臨床眼科 74巻4号 (2020年4月)

特集 第73回日本臨床眼科学会講演集[2]

特別講演

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 平成の時代には,前眼部疾患に対する角膜形状解析,波面収差解析,生体力学解析,前眼部光干渉断層計などイメージングによる眼科検査が進歩し,前眼部疾患の本態や,その視機能に及ぼす影響への理解が進んだ。治療の原則が正しくとも,ワンパターンで治療をすると,特に術後視機能において問題が生じ,治療に対する不満の原因になることがあるが,令和の時代には個々の症例のライフスタイル,眼の特性,および前眼部イメージングの結果に基づき,屈折矯正,白内障手術,角膜移植など前眼部疾患の治療が,良質な視機能をめざした個別化医療としてより高い精度で実践されることが期待される。

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要約 目的:障害者総合支援法に基づく補装具費支給につき,対象となる視覚関連補装具の眼鏡には矯正用,遮光用,弱視用とコンタクトレンズ(CL)が規定されている。CLについては対象となるレンズの種類や1枚の価格,耐用年数とも実情に合っていないことが懸念される。そこで将来的な制度改正を目指し現状を把握するための調査を行った。

対象と方法:視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を受講修了した眼科医からなる任意参加のメーリングリストメンバー475名および補装具としてのCLを製造販売しているメーカー全6社に対しアンケート調査を行った。

結果:調査対象眼科医のうち97名(20.4%)から回答があった。このうち補装具としてのCLを処方した経験がある者は23名(23.7%)で,症例数は37例(円錐角膜10例,無虹彩症8例,その他19例)であった。課題は眼科医の認知度が低いことで,97名中72名(74.2%)が指摘した。メーカーは4社から回答があり,耐用年数の長さと,自治体ごとに対応が異なるなどの事務手続きの煩雑さが課題であるとそれぞれ3社が回答した。

結論:ロービジョンケアに馴染みがある眼科医にもCLが補装具であることが十分知られていない現状を改善し,実情に合うような制度改正に向けての対策が必要である。

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要約 目的:東邦大学医療センター佐倉病院(当院)を受診した裂孔原性網膜剝離(RRD)の発症率と年齢別分布を報告する。

対象と方法:2019年3月までの3年間に当院を受診したRRD 511例を対象とした。診療録からデータを抽出し,発症率,年齢別発症率,屈折値を検索した。黄斑円孔網膜剝離,外傷性網膜剝離,増殖性糖尿病網膜症は除外した。

結果:511例の内訳は,男性337例,女性174例であった。佐倉市の居住者は88例で,男性55例,女性33例であった。35例が2016年度,28例が2017年度,25例が2018年度に受診した。佐倉市の人口から求めた10万人ごとの発症率は,それぞれ19.78人,15.86人,14.20人であり,3年間を通算すると16.62人であった。88例の年齢分布は,50歳台を頂点とする一峰性であった。511例全体の屈折については,軽度から中等度の近視が多かった。

結論:佐倉市の居住者のRRDは,従来の報告よりも若年側にあり,50歳台にピークがある一峰性を示した。発症率そのものは,従来の報告よりも高い可能性がある。

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要約 目的:急性網膜壊死(ARN)は高率に網膜剝離(RD)をきたし,視機能不良に至る症例が多い疾患である。RDを合併した例とRDを合併しなかった例で,臨床的経過・所見にどのような差があるのか,RDの原因となる臨床的所見や素因について比較検討した。検討には2015年の診断分類における臨床診断群も加えた。

対象と方法:対象は2006年9月〜2018年12月にARNを発症し,新潟大学医歯学総合病院眼科(当科)で初診・治療された患者20例22眼。うち確定診断群18眼,臨床診断群4眼であった。これらのうちRDを発症した例(剝離例)と発症しなかった例(非剝離例)に分け,比較検討を行った。

結果:両眼発症を20例中2例に認めた。原因ウイルスは水痘・帯状疱疹ウイルス15眼,単純ヘルペスウイルス3眼,PCR陰性4眼であった。12眼にRDを生じ,10眼はRDを生じなかった。年齢は,剝離例で50.3±18.7歳,非剝離例で69.0±16.6歳と,剝離例で有意に若年の傾向を認めた(p=0.049)。剝離例は非剝離例と比較し,有意差はなかったものの,比較的病変の範囲が狭い例が多かった(p=0.106)。剝離例と非剝離例の間の視神経乳頭所見・硝子体混濁・後部硝子体剝離の差はなかった。

