総合リハビリテーション 27巻8号 (1999年8月)

特集 リハビリテーション医学の基礎―運動生理学

今月のハイライト
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 運動生理学とは生理学に端を発する分野であり,運動時の身体活動能力いわゆる「体力」を測定・評価し,運動トレーニングによって「体力」の向上を図ろうとする科学である(三田勝己氏ら).運動を治療や健康維持に応用するリハビリテーションにおいて,運動生理学はその基礎医学として重要な位置を占めている.

運動と筋代謝 長島 弘明
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はじめに

 筋収縮の基礎的研究では,フィラメント滑り説,E-Cカップリング説(興奮収縮連関),アクトミオシン・ATP説などの学説が20世紀半ばに確立した.本稿の前半では,そのような筋収縮の生化学における定説を簡潔に述べる.次いで,報告が増えつつある近赤外分光法の非侵襲的筋肉酸素動態観察について,筆者らの研究結果を中心に述べる.

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はじめに

 運動に伴い血圧が上昇し,心拍数が増加し,結果,心拍出量が増加する.増加した血液の多くは運動を行っている骨格筋に供給されると考えられているが,脳の血流はどう変化するであろうか? Scheinbergら1)やHedlundら2)の研究からは,全身の運動を行った場合でも,安静時と比較して,脳全体の血流量には有意な変化はないことが報告されている註).では脳の局所ではどのような血流の変化が起こるのであろうか? 本稿では,ヒトが随意運動を行ったときの局所脳血流量の変化に関して解説する.

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はじめに

 リハビリテーション訓練において,運動療法は最も広く行われている治療の一つである.運動における循環応答のメカニズムを理解することは,運動療法を理論的に体系付けるだけでなく,障害者に運動を施行するうえでのリスク管理としても重要である.

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はじめに

 陸上を1マイル走る際に,足は地面と2,000回(各足50~70回/分),体重の2~4倍の力で衝突するとされ1),必然的に外傷のリスクが高まる.一方,水には浮力,粘性抵抗,静水圧,温熱作用などの特性があり(表1)2,3),水中運動はこれらを利用して免荷,除痛,筋力増強,筋緊張軽減,歩行能力・心肺機能の向上などを目的に行われる3)従来主流であったプール運動には,集団で楽しみながら行え,抵抗板や浮き具を利用して陸上では困難な多彩な運動が可能という利点がある反面,設備,維持・管理のコスト,セラピストの負担が大きく,広く普及するには至らなかった.近年,水中トレッドミルの登場により,限られたスペースでも水中運動が行える条件が整ってきた(表2)4)

 以下,水中歩行・走行運動を中心に解説する.

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 運動生理学とは

 本稿の主題は「筋機能のエージング」である.しかし,その前に今回の特集テーマである「運動生理学(Kinesiology)」や「体力(physical fitness)」の概念があまり正確に理解されていないことを考え,ここで簡単に触れておきたい.

 運動生理学はその名の通り生理学に端を発する科学であり,当然その一画を成すが,これを区別して扱うようになったのは以下の理由による.すなわち,生理学は疾患の治療や健康の維持を役割とする医学の実践の中から一分野として誕生した.そこでは「生きる」ことを追究することをめざし,安静な状態における身体諸器官の機能を分析してきた.

巻頭言

説明の難しさ 伊藤 良介
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 リハビリテーションの開始にあたって医師が最初に行う重要な仕事は,障害の予後について説明することであろう.適切な予後の予測がなければリハビリテーションの目標が設定できず,予後に関する共通の理解がなければリハビリテーションの計画も立てられない.

 昨年,当リハビリテーションセンターに脊髄損傷(脊損)病棟が新設され,脊損者の入院数が倍増した.救急病院などから転院する脊損者が,障害の見通しについて説明されてきたことや理解していることは全くまちまちである.疾患の予後はともかく障害の予後について話されていない場合も多く,下肢の完全麻痺であってもリハビリテーション次第で歩けるはずという期待を抱いて入院する場合もある.もし十分な説明もなしにリハビリテーションを始めると,障害者本人の抱いている希望とリハビリテーション担当者の考え方が一致せず,プログラムが円滑に進まない.このようなことを防ぐには,最初に障害の予後について説明し理解が得られていれば良いのであるが,これがなかなか難しい.

