理学療法と作業療法 14巻7号 (1980年7月)

特集 老人

老人のリハビリテーション 森 幹郎
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はじめに

 老人リハビリテーションの歩みは,昭和36年にまでさかのぼることができよう.すなわち,昭和36年度から軽費老人ホームの整備費に対して国庫助成の途が開かれたが,これを受けて施行された社会局長通知「軽費老人ホーム設置運営要綱」(昭和36年4月4日)の中に,「処遇」の中身の一つとして,「利用者の生活を豊かな明るいものとするため,利用者の実態に応じて余暇の善用,後退機能の回復等を図り,健康の保持に努めること」と規定されたからである.リハビリテーションという用語を用いなかったことについては,後に述べるが,老人福祉行政に現われた老人リハビリテーションの最初のものということができよう.

 それから約20年に近い歳月が流れたわけであるが,この間,終始老人リハビリテーションの歩みに深い関わりを持ち,また,関心を抱いてきたものとして,次に反省自戒の意味をもこめて,その歩みを紹介し,また,将来への展望,提言を少ししてみたい.

老人患者の心理的問題 藤本 利明
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 Ⅰ.はじめに

 本稿では,主として脳血管障害について,老人患者の心理的問題を概観してゆきたい.

 身体障害者(児)の心理に関しては,障害の受容やリハビリテーション・プログラムとの関連を扱ったものにWright1)の労作がある.脳血管障害患者の心理面・行動変化については,Licht2),Ullman3)の著述がある.また,近年,老年心理学の発展にともない,老年期をライフ・サイクルの一段階として光を当てようとする潮流がある(Birren,Schaie4)).

 老人患者の心理的問題は,以上の身体障害,脳血管障害,老年心理を含めた,総合的なアプローチを必要とするもので,単にモチベーションの問題としてのみ考えるべきではない.以下では,心理的問題として,情緒的問題と知的機能低下を取り上げ,さらに,身体機能と心理的問題との関連についても考えてみたい.

老人の痴呆 浜田 晋
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 Ⅰ.まえおき

 理学療法士や作業療法士が痴呆の患者に接する場合,どのようなことに注意し,どのように接したらよいか―ということが筆者に与えられた主題です.

 ところが筆者は理学療法士や作業療法士がこれまで,痴呆の患者をどう捉え,どう接してこられたのかあまりよく知りません.筆者がそれらの人たちと親しくしたのは,1968年11月から1970年4月まで,東大リハビリテーションセンターで何人かの人と,そして丁度その頃鹿教湯療養所でたまにおつきあいした程度です,それからだってもう10年近くが経過しています.その頃の理学療法士や作業療法士を頭に浮かべながら,筆者の考えを述べることは失礼でしょう.

 筆者の立場は,医師だろうが家族だろうがケースワーカーだろうが,まずこれまで自らがケースをどう捉え,どう接してきたのか,それを見つめなおすことから始まる―実はこれが大変むつかしいことなのですが―,それは決して一般的に“痴呆患者にはこう接するべきである”というような型(お手本)を頭で学んでも,大して役に立つものではないと考えるものです.

 したがって,すぐお断りすべきであった,失敗した,とはじめから途方にくれています,でも今更,お断りも出来まいし―だからとんでもない的はずれのことを言ってしまうかもしれないのです.お許しください.

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 Ⅰ.はじめに

 大阪市立弘済院は付属病院(定員200名),養護老人ホーム(定員350名),特別養護老人ホーム(定員300名),第1,第2救護ホーム,児童ホームをもつ総合社会福祉施設である.

 収容老人は原則として老人福祉法により措置された人達である,したがって付属病院は弘済院内の各施設に収容されている人達の入院・治療を主務とし,さらに一般地域住民の外来診療も一部取り扱っている.

 養護老人ホーム(以下老人ホームと略す)は老衰のため独立して日常生活を営むことのできない人を収容しているが,食事当番,掃除当番などの役目を分担する動作能力のある人達が多い.居室は和室になっていて,看護婦3名が配置されている.

 特別養護老人ホーム(以下特養と略す)は身体面,または精神面の著しい欠陥のため常時の介助を必要とする人を収容している.居室はベッド生活様式になっており,看護婦8名が配置されている.

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はじめに

 福祉分野における在宅ケアは,人間らしい生活の保障という点で望ましいものとして,国民の意識の中に定着しつつある.

 老人福祉の面では,適応力の弱まった老人を,慣れ親しんだ自然的人的環境から切り離すことが,心身両面の衰弱を一層強めるものとなり,人生の末期をみじめな状態に陥れることに対する反省が生れた.それは近い将来必ず訪れる高齢化社会に対する国民自身の,自らの老後を投影させての老人福祉のあるべき姿の模索の一つの答えとも受けとれるものである.

 老人の在宅福祉サービスには,国・自治体・民間を合わせると非常に数多くのものがある.筆者はここで,在宅福祉サービスの一つの新しい形態である老人のデイ・ケア・サービスについて,一年にも満たない経験ではあるが,その役割,実態,問題点などを述べてみたい.

