臨床泌尿器科 50巻9号 (1996年8月)

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 秋元(司会)本日は泌尿器科の第一線でご活躍の先生方にお集まりいただき,21世紀に向けて「泌尿器科の将来像」についてお話しいただきたいと思います。

 ご存じのとおり医療を取り巻く環境は非常に厳しいものがございます。泌尿器科に関しては,一般社会の高齢化の影響をまともに受けて,前立腺疾患が増えていること一つとってみても,高齢化に結びつく疾患を対象とした診断,治療を行っている現状かと思います。まず前立腺肥大症,前立腺癌の診断,治療が以前に比べてどう変わってきたかをお話しいただけたらと思います。

手術手技 日帰り手術・8

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 カルンクルとバルトリン嚢腫は,外来でしばしば遭遇する疾患で,前者は主に泌尿器科領域で,後者は主に婦人科領域で治療が行われている。いずれの疾患も日帰り手術の良い対象疾患である。前者においては,術後合併症(出血・尿道狭窄)防止と手術の簡便さを目的として,カルンクルの大きさにより手術方式を選択出来るように工夫した。後者においては,日帰り手術に適合した造袋術(marsupializa-tion)に小工夫を加えた術式を紹介した。

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 精索静脈瘤の診断に,陰嚢部シンチグラフィー,陰嚢部サーモグラフィーを使用し,その有用性について両者を比較検討した。視触診にて精索静脈瘤を認めた21例,および認めなかった7例,計28例に対し,シンチグラフィー,サーモグラフィーを施行した結果,視触診陽性症例のうち,シンチグラフィーでは79%が,サーモグラフィーでは43%が陽性を示した。視触診陰性症例においては,シンチグラフィーの29%が陽性を示し,サーモグラフィーでは全例陰性であった。両者の比較においては,シンチグラフィーのほうが優れていたが,単独では十分でなく,精索静脈瘤の診断には,いくつかの方法を併用する必要があると思われた。

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 44歳の女性。子宮内避妊器具を入れていた。発熱,腰痛,下腹部痛にて来院。右水腎を認め,精査にて,右子宮付属器腫瘤による尿管の圧迫が疑われた。尿路閉塞の解除と腫瘤の確定診断のため,右付属器摘除術および右尿管剥離術を施行した。腫瘤の病理診断は卵管卵巣炎であった。尿路閉塞の原因として,婦人科的炎症性疾患によるものも考慮に入れる必要があると思われた。

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 58歳,男性。6か月前より間欠的に持続する肉眼的血尿を主訴に当科受診。膀胱鏡にて膀胱後壁左側に拇指頭大の非乳頭状広基性腫瘍を認めた。骨盤部CT等にてT2以上と診断し,経尿道的腫瘍生検を施行した。深達度はpT3aであったが,比較的均一な円形細胞のシート状増殖が認められ,抗neuron-specific enolase(NSE)染色陽性であった。以上から,膀胱原発の小細胞癌と診断した。膀胱全摘出,化学療法,放射線療法を考慮したが患者の同意が得られず,やむなくマイトマイシンC膀胱内注入にて外来経過観察中である。

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 48歳,男性。健康診断にて便潜血陽性を指摘され精査目的で来院。精査の結果,右横行結腸癌と診断された。術前検査にて偶然右腎腫瘍を発見されたため,横行結腸切除術および右腎摘術を施行した。腎腫瘍の病理組織所見は腎細胞癌で骨形成を伴っていた。

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 67歳,女性。約20年前に子宮癌の手術と放射線治療を受けた。1990年3月より1年に1回の割合で腸閉塞,腹水貯留,急性腎不全を繰り返し内科的治療にて改善していた。1994年10月19日急性汎発性腹膜炎を発症,穿孔性腹膜炎と診断し,手術を行った。穿孔臓器は膀胱であり腹腔内への尿漏出がみられた。膀胱の他の部位では回腸が膀胱内に脱出して狭窄を起こし腸閉塞の原因となっていた。放射線性膀胱炎に伴う膀胱破裂と膀胱内への回腸脱出による腸閉塞と診断,回腸上行結腸切除術と膀胱修復術を行い治癒した。

