臨床婦人科産科 70巻2号 (2016年3月)

今月の臨床 不妊女性に対する手術療法─適応・タイミングと手技のコツ

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●筆者が経験した不妊患者の原因分類では,卵管・子宮因子が全体の40.4%と最も多く,その大部分は,卵管形成術,子宮筋腫核出術,卵巣囊腫摘出術などを行うことによって妊孕性を回復できる.

●体外受精と卵管形成術を治療成績から比較すると,体外受精の治療周期当たりの生産率は11.5%であるが,卵管形成術の妊娠率は34.5%と明らかに高い.

●着床障害や発育障害の原因になる子宮筋腫や卵管留症などの不妊原因に対し外科治療を積極的に行うことは,自然妊娠の回復を計るばかりでなく体外受精の成績をも上げることになる.

●わが国のART施行年齢は年々高齢化し,40歳以上の割合はすでに40%を占める.体外受精の高齢者の出生率が低いばかりでなく,2016年4月からは回数制限と年齢制限が始まる.一方,不妊症の手術療法は,高齢者であっても手術によって不妊原因を除けば,排卵がある限り毎月自然妊娠の可能性が回復することから,その意義は大きい.

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●検索・診断のタイミング:月経終了直後の子宮内膜肥厚のない増殖期に,経腟超音波検査,SHG,子宮鏡検査を行う.子宮鏡検査は可能な限り不妊一般検査として扱う.

●子宮鏡下手術のタイミング:子宮内膜ポリープは妊娠率を高めるために早めの手術を勧める.子宮粘膜下筋腫は積極的に手術を勧める.いずれも子宮鏡下手術による.

●子宮鏡下手術のコツ:手術による子宮腔内癒着を防ぐ.

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●卵管因子に対する卵管鏡下卵管形成手術(FT)は自然妊娠を望む患者に対する治療手段としてその意義が認められている.術後の待機期間は,累積妊娠率が80%を越える6か月前後が適当であろう.

●手術手技のコツは,確実に卵管内にバルーンを挿入することであり,そのためには手術時間の大半は卵管口を卵管鏡の視野に捉えることに費やす心積もりで手術に臨むとよい.

●卵管閉塞の前病変として捉えられる卵管狭窄は,FTの適応となりうるが,その診断は容易ではない.HSG中の造影剤注入圧の上昇,および子宮鏡による卵管子宮腔の異常所見の把握が重要である.

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●5cm以上の卵巣腫瘍を認める場合は妊娠・非妊娠時とも茎捻転や破裂のリスクがあり,手術を勧める.

●経過観察症例では,卵巣腫瘍のサイズや性状の変化に留意して,手術適応の有無について適宜再評価を行う.また,不妊治療方針に変更があった場合にも手術適応が発生する可能性がある点に留意する.

●手術によって卵巣機能の低下が認められる可能性があるため,手術はできるだけ正常卵巣組織を破壊しないよう,術後癒着が少なくなるよう愛護的に行う.

筋層内子宮筋腫 吉野 修 , 斎藤 滋
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●筋層内子宮筋腫のうち,約2割の症例は子宮筋腫が原因で不妊症になっている可能性がメタアナリスから示唆されるが,どのような筋層内子宮筋腫が不妊症となるのかは明確でない.

●子宮筋腫を手術しない場合,および手術を行う場合の妊娠中のリスクについても患者への情報提供が必要である.

●着床に関する分子生物学的指標や新規のMRI検査法により,子宮筋腫合併不妊に対する有効な治療方針の確立が期待される.

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●軽度子宮内膜症の診断には,腹腔鏡下での観察と病理診断が必要である.

●軽度子宮内膜症を伴う不妊に対する腹腔鏡下手術は,妊孕能を改善するが,その効果は限定的である.

●軽度子宮内膜症の合併が疑われる不妊症例においては,年齢・不妊期間・他の不妊因子の有無・疼痛の程度を考慮したうえで,腹腔鏡の適応を決定する.

重度子宮内膜症 明樂 重夫
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●子宮内膜症stageIII,IV期のような重度患者においては妊孕能が低下するので,自然妊娠を期待するのであれば,腹腔鏡手術をまず選択する.

●ARTを前提とした場合,卵巣予備能悪化の懸念から4cm以下のチョコレート囊胞はまずIVF-ETを先行させる.

●悪性の可能性が否定できないとき,疼痛が強い場合,癒着などで採卵困難な場合,囊胞破裂や感染のリスクが予想される場合などには,手術療法が優先される.

●手術は囊胞摘出術が原則であるが,術後卵巣予備能は多少なりとも低下することが多い.両側性のものや再手術症例,術前AMH低値例などでは,内容吸引・囊胞壁焼灼術も考慮する.

●実際の手術では卵巣に対する愛護的手技を徹底し,囊胞剝離面へのバイポーラ使用は最小限となるよう丁寧な手術を心掛ける.

先天性の子宮形態異常 岡垣 竜吾
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●子宮形態異常は複数の検査所見から総合的に診断する.特に双角子宮と中隔子宮の鑑別に注意する.

●中隔子宮の一部を除いて,子宮形成手術が不妊症の改善効果をもつというエビデンスは乏しい.

●現在,中隔子宮の手術法としては主に子宮鏡下中隔切開術が施行されている.

