総合リハビリテーション 37巻3号 (2009年3月)

特集 国際生活機能分類(ICF)の現況と問題点

今月のハイライト
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 国際生活機能分類(ICF)は,2001年にWHOの総会で採択されて以来7年が経過し,わが国においても広く普及しつつあります.そこで本特集では,最近の国際動向を踏まえて,わが国におけるICF活用の現況と,その実践のなかで明らかになってきた問題点や今後の課題について解説していただきました.

国際動向 山内 和志 , 及川 恵美子
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国際生活機能分類(ICF)について

 1970年代より,世界保健機関(WHO)において,障害の分類法について検討が始まったが,1980年に入ると国際疾病分類(ICD)の第9回改訂に際し,補助分類として,機能障害と社会的不利に関する分類であるWHO国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps;ICIDH)が発表された.

 しかしその後,国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)がICIDHの改訂版として,2001年5月,ジュネーブで開かれた第54回WHO総会において採択された.ICFは,単に心身機能の障害による生活機能の障害を分類するという考え方ではなく,生活機能という人間を総合的に捉えた観点からの分類として,活動や社会参加,そして特に環境因子に大きく光が当てられ,その概念の拡充および質的変容が図られた.また,ICFは,健康状況と健康関連状況を記述するための統一的で標準的な言語と,概念的枠組みを提供することを目的としている.

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変貌する総合リハビリテーション

 総合リハビリテーションにおけるICF(国際生活機能分類,WHO,2001)の活用を考えるにあたり,近年における総合リハビリテーション自体の変貌から検討をはじめたい.

 「総合リハビリテーション」とはまさに本誌のタイトルであり,本誌が1973年の創刊当時から時代に先駆けてその重要性を示し続けてきたのは大きな功績と言えよう.しかし,この35年の間にはリハビリテーション自体のあり方も多くの変貌を重ねてきており,特に近年における変化は著しい.

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はじめに

 「ひと,生活,もの」は,筆者の所属する国立障害者リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部のキーワードである.福祉用具は,それを利用する「ひと」,そしてその人の「生活」があって初めて役立つ「もの」としての価値を見いだすことができる.しかし,ひとの生活は非常に多様であり,それを確実に把握することは困難をきわめる.したがって,そこに合わせた福祉用具を考えることは,本当に大変なことである.福祉用具の分野では,この適合に関する議論を長年行っており,知識や技術も成熟しつつある1)

 ところが,福祉用具は,リハビリテーション分野において,長年マイナーな分野として位置づけられていたことも事実である.やはり,医学的機能回復に力点を置くリハビリテーションでは,軽視されがちであった.その分,福祉用具の発展は,実際に障害を有しながら生活する利用者の要求による部分が大きかった.

 初めて国際生活機能分類(ICF)をみた時の印象は,福祉用具が位置づけられていることへの驚きであった.WHOの国際分類のなかに,福祉用具がしっかりと位置づけられたことは,われわれにとってなんと力強いことであったことか.ICFは,「ひと」と「生活」を中心とした福祉用具の発展に大きく寄与している.

 本稿では,人の生活機能の分類であるICFと福祉用具の分類を示す国際規格(ISO99992))の関連づけ作業を紹介し,福祉用具とICFの関係について解説するとともに,この分野でのICFの活用について概説する.

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はじめに

 特別支援教育では,乳幼児期から学齢期,卒業後の生活を展望した教育計画が「個別の教育支援計画」を通して策定されている.一方,教育現場では「計画」の策定が自己目的化し,個別性やニーズへの対応を強調するあまり,「目標・計画の個別化」が,「実践の個別化」や「モザイク的な連携」となってしまうことも少なくない.この現状は,改めて「障害をもちながら学び,生きる主体」を反映させた教育目標設定の必要性を浮き彫りにしている.

 障害ゆえの「生きにくさ」を構造的に把握し,プラス面や潜在能力を含めた主体形成を保障しようとする国際生活機能分類(ICF)の理念は,学校教育の課題とも重なり合う.しかし現在,期待の反面,ICFの使用には混乱が生じている.その原因は,ICFの理念と体系の基本的理解の困難さだけではなく,従来の障害児教育の課題が反省的に吟味されず,ICFの導入により,いかなる課題を継承し,克服するかについて,課題意識が共有されていない点にある.

 本稿では,特別支援教育の役割と課題を踏まえたICFの活用について考察する.

