助産婦雑誌 45巻5号 (1991年5月)

特集 出生率減少

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はじめに

 1989年の合計特殊出生率が史上最低の1.57であることが,昨年(1990年)の6月9日に発表されて以来この1年,いわゆる「1.57ショック」が各界に大きな波紋を投げかけた。

 1.57ショックは,子どもを産み育てる意義やその過程に対して多くの議論を喚起し,子どもの発達環境の再検討や具体的な改善策の策定を試みる動きを活性化するなど,その効果は実にインパクトに富むものであった。

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はじめに

 近年出生率減少傾向が急激に進み,平成2年度の出生率は過去最低の10.2を,合計特殊出生率は1.57を示した。出生率1.57という数字は,昨年来母子保健関係者ばかりでなく,一般のマスコミでも連日とりあげられ,大きな波紋を日本中に投げかけた。

 出生率減少の背景には出産年齢にある女子人口の減少,晩婚化,女性の社会進出などがあげられる。しかし,日本人の女性は平均1.57人を一生の間に出産しているわけである。数が少ないとはいえ,いや数が少ないからこそ,「出産」経験はより大切なできごととしてとらえられていくであろう。妊産婦の最も近い位置にいる助産婦は変化する現代社会に生きる人々の価値観を,マクロ的にもミクロ的にも理解し,認識を深めていかねばなるまい。

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 前原 本日は,間もなく法案として提出が決まっています「育児休業法」について「出生率減少」の特集テーマとも関連づけながら話しあってみたいと思います。

 この育児休業ということが浮上してまいりましたのは歴史的背景がありまして,以前の勤労婦人福祉法(現・男女雇用機会均等法)の中の,事業主の努力義務として育児の便宜の供与ということが端緒になっています。そして今,再び時代の要請—女性の社会進出,出生率減少等々—を受けまして,育児休業ということが考えられるようになってまいりました。

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 昨年厚生省がこの1.57という数字を発表してからは,マスコミは大さわぎをしているけれど,ピントのズレた意見ばかりが出されている。そんな中で,一見マトモな「育てながらも仕事を続けるために育児休業を」という声が最近クローズアップされてきたように思う。もちろん子育てしたい女性が育児休業を取って子育てをすることに問題がある訳ではない,が,個人のレベルで語るコトバで,全体を語るには無理があるし,そこに落とし穴も作られる可能性があると思うので,少々うがった意見を述べてみたい。

 はじめに私の個人的立場を説明すれば,「くらしを再生産にシフトさせる」ために賃金労動者をやめ,趣味の料理教室と,レストランのパートできままに働き,そのぶん家庭における再生産を拡大することで生活している男性,である。現在6歳の子供がいるが,最近は父離れし,友達や母親にとられてしまったようで,ホッとしながらも,少々淋しい思いのこのごろ。「男も女も育児時間を!!関西育時連」のメンバーでもある。

第22回ICM学術大会から・5

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 1990年10月7日から12日まで,神戸において,第22回国際助産婦連盟学術大会が盛大に行なわれた。私は公務の都合などから参加できなかったが,幸い,青森県立中央病院および弘前大学医療技術短期大学部からは,大勢の方々が出席された。そして彼女らは,お土産がわりに,英文の講演要旨集(Proceedings)を,私に寄贈してくれた。

 私は,仕事の合間や休日を利用しては,これに目を通していたが,大体読みおえることができたので,200以上の報告の中から,私の関心を特に引いたものを選んで,その要旨を紹介してみることにした。

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 私は婦人誌で長い間,妊娠出産,育児等の記事を担当し,現在は家庭医学書の編集にたずさわっている。8年前に出産を経験し,助産婦の役割の重要性を痛感している。しかし,若い母親たちは,助産婦の存在すら知らないし,自分が出産する病院に助産婦が働いていることを知って,驚きの声さえあげるのが,現状である。

 常々,日本の出産のあり方に多くの疑問を持っていたので,ICM大会への参加はとてもよいチャンスであった。

特別寄稿

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はじめに──出産後の不調と甲状腺機異常

 妊娠,出産という現象は女性の一生のうちで非常に大きな出来事です。元気な赤ちゃんを生み,一生懸命育児にがんばっているお母さんほど,健康で美しく見えるものはありません。

 しかし一方で,女性のなかには,出産を契機にして,体の調子をくずし生活面でもいろいろと都合の悪いことが生じることも決して稀ではありません。

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 鮎沢 私たちの諏訪マタニティー・クリニックでは,SMC方式を正確に理解し学んでいただくために,次ページに紹介しました長期研修システムを設けています。研修期間は半年で,現在は今日出席しております3期生3人が研修中です。

