医薬ジャーナル 54巻8号 (2018年8月)

特集 免疫チェックポイント療法の新潮流

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 免疫チェックポイント阻害薬の急速な臨床導入に伴い,癌薬物療法において「免疫治療」という言葉がにわかにクローズアップされている。日本臨床腫瘍学会による「がん免疫療法ガイドライン」は,免疫療法について本邦の学会による初めてのガイドラインであり,癌薬物療法に携わる医療者にとって「正しい,科学的裏づけのある免疫療法とは何か,その適切な管理はどのように行うべきか」を示している。続々と創出される新規エビデンスと適応拡大の状況を受けて,現在改訂作業も進んでおり,本稿ではこれらについて概説する。

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 免疫チェックポイント分子PD-1(programmed cell death 1)は活性化したT細胞に発現する免疫抑制受容体で,生理的なリガンド(PD-L1〔PD-1 ligand 1〕およびPD-L2)が結合すると,T細胞の増殖やエフェクター機能を抑制する。がんはこの抑制機構を利用して,宿主の免疫監視から逃れている。PD-1は1992年に京都大学の本庶研究室で発見され,動物モデルにおいてPD-1阻害剤が原発性腫瘍および転移性腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すことから,完全ヒト型PD-1抗体ニボルマブが開発された。ニボルマブは2014年に世界に先駆けて本邦で悪性黒色腫の治療薬として承認され,現在さまざまな種類のがんへ適応が拡大しつつある。本稿ではPD-1の機能解明からPD-1抗体の開発に至る経緯と,PD-1阻害剤の特徴について概説する。

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 抗PD-1(プログラム細胞死-1)抗体KEYTRUDA ®(ペムブロリズマブ)の臨床開発は,2011年4月に米国で悪性黒色腫を含む進行性固形がん患者を対象に開始された。本邦では2016年9月に悪性黒色腫の適応,2016年12月にはPD-L1(プログラム細胞死リガンド1)陽性の非小細胞肺癌の適応で承認を取得,初回治療(PD-L1発現率50%以上),二次治療(PD-L1発現率1%以上)のいずれの非小細胞肺癌でも使用が可能となった。2017年11月には古典的ホジキンリンパ腫,同年12月には尿路上皮癌の適応拡大が承認された。現在,ペムブロリズマブは米国を含む80カ国以上で承認を取得しており,世界では700以上の臨床試験において30種類以上のがんを対象にペムブロリズマブ単独療法のみならず,化学療法,分子標的薬,がん免疫療法薬との併用療法の安全性および有効性に関する検討が行われている。

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 免疫チェックポイント阻害薬として,抗PD-1(programmed cell death 1)抗体であるニボルマブやペムブロリズマブが悪性黒色腫,非小細胞肺がんなどを中心に効果が証明された。さらにPD-1のリガンドであるPD-L1を標的にした抗PD-L1抗体であるアベルマブ,アテゾリズマブ,durvalumabも臨床の現場に登場してきている。抗PD-1抗体との違いとして,共刺激分子であるCD28シグナルの活性化の違いやPD-L2を阻害しないことによる違いなどが想定されているが,臨床効果としては抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体とで,そこまで大きな差があるようなデータは示されていない。今後,臨床の現場で使用され,さまざまな知見が蓄積することで症例ごとに使い分けの進むことが期待されている。

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 現在,免疫チェックポイント阻害薬の臨床開発は成功を収め適応の拡大が進んでいるが,単剤のみで臨床効果を認める患者は一部に限られる。また,薬剤費も高額であることから,効果予測バイオマーカーの開発が重要な課題となっている。先行して開発されているコンパニオン診断薬として,免疫組織染色による腫瘍組織でのPD-L1(programmedcell death ligand 1)の発現がある。だが,PD-L1の発現は腫瘍微小環境の影響を受け発現が変化する動的なマーカーであり,バイオマーカーとしては一部のがん腫にしか適応できない。

 現在,腫瘍微小環境,末梢血を中心に,各種免疫解析および遺伝子解析手法をもって,さまざまなアプローチでバイオマーカーの探索研究が行われている。空間的・時間的および動的に変化して複雑なネットワークを形成するがんと宿主免疫系を,単一のバイオマーカーで治療効果を予測することは困難であると考えられる。将来的には,腫瘍の性質や介入する治療法に応じて複数のバイオマーカーを組み合わせたスコアリング評価が必要となるかもしれない。

