整形・災害外科 61巻13号 (2018年12月)

特集 整形外科同種移植の現状と課題

蜂谷 裕道
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本邦における移植医療を考えたとき,黎明期には世界と肩を並べていたものの,1968年の和田心臓移植事件以来,急速にブレーキがかかったことは明白である。1980年には「角膜及び腎臓の移植に関する法律」いわゆる角腎法が制定され,臓器,組織とも限定的な移植医療が余儀なくされてきた。

日本の骨バンクの現状と課題 占部 憲
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要旨:日本整形外科学会が行った整形外科移植に関するアンケート調査の結果をみると,整形外科移植の中で最も行われているのは骨移植である。骨移植に使用される骨の約96%は自家骨と人工骨であるが,約4%は同種骨であり,同種骨でなければ対応できない症例が存在する。同種骨を提供するドナーには生体ドナーと非生体ドナーがあり,提供できる骨の種類や形態,量が異なる。これらの同種骨を採取・処理・保存・供給しているのが骨バンクである。本邦には骨バンクが順守すべきガイドラインが定められており,骨バンクの質を確保するための認定制度も制定されている。現在非生体ドナーを扱う骨バンクは2施設であり,より良質の骨を提供するための運営資金を獲得することが困難であること,需要と供給のバランスが取れていない,という課題がある。生体ドナーを扱う骨バンクは167施設であり,各施設から提供される骨の質が必ずしも均一でないという課題がある。

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要旨:本邦には,2018年4月現在,29の組織バンクがあり,東日本または西日本組織移植ネットワークに属している。日本組織移植学会では,組織バンクをcategoryⅠ~Ⅲに認定している。組織提供の流れは,ドナー情報受信 → 初期情報収集 → 提供病院での調整 → ドナー適応判断(一次評価)→ ドナー家族へのインフォームド・コンセント → 承諾書作成 → ドナー適応判断(二次評価)→ 組織採取チームの派遣 → 手術室調整 → 検視・検案 → 組織の採取 → 一次保存である。採取された組織は各組織バンクで二次保存(プロセッシング)される。シッピングは,レシピエントの選択基準が各組織バンクで決められ,公平に供給が行われている。組織移植医療は,ドナー情報受信から移植に至る多くのプロセスと,何よりドナーの善意によって成り立っている。

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要旨:大きな骨欠損を伴う人工股関節再置換術では,その再建法の選択には難渋する。再置換の長期成績や,さらなる再々置換のことも考慮すれば,失われたbone stockを回復させることが重要になってくる。今回われわれは,同種骨を使用して人工股関節再置換術を行った50例50関節について調査した。全例において移植骨のincorporationを認め,臨床評価でも高い改善率を認めた。移植された同種骨は,経年的にremodelingが進行し,組織学的にもgraft-host interfaceから再生していることが確認できた。人工股関節再置換術において,大腿骨側の骨欠損に対するmassive allograftは極めて有用であると考えられる。

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要旨:脊椎固定術は各種手術手技の確立,手術機械などの発展により脊椎手術の一般的な手技となっている。腰椎固定術は後方椎体間固定術が主体であったが,最近ではアプローチの開発により側方椎体間固定術(LLIF)が行われるようになってきた。LLIFでは大きな椎体間ケージを入れることが可能であるため,ケージに充填する移植骨が多く必要である。また超高齢社会に突入した日本では成人脊柱変形に対してのアライメント矯正を行うlong fusionの手術でも多くの移植骨が必要である。移植骨は自家骨が理想であるが,採骨部の合併症が問題になることがあるため,人工骨や同種骨を用いる固定術が開発されてきた。同種骨の処理・管理は厳重に行われ,安全に使用できるようになっている。同種骨と自家骨の骨癒合率,手術成績は同程度であり同種骨を用いることで自家骨採骨による余分な合併症のリスクをなくすことができる。同種骨を用いた脊椎固定術は大変有用な手術手技である。

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要旨:同種半月板移植術は最初の臨床報告から4半世紀以上経つものの,本邦ではその報告はほとんどない。半月板全・亜全切除は大腿脛骨関節において接触面の減少とともに過大なメカニカルストレスを生じ軟骨を変性させ,変形性関節症(OA)を招来させる危険性をはらんでいる。疼痛やクリックなどの症状を有する半月板切除術後の膝関節に対して有効な人工半月板や自家移植材料は未だないなか,同種半月板移植術は若年成人の半月板切除術後膝関節に対してメカニカルストレスを低減させ,OAの進行を防ぐ効果が期待される方法である。本邦において臓器移植法が成立して30年以上経つ今,生物学的膝関節再建の観点から本法の有効性と課題についての研究と議論を深めるべきである。