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●子宮腺筋症合併不妊症患者に対して,温存手術は1つの選択肢ではあるが,他の不妊因子を合併する症例も多く,今後は年齢を考慮した治療戦略が必要になると思われる.

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●診断のポイント:月経後に少量の出血が排卵まで続くという主訴が多い.卵胞期に子宮創部陥凹と子宮内腔に黒褐色の血液が貯留する.しかし,黄体期には目立たない.

●手術のタイミング:保存的治療の報告は少なく,子宮内腔に黒褐色の血液を認めたら手術治療を勧める.黒褐色でなく薄い茶色の液体が貯留している場合は数周期保存治療を試みてもよい.

●手術のコツ:手術には腹腔鏡と子宮鏡,2つの異なる方法があり,当院では子宮創部の厚みと子宮の屈位で術式を選択している.

連載 FOCUS

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はじめに

 分子生物学的な手法を用いた遺伝子診断は,腫瘍の病理診断,分子標的治療の適否の判定など癌の診療には欠かせないものになっている.リンパ節転移診断においても,乳癌などでは術中迅速診断にも応用されるようになった1).術中迅速遺伝子診断によるリンパ節転移の検出は,センチネルリンパ節(SN)を同定し,その転移の有無により治療方針(系統的リンパ節郭清施行の有無)を決定する際に有用な情報になる.婦人科癌においてもSN同定の妥当性が検証され,リンパ節転移の発見率の上昇などその有用性が明らかにされてきている2〜5)が,術中迅速診断については凍結標本一切片の病理学的診断では術後のultrastagingにより見逃しが発見され6, 7),この結果で治療方針を決定する難しさも指摘されている.そのため,微小な転移も見逃さないような精度を有し,さらに多数の切片を検索するような労力を要することのない容易な迅速診断の確立が望まれている.

 本稿では当科において検討しているone-step nucleic acid amplification(OSNA®法)による子宮頸癌,子宮体癌におけるリンパ節転移の術中迅速遺伝子診断の可能性と今後の展望を中心に概説する.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

▶患者 : 36歳,1経妊.

▶主訴 : 間欠性跛行.

▶既往歴 : 特記事項なし.

▶現病歴

 近医にて妊娠11週で右卵巣腫大とその増大傾向を指摘され,X年5月下旬に当院を紹介初診した.内診ではダグラス窩に嵌頓した新生児頭大で弾性硬の腫瘤を触知し,超音波断層法にて多房性で一部に乳頭状の充実部を有する囊胞性腫瘤を認めた.子宮内に妊娠11週相当の胎児を確認した.MRIでは,右卵巣に発生した径109×98mm大の多房性囊胞性腫瘤として描出され,一部に充実性部分が確認された(図1).有意な腹水貯留は認めなかった.また,子宮後壁に径47mm大の筋層内筋腫を認めた.腫瘍マーカーの検索では,CEA 45.4ng/mL,CA19-9 4,212U/mLと著明な上昇を示した.増大傾向が著しいとの前医からの情報があり,画像所見と腫瘍マーカーの上昇からも悪性腫瘍が否定できないため,1週間後(妊娠12週)に開腹手術を施行した.

連載 Estrogen Series・148

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 前回に続いて外傷性脳損傷(traumatic brain injury : TBI)に対するプロゲステロン(progesterone)の効果についての試験をご紹介したい1)

 プロゲステロンは強力な神経ステロイドで,中枢神経系により合成される.動物試験では実験的頭部外傷後にプロゲステロンを投与すると脳浮腫,神経欠損,行動欠損などが減少することが示された.さらにプロゲステロンの投与は死亡率の減少と機能的アウトカムの改善をもたらすとの報告がなされ,プロゲステロンに対する期待は強まった.

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 20年以上前から矢沢珪二郎氏(前ハワイ大学医学部産婦人科臨床教授)とともに,明治乳業の支援を受けて,米国からPaul RH, Freeman RK, Frigoletto FD, Jr.を招いて,合計10回の講義をしていただいた.毎回約200名の方に聴講していただいた.そのなかで,Frigoletto氏は,講義に際し,スクリーニングの意味を解説した.スクリーニングを行う条件として,対象疾患が稀ではないこと,その疾患の転帰が有害であること,さらに,スクリーニング結果が陽性の場合に転帰を変えられる介入方法があることなどを満たす必要があると解説していた記憶がある.

 今回は,現在では妊娠中期(または,それ以降も複数回)に全例スクリーニングされている妊娠中の子宮頸管長計測について,その問題点を考える.

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バックナンバー

次号予告

編集後記 亀井 良政
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 昨年度の出生数がわずかですが久しぶりに増加に転じたと発表がありました.今後ますます加速する超高齢社会を考えればまだまだですが喜ばしいことです.今後もこの傾向が続くものか,興味のあるところですが,一方で我々産婦人科医の数はどうでしょうか? 最近テレビで周産期センターを舞台にした“コウノドリ”というドラマが放送されました.これを視聴して多くの医学部生や研修医が産婦人科に興味を示してくれていれば良いのですが……内容はとても良かったのですが,やはり“厳しい労働環境”という印象が依然として強く残るメッセージになってしまったのでは,と危惧してしまいました.一人でも多くの産婦人科医が増えてくれるようにと日々祈っています.

基本情報

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臨床婦人科産科
70巻2号 (2016年3月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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