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 2018年6月現在,免疫チェックポイント阻害薬のうち肺がん治療において保険承認されているものは,4期非小細胞肺癌に対するニボルマブ,ペムブロリズマブ,アテゾリズマブおよび3期非小細胞肺癌に対するデュルバルマブである。一次治療での適応は,4期非小細胞肺癌においてPD-L1(programmed death-ligand 1)発現割合が50%以上の症例に対するペムブロリズマブ単剤療法のみである。EGFR/ALK 遺伝子変異などドライバー変異を持つ症例では,チロシンキナーゼ阻害薬など分子標的治療薬の使用が免疫チェックポイント阻害薬より優先される。今後,本邦においても,細胞障害性抗癌剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用が標準一次治療として導入されることが予想される。

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 消化管癌領域における免疫チェックポイント阻害薬の有効性について,近年さまざまな臨床試験が進行している。切除不能・再発胃癌に対してニボルマブが承認されたほか,胆道癌,膵癌では第II相臨床試験が,食道癌,肝細胞癌では第III相臨床試験が現在進行中である。単剤治療だけでなく,従来の殺細胞性抗癌剤との併用についても検証が進んでおり,今後既存の治療は大きく変革することが期待される。しかし各癌腫において,免疫チェックポイント阻害薬の有効例が限定的であることも分かっており,奏効例の特徴について明らかにする必要がある。

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 進行腎細胞癌の生存期間は2008年から導入された分子標的薬で延長したが,全生存期間は概ね40カ月であり,さらなる改善が期待されていた。腎細胞癌に適応となった抗PD-1(programmed cell death-1)抗体ニボルマブは,分子標的薬による血管新生阻害治療抵抗性となった症例で有用であり,長期の腫瘍コントロールの期待できる症例もある。ただし,奏効する症例は30%程度にとどまり,さらなる効果の増強のために併用療法が試みられている。CheckMate214試験では1次治療としてスニチニブとニボルマブとイピリムマブの併用療法を比較するランダム化試験が行われた。この結果,IMDC(International mRCC Database Consortium)リスク分類で中間,高リスク群では併用療法群が有意に高い奏効率,全生存期間を示し,新たな標準治療となることが期待される。

 進行性尿路上皮癌(膀胱癌)に対する治療はシスプラチンやカルボプラチン,ゲムシタビンを用いた多剤併用化学療法であったが,その予後は30年以上改善されておらず,新たな治療法の登場が期待されていた。尿路上皮癌は,悪性黒色腫や非小細胞肺癌と並んで遺伝子変異の頻度が高く,また,上皮内癌にはBCGの膀胱内注入療法が有用であるなど,免疫療法への高い感受性が想定されていた。アテゾリズマブやニボルマブ,ペムブロリズマブ,アベルマブ,durvalumabが主に第II相臨床試験の結果,有用性が示され,米国食品医薬品局(FDA)では尿路上皮癌に対して認可されており,日本でも開発が進んでいる。

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 抗体医薬品の消失過程では肝代謝や腎排泄は関与しておらず,これらを介した薬物動態学的相互作用や臓器機能に応じた投与量調節は基本的に考慮する必要はない。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)により引き起こされる免疫関連有害事象(irAE)は,全身のあらゆる臓器,組織に起こり得る自己免疫疾患様の副作用であり,irAEを早期に発見し適切な治療を開始するには,患者教育や医療者の教育をはじめ多職種連携や診療科間の密接な連携が重要である。今後,さらにICIの使用症例は増えてくると考えられ,irAEのマネジメント体制を整備することが求められる。

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 免疫チェックポイント阻害薬,特にオプジーボ®の登場により,高額薬剤の財政状況への影響その他を考慮して効率的な医療システムを維持していく方法を考える方向へ世論が転換したことの意義は大きい。  オプジーボ®の効率性・費用対効果については,諸外国でも検討されている。「日本の5分の1の価格」と話題になった英国では,当初は「費用対効果が悪く,公的医療制度での給付対象外」とされた。その後さまざまな条件を付与することで,最終的に患者を絞り込んで給付が認められている。  日本でも,費用対効果の政策応用の動きが進む。当面は価格調整のみだが,いずれ給付の可否も含めた議論が起こることであろう。諸外国のように,費用対効果以外の要素についても十分に議論を尽くす機会を設けることが重要である。

