看護教育 62巻3号 (2021年3月)

特集 災害看護教育の現在

東日本大震災から10年を経て

  • 文献概要を表示

地震・津波の自然災害と原子力発電所事故が重なった未曽有の大災害から10年が経とうとしています。この間にも全国で大規模な地震や水害が発生し、日本にいる限り、災害と無縁な看護職はいないといえるでしょう。一方で、看護の基礎教育・臨床教育における災害看護の割合は、けっして大きいとはいえません。少ない時間のなかで効果的・効率的な学習ができるよう、教育現場の先生方は工夫をされています。

災害看護の教育内容は、被災とその支援からの教訓をふまえて徐々に変わってきています。今回の特集では、看護職の災害へのかかわり方、そしてさまざまな場で行われている災害看護教育について取り上げます。オンラインでのシミュレーション教育など、これからの教育現場で可能な指導方法についても考えたいと思います。

  • 文献概要を表示

 東日本大震災からもうすぐ10年を迎える。この間でもわが国においては大規模な災害が発生しており、災害によってもたらされるさまざまな状況は、健康問題の発生や長期化に直結している。

 東日本大震災では、震災関連死を含め2万人以上が死亡・行方不明者となり1)過去最大級の被害を受けた。多くの悲しみにさいなまれ、さらに生活環境の変化による抑うつ・不安、身体活動性の低下、慢性疾患の悪化などの健康被害が発生し、産業・生活区域の喪失など社会的要因はさらなる健康状態の悪化をきたした。震災後の健康状態を保つには、個々の状況を把握しつつ、自己管理教育を行っていくことが求められるが、震災後のさまざまな生活要因が複雑に絡み合うため、状態把握を困難としている状況があった。

  • 文献概要を表示

はじめに

 2011(平成23)年の東日本大震災から10年が経過します。

 被災当時、私は石巻赤十字病院(以下、設置病院)の教育師長として、新人看護師教育などに携わっていました。一方、北上川河口から数百メートルのところにあった石巻赤十字看護専門学校(以下、本校)は津波で壊滅状態となっていました。その再建のため、私は2012(平成24)年3月に本校に異動することとなり、4月から教務主任を務め、2017(平成29)年4月から副学校長となり現在に至ります。本校が東日本大震災を経験してから3人目の副学校長です。

 私は震災直後の医療現場と復興をめざす教育現場の両方を経験した少し特殊な立場にあります。この間、教職員の震災体験談を直に耳にし、また設置病院内外の看護師等の被災体験を聞く機会を設け、体験からの学びと課題を今後の学校運営にどう生かし、後世にも伝えていくかという命題に取り組んできました。被災した学校として、明日にも再来するかもしれない災害に対応できる学校を早くつくらねばと焦るあまり、私とは決定的に違う体験をもつ教職員の気持ちに寄り添えない失敗もしました。災害看護としての従来の考え方では、災害に立ち向かえない現実も思い知らされました。

 凄惨な現場で傷ついたこころは、時間が経てば癒えるものでもありません。この10年の節目に、そのような気持ちに対峙しながら、震災経験を生かし、同規模あるいはそれ以上の災害に備えることをめざした本校の災害看護教育を振り返ってみたいと思います。

  • 文献概要を表示

災害看護研修プログラムへの参加

 私は、小学5年生の時に東日本大震災を経験しました。当時の私はあれほど大規模な災害が起こるとは思ってもみなかったため、災害への備えを一切していませんでした。そのため、地震の直後は食料や飲み物など、生きるために必要なものがなく、大変苦労したことを今でも覚えています。震災後は、家族で話し合いながら非常用持出袋を作成しました。この経験から、「自分の身近な人にも、自分の命と大切な人の命を守り抜くために、災害への備えについて考えてほしい」という思いをもつようになりました。

 この思いを実現するためには、自分が災害への備えについて学び、その学びを人々に伝え、支援をできる力が必要であると考え、専門学校2年生のときに「TOMODACHI J&J災害看護研修プログラム」に参加しました。このプログラムは、東日本大震災後の日本の復興支援から生まれた、米日カウンシルと在日米国大使館が主導する官民パートナーシップ「TOMODACHIイニシアチブ」のリーダーシッププログラムの1つです。災害看護における知識や技能の深化と次世代を担うリーダーシップの育成を目的とし、米国研修や学びを周囲に還元するアクティビティの企画・運営などが含まれる研修を約7か月間行います。

  • 文献概要を表示

 日本は、毎年自然災害に見舞われてきました。1995年の阪神・淡路大震災から四半世紀が経過し、2009年に看護基礎教育へ災害看護が導入されてから13年目を迎えようとしています。2019年に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、いまなお世界に甚大な被害をもたらしています。日本災害看護学会はCOVID-19を大規模災害として位置づけており、災害看護はますます身近で重要な分野となりました。すべての医療職が学び、身につけておかなければならない知識や技術などを、見直す時期が来たと考えます。

