総合リハビリテーション 38巻2号 (2010年2月)

特集 中枢神経の可塑性

今月のハイライト
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 近年の神経科学,脳科学の進歩は目覚しく,神経細胞の新生や再生,神経画像法の進歩,臨床医学における新たな治療法の導入など,枚挙に暇がありません.神経研究の進歩の成果は,多くの中枢神経障害患者の治療にあたるリハビリテーション領域への応用,発展が期待されています.本特集では,中枢神経の可塑性をテーマに,各分野の先生方に,近年の神経科学,脳科学の進歩の概要,今後の課題や展望などについてご解説いただきました.

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はじめに

 脊椎動物の脳は,膨大な数のニューロンとグリア(アストロサイト,オリゴデンドロサイト,ミクログリア),さらにこれらの機能を維持するために必要な血管で構成されている.ニューロンは特定の領域へと軸索を伸ばし,シナプスを形成することによって神経回路を構築している.アストロサイトは,イオン恒常性の維持,神経栄養因子の供給,神経伝達物質の代謝,血液脳関門の形成など,神経細胞の補助的役割を担っている.オリゴデンドロサイトは,神経軸索を包むミエリン鞘を形成し,神経伝達の補助的役割を担い,ミクログリアは脳内での免疫機能の役割を担っている.成体脳は,ニューロンとこれらのグリアによってその機能を果たしている.これらの神経組織の細胞は,自己複製能と多分化能をもつ神経幹細胞によって生みだされる.自己複製能と多分化能をもつ神経幹細胞は,発生初期から中期にかけて,さまざまな分化制御を受けながらニューロンを産生する.その後,発生後期から生後にかけて,アストロサイト,オリゴデンドロサイトを産生する.

 一旦,ニューロンまで分化すると自己増殖できないため,「成体脳ではニューロンは生まれない」というドグマが長い間信じられてきた.そのため,成体脳が損傷を受けると,軸索再生やシナプス発芽などの脳の可塑性によって修復されると解釈されてきた.しかし,近年,胎生期だけでなく成体脳においても,海馬歯状回の顆粒細胞下層(subgranular zone;SGZ)と側脳室の脳室下帯(subventricular zone;SVZ)で神経幹細胞が存在することが齧歯類で明らかになっている1,2).さらに,ヒトにおいても側脳室周囲と海馬に神経幹細胞が存在することが示されている3,4).これらの発見により,神経幹細胞を利用して成体脳組織を修復する可能性が開かれた.

 神経幹細胞の増殖・分化の仕組みや神経幹細胞が神経回路に組み入れられる仕組みが解明できれば,神経幹細胞を人工的に作りだすことや,その神経幹細胞を移植して新しい神経回路を再構築することが可能である.現在,神経幹細胞をニューロンやグリアに分化誘導し,成体中枢神経系の再生を促そうとする試みが動物実験を中心に盛んに行われている.

 脳損傷によって失われた神経回路を構築するためには,失われた神経細胞を補充したり,補充した神経細胞を神経回路に組み込んで機能させたりすることが必要である.前者では,成体脳に存在する神経幹細胞の活性化や,神経幹細胞の細胞移植が必要となる.細胞移植では,胎児由来細胞,胚性幹細胞(ES細胞),人工多能性幹細胞(iPS細胞),間葉系幹細胞などから神経幹細胞を調製している.後者においては,さまざまな神経栄養因子やその関連遺伝子の導入によって,組織中に残存している神経細胞や新生した神経細胞を活性化したり,軸索伸展阻害因子を抑制して,軸索再生を促進する必要がある.これらの技術を統合的に組み合わせることで神経再生を促すことが大切である.これらの神経再生治療の研究は,高齢社会に伴い増加する虚血性脳損傷や神経変性疾患などに対する有効な治療を確立するうえで大いに期待されている.

 本稿では,神経再生を促す戦略として,内在性の神経幹細胞を利用する方法と,外部から新たに神経幹細胞を補う方法(細胞移植)の2つの戦略を取り上げる.前者については虚血性脳疾患を中心に,後者については神経変性疾患を中心にそれぞれの現状を解説する.

