特集 災害看護教育の現在 東日本大震災から10年を経て
臨床判断をはぐくむ災害・救急シミュレーション教育―メディカルラリーへの参加をとおして
黒田 梨絵
1
1清泉女学院大学看護学部
pp.248-255
発行日 2021年3月25日
Published Date 2021/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201687
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はじめに
2009年1月15日、アメリカのニューヨーク市で発生した航空機事故を覚えているだろうか。マンハッタン上空850mにて、バードストライクによりエンジントラブルを起こしたUSエアウェイズ1549便が、ハドソン川に不時着水したにもかかわらず、乗客乗員全員が無事に生還した事故であり、後に「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、映画にもなった事故である。この機体の機長であるチェスリー・サレンバーガー氏は、事故後、このような言葉を残している。「一生に一度経験するかしないかの出来事かもしれないが、そのときに対応できるかが大切。“シミュレーション”を行っていれば誰でもできる。私は常に、緊急事態におかれた自分を想像していた。私は全員の命を救う自信があった。私は、やるべきことをやったまでだ。訓練を怠らないこと、乗客を守ること、すべてはパイロットの義務である」と。
筆者は、この言葉を知ったとき、看護師も、パイロットとは対応する事象は違えど、緊急事態に遭遇する可能性がある職種だと強く自覚したのを覚えている。看護師も、一般にはまれではあるが、対応の難度が高く、かつ、遭遇した際にあわてない冷静さと正確で迅速な対応が求められる事象に遭遇する職種である。看護教育においては、その事象の状況を適切に判断し対応する能力をはぐくむことが重要となってくる。では、どのような教育がこの対応力をはぐくむのだろうか。本稿では、メディカルラリーをとおして、緊急事態に気づく力やアセスメント力、臨床判断力をはぐくむシミュレーション教育について考えてみたい。
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