看護教育 30巻12号 (1989年11月)

特集 医療の質を高めるPOS—第11回POS研究会記録

特集にあたって 山本 俊夫
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 第11回POS研究会は,“医療の質を高めるPOS”をメインテーマに,教育講演とワークショップを中心に開催した.研究会が多数の参加を得て盛会であったことは,ひとえに教育講演,ワークショップ司会等を担当していただいた方々と,特別講演をしてくださった日野原先生のご努力に負うものであると考え,会の世話をさせていただいた筆者は深く感謝している.

 わが国の医療は経済的な発展に伴って,近年多くの新しい施設が開設されるなど,量的にはかなり充足されている状態である.しかし,医療の内容については常に質的な向上を求められており,種々の努力は重ねられているものの,難しい問題も多い.

特別講演

POSの実践の教育的意義 日野原 重明
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POS発展の歴史

 ウィード先生が,Problem Oriented Medical Records,つまりPOMRを提唱し出したのは,いまから25年前,4半世紀前のことです.彼はアイルランドの雑誌『メディカル・ジャーナル』に,研修医が患者のケアをやっているが,もう少し充実したケアができないかと考え,これは記録の作り方を変えることが,非常に大きな変革をきたすのではないかという論文を書きました.しかし,これはあまり広く読まれなかったのです.

 ところがその4年後に,彼は『ニューイングランド・メディカル・ジャーナル』という,米国におけるもっとも有名な内科系の雑誌に,次の論文を書きました.

パネルディスカッション—POSと看護診断

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 Dr. ウィードは,包括的医療を効果的に導く手段として,①全ての人々が医療提供の場において使用できるコミュニケーションシステムの開発が必要であると考えた.そこで,従来の各々の専門家の医療記録を患者記録として統合し,記録がコミュニケーションと教育の場となることをめざした.さらに,従来の雑然とした記録を問題解決の科学的過程にそって記録し,②問題の所在と経過がはっきり分かるシステムの標準を設定した.これがPOS(問題志向型医療記録システム)である.

 これから討議していくテーマは,この医療チームの医療記録システムとしてのPOSと,現在看護の専門的機能として注目を集めている看護診断に焦点をおいている.看護診断は看護過程の重要ステップであるが,その看護過程もまた問題を解決しようと作業する過程であり,PO過程と看護過程は矛盾するものではない.また,看護過程のめざす看護も患者中心の総合看護であり,POSのめざす包括医療の一環といえるものである.したがって,POSのめざす医療も看護のめざしているものも,同様の志向にあるということができよう.

POSのPへのこだわり 井部 俊子
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 POS(Problem Oriented System)はプロブレムに志向する,もしくは方向づけられるものですから,プロブレムが何であるかということが,システム全体の機能に重要な影響を及ぼすことはいうまでもありません.そしてこのプロブレムのPは,Patient(患者)のPであります.つまり,プロブレムは患者に関する問題として記述されるべきであり,医師や看護婦が困るから問題となるのではありません.これらのことはごく当たり前のことですが,よく見落とされることです.

 経過記録用紙をSOAP形式で書いています,といっても,プロブレムの記入が全くなかったり,あるいは“患者の問題”として,「面会時間が守れない」などといった記述もあります.また申し送りを,Problem-Orientedに行なっているところは,どのくらいあるでしょうか.このように考えてくると,POSはシステムとしてのとらえ方が,不十分であることが分かります.

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はじめに

 POSの概念は,1968年にDr. ウィードにより提唱され,1973年,日野原重明先生によりわが国に紹介されて以後,徐々に医療界に浸透してきました.

 看護界で最初に導入したのは,聖路加病院だと思いますが,振り返ってみますと,私自身が研究を始めてからすでに15年になります.月日のたつのは早いもので,ついきのうのような感じすらします.その間,聖路加病院や他の幾つかの施設では試練を重ねながら,今日のように上手に使いこなせる状態になったものと思います.なかなか思うように展開できない苦しい時期を克服して定着させてきたということは,大変立派ですし,心から敬意を表したいと思います.