講座 言語聴覚障害学―理論と臨床―

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はじめに

 失語症は,脳の言語領域の病変による言語符号を操作する機能の障害であり,その障害は言語をコミュニケーションの主要な手段とする人間の生活に多大な影響を及ぼす.失語症の障害の側面をWHOの国際障害分類案(1980)によって整理してみると,①言語符号を操作する機能の障害(impairment),②生活の中で言語を用いて実用的にコミュニケーションを行う能力の低下(disability),③失語症を持つために遭遇する社会的な不利益(handicap)に分けることができる.

 失語症の言語治療では,このような障害の全ての側面に働きかけて,全人間的な支援を行うことになるが,認知神経心理学的リハビリテーションはこのうちimpairmentに対する新しい治療法の一つである.

 今回は,失語症の語彙障害に対する治療法を中心に,その概要を述べることにしたい.

実践講座 最新の神経心理学的検査

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はじめに

 標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia;VPTA)は,約9年間の作業を経て1997年に日本失語症学会により公表・出版された視覚失認と視空間失認に関する包括的で標準化された検査法である.従来,視覚認知障害に対しては,検査者それぞれが目的に応じて種々の検査をすることがほとんどであった.したがって,同じ症候をみる検査でも,検査のマテリアルや教示,評価の方法が一定でなかったり,検査項目が不十分であったりして,個々の症例の諸症状を客観的に比較することは容易ではなかった.このたびVPTAが出版されたことで,多くの臨床家がさまざまな症例の高次視知覚障害の諸症状を共通の立場から論ずることが可能になったことは,臨床実践・研究のいずれの点でも大変意義深い.

 VPTAの作成の概要や使用方法については,付属のマニュアルに詳細に書かれているので,本稿ではその概略を示し,さらに実際に本検査を実施した自験例を呈示して,その有用性を指摘したい.

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はじめに

 脊髄損傷患者のうつ状態については,1950年前後に臨床的研究が相次いで行われ,うつ的ではあるが精神科的疾患ではないとした報告が多い.その後,リハビリテーションの分野では,脊髄損傷患者のうつ状態は受傷後に経過しなければならない正常な悲嘆の一段階であり8,12),ほとんどの患者にみられるもので,そうでないのは否認による25)との考え方が広く支持されるようになった.しかし,1980年代に入ると,再び臨床的研究が行われ,患者の一部に大うつ病や小うつ病が見いだされた7,10,13-15,18).これら近年の研究が,脊髄損傷患者のうつ状態をすべて正常な悲嘆とみなして対応してきたそれまでのリハビリテーションの方法に修正を迫った意義は大きいが,しかし,基本的な問題である病因に関する知見はいまなお限られている.

 そこで今回,リハビリテーション医療期における外傷性脊髄損傷患者のうつ状態とその発現に影響を及ぼすと考えられる臨床要因を明らかにするため,うつ状態の発現を前方視的に調べ,うつ状態を示した患者とそうでない患者を比較検討し,若干の知見が得られたので報告する.

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はじめに

 半側無視は損傷半球の反対側の空間に位置する刺激に気づかない現象を指している.その刺激は視覚性のみならず,聴覚性,体性感覚性などいろいろである.

 半側視空間無視患者が麻痺側からの呼びかけなどの聴覚刺激に対して反応を示さない現象は,臨床上よく観察される.Werthは聴覚刺激に対する不注意を以下の3つに区別している1).(1)一側の空間半側に提示された音刺激に反応しない.(2)両側同時刺激における消去現象.(3)一側の空間半側に提示した音刺激を反対側の空間半側に移して定位してしまう.