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 症例は38歳,男性。3年4か月の不妊を主訴に来院。触診にて精巣に萎縮を認める他は正常であったが,超音波検査にて右精巣内に低エコー性腫瘤を認め,カラードプラ法では病変に一致した血流の増加を認めたため,右精巣腫瘍の診断にて高位精巣摘除術を施行。病理組織診断はライディッヒ細胞腫であった。本症例は文献上,触知できず超音波検査にて偶然発見したライディッヒ細胞腫としては本邦1例目にあたる。

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 頻尿,排尿困難を主訴とした15歳男性に7×8×10cm大の前立腺腫瘍を認めた。生検で横紋筋肉腫と診断し,IRS-IIIの治療計画に従い化学療法と放射線療法を行ったが効果がなく,膀胱前立腺全摘除術を施行し,術後化学療法を追加した。診断後12か月たった現在,転移,再発は認められていない。

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 56歳,男性。血尿,排尿痛,発熱を主訴に来院した。急性前立腺炎の診断で入院のうえイミペネム/シラスタチンの点滴を行うが効果なく,腹部CTにて肝膿瘍を合併していたことが明らかになった。超音波断層装置を用いた経皮的肝膿瘍穿刺を行うことにより解熱し,退院した。尿培養,肝膿瘍穿刺液培養ではともに肺炎桿菌が証明された。筆者らの調べうる限り,同時に両疾患が合併したものは他に報告がみられなかった。

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 52歳,男性。主訴は陰茎腫瘤。生検にて尖圭コンジローマの診断。腫瘤核出術を試みるも,尿道近傍まで浸潤があり,陰茎部分切除術を施行し,同時に腫脹した鼠径リンパ節の生検も行った。病理診断は陰茎疣贅状癌,リンパ節は反応性過形成であった。6か月の経過観察では,再発,転移の徴候はみられていない。

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 排尿困難を主訴とした61歳女性の陰唇癒着症の1例を経験した。陰唇癒着部切離形成術後,排尿困難は消失し,最大尿流率は術前の9.2ml/秒から62.2ml/秒に改善した。術後1か月間エストロゲン剤を内服し,1年後の現在まで再癒着はない。本邦成人24例の年齢分布で,陰唇癒着症は閉経後,特に老年期で増加する傾向がみられた。高齢化社会の到来に伴って,陰唇癒着症は女性排尿障害の原因として,より注意すべき疾患になると考えられた。

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 61歳,女性。右腎腫瘍の診断で血管造影を施行。検査翌日に圧迫および安静解除したところ,突然呼吸困難,ショック症状を呈し,肺血流シンチグラフィーなどにより,肺塞栓症と診断された。ただちにSwan-Ganzカテーテルを挿入し,肺動脈への選択的ウロキナーゼ投与を行い救命し得た。発症より40日後,根治的右腎摘除術を施行。病理学的診断は腎細胞癌,胞巣型,淡明細胞亜型,Gl>G2,pT2であった。

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 60歳,女性。性交時痛を主訴にて近医受診。外陰部の黒色変化を指摘され当院受診。外陰部は尿道口を中心に黒色に変化を来しており8時の方向に腫瘤を1つ認めた。膀胱鏡を施行したところ膀胱から尿道口にかけて異常を認めず。表在リンパ節は触知しなかった。尿道原発の悪性黒色腫として,尿道,子宮全摘出術,腟部分切除術,両側鼠径部リンパ節郭清術および膀胱皮膚瘻造設,有茎皮弁移植術を施行した。術後DTIC,塩酸ニムスチン,ビンクリスチンのDAV療法施行,術後11か月後再発転移を認めず経過観察中である。病理組織学的には異型性を示す紡錘形の上皮細胞が浸潤性に増生し,lentigo様を呈する外陰部原発の悪性黒色腫であった。