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はじめに

 脳は,動物の生命活動の統合という非常に高度な機能を担う器官であるが,一方で修復・再生が非常に困難であることも知られている.その主因は,神経活動の主体となるニューロンの産生がほぼ発達段階に限定され,その後は新たにそれを産生し補充することができないためである.しかし近年の研究から,脳のごく限られた部位では終生ニューロンの産生が行われていることが明らかになった.その特殊な部位は,側脳室周囲に存在する「脳室下帯」と,大脳辺縁系に属する「海馬歯状回」である(図a).ここで産生された細胞は,それぞれの部位に供給され成熟ニューロンとなる(ニューロン新生).

 脳室下帯は,成体における最大のニューロン産生部位である.驚くべきことに,産生されたニューロンは成体脳内を長距離にわたって移動し,嗅覚の一次中枢である嗅球に供給される.海馬は,記憶・学習などの高次機能や感情・情動の制御など,われわれの社会生活に密接に関わる機能を担う部位であり,うつ病・統合失調症・不安障害などの精神疾患,アルツハイマー病・てんかんなどの神経疾患との関連性も報告されている1).その海馬神経回路の一部においてニューロン新生が行われている事実は,生物学的にも臨床医学的にも非常に興味深いものである.

 研究手法上の制約から,ヒトのニューロン新生に関する知見はまだ非常に乏しく,本稿でとりあげた研究の多くは齧歯類をはじめとする実験動物を対象としたものである.しかしニューロン新生は,ヒト・霊長類を含む多くの哺乳類で確認されている.

 本稿では,まず脳室下帯-嗅球のニューロン新生について解説したのち,海馬ニューロン新生を中心に,その概要,機能的側面,疾患の病態との関係,新たな治療ターゲットとしての可能性について述べる2,3)

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はじめに

 ヒトの成人が脳損傷を受けたことで生じる機能障害は,自然に,あるいはリハビリテーション介入により,程度の差はあるものの回復することが経験的に知られていたが,一般的には成長後のヒトの中枢神経系は完成されており,損傷後に機能改善に向かうような可塑的な変化は生じないと考えられてきた.しかし,神経画像の進歩により,ヒトの成人においても,形態学的変化,脳活動の強さやパターンの変化,神経伝達物質などの脳内物質の濃度変化などをとらえることが可能になってきた.

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中枢神経の可塑性

 神経細胞は,何らかの要因により一度死滅すると二度と再生しないと言われている.そのため,死滅した神経細胞群が担っていた機能は,何らかの介入を行わない限り障害を受けたままとなる.このような神経細胞群の死滅による機能低下が明確となるのは,一次運動野,一次体性感覚野,一次視覚野などといった一次領野の損傷による場合であろう.なぜならば,これらの領域は,連合野の領域とは異なり,比較的脳領域と特定の機能との対応関係が明確だからである.運動機能で言えば,一次運動野は,その領野内にそれぞれ下肢,上肢,顔の運動といった支配領域が明瞭に分かれるという体部位再現性をもつ.そのため,一次運動野を含む脳領域に損傷を受けた場合,損傷を受けた領域が担う四肢に運動麻痺が生じることになる.そして,リハビリテーションに求められるのは,損傷により失われた機能を脳の他領域が代償することを促進させ,再び脳と四肢(効果器)の関係性を築くことである.