 本稿では、阪神・淡路大震災以降に発生した災害の歴史を概観し、災害看護教育への影響を整理し、展望について述べていきます。

  • 文献概要を表示

 2020年度はCOVID-19感染拡大に伴って、対面授業からオンライン授業に変更を余儀なくされた教育機関が多くあると思います。京都橘大学看護学部(以下、本学)においても、前期はすべてオンライン授業となりました。今回は、私が担当する災害看護学Ⅱで展開している「トリアージシミュレーション」「避難所運営シミュレーション」をどのようにオンラインで実施したか、試行錯誤した苦労話を一部紹介させていただきます。

  • 文献概要を表示

はじめに

 2009年1月15日、アメリカのニューヨーク市で発生した航空機事故を覚えているだろうか。マンハッタン上空850mにて、バードストライクによりエンジントラブルを起こしたUSエアウェイズ1549便が、ハドソン川に不時着水したにもかかわらず、乗客乗員全員が無事に生還した事故であり、後に「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、映画にもなった事故である。この機体の機長であるチェスリー・サレンバーガー氏は、事故後、このような言葉を残している。「一生に一度経験するかしないかの出来事かもしれないが、そのときに対応できるかが大切。“シミュレーション”を行っていれば誰でもできる。私は常に、緊急事態におかれた自分を想像していた。私は全員の命を救う自信があった。私は、やるべきことをやったまでだ。訓練を怠らないこと、乗客を守ること、すべてはパイロットの義務である」と。

 筆者は、この言葉を知ったとき、看護師も、パイロットとは対応する事象は違えど、緊急事態に遭遇する可能性がある職種だと強く自覚したのを覚えている。看護師も、一般にはまれではあるが、対応の難度が高く、かつ、遭遇した際にあわてない冷静さと正確で迅速な対応が求められる事象に遭遇する職種である。看護教育においては、その事象の状況を適切に判断し対応する能力をはぐくむことが重要となってくる。では、どのような教育がこの対応力をはぐくむのだろうか。本稿では、メディカルラリーをとおして、緊急事態に気づく力やアセスメント力、臨床判断力をはぐくむシミュレーション教育について考えてみたい。

  • 文献概要を表示

はじめに

 新型コロナウイルス感染症パンデミックという災害下において医療従事者の不足を補うために潜在看護師に協力が呼びかけられ、ほどなくして大学の看護教員や大学院生へも協力の要請があった。「看護師等の人材確保の促進に関する法律」の目的の1つに、現在保健・医療の現場で看護実践をしていない潜在看護職者の再就業促進があるが、この意味で看護教育者も潜在看護職者である。医療現場から離れている看護職免許保有者が災害時には大きな力となることを、あらためて認識することとなった。

 筆者らは2015年より、災害時に潜在看護職者の力を活用する取り組みを知多半島地域において展開している。知多半島は南海トラフ巨大地震による被害想定地域である。広域にわたる大規模災害時には、被災地域外からの装備を整えた救助者が早期から被災地域全域で救助活動を展開することは難しく、救助者の到着に数日から数週間を要する地域もあると推測されている。その間、地域の行政、消防、医療、福祉の各機関が減災に向けた精いっぱいの活動を行ってもちこたえなければならないが、医療ニーズの最も高い災害急性期における対応には限界がある。このような状況下で重要なのは地域の共助力である。

 東日本大震災の経験から、広域にわたる大規模災害時には地域コミュニティやNPOなどによる共助が、防災、減災とその後の復興期までを支える大きな力となることが広く認識されている1)。その災害時の共助力の1つとして看護の力が提供されれば、多くの被災者の命が救われるだけでなく、災害による健康障害を最小限に抑えることができると考えた。しかし、病院等で正規職員として働いている看護職者は災害時には職場に参集し、医療業務に従事することが求められる。一方、病院等で勤務していない潜在看護職者は災害時には地域住民の1人として住民と行動をともにするうえ、人々の健康を守るために必要な看護の専門知識を有している。そこで、潜在看護職者を対象とした災害対応研修会を開始した。

  • 文献概要を表示

取り組みに至った経緯

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、東京医療保健大学東が丘看護学部(以下、本学)の主たる実習施設である独立行政法人国立病院機構東京医療センター(以下、実習施設)では、患者・スタッフ・実習生の安全確保の観点から、一定期間、看護学実習の受け入れ中断を余儀なくされた。看護基礎教育において臨地実習は、知識・技術を看護実践の場面で適用し、看護の理論と実践を結びつけて理解する能力を養う場としてきわめて重要である。今回、臨地実習が実施できないなかで、効果的な実習教育を実現するために、本学と実習施設が連携して実践した取り組みについて報告する。