職業領域における活用 春名 由一郎
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はじめに

 国際生活機能分類(ICF)は「生活機能」の分類であるが,従来,障害や疾患のある人の職業「生活」は,「最終ゴール」のような抽象的扱いを受けやすく,個別の認識も「職業能力」,「職業準備性」などの単純なものになることが多かった.

 しかし,最近では,障害や疾患のある人の自立・就労ニーズに対応するための個別支援が活発化し,職場や地域における個別的,具体的な「生活機能」を把握する必要性が高まってきている.就労支援は,労働分野を超え,本人の自己管理,企業の雇用管理などの取り組み,保健,医療,福祉,教育等の専門分野を超えた連携が活発であるため,共通言語の必要性も高まっている.

 そこで本稿では,ICFを職業領域における「生活機能」の共通言語として活用する具体例と,今後の活用における課題を整理した.

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 4年前に当院で義足を処方した19歳の青年が,北京パラリンピックに出場した.その感動が覚めやらない2008年9月に,中国・黒龍江省からリハビリテーション科の医師が1年間の研修にやってきた.中国のリハビリテーションの歴史はまだ浅く,中国リハビリテーション医学会は設立されてまだ20年足らずである.40歳代半ばのその医師は,8年前に中医(東洋医学)の医師からリハビリテーション医となった.彼女の日本語の上達は早く,私の診察についていたある日,私と患者の会話を横で聞いていて,「先生は患者の言葉によくうなずきますね.病気以外の話にも多く時間を割いている」と感心された.医師になって20年になるが,余談の多い診察態度がいつの間にか身についてしまっていた.現在の中国の医療は日本と同じような問題を抱えており,患者・家族のリハビリテーションに対する理解はまだ低く,医療現場ではその必要性が認識されていながら,医師や療法士などリハビリテーション関係職種は不足している.そのため,リハビリテーション外来は忙しく,一人の患者に対する診察時間も短いようである.

 多くの職種が関連して行うリハビリテーション医療においては,チーム内での良好なコミュニケーションは必須である.チーム医療では情報の共有化が叫ばれているため,患者の身体的な情報は共有されているが,心理面や情緒面に関しての情報共有は十分なされていないように感じる.患者とのコミュニケーションのなかで,その気持ちに対して共感する時間が少ないからではないだろうか.

講座 脳機能画像診断の進歩・3

核医学検査(SPECT,PET) 木下 俊文
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はじめに

 核医学検査では,脳血流測定などの脳機能診断を行うことができ,測定装置には単光子横断断層撮影(single photon emission computed tomography;SPECT)と陽電子断層撮影(positron emission tomography;PET)がある.認知症や脳血管障害の病態診断において,SPECTやPETは脳循環代謝情報を提供し,臨床検査に用いられている.

 本稿では,アルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)や虚血性脳血管障害におけるSPECTやPETを用いた脳機能診断の有用性について解説する.

実践講座 障害者の加齢に伴う問題と対策・3

スモン 小長谷 正明
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はじめに

 スモン(亜急性脊髄視束神経症,subacute myelo-optico-neuropathy;SMON)は腹痛・下痢などの腹部症状に引き続いて,特有のしびれ感が足先よりはじまり,下肢全体あるいは胸・腹部にまで上行する神経疾患である.このような感覚障害に加えて,下肢の痙縮や脱力をきたし,重症例では視力障害による失明,さらには脳幹障害による球麻痺での死亡例もあった1).1960年代にわが国で多発し,それ以前にはなかった疾患であり,同時に各地で集団発生したことから新しい感染症が疑われ,深刻な社会問題となった.

 1970年に整腸剤キノホルム(chinoform, clioquinol)の副作用が原因とする説が提唱され,中央薬事審議会によって同剤の使用が禁止されてから新たな患者の発生はなくなった.患者のキノホルム服用歴などより,疫学的にはスモンの原因は本剤であるのは明らかであり,1972年末までの患者数は9,249人で,1万2千人以上に達したと推定されている1).2008年春現在,約2,177人がスモン患者として認定されており,それよりも若干上回る数の患者の存在が推定される.薬害であるスモン患者の恒久対策として,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「スモンに関する調査研究班」は,従来より毎年1,000人前後の患者検診を続けてきており,その結果からみた本症の長期経過とさまざまな問題について概説したい.

