臨床婦人科産科 70巻1号 (2016年1月)

合併増大号 今月の臨床 難治性の周産期common diseaseへの挑戦

海野 信也
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 2008年以降,日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会による『産婦人科診療ガイドライン 産科編』の発刊と定期的な改定が行われるようになり,わが国の産科診療は標準化の方向に大きく変貌した.現場では,ガイドラインの存在を前提として個別症例の診療方針を検討し,選択していると考えられ,特に2008年以降に研修を始めた産婦人科医は,そのような枠組みの中でのみ診療を行ってきている.周産期医療の主要疾患である切迫早産・早産,胎児発育不全,妊娠高血圧症候群は,ガイドライン上は対処法がある程度確立しているかのような記載になっている.しかし,いずれもcommon diseasesに含まれる発生頻度の高い疾患であるにもかかわらず,病因・病態に基づいた管理が行われているとは到底言えないのが現状である.治療成績も満足すべきものとなっていない.特にこれらの妊娠合併症が再発あるいは反復する少数の症例については,きわめて難治性で標準的治療では対応できず,探索的な対応の検討が必要となる.

 また,産科において最も重要な診断名である「胎児機能不全」は,その病態や重症度を評価する方法が事実上存在しない.胎児の状態の評価方法については新たな方法論が強く求められている.

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●早産の最も高いリスク因子は前回早産であり,ゆえに既往早産妊婦はより慎重な対応が求められている.

●早産予知・予防において頸管長測定はある一定の効果を認めており,現在の診療上,ルーチンで計測することが考慮されている.

●早産予防に関して腟内洗浄の効果は確立されてはいないが,早産の機序からある一部の患者においては有効である可能性がある.

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●早産の既往はきわめて高い早産リスクで,既往早産の時期が早ければ早いほど,相対危険率は増加する.

●早産既往妊婦の管理としては,本邦でも保険が適用される17-OHPCが第一選択の予防治療になる.

●妊娠16週以降,週1回,17-OHPCを250 mg筋肉内注射する.

●頸管短縮を伴う場合や切迫早産徴候がある場合は,17-OHPCに加え,状況に応じた対応が必要になる.

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●既往早産例,特に妊娠32週未満の早産既往例では,次回の早産率は高くなるので注意が必要である.

●前回の早産の原因が絨毛膜羊膜炎や子宮内感染であれば,妊娠初期に腟内細菌叢をチェックする.

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●反復流・早産を予防するため,当科では既往流・早産時の胎盤病理を検索し,脱落膜炎の所見が強い場合,上行性感染が原因である可能性が高いと判断し,ウリナスタチン腟内投与による抗炎症療法を中心に妊娠管理を行っている.

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●妊婦の腟内細菌叢の異常が早産のリスク因子となっている.

●網羅的解析技術の進歩により腟内細菌叢の全貌が解明されつつある.

Lactobacillusのもつ複数の特異的機能が子宮内感染の防御にかかわっている.

●プロバイオティクスの応用は早産抑止のための有望な治療戦略である.

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●抗菌薬投与は母児の予後を改善する.

●現時点での薬物療法の効果には限界があり,娩出時期を逸しないよう注意する.

●児の脳保護薬が期待されている.

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●前期破水は臨床症状や所見に基づき視診で診断されるもので,各種検査キットは補助検査である.

●早産期の前期破水の管理は妊娠週数により異なる.26〜34週は基本的には待機的管理であり,その周辺は,症例や施設により対応を検討する.

●早産期の前期破水の待機的管理におけるtocolysisや床上安静には明らかなメリットがあるとはいえず,十分な検討が必要である.

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●極度の短縮など,子宮頸部の変形により経腟法の手技が困難な症例に対して施行される.

●開腹法は,子宮が増大すると手技が困難になるため,妊娠前もしくは妊娠12週までの施行が望ましい.

●開腹シロッカー術施行時と帝王切開時,計2回の開腹術を必要とする.

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●腹膜開放式頸管縫縮術の実施対象患者 : 円錐切除術や子宮頸部広汎摘出術などで子宮頸管の切除範囲が広範となった例.あるいは過去に頸管無力症で頸管縫縮術を複数回施行されたものの,後期の流産や早産となった例.

●縫縮部位,実施時期 : 仙骨子宮靱帯および膀胱子宮靱帯の上方かつ子宮峡部で実施.実施時期については,妊娠前に実施する場合,あるいは妊娠が明らかになり流産の危険性が減少する妊娠12週以降に行う場合がある.