連載 ナーシング・リープ 看護教育を一歩前進・3

  • 文献概要を表示

この連載では、私がこれまで出会った「教育に関するキーワード」を1つ選び、理論家や文献から得た知識をご紹介しながら、等身大の目線で看護教育への応用を考えていきます。小さな一歩でも、日々積み重ねていけば大きなリープ(跳躍)になるという希望を込めて。

連載 看護教員のICT活用教育力UP講座・6

  • 文献概要を表示

連載のねらい

IoT(Internet of Things)やAIなどのデジタル技術によりさまざまな知識や情報が共有され、新たな価値が創造される社会となりました。医療においても、病院、診断・治療、健康・生活システムにICTが導入される時代へと進んでいきます。看護学生が看護実践能力とともに情報活用能力を身につけることができるように、まずは私たち教員がICT活用を進めていきませんか?全12回の連載により看護基礎教育での「ICTを活用した授業設計」の習得をめざします。

*本連載の動画や資料を視聴するためにはQRコードを読み取る必要があります。QRコード読み取りの詳細は第1回をご確認ください。

連載 発達障害など、対応が難しいと感じる学習者への教育・支援・3

  • 文献概要を表示

本連載では、教育者が対応に難しさを感じる学習者に対しての、教育・支援のあり方のヒントをお伝えします。ところで、看護の教育や支援のゴールはどこでしょうか。国家試験の合格でしょうか、就職できることでしょうか。筆者は、「学習者支援のゴールは、多様性のある学習者が生きがいをもって社会で役割を果たせることへの支援」と考えます。理想論ではありますが、対処ではなく、そうした支援をめざし、Q&Aの形式にてできるだけのアイディアをご紹介します。

連載 教育哲学を使って考えてみよう・3

  • 文献概要を表示

私たちがいつの間にか当たり前だと思い込んでしまっている事象を、立ち止まって考えてみる。教育哲学を実践する連載です。答えではなく、新たな問いへ。あなたをいざないます。

連載 「食べたい」をめぐって・12【最終回】

「食べたい」を批評する 太田 充胤
  • 文献概要を表示

味覚と批評

 あっという間に最終回を迎えてしまった。「食べたい」をめぐって考えるべきことはまだまだたくさんあるけれども、最後に少しだけ、筆者がなぜこんな連載をやっているのかに触れておきたい。

 医師・批評家という妙な肩書の著者を訝しんでいた方がいるかもしれない。「批評」といえば堅苦しいイメージを抱くかもしれないが、誰かが新作の映画について熱く語るのを聞いて、思わず映画館に足を向けたことは誰にでもあるだろう。今まで全然面白いと思えなかった本が、誰かの紹介や解説によってがぜん面白くなることもある。

連載 コミュニケーションの「困った」をスキルで解決!・12【最終回】

  • 文献概要を表示

看護大学3年次へと進級したAさんは、勉強に集中できないという悩みについて、以前教員に相談していました。そのときに、スマホの使い方が原因で勉強に集中できないことがわかり、面談後では勉強中にはスマホを触ったり見たりしないことへの自信が高まりました。

しかし、いざ勉強を始めてみると、最初はうまくできていたものの、徐々に勉強中にスマホに触れる時間が増えてきて、以前のように勉強に集中することができなくなっていました。新学年のスタートにあわせて、Aさんはあらためて勉強に向き合いたいと思い、教員に相談に来ました。

連載 看護教育×法律相談 知っておきたいトラブル対応のポイント・15

  • 文献概要を表示

事例

 本校は校庭や体育館が比較的広く、災害時における地域の避難所として指定されています。市や県の担当者からは、災害発生時に校庭を開放してくれれば事足り、そのほかは学校に一切負担をかけないと説明を受けていたのですが、大きな地震が発生した際に次のような事故が発生しました。

①避難者から救護を手伝ってほしいと頼まれた学生が手当てをしたところ、負傷者が痛みで暴れ、学生がけがをした。

②「校庭では寒いので建物内に入れてほしい」と要請があり、校長の判断で体育館を開放した。避難者が体育館内に入ろうとするなかで、案内をしていた職員が誰かに突き飛ばされ、大けがをした。

③避難者を受け入れている間に校内で火災が発生し、逃げようとした人が折り重なって倒れ、学生を含めて多数の重軽傷者が発生した。

 これらの場合に、学校にはどのような責任が発生するのでしょうか。また、災害時に対応するマニュアルをつくる際に、どのような点に注意すべきでしょうか。

--------------------

目次

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

00471895.62.3.jpg
看護教育
62巻3号 (2021年3月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

文献閲覧数ランキング(
4月12日~4月18日
)