医薬ジャーナル論壇
終末期の尊厳保持:「事前計画書」の機能とジレンマ
沼田稔
1
1医薬ジャーナル社代表取締役会長(本誌論説主幹)
pp.1779-1787
発行日 2018年8月1日
Published Date 2018/8/1
DOI https://doi.org/10.20837/12018081779
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高齢の入院患者が意思決定能力を失ってしまった時,どのようにして人としての尊厳が保持され,末期への望みが理解されるのであろうか。そのための参考資料として有用とされるのが,事前指示書と呼ばれる患者の事前意思表示書類である。わが国では法的に有効とはされていないが,米国をはじめ海外では,事前指示書に関わる法制度の整備が進んでいる。この指示書の機能と問題点について,オーストラリアの医師グループによる「事前ケア計画」モデルを用いた無作為対照比較試験の報告(有用性)事例を手掛かりに,検証・考察した。そして,事前指示書だけでは処しきれない末期の処置とケアの問題,避けては通れぬ生と死をめぐる倫理,葛藤・ジレンマといった問題にも実証的に向き合ってみた。「事前ケア計画」は,例えば患者アンケートなどによって「出来上がってしまった完全な記録」ではなく,常に「際限のない進行過程」にある。その意味では「万能」ではないということだ。コストとアウトカム(質)をめぐる議論も,また悩ましき課題として残ってくる。