 脳卒中後に四肢に運動麻痺が生じた場合,上述の脳と四肢との関係性が崩れ,脳からの運動指令が効果器に伝わらず適切に運動することができなくなる.では,崩れてしまった脳と効果器の関係性は,再構築することができるのだろうか? つまり,脳のある領域は別の領域の代わりになれるのだろうか? Sadatoら1,2)は,全盲の視覚障害者の視覚領野がどのような働きをするかを調べるために,点字を読んでいるときの脳活動を神経イメージング装置であるfunctional MRIを用いて調べた結果を報告している.その結果,全盲患者は,点字を読んでいる最中に体性感覚野ではなく後頭葉が賦活することを報告した.点字は,指先で紙面の凹凸パターンを認識し「読む」のであり,情報は触覚情報となる.つまり,視覚情報を処理する後頭葉が,視覚情報が全く入力されなければ,触覚情報を処理するように変化していたということである.ただし,このように感覚モダリティが視覚から触覚に変化できるのは,16歳までに全盲になった患者に限られるようである2)

脊髄損傷への応用 中澤 公孝
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脊髄の可塑性

 従来,脊髄は他の中枢神経とは異なり,神経回路に可塑性はないと考えられてきた.しかし近年の研究は,脊髄には従来考えられていた以上の柔軟性があり,ある程度の学習あるいは適応能力があることを示している1,2).例えば,Wolpaw3)のグループは脊髄伸張反射経路を対象とした一連のユニークな研究において,この経路の可塑性を実証している.彼らはラットやサル,ヒトの伸張反射あるいはH-反射の出力をオペラント条件付けし〔反射出力を増加(または低下)させると報酬が得られるように条件付けすると〕,それらの出力を増大または減少させることができることを示した(図1).

 長期に及ぶ特定運動課題のトレーニングがヒトの脊髄反射を特異的に変調することも報告されている.Nielsenら4)はベルギーの有名なバレエ団のダンサーを対象としてヒラメ筋H-反射を調べ,それが他の競技を行っている被験者のH-反射に比べ,特異的に抑制されていることを見いだした.バレエダンスでは独特な爪先立ちを繰り返す.それはヒラメ筋に代表される下腿三頭筋の収縮と前脛骨筋など,足背屈筋群の収縮が同時に行われる共収縮を伴う.そのような特殊な運動課題が日常的に繰り返されることで,シナプス前抑制の増強と相反抑制の減弱が生じ,結果としてヒラメ筋脊髄運動ニューロンでのⅠa入力に対する伝達特性が可塑的に低下した,と考えられた.このような特殊な運動課題に対する脊髄反射の適応は他の競技者(陸上短距離・長距離,水泳5)など)においても報告されている.

巻頭言

さまよえる要介護認定 佐伯 覚
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 昨年4月に実施された介護保険要介護認定の見直し,ならびに経過措置に関する混乱は目を覆いたくなるような状況であった.私は2000年の介護保険制度発足時より認定審査会(合議体)の委員を務めており,現在は合議体長として認定審査に当たっている.今回の事態を振り返りつつ,リハビリテーション科専門医としての視点から私見を述べてみたい.

 混乱の経緯は次の通りである.2009年4月,訪問調査で使用される認定調査の認定基準が変更された.すなわち,基本調査の項目群ならびに項目数が削減されるとともに,各項目の評価判定のための評価軸が新たに設けられた.従来の評価では,調査員によって“できる能力”で勘案したり,“実際にしている状況”で判断したりと基準が曖昧であったことから,今回,評価基準を明確にし,評価結果のばらつきを是正するよう整理し直したのである.しかし,この見直しによって,従来より要介護状態区分が軽度に判定される事例が大幅に増え,厚生労働省は経過措置として,更新申請者が希望する場合には,従前の要介護状態区分に戻してもよいことにしてしまった.この超法規的措置は,二次判定を行う認定審査会に大きな混乱をもたらすととともに,要介護認定に対する国民の信頼を大きく失墜させた.

講座 脳血管内治療・2

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はじめに

 脳神経外科領域の出血性疾患には,高血圧性脳内出血や破裂脳動脈瘤,脳動静脈奇形(AVM)などが挙げられる.出血した部位により,脳(実質)内出血,くも膜下出血,脳室内出血というように分類することもできる.通常,破裂脳動脈瘤はくも膜下出血を引き起こすが,脳内出血や脳室内出血を合併することもある.また,脳梗塞は虚血性疾患であるが,広範な脳梗塞を生じた場合などには,梗塞で脆弱となった脳組織が出血性変化を引き起こし,出血性脳梗塞となることもある.