連載 薬剤師が知っておくべき 臓器別画像解析の基礎知識 92

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 顎顔面外傷は,軟組織損傷,顔面骨骨折,歯,歯槽骨の損傷に分類される。受診直後の患者に対し,受傷範囲を的確に診断し,処置を行わなければならない。特に顎顔面領域における多発外傷の場合は,隣接部位の専門科と複雑に領域を接しており,常に専門医と連携を図る必要がある。本稿では,代表的な顎骨骨折,歯槽骨骨折および歯の損傷の画像診断について解説する。

連載 感染症診断と病理

腫瘍ウイルスを証明する(2) 堤寬
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 発癌メカニズムには,ウイルス発癌と化学発癌が知られている。ともに動物実験で証明されたが,ヒトでもウイルス感染が腫瘍化をもたらす場合は少なくない。前回に引き続き,腫瘍組織の中に組織・細胞化学的に可視化される腫瘍ウイルスのうち,ヒトヘルペスウイルス8型,メルケル細胞ポリオーマウイルス,B型・C型肝炎ウイルス,ヒトT細胞白血病ウイルスを例示する。巻頭図として,腎移植後に発生した腎盂癌(尿路上皮癌)の尿細胞診検体の異型細胞にみいだされたBKウイルスを示す。

連載 臨床薬学のための病態生理(7)

連載 臨床薬学のための病態生理(8)

連載 患者のQOL向上と薬剤師の関わりPART II .服薬指導と病棟活動(125)

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 静脈栄養は医薬品を使用した栄養管理であり,薬剤師が主体的に関わることで,より充実した管理が可能となる。静脈栄養は各種栄養素の有無やその量だけでなく,投与速度,投与経路など,適正使用のための確認事項は経口および経腸栄養に比べて多い。また症例によっては,キット製剤であっても単一製剤で栄養学的に適切な処方とすることは難しく,種々の製剤を追加して処方設計することが必要となる。さらに在宅中心静脈栄養へ移行する場合は,退院後に使用する医療材料の確認も必要となる。

 本稿では,静脈栄養の知識を病棟薬剤業務において活用することにより,処方提案や円滑な在宅中心静脈栄養につなげることができた症例から,薬剤師が病棟でできる栄養管理の一端を紹介する。

連載 ●副作用・薬物相互作用トレンドチェック

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〔今月の注目論文のポイント〕 1.文献調査によるメタアナリシスにおいて,抗PD-1(programmed cell death 1)薬および抗PD-L1(programmed death-ligand 1)薬による組織特異的免疫関連有害事象は稀であるものの,化学療法などと比較してそのリスクが高いことが報告されている。 2.英国の医療情報データベースを用いたコホート研究において,高齢者の尿路感染症にトリメトプリムを用いた場合,急性腎障害や高カリウム血症のリスクが上昇することが示唆され,特にレニン・アンジオテンシン系阻害薬やスピロノラクトンを併用している場合にリスクが高かったことが報告されている。 3.薬物動態学的モデル解析を用いた予測において,腎機能障害患者がベラパミルを併用する際には,出血リスクを抑えるためにリバーロキサバンの減量が必要であることが報告されている。 4.健康成人を対象とした試験において,ジルチアゼム併用によりタムスロシンの血漿中濃度が上昇し,特にCYP2D6 機能低下型群でのジルチアゼム併用時には,CYP2D6 野生型群での単独投与時と比較して顕著な上昇が認められたことが報告されている。 5.英国の医療情報データベースを用いた症例対照研究において,脊椎関節炎患者ではジクロフェナクにより心筋梗塞のリスクが上昇することが示唆され,変形性関節症患者よりも顕著であったことが報告されている。

6.米国の医療情報データベースを用いたコホート研究において,女性,高齢,慢性腎疾患の併存,初期用量100mg/日以上がアロプリノールによる重篤な皮膚有害反応のリスク因子であったことが報告されている。

連載 医薬品情報(DI)室より 注目の新薬情報〈31〉

ゾフルーザ錠10mg,同20mg 畑こず恵
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◆製剤の特徴  「ゾフルーザ錠10mg,同20mg(バロキサビル マルボキシル)」(以下,本剤)は,新しい作用機序を有する抗インフルエンザウイルス剤である。プロドラッグである本剤は,小腸,血液および肝臓で加水分解されて活性体となり,インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し,ウイルスのmRNA合成を阻害することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制する。A型およびB型インフルエンザウイルス感染症患者に対して48時間以内に単回経口投与することで症状消失期間の短縮が期待できる薬剤である。臨床試験は6カ月以上65歳未満の患者を対象に行われており,小児に対しても使用できる。  2015年に先駆け審査指定制度の対象品目に指定され,2018年3月に発売された。なお,現時点で予防投与の適応はない。

