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はじめに
脳は,動物の生命活動の統合という非常に高度な機能を担う器官であるが,一方で修復・再生が非常に困難であることも知られている.その主因は,神経活動の主体となるニューロンの産生がほぼ発達段階に限定され,その後は新たにそれを産生し補充することができないためである.しかし近年の研究から,脳のごく限られた部位では終生ニューロンの産生が行われていることが明らかになった.その特殊な部位は,側脳室周囲に存在する「脳室下帯」と,大脳辺縁系に属する「海馬歯状回」である(図a).ここで産生された細胞は,それぞれの部位に供給され成熟ニューロンとなる(ニューロン新生).
脳室下帯は,成体における最大のニューロン産生部位である.驚くべきことに,産生されたニューロンは成体脳内を長距離にわたって移動し,嗅覚の一次中枢である嗅球に供給される.海馬は,記憶・学習などの高次機能や感情・情動の制御など,われわれの社会生活に密接に関わる機能を担う部位であり,うつ病・統合失調症・不安障害などの精神疾患,アルツハイマー病・てんかんなどの神経疾患との関連性も報告されている1).その海馬神経回路の一部においてニューロン新生が行われている事実は,生物学的にも臨床医学的にも非常に興味深いものである.
研究手法上の制約から,ヒトのニューロン新生に関する知見はまだ非常に乏しく,本稿でとりあげた研究の多くは齧歯類をはじめとする実験動物を対象としたものである.しかしニューロン新生は,ヒト・霊長類を含む多くの哺乳類で確認されている.
本稿では,まず脳室下帯-嗅球のニューロン新生について解説したのち,海馬ニューロン新生を中心に,その概要,機能的側面,疾患の病態との関係,新たな治療ターゲットとしての可能性について述べる2,3).
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