 脳神経外科の出血性疾患のなかで脳血管内治療の対象となるのは,脳動脈瘤,AVMなどで,高血圧性脳内出血は通常,血管内治療の対象とはならない.発生頻度は,破裂脳動脈瘤は人口10万人当たり年間15人前後である一方で,AVMは人口10万人当たり年間1人前後と1/10以下である.また近年,脳ドックなどで未破裂脳動脈瘤が発見され,将来の破裂予防を目的として治療を受けることも多い.したがって,出血性疾患の脳血管内治療のなかでは,破裂,未破裂の両者を含めた脳動脈瘤手術が占める割合が圧倒的に多い.

 本稿では,脳動脈瘤の脳血管内治療を中心に解説し,一部,AVMの脳血管内治療についても触れる.

実践講座 精神・神経系薬物療法の知識・2

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はじめに―今日の抗うつ薬の隆盛

 1998年には,172億円であった抗うつ薬の売り上げが2007年には1,100億円を超えた.このような抗うつ薬市場の拡大は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)の発売とそれに関連するうつ病治療キャンペーンと並行していると考えられる.本稿では,今日のうつ病治療の中心となっているSSRIをはじめとする現在の抗うつ薬についての実践的知識について概説する.

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要旨:〔目的〕静的姿勢保持の評価指標として重心(COG),足圧中心(COP),重心加速度(ACOG),頭部加速度(AFHD)などがあり,これらの相互関係について検討することを本研究の目的とした.〔対象・方法〕健常者10名を対象とし,開脚立位を60秒間保持させた.3次元動作解析装置と床反力計を用い,計算によりCOG,COP,ACOG,AFHDを求めた.さらに1秒ごとにそれぞれの最大振幅を求めた.〔結果〕相互相関関数解析の結果,COGとCOPはtime shift=0秒,ACOGとAFHDはtime shift=-0.1秒で相関係数がピーク値を示した.対応のあるt検定の結果,COGとCOPならびにACOGとAFHDの最大振幅には有意差を認めた.〔結語〕COGとCOP,AFHDとACOGは類似していたが最大振幅が異なり,COPでCOG,AFHDでACOGを代用する際には,振幅が異なる点に留意する必要がある.

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要旨:〔目的〕初発の脳卒中回復期の片麻痺に対する川平らによる促通反復療法(以下,促通反復療法)の効果を従来法と比較し,下肢,上肢,手指に分けて検証した.〔対象・方法〕講習会を終了した医師が本法適応例とした脳卒中回復期の片麻痺症例を促通反復療法施行例(以下,実験群)と従来法での加療例(以下,対照群)の2群に分け,前方視的に比較検討した.促通反復療法は講習会を終了した療法士により行った.運動麻痺の程度は上田のグレード(以下,グレード)によって表示した.両群間で病型,病巣,麻痺側,併発症,合併障害,加療期間,併用加療内容などに有意の差はなかった.〔結果〕各グレードの平均は下肢で実験群が5.5から8.2へ(対照群は6.0から7.2),上肢で5.2から7.6へ(対照群は5.3から6.4),手指は4.3から7.1へ(対照群は3.9から5.5)と,実験群では対照群に比べ有意の改善幅を得た.また,上肢,手指で共同運動完成に満たないレベルから分離運動発現した症例も実験群で有意に多かった.今後,例数と促通反復療法の習熟経験を増やし,もっと厳密な臨床対照試験を行う必要がある.

