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はじめに
体外受精を中心とする高度生殖医療技術の発展と普及はめざましいものがあり,日本では年間33万件以上ものIVFが行われている.これは米国を上回り,世界一である.顕微授精,胚凍結融解などの技術は安定した成績を挙げており,日本は名実ともに世界に冠たる体外受精大国である.しかし近年,不妊クリニックを訪れる患者において40歳以上の患者が急激に増加している.その原因として,①いわゆる団塊ジュニア世代が40〜45歳となり,この年代の人口が多い1),②晩婚化と女性の社会進出が進み,不妊治療の開始時期が遅れている,の2点が考えられる.当院では初診患者の30%近くが40歳以上であり,胚移植実施患者の約46%が40歳以上である.
一般に女性年齢が上昇するにつれ卵子は老化し,受精卵の染色体異常が高率となることが知られている.卵子は胎生期に第一減数分裂前期において停止し,排卵周期が開始するまでの間,2価染色体を形成したまま何十年も経過しており,女性年齢が上がるほど減数分裂再開時に染色分体の不分離が生じやすく,染色体の数的異常が高率に起こると考えられている.Hartonら2)によれば42歳以上において分割期胚の染色体異常率は93%,胚盤胞の染色体異常率は85%と高率である.また日本産科婦人科学会によれば40歳の患者における治療周期あたりの生産率は約8%と低く,また43歳の患者における流産率は約50%と高い3).
欧米諸国においては40歳以上では提供卵子を用いた体外受精あるいは着床前スクリーニング(PGS)を行うことで生産率を上げている.しかし,現状においては日本の不妊患者の多くを占める40歳以上の患者は低い妊娠率を承知のうえで自己卵子を用いたARTを繰り返し,PGSを受けることなく流産を繰り返すという厳しい状況におかれている.それに対する不妊治療のストラテジーとして卵巣刺激法の改善,胚培養技術,胚凍結融解技術のさらなる向上が必要であることはもちろんいうまでもないが,やはり卵子の若返りを図ることが切実に望まれる.
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