臨床外科 71巻8号 (2016年8月)

特集 外科医が攻める高度進行大腸癌

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 高度に進行した原発大腸癌に対する治療に焦点を当てた特集である.転移や周辺臓器への浸潤に対し,状況によっては,最近の進歩著しい化学療法を取り入れた集学的治療も含めて,いかに「攻める」ことが可能か,開腹・腹腔鏡を問わず実際のアプローチについて解説していただいた.

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【ポイント】

◆切除可能肝転移の標準治療は肝切除である.ただし,予後の悪い“切除が適切でない”肝転移症例が存在し,治療成績改善に向けて周術期化学療法を組み合わせた臨床試験で検証されている.

◆切除不能大腸癌肝転移は全身化学療法の適応である.化学療法後に切除可能になり肝切除を行う(conversion chemotherapy)と,生存期間の延長が期待できる.

◆適応が拡大された肝転移手術でネックとなる残肝量不足の問題に対して,新しい計画的二期切除であるALPPSが注目されているが,合併症リスクなどの課題もある.

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【ポイント】

◆大腸癌肝肺同時性転移は肝,肺両病変の切除により予後が延長する可能性がある.

◆可能であれば積極的に切除を試みる意義はあると思われるが,「適切な症例選択」のためのエビデンスはいまだ不十分である.

◆今後の症例集積による予後因子の解析などにより,適切な症例選択基準が明らかになることが期待される.

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【ポイント】

◆十二指腸と結腸の炎症性癒着なのか,腫瘍による浸潤なのかを術前診断することは困難な場合が多い.

◆リンパ節転移陽性症例,低分化癌や粘液癌症例,十二指腸粘膜面に腫瘍が露出する浸潤癌に対しては膵頭十二指腸切除術の併施が必要である.

◆膵頭十二指腸切除後は術後補助化学療法の導入が困難なことが多く,術前化学療法は今後の期待しうる選択肢の一つと考える.

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【ポイント】

◆癌の浸潤性発育と炎症性癒着の鑑別は困難であり,尿管浸潤が疑われる症例では合併切除を行うことが原則である.

◆腫瘍辺縁では本来の解剖学的層を越えた剝離層で手術を行うため,解剖や再建方法を熟知する必要がある.

◆尿管切除後の再建方法は,切除尿管の部位,長さ,腎機能などを考慮し,術中に臨機応変に対応しなければならない.

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【ポイント】

◆大腸癌膀胱浸潤は他臓器浸潤の中でも比較的頻度が高い一方,肉眼的浸潤と組織学的浸潤の一致率は必ずしも高くない.

◆R0切除を達成することで予後を改善できる可能性があるため積極的な切除が必要であるが,膀胱機能温存や術後のQOLを考慮に入れた術式決定が重要である.

◆尿路変向術が必要な膀胱全摘症例では新膀胱などの代用膀胱も選択肢となりうるが,十分なインフォームド・コンセントに基づく術式決定が必要である.

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【ポイント】

◆直腸前方の前立腺に接するか,軽度浸潤があると思われる直腸癌に対しては前立腺部分切除が選択肢となりうる.

◆治療選択には術前画像診断を十分に行い,術式を検討する必要がある.

◆今後,腹腔鏡下手術,ロボット支援手術の応用が期待される.

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【ポイント】

◆合併切除の必要性と合併切除臓器への病理組織学的な癌浸潤陰性の場合もありうることについて,術前にインフォームド・コンセントを得ておく.

◆尿管損傷は,尿管が子宮頸部付近で子宮動脈の背側を通り,膀胱子宮靱帯の中に入り膀胱に到達する部位で最も起こりやすい.

◆腟合併切除の会陰操作の際には,外尿道口および尿道括約筋の損傷に注意が必要である.

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【ポイント】

◆直腸癌局所再発症例に対する手術においては,しばしば根治性を担保するために仙骨合併切除を要するが,侵襲の大きな手術となり,術後合併症対策も含めて総合的なマネジメントが必要となる.

◆本稿では仙骨合併切除の適応とその実際に関して,腹腔鏡下手術における手術のポイントも含めて述べる.

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【ポイント】

◆大腸癌腹膜播種は他転移に比較して予後は不良である.

◆新規抗癌剤の出現や減量手術併用腹腔内温熱化学療法により治療成績の向上がみられる.

