臨床婦人科産科 74巻1号 (2020年1月)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

左合 治彦
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 超音波診断装置は産婦人科の診察室には必ずあり,超音波検査は日常の産婦人科診療において必要不可欠な検査です.超音波検査を用いるのは,産科のみならず生殖,婦人科と幅広いですが,特に産科領域においては必要度が高いものです.超音波検査は産婦人科医にとって身近な検査であり,一番多く行う検査でありながら,なかなか自信をもって行うことができない検査でもあります.それは産婦人科の臨床において超音波診断について系統的に学ぶ機会が少ないためです.多くの産婦人科医が「本当にこの見方でいいのだろうか」という疑問を持ちながら毎日の診療に超音波検査を用いているのではないでしょうか.

 もちろん超音波診断上達の一番の道は,超音波診断のエキスパートが実際に超音波検査を行うのを見て覚え,自分でも実際にやってみて,それをエキスパートに見てもらい,わからないことやできないことを直接教えてもらうことです.私のセンターでの経験では,この学習プロセスを行いながら症例数を積むと,誰でも本当に上手になります.しかし,残念ながら人手不足の日本の産科医療の現場において,このような学習機会がもてるのは稀と言えるでしょう.

産科超音波検査の基礎編

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●超音波診断装置を有効に利用するためには,目的に応じた装置の設定が重要である.

●胎児超音波検査を精密に行う際には,プローブを持つ検者の手が母体腹壁上で安定することが,意図する断面を得るために重要である.

●超音波の生体への影響を考慮しながら,検査が十分に行える範囲の最小の超音波出力で装置を使用し,検査はできるだけ短時間で行うことを常に意識したい.

妊娠初期の見方と所見 三浦 清徳
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●妊娠初期に子宮内に生存胎児の存在を確認する.

●胎児頭臀長(14〜41 mmの時期)で妊娠週数(予定日)を推定し,最終月経開始日から起算した予定日との間に7日以上のずれが認められるときは超音波計測値による予定日に修正する.

●胎児の数を確認し,多胎妊娠であれば膜性診断を行う.

●胎児の形態を観察し体表の欠損や突出,体内の体液貯留など胎児形態異常の有無を確認する.

●胎盤の異常,子宮および付属器腫瘤の有無を観察する.

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●スクリーニングとは正常の確認をすることであり,正確な断面と質の良い画像で判断する必要がある.そのためには,適切な設定を用いた音響陰影の少ない画像描出に努める.

●胎位・胎向を意識し,胎児に対し,水平断・矢状断・冠状断を描出するように心がける.

●明かな異常症例の抽出は簡単である.偽陰性をなくすためには,正常と確定するまで偽陽性を含めた異常症例を含む集団として扱い,再検,コンサルテーションを行う.

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●超音波検査は行う者の力量/意識によって診断精度が変わるものである.妥協は間違った診断,方針決定につながるという意識をもつ必要がある.

●超音波ドプラは機器の調節により画像が大きく変化する.1つひとつの操作や調節のもつ意味を認識し,画像は自分で創り出すという意識が大切である.

●機器の調節を行ったにもかかわらず思い通りの画像が得られない場合は,超音波メーカーのスタッフに相談してみると解決する問題もある.

子宮頸管長の評価 川端 伊久乃
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●一般妊婦において早産ハイリスク群を抽出するための頸管長測定は18〜22週で行う.このとき頸管長が保たれていれば,その後に繰り返し測定する必要はない.

●症状のない早産既往などの早産ハイリスク群では,16〜24週で2週間ごとに頸管長を評価する.

●前置胎盤では,胎盤の位置だけではなく,頸管長や頸管の変化にも注意する.

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●胎児付属物には,胎児を育てるために母児の血液が多量に灌流している.よって,その異常は母児の各種トラブルや後遺症と深く関連するため,妊娠中の超音波診断は重要である.

●特に,臍帯異常は分娩時の急激に増悪する胎児機能不全との関連が深い.妊娠中にスクリーニングをしておき,CTGによる適切な分娩管理を行う.

●羊水過多は胎児の先天異常など,羊水過少は胎児機能不全などと関連し,胎児の状態をよく反映する.超音波検査をする際に,羊水量は必ず評価すべき項目である.