 聴空間知覚の障害は「音源定位能力」の障害として捉えることができる2).検査法には,患者の傍で指を鳴らしその指をつかませる方法2),無響室で多数置かれたスピーカーのどれが鳴っているかをあてる方法3-5),ヘッドホンで人工的に方向感のある音を呈示する方法6-8)がある.左半側無視患者は左聴野において正答率が低い5),右半球損傷患者では音が右側にずれて知覚される6,8),と報告されているが,視空間無視と聴空間の無視との関係はいまだ不明な点が多い.

 われわれは新しい音方向覚定位システムを用いて左片麻痺患者の音の方向覚を調べ,半側視空間無視の有無による差異,および半側視空間無視と音の方向覚との関連に注目して検討したので報告する.

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はじめに

 高齢者が寝たきりになる直接の原因の一つに大腿骨頸部骨折がある.この骨折の76.1%は転倒によるとされている1).転倒の原因は,個人の心身状態に責任の所在を求める内的要因と,生活環境にそれを求める外的要因に分けられる.近年,この内的要因のなかで,転倒に対する恐怖感,すなわち「転倒恐怖」が注目されている2).高齢者の転倒恐怖は日常生活活動を制限し,生活の質を低下させるばかりか,転倒恐怖をもつこと自体が転倒の危険因子として問題視され始めている3-4).Tinetti5)は,転倒恐怖は「身体の遂行能力が残されているにもかかわらず,移動や位置の変化を求められる活動に対してもつ永続した恐れ」と定義している.諸外国では,転倒恐怖が1980年代後半から問題にされている2-5)が,わが国では話題にされておらず,作業療法の領域でも扱われていない.

 この研究の目的は,①わが国の高齢者の転倒恐怖の発生状況を知ること,②転倒恐怖をもつことが転倒の原因となっているかどうか確認すること,③転倒恐怖に影響する要因は何かを探ることである.

対談:Meet the Expert

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 万歳 最近,リハビリテーション関連の学会などで「ユニバーサルデザイン」という言葉をよく耳にします.しかし,よく聞くわりにはその本来の意味が分かっていないということもあります.今日は「ユニバーサルデザインとは何なのか」について,先生のお仕事を通して感じられていること,さらに今後の展開も含めてお聞きしたいと思います.まず,この言葉の由来を教えて下さい.

一頁講座 話題の疾患

Machado Joseph病 中馬 孝容 , 眞野 行生
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 Machado Joseph病(MJD)が最初に報告されたのは,ポルトガル領のアゾレス諸島出身の家系で,常染色体優性遺伝形式をとる脊髄小脳変性症である.この名は,家系名に由来している.遺伝子解析によりその遺伝子座が解明され話題となっており,これはspinocerebellar ataxia type 3(SCA3)とも呼ばれている.症状としては,失調性歩行,眼振,錐体路症状,びっくり眼,筋萎縮,線維性攣縮,ミオキミア,錐体外路症状,感覚低下などがみられる.次に簡単にMJDの分類について述べる.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 ロビン・ウイリアムスといえば型破りな教師や医師の役と相場が決まっている.医師役だけでも,「レナードの朝」,「9か月」,アカデミー助演男優賞受賞の「グッド・ウィル・ハンティング」,さらに本稿執筆時においては公開されていないが,「奇蹟の輝き」が後に続いており,オイオイまたかよとつぶやきたくなるのは私だけではあるまい.

 ということで「パッチ・アダムス」(監督/トム・シャドヤック)なのだが,医師役としてはこれまでの助演作品ではなく正真正銘の主演作品ということで,そうそう“寅さん”や“釣りバカ”のようにウィリアムスの“医者シリーズ”として立ち上がってきたんだと考えればそれはそれで納得だ.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 シェイクスピアといえば,『ヴェニスの商人』におけるユダヤ人への偏見が有名であるが,1604年に発表された『オセロー』(福田恆存訳,新潮社)には,人種的偏見や性差別に対する批判的な視点を見いだすことができる.

