術でのインプラント挿入期間は治療効果,合併症の面から2~3年が適切だと考えられ,男児では11~12歳,女児では10~11歳頃を目安と考えている。脚長補正には限界があり,脚長差が大きい症例では複数回の手術や骨延長術を併用した治療計画を検討する必要がある。

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要旨:CDH(先天性股関節脱臼)に代わりDDH(発育性股関節形成不全)という用語が広く使われるようになったのは,hip dysplasiaが脱臼,亜脱臼,臼蓋形成不全という広いスペクトラムを持ち,成長に伴い状態が動的に変化する複雑な問題であることを包括的に表しているからである。すなわち,主たる病理は新生児期の股関節不安定性(neonatal hip instability)であり,その後数週間から数カ月この状態が続くか,もしくは脱臼が完成した場合,二次的に臼蓋形成が障害され発育性形成不全が完成する。日本小児整形外科学会の全国調査から,診断遅延例が多いことが明らかになり,国内のスクリーニング体制の検証と診断遅延回避の対策が実行されつつあるが,欧米と比較して検診体制の不備は否めない。DDH後の遺残臼蓋形成不全(RAD)と脱臼歴のない原発性臼蓋形成不全(PAD)の治療戦略はDDHに関するトピックスの一つであるが,成人股関節外科医を交えてその治療戦略を考える必要がある。

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要旨:軟骨や軟部組織の評価が大切である小児整形外科において,超音波診断が定着しつつある。DDHにおいてはGraf法による早期評価が重要である。内反足では,舟状骨周辺の評価,筋性斜頚では,エラストグラフィで硬さの評価が可能である。ペルテス病においては,大腿骨頭変形,関節液貯留,滑膜増生,大腿骨頭への血流,大腿骨頭すべり症では,すべりの程度やFAIの評価が可能である。単純性と化膿性股関節炎の鑑別,JIAの滑膜評価,若木骨折にも超音波は有用である。さらに,肘内障や離断性骨軟骨炎などの上肢疾患,腫瘍の鑑別,筋痙縮の評価にも応用されている。今後,病態解明にさらなる挑戦が期待される。

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要旨:小児における化膿性骨髄炎・関節炎は小児整形外科領域で重要な骨関節感染症であるが,近年では治療法と予後の観点から,両者を同一視せずに考える必要性が生じている。すなわち,化膿性骨髄炎が適切な抗菌薬による内科的治療で治癒が見込まれ,機能的障害を残す頻度が少なくなった一方で,化膿性関節炎は抗菌薬治療に加えて現在でも関節切開などの外科的治療を必要とし,関節変形による機能的障害がまれではなく遺残するという点が大きく異なっているためである。化膿性骨髄炎については,近年複数の重要なreviewが報告され,治療方針が標準化されつつある。化膿性関節炎については,未だ系統的な治療プロトコルに関する報告は十分とはいえず,本邦の患者特徴や臨床成績に基づき,医療保険やガイドラインも考慮して治療を行う必要がある。

児童虐待 菊地 祐子
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要旨:年々増加している児童虐待事案への対応において医療機関に課せられる役割は大きい。虐待は疑いの段階であっても,市区町村もしくは児童相談所への通告が法律で義務づけられており,その行為は守秘義務や個人情報保護に抵触しないと明記されている。児童虐待は再発率・致死率の高い重篤な小児の疾患群であり,見逃せば子どもの命を危険にさらすことになる。医療機関で児童虐待を見逃さないためには,医師個人でなく組織で対応するシステムを作ること,院内での教育や啓蒙活動を行うこと,地域の教育・福祉・保健・司法を担う関係機関と日頃より連携を行うこと,自施設で対応できないときに依頼できる医療機関同士のネットワークを構築することが重要である。虐待に遭う子どもが自らその受傷機転を語り,訴え出ることは不可能である。医学的な判断をもとに傷ついた子どもたちの代弁者たることは,医師に課された重大な責務なのである。

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要旨:平成30年度の診療報酬改定に伴い「小児運動器疾患指導管理料」が新たに設けられた。その算定基準は,他の保険医療機関から紹介された患者であって,運動器疾患を有する6歳未満のものに対し,小児の運動器疾患に関する専門の知識を有する医師が,計画的な医学管理を継続して行い,療養上必要な指導を行った場合に,6月に1回に限り算定する,と定められている。これは,少子高齢化対策の一環として新設されたものと思われ,一般整形外科医が改めて小児運動器疾患に興味を持ち,それらについて最新の知識を身につけるきっかけとなり,また,小児を専門とする病院やクリニックの活性化をもたらすことが期待される。