◆今後,化学療法と手術をどのように組み合わせるか,および播種をいかに早期発見するかが検討課題である.

FOCUS

がん漢方の現在 今津 嘉宏
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はじめに

 2009(平成21)年度厚生労働省がん研究助成金による「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班で行われた「がん診療に携わる医師および薬剤師の漢方治療と代替医療に関する意識調査」によれば,がん患者に対して漢方を処方したことがある医師は,73.5%であった1)

 しかし,これまで漢方医学は経験則でしか語られることがなかったため,厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究「がん治療の副作用軽減ならびにがん患者のQOL向上のための漢方薬の臨床応用とその作用機構の解明」(班長 上園保仁)において,漢方薬の作用メカニズムについての科学的エビデンス蓄積の現状ならびに漢方薬を用いた臨床研究における最新情報について報告することを目的とし,がん拠点病院と緩和ケア病棟を有する病院に従事する医師,薬剤師,看護師を対象とした漢方薬の教育プログラム・漢方キャラバンセミナーが2012(平成24)年と2013(平成25)年に行われ,全国から医師956名,薬剤師・看護師・栄養士・研究生等261名,総数1,217名が参加した.

 また,漢方薬の処方は漢方理論による診断をもとに行われるため,西洋医学の最先端であるがん診療の現場には,漢方理論はどれも馴染みにくく理解しがたいもので,漢方医学を修めた医師は少なく,がん患者が漢方薬を希望しても処方されることは難しかった.

 しかし,がん診療で使用される抗がん剤によって引き起こされる病態は,漢方医学でいうところの「証(しょう)」と一致していると考えられた.このため,漢方医学を現代語に訳し,がん診療を行っている臨床医が簡単に理解し活用できるように翻訳したのが「がん漢方」である2)

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はじめに

 乳癌の高リスクの代表として,生殖細胞系列における病的遺伝子変異が挙げられる.特にBRCA1およびBRCA2の病的変異を有する,いわゆる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)が最も知られている.HBOC関連腫瘍には乳癌,卵巣癌のほかに膵臓癌や前立腺癌が知られているが,それぞれの浸透率からは乳房と卵巣の2つの原発巣が重要である.

 ここで遺伝性腫瘍に対する医療の目的について図1に示す.生命予後の改善をめざし,検診サーベイランスや治療を行うことは言うまでもなく重要であるが,HBOCにおいて卵巣癌の早期発見を目的としたサーベイランスの有効性は現時点では皆無であり,NCCN(National Comprehensive Cancer Network)をはじめとする診療ガイドラインでは,医療介入として予防的にリスク低減卵巣卵管切除(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)を行うことが推奨されている.一方で,乳癌については卵巣癌に比べると浸透率が高いことも重要であるが,早期発見が比較的容易なこと,疾患特性上,卵巣癌に比べると予後も良いことから予防的手術,すなわちリスク低減乳房切除(risk reducing mastectomy:RRM)はあくまでもオプションの一つであって,むしろサーベイランスプログラムがHBOC診療で実際に機能していると考えられる.それでもハリウッド女優であるアンジェリーナ・ジョリー氏のように「家族のために」という想いから,未発症でありながらも両側のRRMを決断することは変異保因者の心理から十分に理解できることであり,われわれ医療者もそのような想いを汲み取りつつ,このRRMについて十分にディスカッションし,取り組んでいかねばならない.

 本稿ではRRMについて,特に片側乳癌既往のある症例における健側に対する予防切除(対側予防切除,contralateral prophylactic mastectomy:以下CPM)について,現時点でのエビデンスを踏まえてその概略を述べたいと思う.

ラパコレUpdate 最近のコンセプトと手技・1【新連載】

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はじめに

 安全に手術を行うためには,①どこに何がある?(解剖の把握),②どこから始める?(手術操作の開始部位),③どう進めていく?(剝離層の確認),④どこをめざす?(到達点の設定),⑤困ったらどうする?(困難時の対応),の5項目について十分に理解し,準備しておく必要がある.安全に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行するためには,Rouvière溝の確認,胆囊体部での剝離操作開始,漿膜下層内層での剝離,critical view of safetyの作成,操作困難例に対しては胆囊切開,亜全摘および開腹移行を考慮することが重要と考える.

 今回われわれは,critical view of safety作成を中心とした,安全な手術手技について説明する.