 この作品の主人公オセローは,黒い肌を持つムーア人で,一方では「見ただけで身ぶるいの出る,その黒い胸」と,蔑まれながらも,その人柄や能力は,「誠実で,情の深い,高潔な人柄」とか「奴に代る器量人で国事を託すに足る人物など,どこにも得られようはずがない」と,高く評価されている.実際,「志操堅固にして,不時の禍いの放つ矢弾に不死身を誇った勇者」オセローは,トルコ軍討伐の将軍に任ぜられ,見事その大役を果たすのであって,ヴェニス随一の美女デズデモーナが彼と結婚するのも,「オセローの真の姿はその心にこそ,その名誉と雄々しい働きとに身も心も捧げた私」と,彼の価値を内面的なものに見いだしたがためである.

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 平成11年5月20日から22日の間,鹿児島大学リハビリテーション医学講座,田中信行会長のもと,第36回日本リハビリテーション医学会学術集会が鹿児島市で開催された.学会の前は雨が降り続いていたとのことであるが,学会中は好天に恵まれ,桜島の灰もほとんど降らず,南国鹿児島は初夏を思わせる暑さであった.学会は鹿児島市民文化ホールを中心に3会場で行われ,鹿児島市民文化ホールは錦江湾に面しており,窓からは煙たなびく桜島の雄大な風景がながめられた.

 今回の学会では懇親会がサンセットクルーズとして船上で行われた.私の知る限り懇親会が船上で行われたのは初めてではないだろうか.船は奄美諸島へ行く大型客船を使用し,まだ明るい午後7時に鹿児島北埠頭を出港.錦江湾を約2時間クルーズしたが,徐々に暗くなり夕闇に沈む桜島を,デッキでビール片手に眺めるのは最高の気分であった.船上では薩摩料理が振る舞われ客室やデッキで話に花が咲いた.思いのほか参加者が多かったようで料理があっという間になくなってしまったが,すばらしい懇親会であった.

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 わが国における,社会リハビリテーションの研究グループによる社会リハビリテーションの手引書である.著者らは,「社会リハビリテーションは社会生活力(Social Function Ability)を高めることを目的としたプロセスである.社会生活力とは,さまざまな社会的な状況の中で,自分のニーズを満たし,一人ひとりに可能な最も豊かな社会参加を実現する権利を行使する力を意味する.」というリハビリテーション・インターナショナルの定義を受けて,Social Function Abilityを社会生活力と,また,社会生活力を高めるためのリハビリテーションを社会リハビリテーションと呼んでいる.

 社会生活力の定義には,抽象的で難解な面もあるが,著者らの掲げたプログラムでは日常生活動作と職業リハビリテーションはあまり取り扱われていないので,それらの大部分を除いた社会生活上の技能,特に社会環境との関わり方についての知恵を意味するものと理解される.

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文献抄録

編集後記
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 ・51歳男(団塊世代),妻1,娘2,地方出身,首都圏在住.父82歳,母74歳,二人で地方に住み今のところ自立生活継続中.昨年夏,母,胃平滑筋腫手術で入院,その後の経過良好.現在,父,結腸癌手術,入院加療中.毎日の看病は主に母,週末に兄と交代で帰省,介護,現在1か月目.実家まで車で片道約2時間半―以上,よくある話,以下もよくある話―仕事は好きだが入れ込まず,それより酒が好き,旨いものを食べるのが好き.身長173cm,体重73kg,肝機能不良,尿酸値高い,境界型糖尿病,やや肥満.禁煙は努力はするが未だ止められず.映画,読書好きだが,最近は二通先生お勧めの映画も見に行く暇なし,最近読んだ本,太宰「津軽」,風太郎「柳生忍法帖」.ゴルフが好きだが痛風発作以来調子でず足遠のく.今一番したいこと,ぐっすり寝たい.結局何が言いたいの?エー,つまりっ,我々は時代の制約は免れ得ないということ.

基本情報

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総合リハビリテーション
27巻8号 (1999年8月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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