Personal View

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整形外科領域のcommon diseaseといえば変形性関節症(OA),rare diseaseといえば骨軟部腫瘍や骨系統疾患が代表的で,common diseaseに対する保存治療~手術治療は多くの病院で実施され,rare diseaseは適切に集約化されるか不適切に診療されるかが現状である。私はOAにおけるヒアルロン酸に関する基礎研究を実施していることやOA患者の診療に携わるため,各施設から発表される臨床研究に興味を持っている。医療におけるビッグデータを用いた解析や1,000例におよぶ多施設共同研究により緻密な統計解析でP値0.05未満をもって有意なOA関連因子あるいはOA進行予防因子が判明した,といった報告が増えている。一方,骨軟部腫瘍や骨系統疾患では次世代シーケンシング技術により,ドライバー遺伝子を含む病因遺伝子が次々と突き止められ,high impact factor雑誌へ論文発表されている。また,rare diseaseに対する診療ガイドライン策定の動きがあり,臨床に直結した研究の報告も確実に増えている。

整形外科手術 名人のknow-how

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側方経路腰椎椎体間固定術(lateral lumbar interbody fusion;LLIF)は専用のレトラクターと光源を用い,小展開ながらも十分な視野を得ながら後腹膜腔経路に腰椎椎体間固定を行う手術方法である。椎間板側方から椎間板線維輪切離と椎体横径におよぶ大型ケージ挿入により椎間高整復を行う。側方線維輪は切離するものの,靱帯組織(前・後縦靱帯,黄色靱帯,棘間靱帯など)を残したまま椎間高を整復するため,靱帯張力整復(ligamentotaxis)効果が得られ,間接除圧,冠状面および矢状面での矯正が可能である。

机上の想いのままに

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イジメ自殺事件での場合,隠蔽があった場合や,両親や直接現場に携わった担任ならいざ知らず,校長や教育長が謝罪会見をして平謝りしている場面がよく報道される。

医療史回り舞台

医師で囲碁棋士の活躍 篠田 達明
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高校生棋士藤井聡太七段の出現で将棋界はブームに沸いているが,医師はむしろ囲碁の愛好者が多いようである。

新しい医療技術

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要旨:頚椎人工椎間板置換術(CTDR)は頚椎ヘルニアの手術の際に,除圧した椎間板腔に可動性を有するインプラント(人工椎間板)を挿入し,術後も可動性を担保する手術方法である。欧米,韓国では10年以上使用実績がある一方,本邦では2017年に承認されたが,まだ限られた施設でしか手術が施行されていない。CTDRの適応,手術における留意点,そして本手術における合併症等につき概説した。

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要旨:化膿性膝関節炎の際に施行する持続灌流は,シャント形成され洗浄効果が減少する可能性が危惧される。当院ではこの問題に対し持続灌流の際に排液チューブを間欠的にクランプする方法を施行しており,今回その治療成績を検討した。対象は過去6年間に化膿性膝関節炎に対し観血的治療後に持続灌流を施行した8例で,初回CRP陰性化までの日数は平均35.7日(10~102),Ballardの評価はgoodが5例,fairが2例,poorが1例,平均最終膝関節可動域は−3.1°/139.4°(−15°~0°/115°~正座可)と比較的良好な結果であり,本法は有効な方法と考えられた。

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要旨:前十字靱帯(ACL)単独損傷患者に対し三次元誘導的骨孔形成のもとに骨付き膝蓋腱(BTB)を用いた鏡視下ACL再建術を行い,2006年にその治療成績について報告した。その後約10年余りの間,手技の改良を繰り返しつつ症例を積み重ねてきた。対象は665例684膝,平均年齢は27.0歳で,術後はNテスト,Lachmanテストともに再断裂例を除き全例で陰性化していた。理学療法にて改善不能な可動域制限を認めた症例は16膝(2.3%)で,関節鏡下授動術を施行した。伸展制限の2例を除き可動域改善が得られた。再断裂は2膝で,再断裂率は0.3%であった。再断裂例の2膝とも反対側のBTBを用いて本術式で再々建術を施行した。反対側ACL断裂は19膝(2.8%)で,全例に本術式で再建術を行った。表層感染も含めて術後感染例はなかった。短期では満足のいく結果を得られたが,今後は中長期にわたる経過観察をしていく必要がある。

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要旨:壊死性筋膜炎は致死率が高い重症軟部組織感染症であるが発生部位は下肢が最も多く,上肢の報告は少ない。今回われわれは両肩に発生した非常にまれな症例を経験した。数日ごとに洗浄,debridementを施行したが出血が止まらず,右上肢はやむなく肩関節離断術となったものの左肩には関節固定術を施行し,良好な成績を得た。適応例は減少したとはいえ,肩関節固定術は関節破壊後の症例には現在でも有用である。

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整形・災害外科
62巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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