臨床婦人科産科 73巻12号 (2019年12月)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

Part1:遠隔医療の現状

遠隔医療の現状と今後の対応 中野 義宏
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●産業界では情報通信技術(ICT)を中心とした第3次産業革命から,デジタルトランスフォーメーションによりGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)のような巨大デジタル産業が現れた.

●次なる破壊的変革(デジタルディスラプション)となるマーケットはヘルスケア産業といわれ,先行する欧米ではデジタルセラピューティクス(DTx)などのイノベーションが始まっている.

●第4次産業革命(ビッグデータ,IoT,AI,ロボティクスなど)によってソサエティ5.0と呼ばれる新社会に向かって,われわれ臨床医も知識をもって組織的に備えねばならない.

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●オンライン診療は,まず患者と医師とが直接対面することから始まる.

●しかし例外として,緊急避妊については条件が整えば初診の対面診療なしに診療できると認められた.

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●オンライン診療が認められたが,高血圧や糖尿病など慢性疾患が対象であり,産婦人科医はもちろん,妊婦にとって大変関心の高い,遠隔での妊娠管理は含まれていない.

●妊婦健診で最も重要な情報は,胎児の状態をリアルタイムで把握できる胎児心拍数であり,超小型でかつモバイルで利用できる胎児モニターの実用化が期待されていた.

●今回,インターネットに接続できれば,世界中どこからでも利用できる超小型モバイルCTGを開発した.今後,遠隔での妊婦健診をぜひとも普及させたいと考えている.

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●心房心室収縮の回数やタイミングの情報しか得られない胎児エコーに比し,胎児心電図ではQRS波形が得られる.

●胎児心電図では長時間の連続記録が可能である.

●機器が安価であり,特別な検査室を必要としないことから,臨床応用するうえで有利な特徴を備えている.

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●胎児異常のなかには,エクソーム解析(whole exome sequence : WES)によって,遺伝性疾患と診断できる症例がある.

●海外では,胎児異常症例に対してWESを行い,その結果を診療にフィードバックする体制づくりが始まっている.

●胎児異常症例に出生前診断としてWESを行う場合には,遺伝学的検査に基づいた胎児診断の経験が豊富な専門家チームによる,解析と検査前・結果開示時の遺伝カウンセリングが不可欠である.

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●LAMP法は病原体の採取から検出まで院内で簡便に行える検査である.

●LAMP法により,迅速なウレアプラズマの検出,適切な抗菌薬の選択が可能となる.

●実用化にはウレアプラズマに関する知見のさらなる集積が今後も必要である.

Part2 : 注目の最新技術 【生殖医療】

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●経口GnRHアンタゴニストは,大量性器出血など症状の重い子宮筋腫に対して,GnRHアゴニストよりも迅速で強力な効果が期待される.

●低エストロゲン状態に伴う副作用を考慮する必要があることは,従来から使用されてきたGnRHアゴニストと同様である.

●子宮筋腫に対する治療戦略見直しのきっかけとなりうる新規薬剤である.

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●レトロゾールは多囊胞性卵巣症候群に対する排卵誘発薬として,従来用いられてきたクロミフェンよりも高い排卵誘発成功率,生産率が報告されている.

●日本における多囊胞性卵巣症候群に対する排卵誘発の第一選択薬はクロミフェンであるが,諸外国のガイドラインでは近年レトロゾールを第一選択として推奨するものが存在する.

●排卵誘発薬としてレトロゾールを使用する際は,適応外使用であるため,患者個々に説明を行い,書面による同意を得るのが望ましい.

Part2 : 注目の最新技術 【腫瘍】

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●血液中を循環するマイクロRNAをバイオマーカーとして臨床応用することを目的とした取り組み.

●卵巣がん患者群において有意に変化する複数のマイクロRNAを同定し,それらの組み合わせにより,早期から高精度でがんの存在を検出できる診断モデルを作成.

●卵巣がん診断血液スクリーニングの実現に大きな前進をもたらす成果である.

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●2種類のオンコパネルが保険収載された.

●先進医療B実施中のオンコパネルを含め,開発が進んでいる.

●婦人科がんで利用可能なコンパニオン診断薬も続々と登場してきている.

●がんゲノム医療の実施体制の整備が不可欠である.

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●卵巣がん診断の補助として保険収載された新規腫瘍マーカーHE4は卵巣がん患者で高値を示し,なかでも進行がんでより高値となる.

●HE4は月経周期や妊娠などの影響を受けづらく,子宮内膜症との鑑別にも有効である.CA125と比べて感度は低いが特異度は高い.

●CA125とHE4の組み合わせにより卵巣がんの診断能は向上する.特に卵巣悪性腫瘍推定値ROMAが有用で,これはFDAにも承認され,国内でも薬事承認を受けている.