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●はじめに

 外科手術の実施に際しては,術前・術中・術後にさまざまなアクシデントが発生する可能性があり,発生した場合には適切な対応の取り組みが求められている.本稿では,アクシデントに適切に対応することに関連して,外科医がアクシデントを発生前に想定し,適切な未然防止対策を実施することが,患者への影響拡大防止に資するということに焦点をあてて検討する.

病院めぐり

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 当院は,坂本龍馬で有名な高知県の県庁所在地である高知市の高知城から東に3kmの場所にあり,近くには地球33番地(東経133度33分33秒,北緯33度33分33秒)という白いモニュメントのあるユニークな地点があります.緯度,経度の度,分,秒の同じ数字が12個も並ぶ地点は,全世界の陸上ではわずか10か所(インドネシア,ナイジェリア,ギニア,リビア,ボツワナ,オーストラリア,日本,以上各1か所,ロシア3か所)とのことです.交通アクセスは,高知駅からとさでん交通の路面電車に乗って,観光名所の「はりまや橋」で乗り換えて20分の最寄駅から歩いて8分です.

 現理事長の伊藤末喜が,昭和48年に徳島大学医学部第2外科から高知市民病院外科に赴任し,視触診による乳がん検診を自治体や日本対がん協会高知県支部と協力して高知県で開始しました.同時に,乳腺を専門とする外来も開始しました.当時は,乳腺外来はほかになく,県内全域から検診で要精査となり来院した患者さんの対応に苦慮することとなりました.その患者さんたちの要望もあり,昭和63年4月21日,瀬戸大橋の開通と同時に19床の有床診療所として当院は開院しました.平成24年2月14日のバレンタインデーの日に現在の場所に移転し,院長が私に引き継がれました.

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要旨

90歳以上の腹部手術症例で在院死の予後不良因子を推定する手術リスク評価法を検討した.90歳以上手術症例28例を対象とし,生存退院例,在院死亡例に分けて予後不良因子を検討した.術前・術中に把握される因子を用いた解析では,多変量解析でPhysiological and Operative Severity Score for the enUmeration of Mortality and morbidity(POSSUM)が予後予測因子であると推測された.ROC曲線による閾値は39.2であった.

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要旨

【目的】痔核に対する硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射液を用いた注射治療(ALTA療法)は優れた治療だが,再び出血や脱出をきたすことが稀にある.本研究では,それら再発した症例に対する2回目のALTA療法の症状改善率を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】ALTA療法を行った233例を,「初回ALTA群」212例と「再ALTA群」21例に分類,定義した.性別,年齢,Goligher分類,出血症状,痔核の個数,ALTA合計投与量,痔核1個あたりの最大投与量,症状改善の8項目について2群を比較した.【結果】症状改善率は初回ALTA群が93.4%であり,再ALTA群が71.4%であった.2回目のALTA療法は初回時に比べて症状改善が有意に劣ることが示唆された.

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要旨

症例は69歳,男性.主訴は血便.入院時WBC 2万/μL台,40℃台の高熱,貧血,著明な凝固能障害が生じていた.腹部CTにて直腸周囲の巨大な膿瘍形成を認め,経皮的ドレナージ・横行結腸人工肛門造設を行った.2度の大腸内視鏡検査で診断がつかず,最終的に経皮的needle biopsyでgastrointestinal stromal tumor(GIST)の診断が確定し,腹会陰式直腸切断術で切除しえた症例である.免疫染色ではc-kit(+),CD34(+),desmin(−),S-100蛋白(−)で,直腸原発のuncommitted type GISTと診断した.核分裂像は4/50 HPFであった.直腸GISTは文献上,非常に稀な疾患であり,そのなかでも今回の症例は直腸周囲膿瘍を伴っており,医学中央雑誌およびPubMedで検索しえなかった.診断に難渋した,直腸周囲膿瘍を伴う稀な直腸GISTの1手術例を経験したので報告する.

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要旨

症例は94歳,女性.腹痛を主訴に救急搬送となり腸閉塞と診断した.保存的加療を行うも症状は改善せず,絞扼性イレウスが疑われ,翌日緊急手術を施行した.開腹所見では,Meckel憩室により小腸が係蹄状に絞扼されており,小腸部分切除術を施行した.80歳以上のMeckel憩室に起因するイレウスは比較的稀で,本邦報告例は自験例を含めて13例のみであった.術中に偶然認めたMeckel憩室に対する予防的切除の適応については一定の見解は得ていないが,憩室の形態異常を認める場合や,憩室の長径が2 cm以上であれば,合併症をきたす可能性が高いとの報告もあり,年齢にかかわらず予防的切除を考慮する必要があると考えた.