産科超音波検査の応用編

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●基本断面を確実に描出する(腹部断面,四腔断面,左室流出路,右室流出路,3VV,3VT).

●四腔断面の観察の際に左房に流入する肺静脈を意識する.

●大動脈の異常は3VTで確認が可能である.

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●心機能(収縮能・拡張能)は,前負荷や後負荷の影響を受ける.

●心機能は,いくつかの計測を組み合わせて評価する.

●胎児の病態に合わせて,適切な心機能評価法を選択する.

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●NT測定をはじめとした染色体疾患の超音波検査によるリスク評価には技術が必要であり,いくつか計測上のポイントがある.

●適切な画像でNT計測がされていないなかで,染色体疾患をはじめとした胎児疾患との関連を強調しすぎないような配慮が必要である.

●NIPTが普及している昨今,諸外国においてNT計測は,単に染色体数的異常の検出を目的としたものではなく,心構築異常や胎児形態異常を診断するツールに移行してきている.

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●良好な3D超音波像を作るには,クオリティーの高い2D超音波像を得てボリュームスキャンすることが必須である.

●フォトジェニックな3D超音波像を作成するには,レンダリングのアプリケーションを理解する必要がある.

●高性能の機器の性能を理解するために,ユーザーマニュアルの一読は有用である.

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●経会陰超音波は陰唇の間や会陰から超音波プローブを当てて観察する方法で,近年,分娩進行の評価や安全な分娩管理に利用しようという試みが次々と報告されている.

●2Dのコンベックスプローブがあれば,児頭の下降度,児頭の進行方向,第2回旋の様子など,さまざまな情報を比較的簡単に得ることができる.

●さらに3Dで運用し,専用のアプリケーションがあれば4つのパラメータを測定し,分娩進行の客観的評価や安全な鉗子・吸引分娩などに利用できる.

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●子宮動脈PI測定は,近い将来にPE発症ハイリスク妊婦を抽出する際の検査として行われる予定であり,超音波検査によるPEスクリーニング項目に含まれる重要な検査手技である.

●胎児のMCA-PSV計測は,胎児貧血を非観血的に推定するために用いられており,超音波検査による胎児貧血スクリーニングとして重要な検査手技である.

胎児疾患編

胎児発育不全 梅原 永能 , 粟野 啓
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●FGRと診断された児のなかに,発育が障害されたgrowth restricted fetusと体質的に小さいconstitutionally small fetusが含まれるが,両者を正確に区別することは困難である.

●さまざまな胎児・胎盤血流評価の報告がされており,将来的には詳細な管理指針が作成されることが期待される.

胎児脳疾患 市塚 清健
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●胎児脳は妊娠初期から後期にかけてダイナミックに形態変化を遂げるため,週数に応じた正常超音波像を知っておく必要がある.

●二次検査に相当する胎児中枢神経超音波検査(fetal neurosonography)では2Dエコーのみでなく3D超音波でvolume dataを取得し,直交3断面や多断層断面などさまざまな描出法で評価を行う.

●胎児中枢神経超音波検査で異常所見が認められた場合は,胎児中枢神経MRIの撮像も検討する.

胎児脊椎管閉鎖障害 長瀬 寛美
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●無頭蓋症は妊娠11週頃より診断可能である.BPD断面が描出できない場合は無頭蓋症を疑う.合併奇形や羊膜索の検索も行う.

●脳瘤をみつけたら,腎臓,多指,眼球,羊水過少の有無など他の合併奇形をチェックする.

●脊髄髄膜瘤の診断のきっかけはキアリ奇形から.特に脳室拡大とバナナサインから見つかることが多い.大槽の評価を妊娠中期にルーチンで行うことを勧める.

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●スクリーニングにおける顔面・頸部の観察項目は,「両側眼窩が存在」「正中での横顔の形態確認」「口が存在」「上口唇が正常」「頸部腫瘤がない」の5項目である.

●口蓋裂を胎内診断する方法には,カラー(パワー)ドプラ法やSROP view法などがある.

●下顎・頸部疾患は気道閉塞をきたしうる.EXITなどの分娩計画立案には,腫瘤の部位,大きさ,質的診断,気道通過性,羊水過多の有無などを参考にする.

胎児心疾患 金 基成
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●左心室がかなり小さくても心尖部まで達している場合は,出生後に左心低形成症候群とはならずに二心室循環が成立する可能性が高い.この場合,単純型大動脈縮窄症の鑑別を要する.