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はじめに

 「POSと看護診断」について,臨床の立場から述べさせていただきます.

 滋賀医科大学医学部付属病院では1978年10月の開院時より,医師・看護婦が同一紙面に記載するPOSを採用してきました.当時より医師と看護婦の扱う問題は別であるとの考えから,医師のプロブレムは#で表わし,看護婦のプロブレムは☆とし,記録上の区別をしてきました.

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POSと看護診断の教育上の問題

 ウィードの開発したPOS(問題解決志向ケアシステム)は,患者やクライエントの健康上の問題を自覚,判断することから出発し,より実際的で論理的思考に基づいた患者中心ケアを志向している.さらにPOS,POMRの活用は,医療関係者の責任や協同性を培い,医療の質的向上を求め合うものといえる.

 現在,看護教育においても,看護判断の能力,つまり看護診断の基礎能力,問題解決能力の育成に中心がおかれつつある.問題解決のプロセスに権威ある見解を持っているJ. デューイは,具体的・実際的思考と,抽象的・理論的思考のバランスのとれた訓練を強調していた.

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看護を行なうということは?

 「看護を行なう」ということは,次のようなことです.

 まず看護の概念枠組み(看護モデル)にしたがって,意図的に情報を収集します.次に,収集した情報を看護学的に分析して(健全な状態であればそのことも含めて),そこから明らかになった看護プロブレムに対して(ただそこに存在するということを含めて),もっとも適切な看護介入行為を選択して,看護行動計画を立案し,実行に移します.実施すると,患者さんはその看護行為によって何らかの変化を受けますから,その結果を評価するプロセスに入ります.つまり,「看護を行なう」ということと,「看護過程」とは同じことなのです.

教育講演

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はじめに

 わが国にPOSが紹介されてから,10数年を経て,医療関係者のPOSへの関心は年々高まりつつある.その中でも,看護記録へのPOS導入の意欲はきわめて高く,熱心な学習が各所で行なわれている.

 これには現在の医療が,POSの導入によって,より患者中心の活動へと軌道修正され,患者の福祉に寄与するものになるようにとの期待がかけられている.看護の現場においては,もっぱら記録方法の改善という点に,重点を置いているようであるが,最終的に目指すものは同じであろう.

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はじめに

 POS(Problem Oriented System)理念の卒前卒後教育に果たす役割の重要性については,すでに多くが述べられてきている.そこで,POMR(Problem Oriented Medical Record)の簡単な指導,教育により,臨床実習中の医学部学生の診療録記載内容に,実際どのような効果や変化がみられるかについて調査を行なった.

 これにより彼らの実習診療行動を把握し,POSのどのような教育が必要か,またPOSが卒前卒後教育にどのようなインパクトを持っているか,などについて知る手がかりが得られると考えた.

POSと電子化の可能性 辻 和男
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はじめに

 数日前,ある看護学校の先生との間にこんなエピソードがありました.

 「情報に詳しい先生が,なかなかいないそうですね」

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はじめに

 POSにいう経過記録をSOAPで表現することは,それほど困難なことではない.しかしながら,問題点が患者のおかれている状況に合致しているものであり,患者の変化に伴って適宜変更され,その問題点に沿って終始一貫して経過記録を書くことは容易ではない.

 看護者がPOSの実践を進めるにあたって,問題が2つあるように思う.問題の1つは,患者が入院してから退院するまで,通して責任を持つ看護婦が,チームナーシングでは明らかではなく,プロブレムリストの作成とその継続が曖昧になりやすい点であろう.もう1つは,看護者の表現する問題の判断過程,基準,および分類が明らかでないことであろう.

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はじめに

 診療録は,診療・教育・研究に欠くことのできない情報源である.何よりも診療録が大切なのは,診療録が患者にとって価値あるものだからである.

 一般的にいって,わが国の診療録に記録された内容は,患者にとっても,教育・研究にとっても,価値あるものとはなっていないように思われる.医師や医療従事者にとって,およそ教育的価値のない診療録となっている限り,医療の質の向上が期待できないばかりか,よいケアをしたという評価が与えられることはない.