結論:当科では,RD例が非剝離例と比較して有意に若年の傾向を認めた。

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要約 目的:低加入度数分節眼内レンズであるレンティス®コンフォート(LC)の視力経過と術後の眼鏡必要度を検討し,LCの手術適応を考察した。

対象と方法:LC両眼挿入例(38例76眼)と,LC片眼挿入例で僚眼が単焦点眼内レンズ(Mono)挿入群(Mono群)(23例23眼)・有水晶体群(17例17眼)の視力経過・焦点深度曲線を比較検討し,これら3群における遠用から近用の眼鏡の必要度を検討した。

結果:LC両眼挿入とLC片眼挿入群の遠方視力に差はなかった。中間視力は,LC両眼挿入がLC片眼挿入より良好な結果が得られ,さらにLC両眼挿入はLC+僚眼Mono,LC+僚眼有水晶体よりも良好な結果が得られ,焦点深度曲線からみた明視域の広さも同様の結果が得られた。LCのほぼ全症例で遠方と中間距離での眼鏡は不要であった。LC両眼挿入例の79%で近用眼鏡は不要であり,LC片眼挿入例では近用眼鏡不要例は40%であった。

結論:LCは遠方から中間距離で良好な裸眼視力が獲得可能で近用眼鏡が不要となるものがあり,白内障術後の視覚改善の有効な手段である。また,僚眼がMonoあるいは有水晶体であってもLCの片眼挿入により良好な両眼視機能が獲得可能である。

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要約 目的:単焦点眼内レンズ(IOL)(VivinexTMモデルXY1:HOYA社)(XY1)と,同材料のトーリックIOL(VivinexTMトーリック,治験機器名称SP2Y-TC,XY1AT3-7:HOYA社)(XY1AT)の視力補正および乱視低減に対する有効性と安全性を評価する臨床試験を行った。

対象と方法:対象は本臨床試験に同意し,術後正視目標の白内障15例20眼(平均年齢73.7歳)で,術前平均角膜乱視は1.74Dであった。IOLはXY1ATを用い,本試験では各モデル2眼以上挿入とした。モデル選択はHOYA Toric Calculator v3.1 を使用し,CALLISTO eye®(Carl Zeiss社)で乱視軸を合わせた。主要評価項目は術後3か月の遠方裸眼視力0.8以上の割合,副次評価項目(抜粋)は裸眼および矯正視力,残余乱視,軸回転量,患者満足度,眼鏡装用状況であった。

結果:術後3か月における遠方裸眼視力0.8以上の割合は100%,裸眼/矯正logMAR視力は平均−0.02±0.08/−0.13±0.06,残余乱視は0.53±0.35Dであった。軸回転量は4.9±3.1°,患者満足度は,「非常に満足」が60%,「満足」が40%,眼鏡装用は術前に遠用を常時あるいは時々使用70%が,術後5%に軽減していた。

結論:XY1ATは角膜乱視のある白内障手術例に視力補正および乱視低減面で有効かつ安全なIOLと考えられる。

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要約 目的:眼サルコイドーシスと診断された患者の採血データを用いたクラスター解析を行い,患者集団を細分化し臨床像と比較すること。

対象と方法:過去50か月間に東京医科大学病院眼科で診断された眼サルコイドーシス患者36例を対象とした。初診時の採血データから,CH50,C反応性蛋白質(CRP),血清可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R),アンギオテンシン転換酵素(ACE)の値を用いてクラスター解析を行った。

結果:クラスター解析により患者集団は5群,すなわち,①CH50,CRP,sIL-2R,ACE高値群,②ACEのみ高値群,③CH50のみ高値群,④分類不能群,⑤基準値群に分類できた初診時視力,最終視力,眼圧,ステロイド内服の有無,手術の有無,黄斑浮腫の有無,硝子体混濁の有無,両側肺門縦隔リンパ節腫脹(BHL)の有無の比較検討で,5群間でBHLの有無の割合に有意な差があった。BHLの有無で2群に分け,採血項目との関係についての解析で,血清sIL-2R濃度と血清ACE濃度がBHLの有無と有意に関係していた。sIL-2R>838U/ml,またはACE>18.6IU/l/37℃の場合はBHLが存在する確率が高かった。

