臨床婦人科産科 71巻1号 (2017年1月)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

水沼 英樹
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 性ステロイドホルモンは性腺で産生されるステロイドホルモンの総称で,エストロゲン,プロゲステロン,アンドロゲンがその主体をなす.性ステロイドホルモンの発見は1930年代に遡るが,その発見以来,現在では多くの性ステロイド活性を有する物質が合成され,産婦人科の臨床の現場においてなくてはならない薬物の一つとなっている.瞠目すべきは,その生理活性が身体構造の構成や代謝機能においても多彩でかつ重要な意義をもつことであり,性ステロイドホルモンの応用範囲は思春期から老年期に至るまで,あらゆる年齢層の女性において広く使用されるようになった.

 本特集では基礎編として,ニューロステロイドと性ステロイドホルモン受容体のゲノム解析を取り上げた.ニューロステロイドは中枢神経細胞自身が産生するステロイドホルモンで1980年代にその存在が確認されたステロイドホルモンであるが,記憶や情動,さらには神経細胞の保護作用など多彩な生理機能をもつことが知られるようになった物質である.また,ステロイドホルモン受容体のゲノムワイド解析が進められており,これは性ホルモン応答性疾患に対する新しい治療薬の開発に繋がる研究として期待されている.

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●脳内性ホルモンの起源 : ニューロステロイドとしてコレステロールから脳内で合成される分子と,血中由来のホルモン,およびその代謝物.それらの割合は年齢で変動する.

●ニューロステロイドの神経保護作用 : 生殖腺のホルモン合成活性にあまり左右されずに,神経保護作用をもつ性ステロイドを脳内で合成している.

●脳をターゲットにした性ホルモン補充療法 : 新規神経保護戦略として,ニューロステロイド合成の活性化や脳で性ホルモンに変換されるプロドラッグの研究が進められている.

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●エストロゲンには核内レセプターのほかに細胞膜上にレセプターが存在する.

●エナンチオマー(鏡像異性体)は生体内ターゲット分子の作用部位にも重要である.

●生理活性天然物の鏡像異性体を用いた分子プローブには,有機化学合成の手法とその生理活性評価が必要である.

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●エストロゲンの作用は基本的にエストロゲン受容体ERαおよびERβを介するが,それ以外にも多様なメカニズムが存在する.

●子宮におけるエストロゲンの作用は主にERαを仲介している.

●子宮内膜症病変組織においても,ERαおよびERβの発現状態は,細胞死や炎症などの病態と関連しているという報告が相次いでいる.

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●性ステロイドホルモン受容体は,特異的なリガンドとの結合により転写因子として作用し,ゲノム全体での結合領域,遺伝子発現を制御する.

●近年の次世代型シーケンサの発展で,ゲノムワイド解析の大部分が,転写因子の結合領域(ChIP-seq)と遺伝子発現プロファイル(RNA-seq)の統合的解析により行われている.

●性ステロイドホルモン受容体の統合的ゲノムワイド解析は,さまざまな性ホルモン応答性疾患の治療標的となりうる分子の同定が可能となり,治療法開発への一助となることが期待されている.

臨床総論 : 製剤の種類と特徴

エストロゲン製剤 安井 敏之
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●エストロゲン製剤は,種類,投与経路,投与量によって作用の強弱が異なる.

●肥満やメタボリック症候群,胆石症,慢性肝疾患を合併した女性では経皮製剤を考慮する.

●更年期障害の程度,年齢,HRTの目的などを考慮し,投与量を選択する.

プロゲスチン製剤 北脇 城
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●黄体ホルモン(=プロゲストーゲン)のうち合成されたものをしばしばプロゲスチンと呼ぶが,天然型プロゲステロンと合成の医薬品製剤を合わせてプロゲスチン製剤と称することも多い.

●市販されているプロゲスチン製剤には,単剤とエストロゲンとの合剤がある.合剤には低用量経口避妊薬(oral contraceptive : OC)や低用量エストロゲン─プロゲスチン製剤(low dose estrogen-progestin : LEP)も含まれる.