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 患者 23歳,女性。

 主訴 発熱,左側腹痛,頻尿排尿痛。

 既往歴 1994年12月膀胱炎。

 現病歴 1995年11月23日膀胱症状出現。その日の夜より高度の側腹痛と頻尿を合併したため,24日当科を受診した。

 初診時現症 体格・栄養状態良好。左側腹部と下腹部に圧痛あり。

 初診時一般検査所見 体温37.4℃。検尿:膿尿。C反応性蛋白4.2 mg/dl,末梢白血球9,400/mm3。その他の血液生化学的検査異常なし。

 臨床経過 抗菌剤により臨床症状は改善した。種々の画像診断により尿管瘤を伴った左完全重複腎盂尿管と診断した。1995年12月11日,全身麻酔下,右側臥位,腰部斜切開で左上半腎摘除。その後,砕石位とし,下腹部正中切開により膀胱内外に到達し,罹患尿管を全摘除した。その際尿管瘤は可及的切除にとどめた。なお,尿管瘤に伴う尿管口は,膀胱頸部のやや尿道側に開口していた。下極からの正常尿管は末端部を約2cm切除後,尿管膀胱再吻合術(Paquin法)を施行した。

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 患者 65歳,男性。

 主訴 右腎腫瘤精査。

既往歴 1984年慢性腎不全,1985年糖尿病(内服加療中),1987年より神経因性膀胱(自己導尿中)

 現病歴 1995年12月4日大腸ポリープの加療目的で当院消化器内科入院。入院後の超音波検査で右腎に腫瘤を指摘され当科紹介となり,同年12月25日当科入院となった。

 現症 理学的所見で特記すべき異常は認めなかった。

 検査所見 赤血球350×104/mm3,BUN 39.2mg/dL,クレアチニン2.18 mg/dL,24時間クレアチニンクリアランス10.OmL/分,尿沈渣:白血球100/毎視野,赤血球0/毎視野,尿細胞診:陰性。

 手術所見 1996年1月10日,右腎細胞癌の診断で右腎摘除術を施行した。摘出重量は373gで,肉眼的所見では腎実質内に4.4×3.2 cmの灰白色非乳頭状の腫瘍が認められた。病理診断では,移行上皮癌,grade 3,pT4,pLI,pV1であった。

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 近年,泌尿器科においても腹腔鏡下手術の適応疾患は拡がっている。また1996年4月より副腎摘除術・腎摘除術などが待望の保険適用となり,現在までは限られた施設で行われているに過ぎなかった腹腔鏡下手術は,今後さらに多くの施設で行われるようになると思われる。

 腹腔鏡下手術を受ける側の最大のメリットは皮膚切開線が少ないことであるが,これは手術を行う側にとっては最大のデメリットであろう。特に腹腔鏡下腎摘除術の際の後腹膜腔の展開は,左側であれば脾臓からS状結腸まで,右側でも十二指腸から回盲部まで必要である。このように広い範囲を剥離し,結腸を授動させ,尿管や精系血管などを剥離同定し,さらに場合によってはそれらを牽引しつつ手術を進めて行かねばならない。筆者らは腹腔鏡下手術を開始した当初は既存の鉗子類を用いて尿管などの組織の牽引を行っていたが,最近では各社からさまざまな牽引用の道具が発売され(エンドリトラクト™,エンドバブコック™など)重宝している。しかしこれらを使用するには新たにトロッカーを追加刺入する必要があり,皮膚切開線が少ないという腹腔鏡下手術のメリットを減ずることになると思われる。

病院めぐり

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 国立嬉野病院は前身が海軍病院で,1945年12月に厚生省に移管され発足した。発足当初から佐賀県西部の基幹病院として地域医療の中核を担ってきた。

 泌尿器科は当初,皮膚泌尿器科として1947年11月1日に開設,1968年7月から皮膚科と分離された。開設から1996年5月までの48年余の間に43人の医師が勤務し,その先輩から教授,助教授が輩出している。また1972年から医師2人となり現在に至っている。