結論:採血データに基づいた階層型クラスター解析により,眼サルコイドーシスを分類することができた。本解析により,全身病であるサルコイドーシスの眼外症状,特にBHLの有無を予測できる可能性がある。

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要約 目的:補償光学眼底カメラを使用し,非緑内障眼と緑内障眼における線維柱帯の表面微細構造の違いを明らかにする。

対象と方法:対象は非緑内障6例12眼(52.2±21.6歳)と緑内障眼6例12眼(60.0±26.0歳)である。補償光学眼底カメラに前眼部光干渉断層計(OCT)用のアダプターを装着して線維柱帯を含む隅角部を前房側から撮影した。得られた画像を,線維柱帯表面の凸凹の程度を変動係数として定量化した。目的変数に線維柱帯の変動係数,説明変数には緑内障の有無,年齢,性別,眼内レンズ挿入の有無,眼圧,MD値,落屑症候群の有無の7因子を選択し,重回帰分析を行った。

結果:若年の非緑内障眼での線維柱帯表面は凸凹ひも状を呈し,高齢の緑内障眼での線維柱帯表面はほぼ平坦化する傾向を示した。高齢の非緑内障眼および若年の緑内障眼ではこれらの中間型を示した。線維柱帯の所見を定量化した変動係数は,若年非緑内障眼(凹凸ひも状)で高値,高齢緑内障眼(平板状)で低値を示した。重回帰分析では,緑内障眼(p<0.01)および年齢(p<0.01)が線維柱帯表面の凹凸度を有意に低下させる因子であることが示された。他の因子では有意差はなかった。

結論:補償光学眼底カメラに前眼部OCT用アダプターを組み合わせることにより,生体眼での隅角線維柱帯の微細表面構造を捉えることができた。緑内障では線維柱帯のメッシュワーク構造が破綻し,加齢変化と類似の病態をきたしている可能性がある。

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要約 目的:光干渉断層計(OCT)とハンフリー視野(HFA)により頭蓋内疾患が疑われた運動麻痺を伴う髄膜腫の臨床経過の報告。

症例:患者は70歳,女性。両眼視力低下を主訴として2004年8月当院を受診した。

所見と経過:初診時には眼圧はノンコンタクトトノメーターで右14mmHg,左13mmHgであった。両眼の核性白内障を認める以外,両眼とも前眼部,眼底に異常はなく,2004年10月矯正視力(以下,視力)は両眼0.8,2013年1月のHFAでは平均偏差(MD)値右眼−3.33dB左眼−2.46dBであった。視力は両眼1.0であり,現在まで視力と眼圧には著変がなかった。2018年2月頃よりふらつき感が出現し,同年3月乳頭マップにより,網膜の菲薄化と網膜視神経線維束(RNFL)欠損が認められた。同年4月,運動麻痺が出現し,HFAにてMD右−10.26dB左−8.7dB,左同名上1/4盲様の視野欠損が検出された。MRIにて右側頭葉の腫瘍と広範囲な浮腫があり,脳神経外科にて腫瘍摘出術を行い,病理診断の結果,髄膜腫であった。その後,歩行障害は改善し,同年6月に同院を退院した。2019年2月HFAによるMDは,右−1.75dB左−2.85dBと両眼とも上方に視野欠損を認めるものの,著明に改善した。

結論:RNFL欠損の検出と網膜厚の測定を目的とするOCT検査も頭蓋内視路疾患の存在診断のために有用であると思われた。

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要約 目的:新しい眼内レンズ(IOL)度数計算式であるHill-RBF式の術後屈折誤差精度について他計算式と比較した報告。

対象と方法:対象は2018年10月〜2019年7月に当診療所で白内障手術を施行した87例150眼。IOLはNS-60YG(SZ-1:NIDEK社)を使用した。角膜曲率半径,眼軸長測定と前房深度などの生体計測はIOL Master® 500(Carl Zeiss Meditec社)で測定。A定数はUser Group for Laser Interference Biometry(ULIB)のWebサイト値(119.5)を用い,Hill-RBF式(H群),SRK/T式(S群),Barett Universal Ⅱ式(BUⅡ式)(B群)に使用した。同じIOL度数における予測屈折値を各式で算出した。術後1か月に他覚屈折値を基に自覚屈折値を算出しそれぞれの予測屈折値と比較した。