●縫縮部位へのアプローチ方法 : 本稿のように経腟的なアプローチ以外にも,経腹的な方法としては開腹と内視鏡的な方法が報告されている.それぞれメリットとデメリットがあり,現時点では施設の方針と患者の状態に応じ慎重に考慮するべきである.

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●広汎性子宮頸部摘出術後妊娠は早産のハイリスクである.

●広汎性子宮頸部摘出術後妊娠では,頸管拡張術などの頸管縫縮糸が断裂する可能性のある処置を極力回避する.

●広汎性子宮頸部摘出術後妊娠では,妊娠中期以降に子宮頸部静脈叢からの大量出血を生じることがある.

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●FGRは胎児体重基準値の−1.5 SD以下が診断の目安だが,臨床経過なども含め総合的な判断を要する.

●娩出時期の判断に用いられる胎児well-beingの検査には,NST,BPS,胎児発育の推移,血流計測などがある.

●娩出時期は総合的に決定されるものであり,さらなる知見の蓄積によりFGRの管理法が明確になることが望まれる.

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●FGRの原因となりうる胎盤・臍帯異常の診断 : FGRの原因となりうる胎盤・臍帯異常について超音波診断のポイントを解説する.

●FGRの娩出時期決定に向けた取り組み : 胎盤・臍帯異常を改善する治療法はないが,妊娠管理中にどのような所見に注意して娩出の時期を決定したほうがよいのか,その取り組みについて解説する.

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●SGAとFGRの違いを理解する.

●SGA児の短期的問題点について理解する.

●SGA児の長期的問題点について理解する.

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●現行の分娩監視装置では胎児アシドーシスに対しての検出率が低く,偽陽性となる可能性が高い.

●胎児心電図を用いた胎児心拍数モニタリングでは現行の分娩監視装置に比べてより多くの情報が得られる.

●胎児心電図装置ではshort term variabilityの計測が可能となり,これは胎児の脳障害に対する指標となりうる可能性がある.

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●早産期のFGRにおいては,静脈管血流のpulsatility indexの上昇や心房収縮期血流(a波)の途絶・逆流が,胎児のアシドーシスや予後不良と関連する.

●早産期のFGRにおいて静脈管a波の途絶・逆流を認める場合には娩出を考慮する.

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●内診する医療者の指腹に近赤外線センサーを装着するウエアラブル胎児オキシメーターを開発した.

●本機器による分娩II期の組織酸素飽和度は臍帯動脈血pHと相関し,新しい胎児モニタリングになることが示された.

●排臨,発露,第一啼泣,生後1分,5分と連続的に児の酸素飽和度が測定できることから新しい新生児評価法になることが判明した.

妊娠高血圧症候群

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重症PIHを早期発症した妊婦では,次回妊娠での反復回避を目標に,下記の施行を検討する.

●次回妊娠時に低用量アスピリンを毎日服用することを勧める.

●血栓性素因疾患のほかに,抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデスのスクリーニングを行う.

●抗リン脂質抗体症候群の場合には,次回妊娠時にヘパリン療法の施行(低用量アスピリン療法との併用)を検討する.

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●前回常位胎盤早期剝離例は再発の危険が高く,前回よりも早く発症する危険があり,前回が37週未満で発症した例や胎児発育不全を認めたような例では再発率が高くなる.

●常位胎盤早期剝離の予知として,子宮動脈波形や母体血清中マーカーなどの研究が行われているが,感度は低く,予知法は確立されていない.

●予防としてアスピリンやヘパリン投与が有用である可能性があり,前回が妊娠高血圧症候群であった症例では検討を要する.妊娠時には早期からの厳重な観察と発症時の早急な対応が必要である.

連載 FOCUS

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はじめに

 体外受精を中心とする高度生殖医療技術の発展と普及はめざましいものがあり,日本では年間33万件以上ものIVFが行われている.これは米国を上回り,世界一である.顕微授精,胚凍結融解などの技術は安定した成績を挙げており,日本は名実ともに世界に冠たる体外受精大国である.しかし近年,不妊クリニックを訪れる患者において40歳以上の患者が急激に増加している.その原因として,①いわゆる団塊ジュニア世代が40〜45歳となり,この年代の人口が多い1),②晩婚化と女性の社会進出が進み,不妊治療の開始時期が遅れている,の2点が考えられる.当院では初診患者の30%近くが40歳以上であり,胚移植実施患者の約46%が40歳以上である.