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要旨:同種腱はACL再建術における移植腱として有用な選択肢の一つであるが,本邦では組織移植システムの構築が遅れているために一般的には普及していない。同種腱によるACL再建術は,自家腱と比べその臨床成績や安定性に遜色はないとする報告がある一方で,再断裂や安定性の面で自家腱に劣るという報告も散見される。1997年から2009年にかけて当施設で行った同種腱によるACL再建術は67膝あり,再断裂率は6膝(9.0%)であった。今回,4年以上経過した26膝の臨床成績を調査したところ,Lysholm scoreは術前平均64.0点が最終観察時89.2点に改善していた。KT1000脛骨前方移動量患健側差は平均1.7mmであった。回旋不安定性を残したものが30.0%,関節症性変化をきたしたものが18.2%あり,スポーツ復帰率は73.7%であった。

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要旨:近年の重度熱傷患者に対する救命率向上は早期熱死組織除去の導入と切除後の同種皮膚,培養皮膚,などの皮膚移植による外科集学的治療の進歩が大きく寄与している。皮膚移植には大別して自家皮膚移植(自分の皮膚を体の他の部位の欠損部に移植する方法)と同種皮膚移植(他のヒトから採取された皮膚を移植する方法),さらに培養表皮や代用真皮を用いた方法がある。自家皮膚移植は皮膚欠損や熱傷治療などの治療法として一般的に形成外科や皮膚科,熱傷治療施設で日常診療として行われている。一方,わが国で本格的に凍結保存した同種皮膚(バンクドスキン)を臨床使用できるようになったのは1994年に日本スキンバンクネットワークが設立されてからである。以来25年にわたり活動してきたが,その運営は決して安楽な道ではなかったし,今後も予断を許すものではない。保険点数の適正化や全国で均一に対応できる組織移植コーディネーター体制の確立など課題は山積している。

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要旨:世界で行われている脳死体からの同種手移植の現状と日本における問題点について考察した。2017年まで,文献などで確認されている脳死体からの同種手移植全患者数は77例115手で,地域別には,欧州33例53手,北米24例35手,アジア20例27手となっている。最近は,一手移植よりも両手移植が増加している。臨床成績は各施設で異なるが,急性拒絶反応が高率に生じるにもかかわらず拒絶壊死を免れ,移植手の神経回復も期待以上に改善している。日本国内では手移植の研究報告は多くあるが,臨床経験はない。今後,倫理的,法律的,経済的,施設的問題に解決策を導かなければならない。手移植は,First do not harmの移植原則に反し,安全な免疫療法の確立が望まれる。

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要旨:顔面移植は,2005年の初成功例以来,想像の手術から通常行われる手術にまで進化した。まだ実験的であり,長期的なフォローはまだ完了していない。にもかかわらず,安全かつ確実に手術を行う能力を持った世界中のいくつかの顔面移植センターが設立され,これまでに多くの手術手技が洗練され効果的なプロトコールが共有されている。しかし,この術式に関して特に免疫学および倫理学の分野でその適否を巡り未だに議論がある。これまで41人の移植がなされ,第1例目の患者を含めて5人の患者の死亡例から患者選択の際の基準事項の順守や合併症の有無などの重要性が浮かび上がっている。

Personal View

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わが国では,高齢者の要介護認定者数が年々増え続けており,平成29年1月の「介護保険事業状況報告」(暫定版)によると,要介護(要支援)認定者数は,629.2万人となり,介護保険制度が開始された平成12年度の256万人からわずか16年で約2.5倍と著しい増加を認めている。要介護になった原因疾患は,「平成28年国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)によると,認知症(18.0%)が1位,2位の脳血管疾患(脳卒中;16.6%)に続いて,高齢による衰弱(13.3%),骨折・転倒(12.1%),関節疾患(10.2%)となっている。