結果:術後1か月における屈折値誤差平均値(絶対値平均値)は,H群0.17±0.38D(0.34±0.25D),S群−0.02±0.39D(0.31±0.23D),B群0.20±0.38D(0.35±0.25D)であった。各群間の有意差は平均値ではあったが,絶対値ではなかった(平均値p<0.001,one-way ANOVA,絶対値平均値p=0.301,クラスカル・ウォリス検定)。眼軸長別誤差平均値(H群,S群,B群)は,22mm未満でそれぞれ0.10D,−0.31D,−0.003D,22〜24.5mm未満で0.21D,0.002D,0.23D,24.5mm以上で−0.09D,−0.08D,0.01Dであった。±0.50D(±1.00D)以内に入った割合はH群76.0%(98.7%),S群79.3%(98.7%),B群74.7%(97.3%)で,各群間で有意差はなかった(±0.50D以内p=0.928,±1.0D以内p=0.993,χ2検定)。

結論:Hill-RBF式は,SRK/T式やBUⅡ式と同等の予測精度を示した。これはHill-RBF式がIOL度数計算式において術後屈折誤差が少ない有用な式であることを示す。現状の式では度数設定範囲に制限があり,今後他計算式と同様に使用するにはさらなる改良が必要である。

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要約 目的:α1A受容体遮断薬内服者の虹彩形状と,術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)出現との関連の報告。

対象と方法:新長田眼科病院で白内障手術を施行したα1A受容体遮断薬(タムスロシン塩酸塩,ナフトピジル,シロドシン)内服者20例35眼を対象とした。IFIS発症群と非発症群において,前眼部光干渉断層計(OCT)で測定した散瞳前後の瞳孔径・瞳孔括約筋厚・瞳孔散大筋厚・虹彩面積を比較した。

結果:IFISを発症したものは10例16眼であり,そのうち完全型は5例6眼,不全型は8例10眼であった。完全型はすべてシロドシン内服例であった。IFIS発症群/非発症群の散瞳前の瞳孔径は2.82/3.43mm(p<0.05),括約筋厚は0.48/0.50mm,散大筋厚は0.41/0.48mm(p<0.05),虹彩面積は2.07/2.17mm2,散瞳後の瞳孔径は5.01/6.04mm(p<0.05),括約筋厚は0.48/0.55mm,散大筋厚は0.46/0.52mm(p<0.05),虹彩面積は1.65/1.66mm2(すべて平均値)であり,散瞳前後の瞳孔径と散大筋厚に有意差があった。

結論:α1A受容体遮断薬内服者のIFIS発症率は45%で,シロドシン内服例ではIFISが好発し,重症化する傾向があった。IFIS発症は瞳孔散大筋厚が薄いこと,散瞳不良であることと有意に関連していた。IFIS発症のリスク評価に前眼部OCTが有用である可能性がある。

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要約 目的:腹臥位での全身麻酔手術後に重篤な角膜内皮障害をきたした1例の報告。

症例:50歳,女性。中頭病院(当院)整形外科にて第3胸椎の腫瘍と診断され,全身麻酔で腫瘍摘出術が施行された。手術は腹臥位で行われ,4時間23分を要し,術中は角膜保護用テープが使用された。手術当日から左眼の疼痛と充血があり,発症後2日目に当院眼科を紹介され受診となった。

所見と経過:初診時は左眼角膜下方の上皮びらんと結膜充血を認め,点眼治療を開始した。発症後15日目に角膜上皮びらんは改善したが,発症後50日目頃から左眼の充血と疼痛が再度出現したため,発症後60日目に再診となった。左眼の視力(0.4)で結膜充血と中央から下方の角膜浮腫があり,左角膜内皮細胞密度1,193個/mm2と減少を認めた。原因は手術時の消毒薬と推測し,点眼とソフトコンタクトレンズ装用による治療を行い,徐々に角膜浮腫は改善した。発症後310日目の左眼視力(0.9)で,角膜浮腫もほぼ改善したが角膜内皮細胞密度は598個/mm2に減少していた。