 本日はたまたま1期生の方2人も上京中で,1,3期生が顔をそろえましたので,全国の助産婦の方々に「SMC方式の研修」とはどのようなものかを知っていただくいい機会と考え,研修の実際やそれぞれお考えになることを述べてもらうことにしました。

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 昨年6月厚生省が,1989年の合計特殊出生率が史上最低の1.57であることを発表して以来,「1.57ショック」は論議を喚びつづけている.出生率減少の要因は複合的なものであるが,女性が産みたくても産めない状況にあるのは確かである.仕事をもつ大半の女性にとって,出産は「仕事+家事+育児」を一人で背負うことを意味する.家事,育児を分かち合うはずの男性は,どっぷりと「会社人間」の生活を送っているのだから.

 育児時間の保障をキーワードに,人間らしい暮らし方を模索する「男も女も育児時間を!連絡会(育時連)」ができたのが10年前.東京の育時連に呼応して2年前に関西育時連が結成された.

地球の子どもたち・4

井戸端ができた 長倉 洋海
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 マニラのはずれにある漁港ナボタス。道路脇にたくさんの人が集まっていた。破裂した水道管から湧き出した水たまりで、女たちが洗濯物とタライを持ち寄って、洗濯をしている。水道のないスラムでは水を買わなければならないけど、ここはタダ。身体を洗う人もいる。洗濯物や石けんやシャンプーを持った人がまだまだやってくる。

 女たちは洗濯の手を動かしながら、楽しそうに話している。子供は裸で走り回っている。家族の分まで洗濯していた女の子は、カメラにちょつと照れくさそう。

連載 とらうべ

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 赤ちゃんが減り続けている,これは大変……といった記事が新聞を賑わせ始めたのは1989年の春あたりからです。黒幕は,どうやら厚生省の児童家庭局児童手当課。その頃,児童手当制度の見直し時期が近づき,課そのものが存亡の危機に見舞われていました。何としても世間の関心を引きつける必要に迫られていました。

 けれど,記事は黒幕の思惑を超え,波紋を広げていきました。

連載 フランス出産事情—変わりゆく出産・助産婦・病院・12

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ピティヴィエへの道

 おそるおそるかけた電話に答えてくれた助産婦の声は,とてもやさしかった。「いいですとも。いつでもあなたが来たいと思った時にいらっしゃい。予約なんかいりません」。

 7月初め,私は,まるで魂が吸い寄せられるようにして,一人ピティヴィエへの途についた。パリのオーステリッツ駅から急行に乗って1時間半ほど南に行ったエタンプという町で降り,タクシーを30分ほど飛ばして,いくつかの町を通り抜け畑や牧場の側を走って,ようやく昼前にピティヴィエの町に着いた。バスは1日に2本ぐらいしか通っていない田舎町である。これでは,いくらピティヴィエの病院がすばらしくても,地域の人であるか自家用車を持っているかでなければ,非現実的な選択肢である。心配症の私にしては珍しく,帰りの交通手段も考えずに,やみくもな情念にかられて来てしまった。病院は,想像していた以上に大きかった。はたして,スタッフは快く迎え入れてくれるだろうか。私は病院を見上げて,大きな息をした。

連載 新生児学基礎講座[臨床編]・23

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1.はじめに

 先天性代謝異常(inborn errors of metabolism)は,一つ一つの疾患は稀であるが,その種類は極めて多いため,全体として小児疾患の中に占める割合は大きく,小児200人に1人は何らかの代謝性疾患を有していると考えられている。先天性であるから,それらの疾患の原因はすでに出生時から存在しているのであるが,その多くは発育するにしたがって臨床症状が明らかとなるものがほとんどである。しかし,新生児医療における先天性代謝異常の重要性は,その早期診断と早期治療が致死的な疾患から児を救命するのみならず,一生涯にわたる中枢神経系の障害を防ぐことが可能な点である。先天性代謝異常の各々の具体的な内容は成書に譲り,本稿においては,特に新生児期に発症する疾患に焦点を絞って解説する。

連載 りれー随筆・83

充電期間を過ごして 鈴木 郁美
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 浜元勝枝さん,ご紹介ありがとうございました。浜元さんとは聖母助産婦学校の同期生で,1年間いっしょに寮生活をした仲です。卒業後10数年たち,私たちの仲間も,家庭に入っている人,仕事を続けている人,独立して開業している人,それぞれの道を歩んでいます。