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要旨:小児の筋電義手は欧米では既に広く普及しているが,日本においてはその認知度は低く,普及には程遠い状態であるのが現状である.本研究の目的は,カナダのBloorview MacMillanこども病院(以下,こども病院)による筋電義手訓練プログラム(一部改変)の有効性を検証することである.対象は,1歳の女児と生後10か月の男児である.ともに片側性先天性の上肢欠損児である.小児に対する訓練プログラムは日本には存在しないため,こども病院の筋電義手訓練プログラムを参考とし,一部改変し,兵庫県立総合リハビリテーションセンターにおいて標準的なプログラムを作成して実施した.2症例に対して本プログラムを適用した結果,こども病院が示した達成度の目安とほぼ同等の結果が得られた.したがって,本プログラムは日本の児においても適用可能であることが示唆された.しかし,日本においては訓練施設の不足や筋電義手支給制度の未整備など,多くの問題が山積している.これらの問題をどのように解決していくかが,今後の大きな課題である.

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要旨:本研究の目的は,足部タッピング運動中に視覚的および聴覚的注意刺激を与えることにより,そのタッピング間隔に変化が生じるかを検証することである.被験者は健康な大学生20名とし,注意刺激のない基準条件,視覚的および聴覚的注意条件にて任意のリズムにより足部タッピング運動を行った.タッピング間隔は各タッピングの圧入力時点の時間間隔を計測し,各条件間にて繰り返しのある一元配置分散分析を用い,検定した.その結果,足部タッピング間隔は基準条件と比較して,視覚的および聴覚的注意条件にて短縮傾向がみられたものの,統計学的有意差は認められなかった(p=0.359).今回の結果から,足部タッピング間隔には,視覚的および聴覚的注意刺激どちらを与えても,その間隔は乱されないことが明らかとなった.

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要旨:〔目的〕同種造血幹細胞移植前後の体力変化とその要因に関して,発熱による活動性低下が及ぼす影響を検討することである.〔対象・方法〕対象は慈愛会今村病院分院血液内科病棟にて行われた移植のうち,体力評価が行えた12例とした.体力評価は,握力,6分間歩行距離(6MD)を移植前・後に行い,移植前後の握力,6MDの変化,並びに,発熱期間と握力,6MDの変化と,それらの関連性を検討した.運動療法は基本的に自主運動とした.〔結果〕移植前後の握力,6MDでは有意差はみられなかった.握力は運動困難群において低下傾向であり,発熱期間との関係においてピアソンの相関係数の検定にて危険率5%で有意に負の相関がみられた.〔結語〕移植患者の身体機能低下の要因の一つに,発熱による不動期間が関与している可能性が示唆された.

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背景

 中部労災病院(以下,当院)リハビリテーション科では,入院患者の9割を脊髄損傷者が占め,東海地方において脊髄損傷に対するリハビリテーション治療の中核を担っている.1955年の病院開設以降,受傷から家庭復帰までの病院完結型リハビリテーション治療が行われ,患者同士,家族同士の間には横断的,縦断的な交流があった.入院生活のなかでピアサポートが自然に形成されていたことにより,患者,家族は少なからず障害受容や社会復帰への足がかりを得ていたものと思われる.

 しかし,一般病床とは別に回復期リハビリテーション病棟が新設された2000年の医療制度改革を契機に,当院は急性期病院としての役割を担うこととなった.病院完結型リハビリテーション治療の維持は困難となり,入院期間が短縮された結果,起居・移動動作が自立に至らない患者は,他の患者と交流しにくい環境にある.維持期に導入しやすい集団訓練や外出訓練の減少は,患者が社会参加の動機を得るきっかけをも減少させた.

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はじめに

 記憶障害のリハビリテーションでは,適切な記憶代償手段の導入を図ることが重要である.Ciceroneら1)は認知リハビリテーションのエビデンスについてまとめ,記憶障害に対しては記憶代償手段の使用が推奨されることを報告している.近年,記憶代償手段としてデジタル機器の有効性を紹介する報告が増えており2),今後もデジタル機器の進歩に伴い,より有効な記憶代償手段の発展が期待される.

 今回われわれは,インターネット上で入力された予定の管理を行うスケジューラーサービス(以下,スケジューラー)を記憶代償手段として応用し,シングルケースデザインを用いて,その効果を検討した.症例を通して,スケジューラーについて報告する.

連載 発達障害者支援センターの取り組み

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 横浜市発達障害者支援センター(以下,当センター)は,2002年7月に開所し,発達障害者を対象とした広域相談支援機関である.横浜市では,ライフステージごとに発達障害児者の療育・相談支援の担当機関が決まっており,当センターでは,主に18歳以上の成人期支援を担当している.表に当センターの概況を示す.

 本稿では,当センターの相談傾向,および対応上の工夫などについて,5つの点から概観する.