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要旨

症例は60歳,男性.心房細動に対する経過観察中に肝機能障害を指摘され,精査で胆囊に隆起性病変の存在が確認されたために腹腔鏡下に胆囊摘出術を施行した.摘出標本の肉眼所見で胆囊頸部肝床側の粘膜面に25 mm大の黄色有茎性隆起病変が認められた.病理学的検索で免疫染色を行ったところ,クロモグラニンA(+),シナプトフィジン(++),CD56(+)で,Ki-67 indexが2%未満を示したことからneuroendocrine tumor-G1と診断された.胆囊を原発とする神経内分泌腫瘍は報告例が少なく,治療方針の確立には症例の集積が必要と考えられた.

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要旨

症例は87歳の男性で,主訴は左乳輪下腫瘤.精査にて左乳癌と診断した.触診,画像上で左腋窩リンパ節の腫脹は認めなかった.胸筋温存乳房切除術+センチネルリンパ節生検(SLNB)を施行した.SLNBは色素法+インドシアニングリーン(ICG)蛍光観察法で行った.病理組織診断は,invasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma, T1, N0, M0, stage Ⅰ, ER(+), PgR(+), Her2(0), Ki-67 5〜20%, Luminal B(Her2陰性)であった.本症例は皮下脂肪が少なく,ICG蛍光観察法でリンパ流の流れが明確にとらえられ,確実にセンチネルリンパ節を同定しえた.色素法とICG蛍光観察法を併用したSLNBは男性乳癌においても安全・有用に施行でき,かつ術後の合併症や侵襲を軽減することができる手技であると考えられた.

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要旨

症例は72歳,男性.2012年10月,近医で胃腫瘍性病変を指摘された.当院では胃噴門部大彎にtype 2病変を認め,生検にて悪性黒色腫と診断された.悪性黒色腫の腫瘍マーカーである5-S-CDは11.9 nmol/Lと上昇していた.食道胃接合部悪性黒色腫の診断にて胃全摘術,下部食道切除を施行した.術後補助療法としてDAV療法を開始したが,経過中に皮膚転移,肺転移および肝転移が出現し,5-S-CDも95.9 nmol/Lと高値を認めた.以降化学療法は施行せず,術後6か月目に永眠された.本症例においては血清5-S-CD値が病勢の進行とともに上昇し,予後不良を示唆している可能性が示された.食道胃接合部原発の悪性黒色腫は一般に予後不良と考えられるが, 血清5-S-CD値の経時的な測定が経過を追う際の一助となる可能性がある.

昨日の患者

ゲバルト学生 中川 国利
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 国の将来をも左右する安全保障に関する重要法が国会で承認され,さらには憲法改定が今や現実味を帯びつつある.時代の世相を敏感に感じ取り,大いに社会批判してきた若者の言動が沈滞して久しい.私が大学生時代であった昭和40年代は世界的にも学生運動が高揚し,街頭デモや大学ストライキもしばしば行われたものである.しかし昭和50年代には路線をめぐる派閥闘争が激化し,内ゲバが横行するようになった.

 昭和53年1月,水戸市および勝田市において,茨城大学革マル派学生活動家の住居など4か所が,対立する他派閥の活動家により同時襲撃を受けた.窓ガラスやドアを破壊して侵入した活動家により,就寝中の学生らの頭部などが鈍器で殴打され,3人が死亡し,3人が重軽傷を負うという凶悪事件が発生した.

ひとやすみ・140

医療の差別化 中川 国利
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 27年間勤めた仙台赤十字病院は,仙台市郊外の丘陵にある.周囲は住宅地で商店は全くなく,バス路線の最終地に存在する.したがって近隣住民は買い物を兼ねながら市中心部の医療機関を受診し,治療を受けるためにだけわざわざ交通不便な病院を受診する患者は少ない.しかも勤め始めた頃は消化器内科医が少なく,院内紹介患者も少なかった.そこで手術症例を集めるため,他病院との差別化を図った.