 浜元さんは沖縄に帰り,現在は地域で活躍しているとのこと,頼もしいかぎりです。そんな彼女からの「りれー随筆」の依頼,頼まれたら後に引けない性格で,お引き受けしました。

連載 ちょっとサイエンス

母乳と成人T細胞白血病 牧 智子
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 母乳には,赤ちゃんを呼吸器感染症などから守る免疫物質(免疫グロブリンA)が多く含まれていることは,前回すでに書いた。一方,母乳を感染源とする病気もある。今回は,その病気「成人T細胞白血病」がテーマである。

 成人T細胞白血病は,HTLV-I(human T-lymphotropic virus type I)というレトロウイルスがリンパ球の1種であるT細胞に感染して起こる白血病である。怖いがんウイルスが母乳を通して赤ちゃんに感染してしまうというのだから,ことはおだやかではない。

ニュース・プラス・ワン

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処女への人工授精の次にくるものは?

 ニューズ・ウィーク日本版4月4日号「現代版『処女懐胎』。処女は失いたくないけれど子どもは産みたい。そんな夢をかなえる生殖革命の進展にイギリスでは上へ下への大騒ぎ」と,人工授精だけによって子どもを得たいというケースが数例承認され,激しい論争がされていると報告。この問題は新聞各紙でも伝えている。

 「性経験もなく,今後もそのつもりがないが,人工授精によって産みたい。自分の要求は少しも異常ではないと思う。医療技術をもってすれば夢はかなう。将来は完璧な子どもと共に,自分のことを知らない外国で生活したい」と語るのは,32歳の女性である。

研究・調査・報告

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はじめに

 近年の新生児未熟児医療の発達,とりわけNICUにおける集中医療の進歩は,より未熟でより重症な児の生存を可能としている。特に最近では,単なる生存ではなく,後遺症なき生存intactsurvivalを目標とした医療に最大の努力が払われるようになった。しかしこのことは,同時に児の入院を長期化させる傾向をもたらし,これによってひきおこされる長期母児分離が新たな問題となってきた。

 母児関係はすでに妊娠中より少しずつ育まれているとされ,出生という母児双方にとっても大きな出来事を通し,より具体的なものとして相互に獲得されていく。それゆえに母児が出生直後より分離されることは,母児関係の確立において極めて異常な事態であり,まさに後遺症なき生存を目的とするうえで重要視されなければならないひとつの点であろう。

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 生病老死は人間の宿命と考えられている。しかし,生を得てからの必然は老と死だけである。病は絶対ではない。医学の進歩と医療の普及は病を減らし,特に感染症からの死を免れさせてくれるようになった。その結果,寿命も延び,人間は死から遠ざかったように錯覚し,特に日本人は健康だけが正義で,健康でないことは不正義であるかのように思い,健康への異常ともいえる信仰が人びとのこころを占めるに至った。

 生命を永らえることへの執心が,もしかすると死ぬことより辛い日々を病む人に強いてはいないかという思いは,口には出せないが,その局面に立ったことのある人は痛感してきた。いわば本音と建前との,現実と社会の目との板挟みに,医療側だけでなく患児の家族も苦しんできた。

Medical Scope

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 全身性エリテマトーデスsystemic lupuserythematodes(SLE)という膠原病が,若い女性に好発するものであるということは,皆さんもすでによく知っていることと思います。若い女性に好発する疾患ですから,当然ながら妊娠する症例も多くなり,産科外来のハイリスク妊婦,合併症妊娠例の代表的疾患にとりあげられています。読者のなかにも,何例もの症例を経験した方がおいででしょう。妊娠中になにごともなくうまくいく症例もありますが,なかには,何回もの流産・死産をくり返す症例がかなりあります。ひとつの疾患でどうしてこのように予後のよい群と悪い群と明暗がわかれてしまうのでしようか。長い間のこの疑問に対して,5年前ぐらいからかなり明快な解答が出されるようになり,妊娠中の管理対策もどうやら成功するようになりました。

 全身性エリテマトーデスの患者さんのなかには,抗リン脂質抗体とよばれる自己免疫抗体をもっている例ともっていない例があります。何種類もの抗リン脂質抗体のうち,ループス・アンチコアグラントlupus anticoagulant(LAC)は,ヒトのからだの中では血液を凝固させ,血栓を作るように働きます。しかし,試験管のなかでは反対に出血傾向を作る性質をもつ抗体です。

基本情報

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助産婦雑誌
45巻5号 (1991年5月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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