 一般に女性年齢が上昇するにつれ卵子は老化し,受精卵の染色体異常が高率となることが知られている.卵子は胎生期に第一減数分裂前期において停止し,排卵周期が開始するまでの間,2価染色体を形成したまま何十年も経過しており,女性年齢が上がるほど減数分裂再開時に染色分体の不分離が生じやすく,染色体の数的異常が高率に起こると考えられている.Hartonら2)によれば42歳以上において分割期胚の染色体異常率は93%,胚盤胞の染色体異常率は85%と高率である.また日本産科婦人科学会によれば40歳の患者における治療周期あたりの生産率は約8%と低く,また43歳の患者における流産率は約50%と高い3)

 欧米諸国においては40歳以上では提供卵子を用いた体外受精あるいは着床前スクリーニング(PGS)を行うことで生産率を上げている.しかし,現状においては日本の不妊患者の多くを占める40歳以上の患者は低い妊娠率を承知のうえで自己卵子を用いたARTを繰り返し,PGSを受けることなく流産を繰り返すという厳しい状況におかれている.それに対する不妊治療のストラテジーとして卵巣刺激法の改善,胚培養技術,胚凍結融解技術のさらなる向上が必要であることはもちろんいうまでもないが,やはり卵子の若返りを図ることが切実に望まれる.

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はじめに

 妊婦の高齢化と超音波検査などの診断技術の向上に伴い,子宮筋腫合併妊娠の頻度は増加している1).子宮筋腫合併妊娠では,切迫早産をはじめとして,前期破水,子宮内胎児発育遅延などの頻度が上昇するが,妊娠予後は比較的良好であり1),緊急処置を必要とする症例は少ない.われわれは,妊娠36週に腟外に脱出した子宮頸部筋腫内に大量出血することで,脱出筋腫が急速な増大を示し,最終的に母体のhypovolemic shockから胎児機能不全に至ったきわめて稀な症例を経験したので紹介する.

連載 Obstetric News

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子宮収縮抑制療法は新生児転帰を改善するか?

 子宮収縮抑制療法は妊娠を短期間延長する可能性がある.その結果,適応があれば,第三次施設への転送および,出生前コルチコステロイド投与と神経保護目的の硫酸マグネシウム投与を可能にする.しかし,子宮収縮抑制療法が新生児転帰に対して直接的に良好な効果を与える,または,子宮収縮抑制薬によって得られる何らかの妊娠延長が、実際に新生児に対して有意のプラス効果を与えるという証拠はない.

 子宮収縮は,早産に先行して認められる最も多い徴候である.その理由から,子宮収縮の停止は,治療的介入の主要療法であった.硫酸マグネシウム,カルシウム・チャンネル遮断薬,オキシトシン拮抗薬,NSAIDs,β─アドレナリン受容体作動薬などの多くの薬剤が子宮収縮を抑制するために使用されてきた.

連載 Estrogen Series・147

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 世界的に外傷性脳損傷(traumatic brain injury : TBI)は重大な障害や死亡をもたらす原因である.TBI発生の1番の原因は自動車事故である.いままでいくつかの試験により,さらに最近2種の初期フェーズ試験により,プロゲステロンがTBI患者の神経学的な予後を改善することが報告されている.

 プロゲステロンは中枢神経系内で合成される強力な神経ステロイドである.いままでの動物試験で,TBIに対するプロゲステロンの投与は脳浮腫,神経学的欠損,行動欠損などを減少させることが報告されている.その後,2種の臨床試験で,プラセボに比較してプロゲステロンの投与がTBI患者のアウトカムを改善させることが示され,プロゲステロンに対する期待が高まった.

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要約

 帝王切開術後の頭痛症は,低髄液圧によるものが多く,血圧の上昇があれば妊娠高血圧症候群の除外診断も必要となる.今回われわれは,骨盤位のため妊娠37週3日で選択的帝王切開術を施行後に持続する頭痛が出現し,当初は腰椎麻酔後の低髄液圧による頭痛や血圧の上昇を伴っていたことから妊娠高血圧症候群を疑うも,神経症状が出現し始めたことにより画像検査を施行することで,最終的に慢性硬膜下血腫が判明した症例を経験したので報告する.

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バックナンバー

次号予告

編集後記 大道 正英
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 独特のポーズで有名になったラグビー日本代表の五郎丸歩選手,彼の決められた一連の動作(ルーティン)のおかげで,素晴らしいキックが決まり,ラグビーワールドカップで強豪南アフリカを倒し,日本を勝利へと導く歴史的な快挙を成し遂げた.

 ルーティンは緊張を和らげ最高のパフォーマンスへ導いてくれる効果があるらしい.私がルーティンを重視するのは,ゴルフのショットをする時である.

基本情報

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臨床婦人科産科
70巻1号 (2016年1月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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