結論:非眼科手術後に重篤な角膜内皮障害をきたした症例を経験した。原因として消毒薬の関与が疑われた。

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要約 目的:特発性黄斑前膜(ERM)に対する硝子体手術後の再発率について白内障手術併用の有無で検討した。

対象と方法:2014〜2017年の4年間に和歌山県立医科大学附属病院で4名の術者により硝子体手術を施行し,1年以上にわたり光干渉断層計(OCT)で観察できた特発性黄斑前膜 93例93眼。同症例を白内障手術併用の有無と内境界膜剝離の有無で4群に分け,術後1年間のERMの再発率と術後最高矯正視力を比較検討した。術後に中心窩にかかるERMを認めたものを「再発」と定義した。

結果:術後1年間の再発率は白内障手術併用の有無で各群間に有意差はなかったが,内境界膜(ILM)剝離未施行群間で超音波乳化吸引術(PEA)施行群の再発率がPEA未施行群に比べて高い傾向にあった。術後最高視力は各群間で有意差はなかった。

結論:特発性ERMに対する硝子体手術における白内障手術併用で術後の黄斑前膜の再発率に有意差はなかったが,白内障手術併用ではILM剝離の有無で再発率が変わる可能性があるため注意を要する必要がある。

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要約 目的:Aggregatibacter actinomycetemcomitansに起因したと考えられる眼内炎の症例の報告。

症例:83歳,女性。左眼の疼痛と霧視を主訴に当院を紹介され受診した。3年前に大動脈弁狭窄症に対する生体弁置換術の既往があった。初診時の視力は右0.7,左10cm指数弁であった。左眼には前房蓄膿を伴う強い前房内炎症を認め,眼底は透見不能であった。血液検査では,炎症反応上昇と未指摘のHbA1c高値を認めた。血液培養よりA. actinomycetemcomitansが検出された。左眼の内因性細菌性眼内炎を疑い,メロペネムの点滴静注,バンコマイシンとセフタジジムの硝子体内注射を施行した。超音波検査で眼底に隆起性病変が出現したため,硝子体手術を施行した。硝子体混濁を除去すると,眼底に白色隆起病変を認めた。硝子体細胞診および培養は陰性であった。術後,徐々に炎症は軽快した。全身検査では,明らかな感染源は特定できなかった。その後も炎症の再燃はなく,隆起性病変は徐々に平坦化した。術後約8か月で左眼視力は0.8まで回復した。

結論:A. actinomycetemcomitansを内因性細菌性眼内炎の起因菌の1つとして考慮する必要がある。本菌は口腔内常在菌であり,内因性眼内炎の原発巣を特定できない場合,歯科領域の感染症も考慮する必要がある。

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要約 目的:β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)による涙腺導管炎が疑われた1例を報告する。

症例:41歳,女性。右眼の充血と眼脂を主訴に,数か所の眼科を受診し,複数の抗菌薬点眼を使用したが症状の改善がなく,難治性結膜炎として川崎市立多摩病院を紹介され受診した。初診時の眼脂培養検査でBLNARが検出され,薬剤感受性試験結果に基づく抗菌薬点眼を開始したが,眼脂が継続した。その後,右外眼角部結膜に排膿する瘻孔を伴う炎症性の肉芽腫性隆起病変を認め,睫毛の迷入などによる涙腺導管炎が疑われたため,結膜を切開し,内容物の搔爬を行った。内容物は黄色調の粥状物が排出され,睫毛などの異物はなかった。病理像はわずかに炎症細胞を認めたが,大部分は硝子様物質で,細菌培養検査は陰性であった。術後は外眼角部に肉芽組織が残存したが,眼脂は速やかに改善し,再発はなかった。

結論:涙腺導管開口部から侵入したBLNARによる涙腺導管炎と,結膜下膿瘍形成の可能性が疑われた。診断は細菌培養検査や薬剤感受性試験が有用で,これに基づく適正な抗菌薬使用が重要であるが,薬物治療で完治しない際は手術を検討する必要がある。