●HE4やROMAは,特に進展が急速な高異型度漿液性癌の診断に有効であるが,非漿液性癌ではやや劣る傾向にある.

Part2 : 注目の最新技術 【女性医学】

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●閉経後のVVA/GSMでは,粘膜層の萎縮だけでなく,固有層において加齢に類似の変化が起こっている.

●腟レーザー治療は,生体外皮に一定の損傷を与えることにより上皮と真皮に好ましい変化を求める皮膚再生術の,腟粘膜への応用である.

●腟レーザー治療には現在CO2レーザーとエルビウムYAGレーザーが用いられているが,いずれも組織構築に与える影響や長期的な変化など,臨床応用に必要な知見は不足している.

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子宮体がんにおける傍大動脈リンパ節郭清の位置づけ

 子宮体がんの手術において,傍大動脈リンパ節郭清術(生検)は骨盤リンパ節郭清術と同様に手術進行期決定に必要な手技である.子宮体がんにおけるリンパ節転移の頻度は,筋層浸潤の深さや組織分化度により変わり,Creasmanらの報告1)では,傍大動脈リンパ節転移頻度は,筋層浸潤1/3未満ではGrade 1で1%,Grade 2で4%,Grade 3で4%であったが,筋層浸潤2/3以上では,Grade 1で6%,Grade 2で14%,Grade 3で23%であった.このことから,筋層浸潤が深い症例や組織型がGrade 3や特殊型の場合には,リンパ節転移のリスクがあることを理解する必要がある.リンパ節転移は,重要な予後規定因子であり,リンパ節転移の有無により術後補助化学療法の施行が検討され,術後補助化学療法によりリンパ節転移例の生存率は改善される.

 傍大動脈リンパ節郭清術の意義については,本邦からのSEPAL study2)が有名である.この試験は,子宮体がんにおいて,骨盤リンパ節郭清術のみを施行した群と骨盤・傍大動脈リンパ節郭清術の両方を施行した群の,生存期間に与える影響をみた後方視的コホート研究であるが,低リスク群では,傍大動脈リンパ節郭清術の有無によって無再発期間や生存期間に差はなかったものの,中・高リスク群では,傍大動脈リンパ節郭清を施行した群のほうが,有意に無再発期間や生存期間の延長をみた.以上の結果から,中・高リスク群の症例では,傍大動脈リンパ節郭清術の治療的意義があると結論付けられている.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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はじめに

 自然気胸の発生は,男性に比較して女性には少ないとされ,加えて自然気胸の原因とされている気腫性囊胞の破綻は副腎皮質機能の低下が関与していることから,副腎皮質機能の亢進した状態である妊娠中は,その発症は少ないとされている1).今回われわれは,24歳時に気胸歴があり,28歳で妊娠が判明した時点で2回目の気胸を発症,その後,妊娠中に複数回の気胸を認め,頻回の入院,脱気を必要とし,その家族歴から遺伝性疾患であるBirt-Hogg-Dubé(BHD)症候群が強く疑われた症例を経験したので報告する.

連載 Obstetric News

子宮収縮抑制薬 武久 徹
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 米国産婦人科学会(ACOG)によれば,子宮収縮抑制療法は短期間の妊娠延長(48時間まで)をなしうる可能性がある.したがって,必要であれば第三次施設への母体搬送とともに,胎児成熟のための出生前副腎皮質ホルモンと神経保護のための硫酸マグネシウムの投与が可能になる.

 第一選択肢となる子宮収縮抑制薬にはいくつかある〔β―アドレナリン受容体作動薬,カルシウム・チャネル遮断薬(Ca拮抗薬),非ステロイド性抗炎症薬〕が,特にこの薬を使用するという決断は個々の状況に基づく.

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▶要約

 卵管卵巣膿瘍(tubo-ovarian abcess : TOA)は子宮付属器炎に起因する膿瘍性の疾患である.起因菌はさまざまであるが,今回,起因菌として稀な肺炎球菌によるTOAを経験した.

 症例は65歳女性.腹痛のため受診し膀胱炎と診断され,レボフロキサシン水和物500mg/日を7日間内服したが症状の改善はなかった.超音波検査,CT(computed tomography)検査でTOAが疑われた.手術時,両側にTOAがあり,右側は周囲と広範囲に癒着し虫垂が巻き込まれていたため,両側付属器切除術,単純子宮全摘術,虫垂切除術を施行した.術後に腹痛は消失し,術後11日目に退院した.膿から肺炎球菌が検出され,5類感染症の侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease : IPD)と診断した.

 TOAに対する治療の第一選択は抗菌薬による保存的加療であるが,治療抵抗性の場合は,症状の持続・悪化に加え,腹腔内での癒着を引き起こし手術が困難になる場合があるため,早期の外科的治療も考慮する必要があると考えられた.また,65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチン投与が推奨される.

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基本情報

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臨床婦人科産科
73巻12号 (2019年12月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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