とびら

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 私は長年アフター・ケアを行っているが,その理由は三つあった.一つは私自身の研究のためであったこと.次は院内のOTの続きとして単身社会に出る必要があり,それについて誰も手を貸さなかった事が切っ掛けであった.そして三つ目は,患者さん達が私に期待した事であった.病院とは関係なく単独で行わざるを得ない状況の中にあり,困難に直面することも多かった.経済的な問題,職業の問題,病気の再発の問題,男女問題,人間関係の問題,人権問題他数多い.それによっては裁判所,役所,警察,福祉,職安,事業所,保健所,そして公共団体等に出向かなければならない.私が労を惜しまない程患者さん達は社会生活を長く続けることができる.つまり再発防止につながった訳である.患者さん達も遠慮なく私を“お使い”になってくれる.夜中の二時でも三時でも「用事があるから!」と私の家に電話する,行くと「昼の仕事が気になります」「眠れないんです.暫くここに居って下さい」と言う.仕事の事,また自分で苦しんでいる事などをフトンの中で,枕元の私に訴え,その問題の処理方法を説明する私のことなど忘れたように眠ってしまう.

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はじめに

 作業療法のおこりの背景には,長い人類の歴史があり,人間一人が生きることに求めたきびしい戦いも,また人生にかけたよろこびもロマンも秘められている,多くの文化がその時代の社会思想や社会背景ときりはなすことが出来ないように,医学もその時代背景に影響されつ,かつ影響しつつ歩んで来た.リハビリテーションの思想や理念を学ぶ時に,まさにそれは作業療法の精神であり理念であると思う.患者の作業療法ゴールを立てる毎にこの思いを強くする.

 人間の心と体を統合して重要視するという作業療法の真髄は古代歴史に逆のぼり医学の発生に見い出すことができる.それはギリシア倫理の発生に時代を同じくし相通ずる目的を有していたと考察できる.

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 Ⅰ.はじめに

 小脳の生理に関する問題は大別して3つあると考えられる.第1に小脳はどのように出来上っているか,第2に小脳はどのような働きをしているか,第3にその働きは終生不変のものかまたは可変なものであるか―これらは,小脳のみでなく,脳を理解する上で常に重要となる問題であろう.本章では,小脳に関するこれらの問題を扱うことになる.

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 リハビリテーションが今日の姿をとるまでには,先覚者が苦心をかさね,先導者がいろいろの努力を積んでいった歴史があるのは当然であるが,今までこの点について首肯できるようなものに欠けていた憾みがあった.リハビリテーション医学会の「白書」もこの点はきわめて稀薄である.本誌3月号の砂原茂一氏の柏倉松蔵氏に関する一文は,この先覚者の地位,とくにその技術面についてのルーツをよく分析されていて,まことに目を開いていただいた思いであったのは,けだし私ひとりにはとどまらなかったものと思う.私が蛇足として,ここに付け加えたいのは,その思想的なルーツに思いあたるものを感じて少し詮索してみたものである.

 柏学園の創立趣意書の冒頭に,すばらしい名文の一節がある.砂原氏も,その先に柏倉氏を論じられた蒲原宏氏も,それを引用しておられる.いわく,「およそ人間という人間は,皆天の公平な恩恵に浴して幸福な生活を送ってゆくことが出来うるはずでありまして,天の差別なき監督の下にあっては誰も彼も一視同仁で決して差別はないはずです」と.

短報

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はじめに

 整容動作の中で入浴できるか否かは,ADL上重要であり,また厄介な問題の一つである.我々も病棟での入浴介助,あるいはhome programの設定という場面で頭を悩ます症例に出合った.その対策として,我々の試作した風呂用短下肢装具が,患者から好評を得たので紹介する.

 風呂用短下肢装具として,一般的な短下肢装具の機能に加えて,①吸水性のない材料で漏れてもかまわないこと,②水を含まない形で水切れの良いこと,③すべりにくいこと,④体を洗うということから最小限の接触であることが要求される.これらの条件をできるだけ満足させるデザインと素材の検討を行った.材料はヘキソライトを使った.高分子物質の多くは水を吸収する傾向にあるというが,ヘキソライトは実際上その問題はなく,meshであることは最適である.42~3℃の水温で塑性の問題もなかった.型はできるだけ足底部の感覚を残すために踵部と前兄部を露出するように努めた.

反省させられた症例

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はじめに

 当院では,昭和49年7月にデイ・ケアを開設し,精神分裂病患者を主な対象として取り組んできた.その結果,体験を通して,少しずつ,精神科におけるデイ・ケアの役割や意義がわかってきたように思われるが,反面,デイ・ケアに入所した分裂病圏の患者の約38%が,再入院している事実があり,患者たちの社会復帰の難しさを思い知らされている.