●臨床上重要な心室中隔欠損は,四腔断面ではなくfive chamber viewで大動脈弁近くに認めることが多い.

●完全大血管転位症などの流出路疾患の検出には,まずthree vessel viewやthree vessel trachea viewの異常を指摘し,次に各断面の間をスウィープすることで心室血管の連続性を診断していく.

●単独の総肺静脈還流異常症の検出には,左心房―大動脈距離の拡大,異常血管(垂直静脈)の検出など複数のスクリーニングポイントがあるが,なかでも肺静脈血流波形の平坦化は,肺静脈狭窄を伴う重症例の検出に有用である.

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●心臓四腔断面像の描出時に,縦隔偏位の有無に注意する.

●胎児治療や生後ただちに治療が必要な疾患を事前に知る点からも,出生前診断は重要である.

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●腹壁破裂は臍帯ヘルニアと異なり,ヘルニア囊がなく,臍帯(動静脈)は臍部から正常に起始している.通常腸管のみが臍の右側の欠損口を通り,羊水腔に脱出している.

●食道閉鎖の診断は,esophageal pouch(嚥下した羊水が食道盲端部に貯留したもの)の描出により行う.その描出には,気管の背側を描出し嚥下するのを待つ.

●鎖肛では,臀部の横断像でターゲットサイン(肛門管および肛門括約筋などにより形成されるリング状構造)が見えないことが多い.

胎児泌尿生殖器疾患 笹原 淳
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●腎臓は2つ見えるか?

●腎盂・腎杯・尿管の拡大はないか?

●膀胱は見えるか? 大きさは正常か?

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●骨系統疾患は希少疾患であるが,疾患の種類が豊富なため,臨床の現場で遭遇する頻度は決して低くない.

●長管骨を観察する際は,超音波をあらゆる角度から当て,詳細に観察する.それだけでなく,頭蓋骨や肩甲骨の状態,胎児血流や羊水量など幅広く情報を得る.

●胎児3D-CTを利用する場合は,放射線科医や放射線技師の協力のもと,低線量での撮影を心がける.

一絨毛膜双胎の疾患 山本 亮
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●一絨毛膜双胎特有の疾患はいずれも胎児治療の適応となる可能性があり,適切な時期に超音波断層法による診断が成されることが望ましい.

●TTTSが疑われる症例の羊水量評価においては,羊水過少の偽陰性に特に留意する.

●TAPSにおける胎盤輝度差は,カラードプラ法によらないTAPS診断の一助となる可能性がある.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

▶患者

 48歳,女性.2妊2産.

▶主訴

 人間ドックで発見された右水腎症・水尿管を伴う右骨盤内腫瘍.

▶既往歴

 201X−2年6月7日,子宮筋腫に対し,他院で腹腔鏡下子宮全摘術+両側卵管摘出術を実施.術前,退院時診察,術後1か月,3か月の時点で腎臓を確認していたが,水腎症は認めなかった.術中所見で両側卵巣・卵管に異常を認めず,摘出標本の病理診断結果では,子宮は平滑筋腫,両側卵管に異常所見はみられなかった.

連載 Obstetric News

神経性無食欲症と骨の健康 武久 徹
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 米国産婦人科学会(ACOG)のACOG Today's Headlines(2019年4月12日)において,「神経性無食欲症(anorexia nervosa : AN)の若い女性における経口避妊薬(oral contraceptives : OCs)は骨消失を制限する可能性がある」というタイトルでFertil&Steril誌に発表されたモンペリエ大学(フランス)の研究者たちの研究が紹介された.

 研究対象はAN患者305人(年齢 : 14.5〜34.9歳)と正常体重の同年齢女性121人だった.面積骨密度(areal bone mineral density)を調べるためにDXA検査と骨代謝回転マーカー測定を行った.また,同時にレプチン(脂肪細胞によって作り出され,強力な飽食シグナルを伝達し,交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし,肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たすペプチドホルモンであり,食欲と代謝の調節を行う)を調べた(研究期間2009年〜2016年).制限型神経性無食欲症の定義は,DSM-IVの診断基準(無月経,体格指数18未満,体重増加の恐怖,体型の感じ方の障害)を満たす例とした.

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臨床婦人科産科
74巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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