連載 Clinical Challenge・1【新連載】

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症例

患者:72歳,女性

主訴:左眼瞼瘙痒感

既往歴:腎機能障害,花粉症,カニアレルギー

家族歴:弟も緑内障

現病歴:2年前から,緑内障の治療のために近医を通院している。1か月前から左眼瞼の瘙痒感が続いているが,いっこうに改善しないため,当院を紹介され受診した。

連載 眼炎症外来の事件簿・Case20

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患者:20代,男性

主訴:左眼の下方視野欠損

既往歴:毛包炎,ミノサイクリン塩酸塩アレルギー

家族歴:特記事項なし

現病歴:毛包炎で神戸大学医学部附属病院(以下,当院)皮膚科で加療中であったが,3日前より突然左眼の下方が見えにくくなり眼科を受診した。以前から頭痛と眼痛が定期的に出現していた。3か月前から腸炎(詳細不明)を繰り返していた。

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要約 目的:近年,わが国におけるトキソプラズマ網脈絡膜炎の多数例での報告は少ない。近年のわが国における活動性のトキソプラズマ網脈絡膜炎の臨床像を明らかにすることを目的として検討を行った。

対象と方法:2000年1月〜2019年3月に東京大学医学部附属病院眼科を受診し活動性のトキソプラズマ網脈絡膜炎と診断された患者13例14眼について,鬼木の分類に従って先天性・後天性に分類し,臨床像を検討した。

結果:片眼例が12例,両眼例が1例であった。黄斑部病変が7眼,周辺部病変が7眼にみられた。先天性トキソプラズマ症は2例2眼で,平均発症年齢は17.5歳,2眼とも黄斑部病変であった。後天性症例は8例9眼で平均発症年齢は44.9歳,黄斑部病変4眼,周辺部病変5眼であった。不明例は3例3眼で平均発症年齢は61.0歳,3例とも周辺部病変であった。全例でアセチルスピラマイシン投与が行われ,7例でプレドニゾロン内服が併用された。経過中に再燃が4例でみられ,黄斑部型症例が3例,周辺部型症例が1例であった。

結論:近年のトキソプラズマ網膜症は両眼性が少なく,先天性より後天性症例が多く,後天性症例で周辺型が半分以上を占めた。アセチルスピラマイシン治療は,安全で多くの症例で有効であった。

今月の表紙

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 患者は68歳,男性。孫が投げた玩具で左眼を打撲した。近医を受診して虹彩離断の診断で北里大学病院眼科へ紹介され受診となった。

 初診時の左眼視力は,0.06(1.0×−4.24D()cyl−0.50D 160°),眼圧は21.0mmHgであった。角膜・結膜の裂傷はなく水晶体混濁もなかったが,前房出血が認められ,虹彩が2時部から4時部にかけて離断して瞳孔がやや偏位していた。

海外留学 不安とFUN・第52回

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研究生活について

 今回は研究生活についてご紹介します。

 私が所属する研究室は,ボスと,シニア研究員,ポスドク・博士・修士課程の学生,実験助手に加え,企業からの研究員を含め,総勢20名ほどが在籍しています。主な研究内容は,網膜を含めた中枢神経疾患や癌における老化や炎症,脂質・糖代謝の役割を研究しているラボです。私は主に免疫異常や代謝異常と網膜疾患のかかわりについての研究を行っています。

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 欧米では蛍光眼底造影写真だけを見て,その所見をこと細かに読んでいく「読影」という作業が古くから行われてきました。得られた所見を元に鑑別診断を挙げ,診断を行い,治療法を決めていくわけです。日本では,加齢黄斑変性が急増した時期とインドシアニングリーン蛍光眼底造影・光干渉断層計(OCT)が普及した時期とが重なったため,昨今,重視されているmultimodal imagingが早い段階から行われてきました。そのため,得られた検査画像をトータルで判断することが行われがちであり,個々の画像をじっくり「読影」する文化が根付いてきませんでした。評者もフルオレセイン蛍光眼底造影画像を見ている最中に,OCTの画像でカンニングするということをつい行ってしまいます。