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要旨:〔目的〕介護老人保健施設で行われた転倒予防の取り組みを後方視的に検討し,多職種協働による転倒予防の有効な方略と具体的方法を提案する.〔対象・方法〕primary outcomeは各年の利用者の転倒による骨折の件数と発生率(利用者人年%),secondary outcomeは看護・介護職による3種類(アクシデント,インシデント,ヒヤリハット)の転倒報告書の件数と報告率(/職員人年)とした.さらに,リスクマネジメント委員会の議事録と活動記録をもとに分析を行った.〔結果〕転倒による骨折件数は4年目には0件となった.報告書の件数と報告率は,3年間,アクシデントは横ばいであったが,インシデントとヒヤリハットは増加した.そして4年目には,ヒヤリハットのみ前年並みで,アクシデントとインシデントは減少した.リスクマネジメント委員会は,転倒報告書の提出の徹底,システムの構築と改善,教育システムという順序で時期ごとの課題,目標に向かってシステムマネジメントを行った.〔結語〕リスクマネジメントにおける利用者個々を対象とする個別マネジメントと,施設全体のシステムを対象とするシステムマネジメントの相乗効果により,転倒による骨折件数を0件にすることができた.それには,各職員の自主的な取り組みの尊重とシステムマネジメントを担当する組織のリーダーシップの両方が必要であることが示唆された.

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要旨:〔目的〕2007年度の脳卒中地域連携クリティカルパス(パス)導入によって,急性期病院から回復期リハビリテーション病院への診療情報提供書の記載情報が改善されたかどうかを明らかにする.〔対象・方法〕2002年度入院の脳梗塞患者125例と2007年度入院の脳梗塞患者78例を対象とした.診療情報提供書における7項目(臨床病型,責任病巣,MRA結果,頸部血管超音波検査結果,ホルター心電図結果,心エコー結果,PT-INR結果)の記載の有無を調査し,2002年度と2007年度との比較,2007年度の地域連携パス参加病院とその他の病院との比較を行った.〔結果〕2007年度は2002年度よりも,7項目中3項目(ホルター心電図,心エコー,PT-INR)において記載割合が有意に高かった.地域連携パス参加病院はその他の病院よりも,7項目中5項目(臨床病型,MRA,頸部血管超音波検査,ホルター心電図,心エコー)において記載割合が有意に高かった.〔結論〕本研究によって,診療情報提供書の情報量増加という脳卒中地域連携パス導入による効果が明らかになった.

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 小児の足部疾患は,先天異常を病態とするものや子宮内肢位異常によるもの,麻痺性疾患に伴う変形など,発生要因は多岐にわたる.本稿では,児の年齢別に代表的な足部疾患を挙げ,その対応について述べる.

連載 リハビリテーション関連の各種統計

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養成校数,学生数の推移

 理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST),義肢装具士(PO)などは,看護師,検査技師,薬剤師,放射線技師などに比べて国家資格化されてから歴史が浅いが,近年,養成校の増加が著しい.PT,OTは,1965年の理学療法士及び作業療法士法の制定により3年制特殊学校として始まり,1992年の4年制大学開学以降,多数の養成校が開設されてきた1).STは,1999年に言語聴覚士法による国家試験が開始され,2000年にスタートした回復期リハビリテーション病棟,介護保険制度下の需要増大により養成数が増加した.

 2009年のPT,OTの全国の養成校数,1学年当たりの学生数(表1)と,学生数の推移(図1)を示す.PT,OTとも20年(1989年比)で10倍以上に定員が増加した2-5).PT養成校数の増加率に比べ,OT数は2005年頃より増加率が鈍り,PT,OTとも新設校増加の一方,募集定員割れ,募集停止などがみられる.PT養成校の統計では,在学学生数は1学年約1.3万人で,4学年で5万人以上の在校生が待機している計算となり,全国の就業PT総数5.3万人とほぼ同数である(1965年からの44年間の有資格者累計総数は約7万人).単純計算すると,今後,毎年職場が25%増えるか,1/4が失職することになり,現状では,供給過剰と言える.

連載 印象に残ったリハビリテーション事例

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悲痛な叫び

 「僕は仕事をしないといけない.お金が必要なんです.働いてお金を稼がないといけないんです.仕事がしたいなぁ」.彼はその悲痛な叫びを繰り返した.その気持ちはわかる.できれば希望を叶えてあげたいが,無理であった.彼はリハビリテーション病棟に入院中の患者であった.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 漱石の没後間もない大正7年に高浜虚子が発表した『漱石氏と私』(『近代作家研究叢書16』,日本図書センター)には,漱石の文壇的な処女作である『吾輩は猫である』が書かれるに至った事情が,次のように記されている.