 手術を要する患者が紹介された場合,一般には外来で精査や全身状態の検査を行う.そして病棟や手術室と調整し,入院日を決める.そのため患者は複数回外来受診しなければならず,さらには入院日が決まらず予定を立てることが難しい.そこで私は紹介された患者には,初診日にできるだけ検査を行い,患者の希望日に手術を,さらには退院日までを決定した.そして手術前日に入院していただき,残りの検査を行い,手術に臨んだ.確かに無理難題も多々あったが,病棟や手術室など関係スタッフの理解と協力を得られたことが幸いであった.なお満床気味の際には入院患者に退院を積極的に促し,手術では時間を厳守するなど,日頃からスタッフの信頼を得ることにひたすら努めた.

1200字通信・94

進化と分化 板野 聡
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 以前,外科医を目指す若い先生方に研修していただく内容の検討会に参加したことがありました.そのなかで,内視鏡についても指導すべきではないかとの提案があったのですが,これに対して「なぜ外科医が内視鏡の研修をしなければならないのか」という反論がありました.確かに外科学会の専門医制度では内視鏡検査は重要視されていません.しかし,特に消化器外科では術前診断や切除範囲の決定には内視鏡所見の読影能力が必要であり,さらに治療方法選択の多様化に対応するためにも内視鏡検査や処置ができるほうがよいということで,結局採用されることになりました.私も賛成でしたのでよかったのですが,奇妙な感覚が残りました.そして,その発言をした先生と私では,そもそも「外科医」の定義が違うのではないかと思い至りました.

 私は消化器外科医を目指したこともあって,自ら望んで消化器疾患が中心の病院で研修をしてきました.そこでは,外科や内科の垣根を越えて何もかも自分でやらなければなりませんでしたし,消化器外科には内視鏡は必須と考え,上部はもちろん,卒業当時まだ一般には普及していなかった下部や胆道系の内視鏡検査,治療を勉強してきました.勿論,基本の外科医としての修練も積んだわけですが,あの発言をした先生は,手術は外科医が,また内視鏡は内科医が担当し,そうした役割分担をしなければ仕事ができないような大きな施設に長年勤務していることがわかったのでした.そして,その先生の経験した手術件数や手術手技のレベルの高さと併せて,その発言も宜なるかなと納得できたのでした.

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バックナンバーのご案内

あとがき 渡邉 聡明
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 今年はロサンゼルスで開催された2016 Annual Scientific Meeting of The American Society of Colon and Rectal Surgeons(ASCRS 2016)に出席してきました.アメリカで最近行われている大腸外科におけるロボット手術の発表を中心に見てきました.アメリカでは大腸領域のロボット手術が世界で最も多く行われています.アメリカ以外の国では,大腸領域では主に直腸癌にロボット手術が行われているのに対して,アメリカでは結腸癌や良性疾患に対しても行われており,そのロボット手術の現況がよくわかりました.一方,学会発表とは別に企業のセミナーで,最新のロボット手術の現状についても見学し,これまでのロボットとは違う新世代のロボットを見ることができました.デバイスの進化は,手術術式にも大きな影響を与えます.現在,腹腔鏡手術が大腸外科領域で広く行われています.しかし,歴史的にみると1990年代初頭に腹腔鏡手術が導入された時代,大腸外科で腹腔鏡手術が急速に広まったわけではありません.2000年を過ぎてから特に広く普及したわけですが,その普及の背景にあったのはやはりデバイスの進歩でしょう.低侵襲手術が発達するためには各臓器の手術の特性に合ったデバイスが整備されている必要があります.そういった点から見ると,現在のロボットはまだまだ技術的に改良点が多く残されていると思います.しかし,今回見ることができたいくつかの新技術はロボット手術の進化に多く寄与するものと思われました.現在,腹腔鏡手術が広く普及している中,本当にロボット手術が必要か,という議論があります.ここで注意しなくてはならないのは,現在のロボット手術はまだまだ十分成熟した段階ではなく,改良点が多く残されている段階であるという点です.ロボット手術は,器機の改良により,これからますます進化していくと思われます.その発達を支えるためには工学系との連携も重要でしょう.さらに,医療経済的側面からコストの検討も必要でしょう.そうした総合的なアプローチによりロボット手術が進化して,日常臨床の場で真に有用なtoolとなることを期待しています.

基本情報

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臨床外科
71巻8号 (2016年8月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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