●各種プロゲスチン製剤には固有の特性があり,それに応じて無月経,機能性子宮出血の診断・治療,黄体賦活,子宮内膜症治療,緊急避妊,OC,月経困難症治療,ホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)として使用されている.

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●血中アンドロゲンは加齢とともに減少し,いわゆる男性更年期障害としてさまざまな病態を呈するが,個人差が大きい.

●朝の血清遊離テストステロン濃度8.5pg/mL未満でアンドロゲン補充療法を検討する.

●日本では製剤が限られ,2〜4週ごとのエナント酸テストステロン注射が基本である.

●除外基準は必ず確認し,効果と副作用発現に注意しながら治療継続する.

臨床各論 : 使い方の実際

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●思春期の無月経の誘因として,やせを中心とした心身へのストレスが特に多いため,これらを可能な限り改善して,発症を予防することが重要である.

●治療はクロミフェンなどによる排卵誘発は最小限にとどめ,カウフマン療法などを行い,長期のエストロゲン不足による骨量の低下を改善し,将来の骨粗鬆症や骨折を防ぐ.

●思春期の月経困難症のほとんどは機能性月経困難症であり,鎮痛薬などの効果が十分でない場合,将来の子宮内膜症の発症を予防するために積極的にLEPを用いる.

月経随伴症状 髙橋 俊文
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●月経前症候群(PMS),月経前不快気分障害(PMDD)の治療にはドロスピレノン・エチニルエストラジオールからなるLEP製剤(ヤーズ配合錠®)が有効である.

●原発性月経困難症の治療として,NSAIDsが第一選択薬であり,無効例やNSAIDsの副作用による内服困難例についてはOC・LEP製剤の使用が勧められる.

●レボノルゲストレル放出子宮内システム(ミレーナ®52mg)は,原発性月経困難症のみならず,子宮内膜症や子宮腺筋症による続発性月経困難症にも有効である.

避妊 澤田 健二郎 , 木村 正
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●さまざまな避妊法のなかでも,確実で簡便であり,女性の意思だけで実施可能である,経口避妊薬と子宮内器具が推奨される.

●OC内服により静脈血栓症リスクが高くなること,特に肥満,喫煙,高血圧,高齢女性へのOCはそのリスクを上げることに留意する.

●緊急避妊法の第一選択はレボノルゲストレル緊急避妊ピルであるが,今後も継続的な避妊を希望する経産婦の場合は,Cu-IUDもよい避妊法である.

切迫流早産 中井 章人
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●規則的な子宮収縮に加え,出血,破水,進行性の頸管変化を有する厳密な定義に従った切迫早産には,黄体ホルモン療法は奏効しない.

●早産既往妊婦では,妊娠16週以降の17-OHPCの筋肉内注射(250mg/週),頸管短縮例(≦25mm)では,天然型プロゲステロン腟錠(連日200mg)投与が効果的である.

●本邦では17-OHPCは125mg/週までが保険適応範囲で,天然型プロゲステロン腟錠は承認薬だが,薬価未収載,かつ切迫流早産は適応症外という問題がある.

早発閉経 五十嵐 豪 , 鈴木 直
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●早発卵巣不全患者に対するホルモン補充療法は,更年期障害の患者に使用される量の倍量を使用する.

●早発卵巣不全患者に対する不妊治療として卵胞活性化療法(in vitro activation : IVA)は有効であるが,今後は児童相談所との連携による里親制度も1つの選択肢となりうる.

●早発卵巣不全患者がもっている不安への精神的な,社会的なサポートが重要である.

中高年のヘルスケア 篠原 康一
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●エストロゲンとVTEリスク : VTEリスクを経口と経皮とで比較したORは,経口で4.2,経皮で0.9であった.経皮吸収エストロゲン剤の使用ではVTEリスクが増加しない.