 漱石が英国留学から帰国して千駄木に居を構えた頃のことである.ある日,虚子が漱石の家を訪問すると,漱石は留守だったが,玄関先に出てきた鏡子夫人が「どういうものだかこの頃機嫌が悪くって困るのです」と窮状を訴え,漱石を落ち着かせるために外へ連れ出してくれるよう頼んだ.そこで虚子は,努めて芝居見物などに誘い出すようにしてみたが,漱石は一向に乗り気ではない.しかし,漱石がかねてより俳句や俳體詩などに熱心なのをみていた虚子は,文章を作ってはどうかと提案してみた.そして,原稿を受け取る約束になっていた日に漱石を訪ねてみると,漱石は「愉快そうな顔をして」虚子を迎えて,一つできたからすぐここで読んでみてくれと言う.見ると,原稿用紙数十枚に書かれた相当に長いものである.虚子はまずその分量に驚いたが,漱石の求めるままにその場で朗読すると,漱石はそれを傍らで聴きながら,「自分の作物に深い興味を見出すものの如くしばしば噴き出して笑ったりなどした」.虚子も,それまでみてきた文章とは全く趣を異にするものではあったが,とにかく面白かったので,その題名を『吾輩は猫である』とすることに賛成して,翌明治38年1月の『ホトトギス』に発表した.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 鬼才とは,人間の域を超えたような才能を発揮する人のことを指す.鬼才と称されていた園子温(その しおん)が「ちゃんと伝える」(2009年8月)という,折り目正しい余命ものを作った.これで,人間の域内で,換言すれば定型内でも勝負できるということが証明された.なにしろ,半年前に約4時間,237分の長尺作品を世に出したばかりなのだから.その名も「愛のむきだし」.長さと面白さにおいて伝説の一作と言ってもよい.

 チラシには,メインの惹句「実話をベースに描く,無敵の“純愛”エンタテインメント」と共に「キリスト教,罪作り,盗撮,アクション,カルト教団,女装,脱出….」といったキーワード.私なら「児童虐待」も入れたい.虐待から起動する物語なのだから.

学会印象記

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札幌へ

 第33回日本高次脳機能障害学会(旧失語症学会)学術総会は,2009年10月29日と30日の両日に,札幌医科大学リハビリテーション医学講座の石合純夫教授を会長として,札幌のロイトン札幌で開催された.

 会期中の札幌は晴れて,晩秋とは言えとても暖かく,このうえない気象条件がそろった.会場の高層階から近くにある北海道大学植物園の原生林を思わす密な木々の植え込みの黄葉の盛りが見え,かつて人口190万人の札幌市のすべてをこのような原生林が覆っていたと想像させるに足る風景であった.

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文献抄録

編集後記
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 本号の特集は「中枢神経の可塑性」と題して,神経科学,脳科学各分野の最新研究をお届けします.リハビリテーション領域への応用が期待される技術や神経システムの概観を知ることができます.ぜひ,ご一読ください.

 パソコンなどのデジタル技術を使いこなすと作業効率がアップして便利ですが,機械音痴をいいことに,今まで「文書作成(手紙など)は手書きのほうが時間がかからないこともあるし,親近感があっていい」とか,「音楽を聴くなら,iPodよりCDプレーヤーのほうがダウンロードする手間がなくていい」などと,適当に理由をつけて活用していませんでした.しかし,さすがに不便になりはじめ,周囲にも「出版社に勤めているならデジタル技術に関する知識があって当たり前」と思われているようで肩身が狭くなってきました.そこで,便利なソフトや機器があると聞けば,どのようなものか調べたり,パソコンの早業に関する本やデジタルオーディオプレイヤーなどを買ったりして,ようやく現代的な生活を送るようになりつつあります.

基本情報

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総合リハビリテーション
38巻2号 (2010年2月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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