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 POSは表1に示したように,3つの段階によって構成されていることは,周知の通りである.第I段階はさておき,第II段階,第III段階が容易でないことは事実である.しかしPOSにとって,ここが一番意味のある,ポイントではないかと考える.

 厚生団傘下の7つの厚生年金病院では,1978年度からPOSにのっとり,看護監査を実施している.この看護監査の実際について,「看護監査のすすめ方」と「看護監査の方法」に焦点をあてて述べる.

ワークショップ

初心者のためのPOS演習 津田 司
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 初心者のためのPOS演習のワークショップには,約600名の参加者があった.その大部分は看護婦であり,ほかには医学生などが参加していた.

 このセッションを担当したのは,山形県立中央病院産婦人科の山下徹氏,京都第一赤十字病院看護部の千々石八重子氏と筆者である.

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はじめに

 今年ですでに11回を数える本POS研究会の歴史のなかで,卒前におけるPOSそのものの教育について,しかもカリキュラムの作成という形でワークショップの1つに取り上げられたのは,恐らく今回が始めてであろう.それだけに司会者としては,医師側の多数の参加を強く期待したが,実際にはそのほとんどが看護関係者であったことは非常に残念であった.そのことはまた,平素看護教育全般について,系統的に考える機会のなかった筆者が,本ワークショップの報告を記すことの不適格さを痛感させられたが,これも司会者の重要な務めの1つと受け取り,あえて筆を執った次第である.したがって,誤解や独断がありうるであろうことを,あらかじめお断りしておきたい.

プログレスノートの効率化 福間 誠之
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はじめに

 「医療の質を高めるPOS」をメインテーマに開催された,第11回POS研究会の第2日目のワークショップのテーマの1つに「プログレスノートの効率化」が選ばれた.このワークショップは約140人の参加者があり,福間誠之(京都第一赤十字病院),枝松秀子(東北公済病院),中井せい(京都第一赤十字病院)の3人の司会,モデュレーターのもとに行なわれた.

 会場がやや手狭である上に,参加者が大勢であったので,グループワークによるワークショップは実施しにくいと考えた.そこでマイクを用いて,参加者の中に入り意見を聞いてまわり,それをOHPシートに書き上げていくというインタビュー方式を採用した.

プロブレムリスト 篠田 知璋
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 POS研究会も第11回目となったが,相変わらず熱心なナースたちが大勢参加され,いつもながら敬服している.今回も各部門のワークショップが持たれたが,筆者は例年のごとくプロブレムリストを担当することになった.今回のプロブレムリストのワークに参加された人は350名余を数え,あまりの人数なので,グループワークが果たして可能かと危惧した.しかし,幸いにパートナーの道場教授(帝京大学内科),片山蘭子氏(ライフプランニングセンター教育主任)に助けられ,無事終えることができた.以下にワークショップの内容について報告する.

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はじめに

 「継続ケアのためのサマリー活用」への参加者は152名で,そのほとんどがナースであった.まずグループワークに入る前に,使用される用語を以下のように定義した.

 継続ケア:同一の患者に対して,場所を変え,引き続きヘルスケアサービスを提供すること.

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 数あるワークショップのなかから,“オーディット”に集まってくださった方185名.すべてナース.熱気あり,メイン司会者は林,アシスタントは井部(本報告の執筆も担当).資料の準備は山崎が行なった.

POS相談コーナー 中木 高夫
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 今年の相談コーナーには,記録委員をされている方の参加が多かったようです.それを反映してか,管理者がPOSに理解を示さないとか,記録委員の活動をサポートしないなどのプロブレムがたくさんあがってきました.

 以下に,持ち寄られた問題ごとの対策を列記します.本来なら,それぞれの問題(プロブレム)ごとに,S(ナースの感想),O(実際の状態),A(その分析と解決の目標),P(解決策)の形式で呈示できるとよいのですが,誌面の都合からプロブレムとその解決策を中心にしました.

基本情報

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看護教育
30巻12号 (1989年11月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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