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はじめに
乳癌の高リスクの代表として,生殖細胞系列における病的遺伝子変異が挙げられる.特にBRCA1およびBRCA2の病的変異を有する,いわゆる遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)が最も知られている.HBOC関連腫瘍には乳癌,卵巣癌のほかに膵臓癌や前立腺癌が知られているが,それぞれの浸透率からは乳房と卵巣の2つの原発巣が重要である.
ここで遺伝性腫瘍に対する医療の目的について図1に示す.生命予後の改善をめざし,検診サーベイランスや治療を行うことは言うまでもなく重要であるが,HBOCにおいて卵巣癌の早期発見を目的としたサーベイランスの有効性は現時点では皆無であり,NCCN(National Comprehensive Cancer Network)をはじめとする診療ガイドラインでは,医療介入として予防的にリスク低減卵巣卵管切除(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)を行うことが推奨されている.一方で,乳癌については卵巣癌に比べると浸透率が高いことも重要であるが,早期発見が比較的容易なこと,疾患特性上,卵巣癌に比べると予後も良いことから予防的手術,すなわちリスク低減乳房切除(risk reducing mastectomy:RRM)はあくまでもオプションの一つであって,むしろサーベイランスプログラムがHBOC診療で実際に機能していると考えられる.それでもハリウッド女優であるアンジェリーナ・ジョリー氏のように「家族のために」という想いから,未発症でありながらも両側のRRMを決断することは変異保因者の心理から十分に理解できることであり,われわれ医療者もそのような想いを汲み取りつつ,このRRMについて十分にディスカッションし,取り組んでいかねばならない.
本稿ではRRMについて,特に片側乳癌既往のある症例における健側に対する予防切除(対側予防切除,contralateral prophylactic mastectomy:以下CPM)について,現時点でのエビデンスを踏まえてその概略を述べたいと思う.
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