連載 医薬ジャーナル 編集長VISITING(417)

医薬ジャーナル論壇

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 高齢の入院患者が意思決定能力を失ってしまった時,どのようにして人としての尊厳が保持され,末期への望みが理解されるのであろうか。そのための参考資料として有用とされるのが,事前指示書と呼ばれる患者の事前意思表示書類である。わが国では法的に有効とはされていないが,米国をはじめ海外では,事前指示書に関わる法制度の整備が進んでいる。この指示書の機能と問題点について,オーストラリアの医師グループによる「事前ケア計画」モデルを用いた無作為対照比較試験の報告(有用性)事例を手掛かりに,検証・考察した。そして,事前指示書だけでは処しきれない末期の処置とケアの問題,避けては通れぬ生と死をめぐる倫理,葛藤・ジレンマといった問題にも実証的に向き合ってみた。「事前ケア計画」は,例えば患者アンケートなどによって「出来上がってしまった完全な記録」ではなく,常に「際限のない進行過程」にある。その意味では「万能」ではないということだ。コストとアウトカム(質)をめぐる議論も,また悩ましき課題として残ってくる。

メディカルトレンド 学会・ニュース・トピックス

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 第21回日本医薬品情報学会総会・学術大会が6月30日~7月1日,三重県鈴鹿市の鈴鹿医療科学大学白子キャンパスで開催された。大会テーマは「多様化する医療ニーズに応える医薬品情報」,大会長は三重大学医学部附属病院教授/薬剤部長・奥田真弘氏。近年,飛躍的に拡大しているチーム医療において,薬物療法の専門家である薬剤師の果たす役割が注目されている。チーム医療の中で,薬剤師が副作用モニタリングや,医師への処方提案を行う機会も増えており,個々の患者に対応するきめ細やかな医薬品の情報提供は,ますます重要となる。

 日本医薬品情報学会は,1998年に研究会として発足し,2002年の学会への改組を経て現在に至る。会員は,医療従事者,大学関係者,製薬や医薬品流通関連の企業人,行政担当者など,医薬品情報学に関心を持つさまざまな立場の人で構成されている。同学会では,年1回の総会・学術大会や,年4回のJASDI(Japanese Society of Drug Informatics)フォーラムなどを通して,医薬品情報学に関する教育・研究の向上を図っている。

 本大会では,六年制薬学教育・薬剤師の抱える課題について特別講演が行われるほか,「医薬品情報をキーワードとした地域薬薬連携」,「有害事象自発報告データベースの薬剤疫学研究への活用法とその注意点」などをテーマに多彩なシンポジウムが催され,活発な討論が行われた。

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 大阪赤十字病院では,患者への安心・安全な入院医療の提供と,退院後の療養生活のサポートを目的に,2015年4月に「入院前サポートセンター」を開設した。同センターでは薬剤師外来を置き,手術や検査前の患者を対象に,抗血栓薬を中心とした常用薬,サプリメントおよび健康食品の服用状況を確認している。

 今回,薬剤師外来開設前後の,薬剤を原因とする手術延期症例の変化を検討した。結果は,薬剤を原因とする手術延期症例が減少した。薬剤師が介入することで,高齢者や多剤併用を有するハイリスク患者へ安心・安全な医療の提供を可能にするだけではなく,医師の負担を軽減し,更には計画的な手術運営に貢献できると考える。

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 厚生労働省の発表によると,平成28年(2016年)度診療報酬改定により「重症度,医療・看護必要度」の基準を満たす患者割合は25%以上に引き上げられ,DPC(包括支払方式)病院では報告項目に,重症度,医療・看護必要度(Hファイル)があげられている。直接,専門的に関わった各職種が,患者の重症度,医療・看護必要度の評価を確認することで,より精度の高い報告が可能となる。堺市立総合医療センターでは,これに伴い多職種協働(医師,薬剤師,看護師,理学療法士,診療情報管理士)により,「重症度,医療・看護必要度」を評価管理する体制を構築した。

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2018年9月号特集内容予告

基本情報

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医薬ジャーナル
54巻8号 (2018年8月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0287-4741 医薬ジャーナル社

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