●エストロゲンと糖尿病リスク : エストロゲン投与経路では,経口HR 0.68[0.55─0.85]vs経皮HR 0.87[0.75─1.00](p=0.028)と経皮投与よりも経口投与で糖尿病リスクが減少する.

●プロゲスチンとの組み合わせ : 経口エストロゲン製剤はCEEに加え,17βE2製剤の使用が可能であり,現在使用頻度の高いホルモン剤は,エストロゲン製剤は3種類以上あり,プロゲスチンとの組み合わせではたくさんの処方パターンが選択できる.それぞれの薬剤の特色や,患者年齢・特徴を理解した選択をしたい.

子宮内膜異型増殖症 牛嶋 公生
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●子宮内膜異型増殖症に対する治療の原則は子宮摘出である.

●保存的治療を計画するのは,その後の妊娠が可能な場合であり,全面搔爬の材料から病理診断された症例に限られる.

●再発率が高いので,いったん病巣が消失した後も,積極的不妊治療や厳重な観察が必要である.

FLUTS 樋口 毅
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●女性下部尿路症状(FLUTS)でのエストロゲン治療では局所(腟内)投与が第一選択となる.

●外陰腟萎縮(VVA)からFLUTSが起こることもある.エストロゲンを使ったときにはFLUTSへの効果も評価する.

●全身投与のエストロゲンでは,尿失禁の予防効果,症状軽減効果ともに期待できない.

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●1980年代後半からプロゲステロンの外傷性脳損傷に対する有益性が動物実験で示された.

●2007年から実臨床でもプロゲステロンの有益性が示唆されはじめたが,いずれも少数例での報告であり,大規模研究が待たれた.

●2014年に報告された多施設研究でプロゲステロンの有益性は証明されず,メタ解析でも有益性は証明されなかった.

選択的性ステロイドホルモン受容体修飾薬

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●SERMは非ホルモン構造のエストロゲン受容体修飾薬である.

●ラロキシフェンとバゼドキシフェンは骨組織ではエストロゲン・アゴニストとして,乳腺や子宮ではアンタゴニストとして作用する.

●閉経後骨粗鬆症治療薬としてSERMであるラロキシフェンとバゼドキシフェンは,長期にわたる骨密度の上昇と椎体骨折の抑制効果を示す.

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●選択的プロゲステロン受容体修飾薬(selective progesterone receptor modulator : SPRM)はプロゲステロン受容体に結合し,組織により作用薬,拮抗薬,または作用薬/拮抗薬の混在した作用を発揮する.

●子宮筋腫の発育にはプロゲステロンが重要な鍵を握っており,SPRMは正常子宮平滑筋細胞には影響を与えることなく選択的に筋腫細胞の増殖を抑制し,アポトーシスを増強させる.

●SPRMはすでに海外で子宮筋腫に対して実臨床で使用されており,過多月経を有する症候性の筋腫患者に投与すると,リュープロレリン酢酸塩と比べ早く無月経となり,しかも低エストロゲン状態に起因する副作用の頻度は低い.

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●近年,骨や筋肉には有益なアンドロゲンのアナボリックな作用を保持したまま,アンドロゲンの好ましくない作用である前立腺刺激作用は発揮させないような薬剤,いわゆるSARMの研究開発が進みつつある.

●骨粗鬆症や加齢性筋肉減少症(サルコペニア)を主な治療標的とするSARMの研究開発が主流となっているが,現時点で市場に出ているものは皆無である.

●最近,がんに伴うカヘキシア(悪液質)患者を対象にしたSARM投与の有効性が報告されている.

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●HRTの合併症は,子宮内膜保護を目的に併用するプロゲスチンに起因するところが大きい.

●組織特異的なエストロゲン作用をもつSERMをエストロゲンと併用するTSECが開発され,臨床応用されている.

●今後TSECがHRTに代わりうる更年期症状の治療手段として期待される.