 今回は,デイ・ケアで作業に参加することによって,働く自信をつけ,就職した,慢性分裂病患者の再入院例を取り上げ,患者たちの抱えている問題を探り.デイ・ケアのあり方を考えてみたい.

雑誌レビュー

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 この雑誌の全般的な紹介については,既になされているので(本誌11巻7号540~544頁,1977),今回は興味のあった身障関係の論文を主にまとめてみた.

 全体としての内容構成は以下の通りである.

プラクティカル・メモ

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 1.はじめに

 最近マイクロコンピュータ等の発達により,電子機器が医療に測定装置として導入される事がさかんになってきた.そこで,今回製作した,この装置は,私達がこれまでマニュアルで行っていた東大式コーディネーションテストを参考にし,円形エリヤに対する点打ち動作を,各エリヤごと電気信号によりカウントする機能と,LEDによるカウント数表示が可能である.これにより,被検者により打点された各エリヤ内カウント数をディスプレイ表示し,それを総計することが簡単にできるし,正常人平均値との対比やエリヤカウント数における被検者ごとの変位傾向等をも測定できる.また,この結果をフィードバックしていく事により協調運動遂行動作がスピード性,正確性の向上を計り,学習効果を高めうる.特にこの測定は失調症の企図振戦,パーキンソン病の強剛,振戦の実際における機能段階の指標となりうる(図1).

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はじめに

 片麻痺患者の車椅子の使用場面をみると,訓練の過程で一時期院内の移動に用いられる場合と,歩行の確立を目標に掲げることが困難な場合とが考えられる.使用される車椅子のタイプは低座席にしたユニバーサルタイプが一般的である.特殊なものとしては片手操作式のものもあるが,これは健常人でもかなりの熟練を要し,どちらかといえば実用的でないようにいわれている.一応現在のところスタンダードタイプが最も多く使用されてはいるものの,一面幾つかの問題点を有している.まず第一に健側下肢を床に置き手操り寄せて前進するために,必然的に健側半身が前方に移動していわゆる半身姿勢になったり,また極度な場合はシート前縁に殿部が移り半座位にも近い不良な姿勢をしめす患者をみる.第二に力学上の問題点として,健側下肢は床に充分接することができる座席の高さでなければならないわけであるが,反面ベッドやその他の家具へのトランスファーの際,立ち上り動作に多少の負担が強いられる.特に車椅子の初歩的段階にある患者にとっては容易ではなさそうである.第三に屋外車として用いる場合その実用性が薄い等があげられる.以上のような問題的に対しその改善を目的として,図1のような片麻痺用車椅子(称して片足駆動チェーンドライブ方式)を試作し従来のものと比較検討をおこなってみた.

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 外傷,疾病による切断者また,脳卒中,脊髄損傷,脳性および脊髄性小児麻痺などに装着する義肢装具は,リハビリテーション技術に重要な分野をしめている.これらの義肢装具は,障害の重度化,高齢化に伴い,電動装具,電動または空気圧義手,動力義足などにみられるごとく,最近の製作技術には,身体との接点における解剖,生理,運動学など臨床医学の側面とともに,材料,機械,電子工学など工学的な側面の知識が必要とされる.また,現実の義肢装具のクリニックにおいて義肢装具士は,医師,PT,OT,ケースワーカーなどとのチームアプローチの中で,製作技術は勿論のこと,処方,適合判定などに重要な役割りを占めている.

リハビリテーション・インフォメーション

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 リハビリテーションの歴史

 県のリハビリテーション医学の進歩発達段階より記述すれば,昭和40年に法律が施行される以前より,本県ではその道のパイオニアとして発展していた.

 昭和35年,当時,福島県立医科大学に居られた土屋弘吉教授がアメリカに留学され,リハビリテーション医学を我が国へ導入され,福島県立医科大学理学治療室において,土屋教授の指導のもとに近代リハビリテーション医学が発足されたのである.

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 沿革

 本学院は昭和48年4月1日国立療養所近畿中央病院に附設された.先輩校である東京清瀬の国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院につぐ我が国第2番目の国立理学療法士・作業療法士養成校である.開校準備から教育に携わってきたのが主として我が国で生まれた理学療法士,作業療法士であったのは,日本におけるリハビリテーション医学の担い手である理学療法士・作業療法士養成が,外国の助力に依ることなく,独歩できる時代になってきたということを象徴しており,さらに本学院の卒業生が現在教壇に立つという発展を遂げている.

 卒業生数は昭和55年3月31日現在で,理学療法学科73名,作業療法学科58名である.

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文献抄録

編集後記 松村 秩
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 老人というテーマで特集を組んだ.老人問題は医療と福祉の点において国家的な課題でもある.

 森氏には老人のリハビリテーションについて書いていただいた.老人に対してはリハビリテーションが基本になることに触れ,3つの提言の中に地域サービス,在宅サービスの重要性が強調されている.

基本情報

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理学療法と作業療法
14巻7号 (1980年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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