 蛍光眼底造影は網膜疾患診療の基本ですが,「読影」のスキルアップはなかなか難しいといえます。その理由に造影検査画像には典型例が少なく,多くの所見の集合体であることをまず挙げることができるでしょう。さらに,造影開始から画像は刻々と変化するため,所見を得るためには見るべき画像を選び,その変化も考慮する必要があります。また,近年急速に普及しているOCT angiographyには特有のアーチファクトがあります。「読影」スキルアップのための最初のステップはエキスパートの「読影」を聞いて,それぞれの所見の読み方,着目するべき箇所を理解することです。その上で,自分で行った「読影」をエキスパートの前で披露し,批評してもらうことでステップアップが望めますが,そのような恵まれた環境にいる人ばかりではありません。

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 『Surgical Approaches to the Facial Skeleton』は,1995年の初版刊行以来,米国で頭蓋顎顔面外科を修める医師にとって教科書的な本となっている。本書は,その第3版(Wolters Kluwer, 2018)の日本語版である。本書の特徴は,解剖学に加え技術的要素を詳細に解説し,手術アプローチ法に特化している点である。きれいな良い手術は的確なアプローチから成り立つものであり,1つのアプローチ法しか知らないと対処できる部位は狭められ無理をした手術となってしまう。例えば耳鼻咽喉科医である私は,眼窩底骨折へのアプローチは内視鏡による経鼻内法もしくは経上顎洞法が主であった。しかし本書第2部に記載されている経眼窩法を行うと,驚くほど眼窩底骨折前方の処置が簡単であった。眼窩底後方の骨折に対しては内視鏡下経鼻内法のほうが処置しやすいが,前方に対しては経眼窩法のほうが格段に容易である。病変部位によってアプローチ法を変えることの重要性が実感できる。

 顔面骨格の手術においては,切開する際に顔の審美性,表情筋とその神経支配,感覚神経の走行を考慮しなければならない。そのため病変部位に対するアプローチ法は,引き出しが多いほうが良い。その点,本書はそれぞれの長所と短所を列挙し,ある特定のアプローチ法を推奨しているわけではない。各アプローチ法の長所と短所を理解した上で選択できれば,対処できる部位の幅が広がり,治癒率の向上につながる。そのため本書を頭蓋顎顔面領域の手術に携わるすべての外科医にお薦めする。本書を読めば,顔面骨格のあらゆる箇所に自信を持ってアプローチできるようになり,外科医としてランクアップするであろう。

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目次

欧文目次

第38回眼科写真展 作品募集

べらどんな 細隙灯顕微鏡
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 眼科学の歴史で最も大きな出来事は,1850年のヘルムホルツ(Hermann Ludwig Ferdinand von Helmholtz)による検眼鏡の発明である。眼底が見えるようになったことで,眼科学が外科学から独立することにもなった。

 第2の大きな出来事はとなると,意見が分かれようが,私見としては,細隙灯顕微鏡の発明がこれに相当するのではと思いたい。時期は第一次世界大戦が終わった1920年頃である。

学会・研究会 ご案内

希望掲載欄

アンケート用紙

次号予告

あとがき 稲谷 大
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 この「あとがき」を執筆している2月末の段階では,新型コロナウイルス肺炎の感染者が世界中で出始めており,中国のアモイで4月に開催されるはずだったAPAOが8月まで延期になることが決定されたり,6月までに感染が収束しない場合には,東京オリンピックが延期されるという情報も入ってきました。また,メーカー共催の地方会の勉強会がキャンセルになったり,小さなイベントや10名程度の会議まで中止になるなど,私たちの身の回りにも影響が及んできています。2009年の新型インフルエンザの流行の時もそうでしたが,たかが風邪のウイルスなのに過剰反応し過ぎではないかと私には思えてなりません。私は特に行動を制限したりするつもりはなかったのですが,海外に渡航したりすると,過剰な規則や対応に巻き込まれるリスクも出てきているので,5月のARVOの参加をどうすべきかちょっと悩んでいます。

 前置きが長くなりましたが,今月号は,第73回日本臨床眼科学会での前田直之先生の特別講演の総説が掲載されています。前眼部イメージング装置の登場で,高いレベルでの視機能改善が実現できる時代になったことが改めて実感できる読み応えのある大作です。また,今回から始まった「Clinical Challenge」は,専門医試験にも役立つちょっとした頭の体操になる連載です。ぜひ読んでいただければ幸いです。

基本情報

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臨床眼科
74巻4号 (2020年4月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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