性ステロイドホルモンの副作用の疫学

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●女性ホルモン剤の有益性は大きく,女性のQOL向上にきわめて効果的であるが,薬剤の種類を問わず女性ホルモン剤を使用すれば,頻度は低いものの血栓塞栓症を発症することがある.

●日本人の女性ホルモン剤服用者の血栓塞栓症発症頻度は欧米人よりわずかに低い程度であり,服用開始後の発症時期,さらには肥満および加齢との関係も欧米人とほとんど差がないことが明らかになった.

●死亡率はきわめて低いが,リスクである血栓塞栓症も常に念頭に置いて,安全な処方と血栓塞栓症の早期発見・早期診断を心がけることが肝要である.

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●性ステロイドホルモン投与は子宮内膜癌や乳がんリスクに影響を与えるが,そのインパクトは小さく,適切なレジメンを選択することによってリスクを低下させることができる.

●子宮内膜癌については,OC・LEP服用によりリスクは低下する.HRTでは,エストロゲン単独投与にてリスクは上昇するが,黄体ホルモンを適切な量,かつ,適切な期間で併用すれば,リスクは低下する.

●乳がんについては,OC・LEP服用によりリスクは上昇する可能性があるが,絶対リスクは小さい.HRTが乳がんリスクに及ぼす影響は小さく,主として併用される黄体ホルモンとHRT施行期間に関連している.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

▶患者 : 30歳台,1回経妊1回経産.

▶主訴 : 妊娠27週,腰痛,性器出血.

▶既往歴 : 虫垂炎.

▶現病歴

 妊娠初期から妊婦健診は前医で行い,妊娠7週時の子宮頸部細胞診はクラスⅠであった.妊娠18週頃より腰痛と性器出血を認め,腰痛は前医の整形外科で腰椎椎間板ヘルニアの疑いとされ,アセトアミノフェンを投与されていた.性器出血は子宮腟部びらんと頸管ポリープが原因とされた.しかし,腰痛が徐々に増強し,妊娠27週時に妊婦健診と腰痛管理目的で当科へ紹介された.

連載 Estrogen Series・158

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 男性は加齢とともに血清テストステロン濃度が減少する.しかし,テストステロン値を上昇させることがどのような利点をもたらすのかは,いまだ十分に解明されていない.NEJM誌から論文のサマリーをご紹介したい1)

連載 Obstetric News

前回帝切後の試験分娩禁忌 武久 徹
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 米国における帝切後経腟分娩(VBAC)率は,1990年代中頃の28.3%から2006年の8.5%に減少した.米国の多くの病院は,訴訟の恐れや設備不足から帝切後試験分娩(trial of labor after cesarean section : TOLAC)提案を中止している.同時に,同期間(1990年代中頃〜2006年)に帝切率は20%から31%に増加し,米国国立衛生研究所(NIH)は,VBACに適切な患者に対して各施設がTOLAC選択を容易にすることを勧めている.

 大きな腹式手術を回避できるVBACの有益な効果は,多量出血と感染を減少させることである.さらに,VBACは,内臓損傷のリスクと将来の妊娠で前置胎盤を含む反復帝切の累積的影響を回避できる.

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▶要約

 腹膜偽囊胞は腹腔内癒着による閉鎖空間に卵巣由来の滲出液が貯留して形成された囊胞性疾患であり,性成熟期女性における報告例が多い.われわれは開腹手術既往のある思春期女性に急性腹症として発症し,卵巣出血を伴った腹膜偽囊胞のために術前画像診断に難渋し,腹腔鏡手術により確定診断,治療可能であった症例を経験した.癒着腔内に卵巣出血をきたした場合,MRI所見がさまざまな修飾を受け,画像診断が困難となる.若年女性であっても腹部手術既往がある場合は腹膜偽囊胞の存在を念頭に置く必要がある.また,腹腔内癒着の精緻な剝離と再癒着防止という観点からは腹腔鏡手術が有効であると考えられた.

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基本情報

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臨床婦人科産科
71巻1号 (2017年1月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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