整形外科手術 名人のknow-how

外側進入型人工足関節 猪狩 勝則
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膝や股関節に対する人工関節置換術が国内で年間数万件行われているのに対し,人工足関節置換術は年間250件程度しか行われていない。市場規模が小さいこともありなかなか新機種が発売されない状況が続いていたが,2018年8月に15年ぶりとなる新しい人工足関節,トラベキュラーメタル®アンクルシステム(TM Ankle,ジンマー・バイオメット社)が発売された。これまでの機種が前方進入設置であるのに対し,一旦腓骨を外して外側から進入して手術操作を行う。まだ発売開始からわずかで,国内で最も使用している当院でさえわずか9件の経験しかない。名人と名のつく企画で執筆するのはおこがましいのは重々承知しているが,新しい人工足関節の情報提供としてご紹介したい。

医療史回り舞台

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毎年旧暦の5月に沖縄各地では爬龍船(ハーリー船)の競漕行事が開催される。

机上の想いのままに

言葉の刃(やいば) 西野 仁樹
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高齢者で症状が加齢変化による時,患者さんに「もう治りません。」と言う先生がときおりいるが,やめてほしい。言った本人は,「加齢変化なのでこのレントゲン上の変化は元に戻らない。」という画像変化あるいは軟骨変性の性質を説明しているつもりで言うのだが,患者さんは100%症状自体が治らなくて「治療しても無駄なんでしょう。」と言って,治療意欲を失くします。時には来院しなくなり,代替治療に行ってしまいます。

新しい医療技術

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要旨:進行軟部肉腫に対する化学療法はdoxorubicinとifosfamideが中心であり,長らく新薬が登場していなかった。しかし近年,軟部肉腫に対しpazopanib,trabectedin,eribulinが次々に承認され,選択肢が拡がるとともに軟部肉腫の治療戦略が大きく変化している。薬剤ごとに用法,投与経路,有効な組織型,有害事象などに特徴があり,これらを十分に理解した上で薬剤選択をする必要がある。

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要旨:前十字靱帯再建術では,正常靱帯付着部に骨孔を作製する解剖学的再建術が推奨されている。自家ハムストリング腱を用いた2束再建術(DB)と3束再建術(TB)は,ともに良好な臨床成績が報告されているが,両術式の臨床成績を比較検討した報告はない。本研究では,両術式間の再鏡視所見を前向きランダム化試験により比較検討した。対象は,抜釘時に再鏡視を行った44例(TB 24例,DB 20例)とした。再鏡視では移植腱の緊張度,損傷,滑膜被覆および大腿骨孔開口部の間隙の有無を評価した。再鏡視所見では,移植腱の緊張は両群ともにおおむね良好であった。移植腱の部分断裂は,TBのAM束外側部線維に1例のみ認められた。滑膜被覆は,AM束ではDBが有意に良好であった(p=0.013)のに対し,PL束では,TBが良好な傾向を認めた。TBでは,PL束の過負荷を低減させる可能性があるが,過緊張や移植腱のインピンジメントの可能性も考えられるため,術前の術式選択には,靱帯付着部の形状や大きさも考慮すべきと考えられた。

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要旨:足部の開放骨折は軟部組織の脆弱性や荷重部再建の必要性などにより,軟部再建に苦慮する例が多い。症例は58歳男性,足部を車に轢過されGustilo typeⅢBの足部開放骨折を受傷した。足趾骨骨折に加えて足背部から内側部全域および第1足趾MTP関節底側部にかけての広範な軟部欠損がみられ,同部に対して遊離前外側大腿皮弁により再建した。本皮弁はその皮弁長および皮弁厚から,足背から足底に及ぶ足部軟部再建に適した皮弁であると考えた。

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要旨:大理石骨病は破骨細胞の機能異常による骨吸収障害により全身の骨硬化をきたすまれな骨系統疾患であり,骨折をきたした場合には骨質が非常に硬いために治療に難渋する骨折である。大腿骨骨幹部骨折を生じた大理石骨病の1例を経験した。手術は骨質が硬いために難渋したが,術前準備と手術時の工夫にてトラブルなく手術可能であった。術後2年の現在,骨癒合完成し,独歩で正座可能,受傷前のADLに戻っている。

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要旨:長距離ランナーに歩行中に生じたまれな長趾伸筋腱皮下断裂を経験した。マラソン復帰希望が強く活動性が高いことから,長掌筋腱移植による腱再建術を選択した。手術では,左第2-4趾長趾伸筋腱断裂と関節包を破って露出した骨棘を認めた。この骨棘による刺激,摩耗が断裂の主原因と考えられた。手術後,足趾は自動伸展可能となり,術後2カ月で10kmマラソンを完走した。術後6カ月で良好な成績が得られた。

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整形・災害外科
61巻13号 (2018年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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