連載 印象に残ったリハビリテーション事例

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 私とAさんとの付き合いは20年になります.現在55歳,出会った時は35歳でした.中度のアテトーゼ型脳性麻痺です.Aさんとの関わりのなかでさまざまな福祉制度を考えさせられました.Aさんのカルテの表紙には,今でも初診の時に付いた指の汗跡があります.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 森鷗外が明治44年に発表した『蛇』(岩波書店)には,鷗外その人を思わせる主人公が信州の旧家で出会った精神障害の女性が描かれている.

 理学博士で「名高い学者」の主人公が,信州の旧家に泊まった時のことである.その家に着いて間もなく,主人公は「なんだってこんなそうぞうしい家に泊り合わせたことか」と嘆くことになる.というのも,この大きな家の幾間かを隔てた部屋から,女性の話し声が絶え間なく聞こえてきたからである.しかもその声は,恐ろしい早口で言葉が聞き取れないうえに,相手の言葉が少しも聞こえてこない.「女は一人でしゃべっているらしい」.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 「潜水服は蝶の夢を見る」(監督/ジュリアン・シュナーベル)という一見奇妙なタイトルは,難解な芸術映画かと思わせもしたが,主人公が「閉じこめ症候群」ということで,なるほど合点がいった.

 「閉じこめ症候群」とは,本誌2008年11月号の症例報告(大橋正洋・他)によると,脳梗塞や脳外傷によって,「損傷されていない心が自分自身の身体のなかに閉じこめられ,動くことも話すこともできない状態」になることだ.タイトルは,身体は潜水服を着たように重くても,想像と記憶は蝶のように自由に羽ばたくということを表現したもの.

スコープ

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 筆者は2006年以来,北米の小児脳外傷リハビリテーションプログラムを学ぶ機会を得て,そこでの体験,見聞を報告してきた1,2).以前の報告は,急性期,およびその直後のリハビリテーションについてであったが,今回は急性期を過ぎた後の在宅支援について簡単に述べてみたい.米国のリハビリテーションシステムは各州により異なっており,今回の報告は,ワシントンDCおよびそれに隣接するバージニア州の状況についてである.

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1.自走式車いすの導入により得られた移動能力の向上が,他のADLによい影響を与えた症例

れいんぼう川崎在宅支援室

池谷 充弘・長澤充城子・井上 早苗

小磯さおり・小林 絹子・斉藤  薫

 〔症例〕58歳,男性で,脳炎後遺症による左片麻痺があった.在宅生活を送っていたが,頸椎症性脊髄症による右上下肢の運動障害が出現し,その後,寝たきり状態となった.主介護者の入院を機に,当施設に入所した.〔介入・変化〕6年間にわたり多職種でアプローチしたことで,施設生活が大きく改善した.当初,PTは座位保持能力向上を目的に,疼痛軽減とROM拡大を図った.運動機能向上に伴い,本人の精神面に配慮しながら,適宜,生活スタイルを調整した.車いす導入により,座位・上肢機能が改善し,ADL向上に繋がった.患者に適した生活スタイルで過ごすなかで気持ちに余裕が生じ,外出したいという意欲が出てきた.〔考察〕多職種の介入により,車いすが生活に密着した形でタイミングよく導入できたことが,機能改善によい影響を与えたと思われた.

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文献抄録

編集後記
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 毎年,この時期に楽しみにしているものに「サラリーマン川柳(サラ川)」があります.過去の当選作品を遡れば,「脳トレ,イナバウアー,ヨン様」など,その時々の流行や世相が思い出されます.今年の第22回当選作品には「ポニョ」や「アラフォー」などが入っていました.ちなみに,ポニョのことを知らない父は「ポニョポニョ」と言われると,「昔よりは痩せたと思うけど」と毅然と抗議し,一家の主としての威厳を保っております.「サラ川」当選作品はユーモアたっぷりで面白いので,落選作品の内容も気になります.応募総数約2万のなかから当選するのは100首だけなので,落選作品のほうがある意味,世相(というより人々の本音?)を反映しているのではと思ったからです.しかし,そのなかにはブラック過ぎて「川柳」とは言えないものもありそうです.辛辣な発言や文章は,聞いた瞬間は反射的に笑えてもあまり後味のよいものではありません.やはり,「サラ川」にはipodをお湯のポットだと思っているおばあちゃんが登場するほのぼのとした作品が相応しいのではないでしょうか.自嘲やブラックユーモアは毒の匙加減が難しいので,外に出さずに胸にしまって自分で消化するべきものだと思います.

基本情報

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総合リハビリテーション
37巻3号 (2009年3月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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