学会印象記

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 去る5月4〜9日まで,フロリダ州オーランドで開催されたAUAに出席してまいりました。まず語学のハンディはいかんともしがたく,本当の味はわかりませんが,香りだけでもお伝えできればと筆をとった次第です。

 全体を通してみると,一般演題数は1,594題,105セッションで,臨床73セッション,基礎27セッション,その他5セッションでした。このうち32セッションが前立腺関連で1/3弱を占め,さらに発表の翌日張り出されるベストポスターの約60〜70%が前立腺を扱ったものであることより,いまだにAUAの関心は前立腺に向いていることは歴然としておりました。

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 久しぶりにAUAに出席した。5月4〜9日までの6日間,フロリダ州オレンジ郡オーランド市にある1983年に建てられた4万人の参加者でも収容できる巨大な会議場で行われたが,今回のAUA出席者は約1万5,000人であったから,使用しない部分を多く残していた。その会議場がなおも拡充中で1998年に完成とのことである。私の試算では,AUAが地元にもたらした経済効果は,円に換算して約20億円にのぼると思われる。

 さて題に「今昔」と付けたからには,比較すべき昔のことをもち出さなければならない。それはちょうど30年まえにさかのぼる。すなわち1966年のシカゴでの第61回AUA年次会議のことになる。このAUAには日本から次の人たちが参加した。アイウエオ順に敬称ぬきで当時の所属をそえて記すと,岩動孝一郎(東大,在米),市川篤二(東大),梅津隆子(東京女子医大),大川順正(阪大),大沢 炯(慶応大,在米),金沢 稔(和歌山医大),熊本悦明(東大,在米),小柳知彦(北大,在米),瀬川昭夫(名大,在米),田崎 寛(慶應大,在米),友吉唯夫(京大,在米),広瀬欽次郎(東大)の計12名である。

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 米国泌尿器科学会といえば,参加者が全世界的でその規模の大きなこと,派手な催しが多いことなど,現在のアメリカを象徴する学術イベントである。その中で学術大会の特徴の1つを挙げると学会発表と平行して行われる教育セミナーの多いことであろう。

 本年度は,教育セミナーの数だけでも96コースあり,学会前夜から最終日まで,早朝から夜半まで毎日数会場に分かれてびっしり詰っていた。日中の教育セミナーでは,1コースで30〜70ドルの受講料がかかるが,早朝セミナー(5:30-7:00a.m)や夜間セミナー(7:00-9:00p.m.)は,軽い食事や飲物まで無料サービスされ,大変魅力的なものであった。

海外事情

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 当院の前身であるKings College HospitalのGenito-Urinary Medical Unitにっいては,阪大公衆衛生学教室の新庄先生からいろいろと教わっており,新しいセンターとなった当施設を是非見たいと申し入れた。

 しかし,東京からの手紙には返事がなく,迷惑とは思ったが,ロンドンに着いてから,FAXと電話でやっとOKを頂いた。

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 臨床50巻4号,三浦 猛先生の「患者は知りたがっている」に大いに共感しました。同1号井坂・鳶巣・三浦先生の座談会,同5号三品輝男先生の御意見,癌告知について何れも勉強になりました。私は10数年来癌も患者に告げてきましたが,先生方が触れられなかった一点を追加したいと思います。

 それは情報開示と自己責任の原則です。自分の病気と治療の内容・予後を知り,どの治療を選ぶかは患者の当然の権利であり,患者はそれを求めて受診しています。わが国では徳川家康の家訓「民はよらしむべし知らしむべからず」が現在も社会を根強く支配しています。昨今次々に暴き出される官庁の体たらくの根底にはこの思想に根ざした役人達のオゴリがあります。彼らの情報隠しにイラつくのは私だけではないでしょう。民もまた彼らに依りかかり,その言うなりに従ってきたことが彼らのオゴリを助長したことは確かです。

基本情報

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臨床泌尿器科
50巻9号 (1996年8月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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